宇宙ベンチャーの資金調達!国内・海外宇宙ビジネスの調達方法と実例まとめ【2019】
近年、宇宙ベンチャーの資金調達のニュースをよく目にします。そこで、今回は国内外の宇宙ベンチャーの資金調達についてまとめました!
宙畑では、ここ2年弱ほど民間の宇宙ビジネスにフォーカスしてきました。最近は宇宙ベンチャーの資金調達のニュースをよく見かけるようになりました。
今回は、宇宙ベンチャーを取り巻く資金調達事情に注目してみたいと思います。
※記事内で紹介しているのはすべて2019年5月現在の情報です。
資金調達とは
まず、”資金調達”という言葉を聞きなれない方もいると思うので、言葉の定義についておさらいしてみたいと思います。
資金調達には、”デット・ファイナンス”と”エクイティ・ファイナンス”の2種類があります。
- ・デット・ファイナンス
- ・エクイティ・ファイナンス
デット・ファイナンスは、「お金を借りる」ことで資金を調達する方法です。銀行から融資を受けるのがよくある例です。英単語のdebtから来ており、資金は利子を含めた上で返済の義務が発生します。しかし株式は譲渡しないため、返済の際に融資者への経営権の移行などは発生しません。
一方、エクイティ・ファイナンスは、「株式や新株予約権と引換する」ことで資金を調達する方法です。一般的にベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの資金調達になります。資金の返済義務は発生しませんが、株式を譲渡するため、経営における決定権に影響が出る可能性が出るのが特徴です。そのため、資金調達を受ける企業はエクイティ・ファイナンスの出資者選びがとても重要になります。
ベンチャー企業やスタートアップが行う資金調達の大部分は、エクイティ・ファイナンスになります。数年単位の赤字期間を経た後に爆発的なスピードで事業が加速していくビジネスに向いている投資が、エクイティ・ファイナンスなのです。したがって、本記事で説明する資金調達はすべてエクイティ・ファイナンスに該当するものとして進めていきます。
また、エクイティ・ファイナンスには、資金調達のタイミングによって、名称がつけられています。ここでは、”挑戦者の可能性を最大限に引き出す”ことをミッションとされている、プロトスター株式会社さんが運営している”起業LOG”さんの記事より下図を引用させていただきました。
起業LOG—資金調達金額の最新相場動向 – 2018年版
資金調達のラウンドと金額・相場 より引用。
この図にあるように、エクイティ・ファイナンスの資金調達には、チームができたのちシード→シリーズA→シリーズB→シリーズC→シリーズD…と続いていきます。アルファベットが若い方が、事業としては初期段階にあたります。本記事では、この資金調達のタイミングのことをラウンドと呼び、これらのアルファベット以外にも、シードラウンド、ベンチャーラウンド、プライベートエクイティ投資なども取り扱うことにします。
※資金調達は、調達元と資金調達を実施する企業の双方での合意のもと、情報を公開しています。特に、IPO(新規株式公開)をしていないベンチャー企業などでは、資金調達の実施が非公開のこともあります。本記事では、正式なプレスリリースを発表している資金調達例から紐解いていますが、ここに記載していない資金調達も存在する可能性は十分にあることをご了承ください。
国内の宇宙ベンチャーの資金調達事情
それでは、国内の宇宙ベンチャーの資金調達に注目してみましょう。
■資金調達額
まず資金調達額に着目すると、月面資源開発の事業化に取り組む株式会社ispaceが2017年12月13日に実施した、シリーズAラウンドの105億円が目を引きます。これは、宇宙業界に限らず日本のベンチャー企業のシリーズAにおける資金調達において最高額となっています。深宇宙探査においては多額の資金が事業化に必須です。日本の宇宙ベンチャーがこの額の資金調達に成功したことは、投資元の企業の方々の宇宙開発への期待と、ispaceの社員の方々の事業化への本気度が足並みそろった結果と言えるでしょう。
ここで、シリーズAの100億円という額について着目してみましょう。
このグラフのように、SpaceXのシリーズAでの資金調達額も約60億円(約0.6M$)となっており、ispace社のシリーズAでの資金調達がとても大型であることが分かります。したがって、シリーズAでの資金調達額が100億円(約0.1B$)という金額は、海外のベンチャー企業の資金調達金額と比較しても大きい額となります。
国内の代表的なシードVCである、500 Startup Japanの澤山さんという方が行ったリサーチによると、各ラウンドにおける調達額の中央値は、シリーズAが2.6億円、シリーズBが3.8億円、シリーズCが4.0億円、シリーズDが13.5億円という結果だそうです。
