副賞は五輪観戦チケット! 宇宙IoTを絡めたサービス創出プログラム主催者インタビュー
2019年11月13日の「リフトオフイベント」から始まる宇宙IoTを絡めたサービス創出プログラムTokyo Moonshot Challengeについて、仕掛人のお二人にその内容と期待をインタビュー。
Tokyo Moonshot Challengeと題した、新しい都市体験を提供するサービスの創出を目的としたプログラムが2019年11月13日のリフトオフイベントをもって、本格的に始動します。このプログラムは、シスコシステムズ合同会社(以下、シスコ)と慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(以下、慶應SDM)が共同で開催し、宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)が協力機関として加わります。
特徴的なのは、2019年11月から2020年4月まで数カ月以上ものインプット期間が設けられ、「2020 年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた安心・安全な都市を実現するサービスや、暮らしを支える最先端のデジタルサービスなど、大会後も見据えた新しい都市体験を提供するサービス」のデザインに参加者がチャレンジするということ。人工衛星データ、地理空間情報、IoT、5G などの宇宙規模のIoT(以下、宇宙IoT)の活用も視野に入れた先端技術を活用したサービス創出が期待されています。
最優秀アイデアには100万円、優秀アイデアには50万円が各1組ずつ賞金として授与され、副賞はなんと、オリンピックの観戦チケット。
本記事では、Tokyo Moonshot Challengeで得られる経験・スキルと、イノベーションの可能性について、本プログラムの仕掛け人であるシスコイノベーションセンター センター長の今井俊宏氏、プログラムパートナーの慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の神武直彦氏のお二方に伺いました。
10年前はできなかったことが、今、できるようになっている
-まず、Tokyo Moonshot Challengeが実施される背景を教えてください。
今井:シスコは2012年からオリンピックパートナーとなっており、2012年のロンドンではBritish Innovation Gateway(BIG)、2016年のリオデジャネイロではUrban Innovation Challengeと、各都市で「イノベーション」をキーワードとした取り組みを行ってきました。そして今回は東京。2019年4月に日本の宇宙ビジネスの早期事業化を促進するプラットフォーム構築の場として「X-NIHONBASHI」に開設したイノベーションハブを中心拠点として、Tokyo Moonshot Challengeを実施します。
-今回、慶應大学との共催プログラムということなのですが、どのようにしてコラボが実現したのでしょうか?
神武:スポーツで扱うデータをどう活用していくかという政府の委員会の取りまとめを私がやらせて頂いていた際に、シスコの鈴木会長を中心として、シスコの皆さんといろいろやりとりさせてもらっていました。
その当時は、シスコさんが宇宙に関するイノベーションに関する活動をやられるとは知らなかったのですが、X-NIHONBASHIにシスコイノベーションハブを開設したことを知り、スポーツデータだけではなく、宇宙に関する取り組みでも何か一緒できるといいですね、とお話をしたところ、ぜひ一緒にやりましょうとなったことがきっかけです。
-最近ワールドカップで盛り上がったラグビーも、数あるスポーツの中でもデータ活用が早かったとニュースで目にしました。
神武:ラグビーでのデータ活用は、まさに私たちも行っていることです。その際には宇宙からの測位衛星データを利用しています。例えば、アメリカのGPSや日本の準天頂衛星「みちびき」といった測位衛星の信号から得られる1m以内の位置情報精度のデータと、選手の生体情報・ライフログのデータを組み合わせることで、怪我のリスクの低減やパフォーマンスの最大化などに活用することができています。今回のラグビーW杯で活躍した日本代表にとっても、なくてはならないデータになっています。
もうひとつ、スポーツ分野ではないですが、関連する事例を挙げると、農業でも、地球観測衛星のデータから農家ごとの収穫量を把握し、それに加えて各農家の家族構成や日々の農作業に関する情報をスマートフォンデータから把握することで、各農家の金融返済に関する「信用スコア」を算出し、適正なお金の貸付に貢献するといった取り組みがすでに始まっています。私たちは、それをカンボジアで実施しており、インドにも広げていく予定です。
このように、測位衛星や地球観測衛星からの宇宙データは、それだけで価値を生み出すというのではなく、宇宙データ以外のデータと組み合わせることでより大きな価値になるのだと思います。
テクノロジーの高機能化やコモディティ化という観点で考えると、10年前はできなかった様々なことが、今、できるようになっています。例えば、スマートフォンから誰もが発信できますし、多くの宇宙データに誰もがアクセスすることが可能です。アイデアを生み出し、行動すれば多様なサービスを実現できるはずです。それを私は日々体感しているのですが、そのことを様々な方に知り、体感して頂く機会があればいいなと日々思っていました。その思いもあってシスコさんと意気投合し、今回の共同開催が決まりました。
テーマは都市体験のサービスデザイン、アイデア発想の仕掛けとは
-Tokyo Moonshot Challengeでは新しい都市体験がテーマとなっていますが、都市体験ということは具体的にどのような体験のことを想定されているのでしょうか?