上記リストに全ての案件が網羅されていない可能性もあり、登記簿から得られる公開情報のみをベースにしたリサーチであるため完全とはいえないのですが、目安としては十分に参考になる値です。これらの調達額からも、いかに宇宙産業における資金調達の金額が大きいかということがわかります。
■資金調達回数
次に、資金調達の実施回数を見てみましょう。
宇宙デブリの除去を事業としている株式会社アストロスケールの資金調達に着目します。アストロスケールは、これまでに計4回の資金調達に成功しています。
- 2015年 2月23日 シリーズAで9.1億円
- 2016年 3月1日 シリーズBで39億円
- 2017年 7月14日 シリーズCで28億円
- 2018年 10月31日 シリーズDで56億円
このように、1年~1年半に1回のペースで10億円以上の資金調達に成功できるのは、前回の調達で得た資金を適切に事業に活用し、事業を加速化させていっていると投資家から評価されていることに他なりません。アストロスケールの事業はまだまだ試験段階ですが、国内外の政府、国際機関、企業を巻き込んだビジネス推進力について高く評価されているようです。このことは、アストロスケールCEOの岡田さんをはじめとする経営陣の手腕によるところであると言えます。
国内の宇宙ベンチャーに投資する企業とは
少し視点を変え、どのような企業から資金を調達できているのかに着目していきます。
■社会インフラの位置づけで出資する「未来創生ファンド」
まず、スパークス・グループ株式会社が手掛ける、未来創成ファンドに着目してみます。
この未来創成ファンドとは、スパークス・グループを運営者とし、トヨタ自動車株式会社、株式会社三井住友銀行を加えた3社の出資で、2015年11月から運用開始したファンドです。未来創成ファンドは、「知能化技術」「ロボティクス」「水素社会実現に資する技術」「電動化」「新素材」の5分野で世界の未公開ベンチャー企業を投資対象としています。
未来創成ファンドの投資実績は次の通りです。
- ・2017年2月20日 マゼランシステムズジャパンに4億円
- ・2017年11月6日 QPS研究所に、株式会社産業革新機構(INCJ)を含む他9社と共に23.5億円
- ・2018年9月6日 ウミトロンに3億円
未来創成ファンドが投資したこれらの宇宙ベンチャーの業種から、未来創成ファンドとしては、宇宙ベンチャーではなく社会インフラ・IT業種のベンチャーと位置付けているように思えます。宇宙ビジネスというと、ロケットや宇宙船が思い浮かぶ方も多いと思いますが、投資をされる方々の思想にも、少しずつ変化が起きているのかもしれませんね。
■地場産業が宇宙ベンチャーに投資するケース
宙畑でも何度か記事に取り上げているインターステラテクノロジズ株式会社はあまり投資情報を公開していませんが、公開されている情報を見てみると北海道の企業がインターステラテクノロジズ社への出資者として名を連ねています。
- ・2017年10月31日 北洋銀行と帯広信用金庫の2社が総額1983万9000円を投資
- ・2017年12月31日 北海道銀行と道内信用金庫の2社が総額972万5000円を投資
- ・2017年10月31日 株式会社釧路製作所が総額1983万9000円を投資
このように、北海道の金融機関から支援してもらうことは、インターステラテクノロジズ社としてとても励みになっているのではないかと思います。
■事業の一環としての投資
事業の一部に関わりがある企業の投資に触れてみたいと思います。
2015年9月16日に株式会社アクセルスペースへ、合計8社から総額18億円のシリーズAラウンドの資金調達が実施されました。この8社のうちの1つである、スカパーJSAT株式会社は、アジア/オセアニア地域で最多のチャンネルを保有する衛星放送事業者です。実際、この投資の後にスカパーJSAT株式会社は、ノルウェーのKsatを含めた3社でAxelGlobeプロジェクトで協業しています。具体的には、同2社が所有する地上局を利用し、AxelGlobeプロジェクト専用の衛星であるGRUS 衛星と地上との間でのデータ伝送(衛星向けのコマンドの伝送、衛星で撮像したデータの受信など)を行う地上局サービスを提供すると発表しています。
2017年7月14日にはアストロスケールに、合計6社から総額28億円のシリーズCラウンドの資金調達が実施されました。この6社のうちの一つが、株式会社OSGコーポレーションという切削工具メーカーです。OSGは、2015年からアストロスケールの開発したIDEA OSG 1衛星の打ち上げプロジェクトスポンサーでした。そして、IDEA OSG 1衛星のフランジリングの加工も行ったそうです。フランジリングとは、衛星の底面に接合する部品で、打ち上げ時にロケットと結合させる部分にあたります。その2年後に、打ち上げのスポンサーだけでなくシリーズCラウンドの資金調達元にもなりました。このような事業として関わりがある企業からの投資は宇宙分野に限らずベンチャー企業の資金調達では多く見られます。
■官民ファンドの投資
国内を代表する官民ファンドである株式会社INCJ(産業革新機構)は、宇宙ベンチャーに対して精力的に投資をしています。
・アストロスケールに3回連続で投資
- 2016年3月1日実施のシリーズBラウンド
- 2017年7月14日実施のシリーズCラウンド
- 2018年10月31日実施のシリーズDラウンド
・2017年11月6日 QPS研究所のシリーズAラウンドに合計9社から総額23.5億円
・2017年12月13日 ispaceのシリーズAラウンドに合計8社から総額101.5億円
・2018年6月8日 ウミトロンのアーリーステージに合計2社と個人投資家から総額9.2億円
・2018年12月7日 アクセルスペースのシリーズBラウンドに合計6社から総額25.8億円
特に、金額が大きい資金調達ラウンドに参加している印象があります。官民ファンドとして、民間のファンドがとれないリスクを積極的にとりに行こうとしている姿勢を感じますね。
このように、資金調達1つとってみても、投資している企業は多様性があります。ベンチャー企業への資金調達は、ただ金額が高ければ良いというわけではなく、投資する側とされる側の関係性が大事になります。
VCやエンジェル投資家のケースでは投資先の企業のエグジットやキャピタルゲインが注目されます。それに対して事業会社の投資のケースでは、投資先のベンチャー企業との事業面でのシナジーを発生させることにも注目されます。調達額ではなく調達元企業という観点から資金調達というキーワードを見てみると、宇宙ベンチャーの色々な可能性が見えてくるのではないでしょうか。
海外の宇宙ベンチャーの資金調達事情
続いて、海外の宇宙ベンチャーの資金調達事情について、日本国内と比較してみましょう。
ただし、SpaceX社とOneWeb社の資金調達額が非常に大きいので、この2社を除いたグラフも作成しました。
■金額規模の違い
海外の資金調達を見ると、その金額がとても高いことが見てわかります。宇宙ベンチャーでは数十億円~数百億円レベルの資金調達ばかりです。調達額に関して、調達額の大きさを円の大きさで表してみた以下の図を見るとわかりますが、日本国内では大型の調達となりましたispaceのシリーズAの資金調達も、海外と比較するとごく普通の金額であることがわかります。この事は、宇宙産業に限らず日本と海外でのベンチャー企業への投資に関して重要視されているかどうかの差であるようです。しかし日本でも徐々に宇宙ベンチャーへの投資が集まってきているのが現状です。
ここで、国内外の宇宙ベンチャーのシリーズ最大調達額に注目したグラフを見てみましょう。やはり、海外での潤沢な資金投入の様子がうかがえます。
■投資している企業の違い
投資している企業を見てみても、ほとんどが民間のVCからの調達となっており、この点が国内の宇宙ベンチャーへの資金調達と異なる点だと思われます。この違いの大きな理由は、米国をはじめ海外の民間VC自身が持っているファンドの資金力の差であると考えられます。膨大な資金力があるから故に、”宇宙ベンチャーに多額を投資する”というリスクをとることができるのでしょう。対して、日本の民間VCではまだまだそのリスクを取ることは困難なのが現状といえるでしょう。しかし、実際に宇宙ベンチャーに投資してエグジットを達成したりキャピタルゲインで大きく資金を増加させることに成功する事例が増えてくると、日本でも宇宙ベンチャーへの投資が、”民間VCが取ることができるリスク”になると思われます。
また、民間VC自身の資金力の差以外の点では、NASAをはじめとする政府機関が近い将来に宇宙ベンチャーを顧客とすることを宣言している点も注目されています。このような潮流も、宇宙ベンチャーへの大型投資が続いている理由であると考えられます。
特に、通信分野でのプレイヤーであるOne Webなどが巨額な投資額を得ているのは、事業が軌道に乗り始めたら莫大な直接利益を得る点にあると思われます。
宇宙ベンチャーが、外部資金によって経営されるフェーズから、自社利益による経営にシフトされる時代も、欧州ではもうすぐそこまで来ているのかもしれません。
■ 宇宙ベンチャーへの過熱投資への意見
しかし、世界中で宇宙ベンチャーへの投資熱が高まるなか、警鐘をならしている意見もあるので紹介したいと思います。