今井:多様なアイデアが創出される事を期待していますので、プログラムの開始時点では、明確に、こういうものです、とあえて決めていません。
ただ、オーバーツーリズムの課題や、台風や地震等の緊急時の効率的な情報提供など、訪日外国人観光客や住民生活の利便性向上を目指したアイデアが出ると良いと思っています。
神武:ジャストアイデアですが「今どこどこにいて、これから数時間空き時間があって、次にここに行かなければならない」と状況の場合、従来は、今いるところから行かなければならないところまでのルートと時間をサービスとして得るというものがほとんどです。
それに対し、「隣の駅まで行って野球観戦をして、その後、野球場から徒歩5分のイタリアンで食事をしてから移動しても間に合いますよ」とか「別のプランとしては、行き先に近い駅の近くに温泉があるので、そこで温泉に入ってマッサージまで受けてからでも間に合いますよ」というように、位置情報と時間的な猶予から、まさに都市体験をノミネートしてくれる、更に、予約までしてくれるサービスなどあると面白いのではないかと思います。
更には、人工衛星からの気象データを活用して気候や気温まで加味してくれるようなことも可能になるかもしれません。
-今回はリフトオフイベントから締め切りまで5カ月あり、その間にインプットの機会も設けられています。どのような意図が込められているのでしょうか?
神武:まず、より良いアイデアを発想し実現するためには、様々なバックグラウンドの方々に参加頂くことが重要だと思います。そして、将来的に新しいサービスの利用者になるような方、また、提供者になるような方が対話をしながらアイデアを生み出していくことが重要です。
そして、それをソリューション、ビジネスプランにしていくことが大切だと考えています。さらには、実際に、すでにサービスを生み出して提供しているような方のリアリティのあるお話を伺い、感じることも大切だと考えています。
そのため、プログラムは、リフトオフイベント、ラーニングセミナー、ワークショップ、コンテスト、ショーケースの以下5つのプロセスで構成しています。
神武:セミナー登壇者は錚々たる方々で、石田真康氏(A.T カーニー株式会社/SPACETIDE)や、牟田梓氏(さくらインターネット株式会社)、藤原謙氏(ウミトロン株式会社)、川崎吾一氏(合同会社Yspace)、青木英剛氏(グローバル・ブレイン株式会社)などがお話下さることになっています。
仲間をつくり、知見を増やし、議論をし、行動につなげる。このサイクルがうまく回ることでサービス創出プロセスの質と量が上がり、良いアイデアが生まれると考えています。
今井:シスコにとっての宇宙というと、ビジネス的に距離がある様に思えましたし、何かしたらの成果を出すには時間的にも長く掛かるように最初は感じていました。
しかしながら、日本が国をあげて宇宙産業を盛り上げようとしていること、また、中に入ってみるととても優秀な人が多い。そして、周りには宇宙ビジネス業界を面白そうだと見ている人がたくさんいるのです。
今井:その人たちをつなげる役割をシスコは担いたいなと思っています。短期的なイベントで、興味があって来たい人は来てというものではなく、少し長めに時間をかけて良い関係を築きながらアイデアを一緒に具現化し、社会実装へ繋げていく、そのようなことができればいいなと。
イノベーション創出に必要なのは、テクノロジー・ビジネス・ルール
-今回のコンテストでは1チーム5人以下という参加資格が設けられています。イノベーション創出のためにチーミングのコツがあれば教えてください。
神武:一言で言えば「多様性」です。何か新しいサービスを作る時には、つくる人ばかりいても使う人ばかりいてもいけません。使いたい人というのは、そのサービスがあろうが無かろうが、ある課題を解きたいと思っていることも多いです。その思いこそが大切で、もし、それに役に立つサービスがあれば 使ってくれる、場合によっては購入してくれることが多いのです。そういうことを理解して、ことをおこすためには多様性が大切です。
しかし、多様性だけあればいいというわけではありません。テクノロジーのトレンドを把握し、どのようなテクノロジーが役に立つのかを常に考えることも重要です。そして、もう一つ重要なのが、ルール。いかにサービスとして優れていて、ビジネスになるかもしれないと思っても、ルールや規制によって立ち行かなるケースも少なからず見られます。今回のプログラム名にある「Moonshot」は月面着陸が由来となった言葉。本来であれば届かないと思われているところへのチャレンジなのです。テクノロジー・ビジネス・ルールの3つについて分かる人が揃うことも重要なポイントでしょう。
宇宙データ含む先端技術活用が拡がるために必要なこと
-テクノロジーという観点で、先端技術として位置空間情報・5G・IoTが明記されていますが、その3つをとりあげていることに意図はありますか?