宇宙情報サイトのSpacenews に、Jeff Foust氏の寄稿で、 “How the space industry learned to stop worrying and love the bubble”という題目の記事が出ています。
この記事では、民間宇宙産業のことを、”Commercial Space Industry”と表現せずに、皮肉をこめた”Hypergiant Galactic Systems(超巨大バブル市場)”とあらわしています。
この記事の中で、民間宇宙産業のレポートである”Start-up Space”などを発行している Bryce Space and Technologyの最高責任者であるCarissa Christensen氏の、今年の2月にシリコンバレーで開催されたSmallSat Symposiumでの、以下の発言が掲載されています。
I think we are wildly oversupplied with launch concepts and capabilities at this time, given any reasonable forecast for future demand,”
訳:今後の将来的な人工衛星の需要を考慮すると、現時点ではロケット打ち上げのコンセプトが過剰供給されていると思います。
“So, particularly on the small launcher side, we going to see some shakeouts there.”
訳:特に小型ロケット打ち上げの分野で、いくつかの行きづまりが露見されることでしょう。
また、以前、小型ロケット打ち上げベンチャーの雄であるRocket Labの投資家であるBessemer Venture Partnersに勤務していて、現在はUbiquity VenturesのマネージングパートナーであるSunil Nagaraj氏も、ワシントンで2月12日に開催されたCommercial Space Transportation Conferenceでのパネルディスカッションでこのような発言をしています。
“I think it is 100 percent a bubble in the launch sector right now,”
訳:現時点でのロケット打ち上げ分野は、100%バブルである。
“Some of my brethren have pulled into this sector and invested without pulling back three or four levels into the technology,”
訳:私の同胞の何人かは、ロケット打ち上げ分野に参入し、技術的な査定を通さずに投資を実施した人もいる。
この記事から読み取れる論点としては、米国では、宇宙ベンチャーに多数のプレイヤーが参入するフェーズから、顧客から真に求められる数社のみが生き残り他の多数は淘汰されるフェーズに移行しているという潮流でしょうか。
もちろん、民間宇宙産業はまだまだ未熟な分野であるため、今後どのようなムーブメントになるかの動向はしっかりチェックする必要があります。
まとめ
ここまで、宇宙ベンチャーの資金調達事情を見てきましたが、資金調達の方法はここにあげた方法には限りません。
その中の1つが、クラウドファンディングの実施です。シリーズAラウンドで100億円を超える資金調達に成功したispaceですが、クラウドファンディングでも資金を数回集めています。
インターステラテクノロジズも、打ち上げを実施するごとにクラウドファンディングを実施し、2000万程度の資金を集めています。最近では、大学の研究室単位でクラウドファンディングを行っている例もあります。
宇宙ベンチャーの資金調達というと、調達額の大きさが注目されることが多いです。もちろん、いち早く事業化を達成するには多額の資金が必要ですし、それは正しい企業戦略です。
しかし、宇宙ビジネスに飛び込む上で多額の資金調達が必須であるわけではありません。まず身近なところから行動を起こすことも重要です。
例えば衛星データプラットフォーム”Tellus”では、無料で衛星データビジネスを始めることができます。
宇宙ビジネスに興味が出てきた方は、「私にはそんな金額の資金調達なんてできない…」と悲観するのではなく、身近にできるところから行動してみることはいかがでしょうか?
「Tellus」で衛星データを触ってみよう!
日本発のオープン&フリーなデータプラットフォーム「Tellus」で、まずは衛星データを見て、触ってみませんか?
★Tellusの利用登録はこちらから