今井:特に3つの技術にこだわるという意図はありません。5Gは今まさに注目されている技術領域ですし、位置空間情報を活用したVR/AR/MR 技術は、IT系から多くの参加者が集まって欲しいと期待しています。課題解決とその実現に必要な先端技術を活用してほしいと願っています。
-今井様からご覧になって、衛星データについてどのような印象をお持ちですか?
今井:宇宙から見た地球のデータといえばGoogle Earthを連想してしまいますが、神武先生と話しながら、衛星データを知り、例えば、Tellusを知ると活用方法が多様にあると分かりました。
ユーザー目線での意見を反映させていくという自由度が高い点に魅力を感じています。
例えば、シスコでは絶滅に瀕している動物の保護活動をIoTを使って管理するプロジェクトをグローバルで進めていますが、絶滅しそうな大型動物であれば衛星で捉えて管理する、ということが出来そうだと思っています。又、企業利益をコミュニティに還元するサーキュラーエコノミーの取組みも進めており、衛星データを使ったテーマがいろいろありそうな気がしています。Tokyo Moonshot Challengeを通して、様々な可能性に気づいていきたいと考えています。
-衛星データを活用した宇宙サービスがより盛り上がるために、それに詳しい側の人が意識するべきことはありますか?
神武:既に宇宙サービスを実現してビジネスに取り組んでいる方々の思い入れはとても強く素晴らしいです。ただ、その知識や熱量の大きさが、これからそこに加わりたいと思われている人々のバリアになっている可能性があると思っています。宇宙サービスに関連することは、誰でも当然知っているだろうという思いで語ってしまうと、聞き手にとっては遠いもののように考えられてしまうことが多々あると思います。
一方で、宇宙のテクノロジーもデータも高機能化しつつ、コモディティ化し始めています。多くのスマートフォンも人工衛星からGPSデータを常に受信していますし、実は知らないところで宇宙サービスと関係している人が多いのではないかと思います。その気づきを丁寧に提供することができれば、今後、宇宙サービスに関する取り組みはよりスケールすると考えています。
今井:私たちのビジネスでも似た様な状況に直面する事がありました。例えば、IoTにおけるスマートファクトリーの取組みでは、事業部や工場部門とIT部門では、カルチャーや得意分野が異なるので、時間を掛けてお互いのギャップを埋めながら、良好な関係を構築する事でプロジェクトが上手く進むケースが多々あります。
神武:繰り返しになりますが、様々な考えの人に出会える機会があり、最先端の情報インプットと時間をかけた対話を行う、その上で良い成果に対しては、それを様々な観点から評価する、そのプロセスをしっかり踏めるのが、Tokyo Moonshot Challengeなのではないでしょうか。
Tokyo Moonshot Challengeが考えるもうひとつの成功
-最後にひとつお伺いさせてください。どのようなアイデアが出たら成功だと考えられますか?
神武:評価の観点としては・新規性・独自性・有用性、宇宙IoTの有効活用などがあります。逆に、こういうアイデアでないと行けないというものはありません。明日からすぐに出来そうなアイデアも、また、長期的に育てていきたいというアイデアもあるでしょう。こういうアウトプットが欲しい、というよりも、様々な観点に合致するものがそれぞれのバックグラウンドから生まれて欲しいと考えています。
すぐにでもアイデアを実現したいな、という気運が生まれてくれれば嬉しいですね。審査員の審査での議論がとても白熱するような多様で多くのアイデアが出てきてほしいです。
今井:今まで誰もが考えなかったアイデアが出てきてほしいです。そして、そのアイデアの実現と社会実装にシスコの技術、製品、ソリューションが使えると良いと思っています。
-アイデアだけが成功ではない、ということもあり得ますか?
今井:そもそもこういう活動が出来るのはすべて人と人との出会いです。何をやるのか決まっていない状態だったのが、場所を提供頂いた三井不動産さんにJAXAさんを紹介してもらうことから始まりました。弱い繋がりが少しずつ育っていって、何もないキャンバスの上に宇宙IoTというコンセプトが描かれるまでに至りました。
シスコで運営しているイノベーションセンターでは、製造業や公共向け等の市場に対して、シスコ製品をベースにしたソリューション開発やエコパートナーとの共創が取組のベースにありました。
しかし、X-NIHONBASHIに開設したイノベーションハブでは、特定の市場や特定のシスコ製品に拘らず、オープンイノベーションを目指しており、イノベーションセンターとは全く違うアプローチです。その点において、Tokyo Moonshot Challengeは非常に楽しみなイノベーションチャレンジですよ。
神武:今井さんの「何でも来い」という懐の深さがありますので、その舞台、つまり、我々が提供するプログラムでいかに踊って頂くか、楽しんで頂くかが一つのポイントかなと思います。参加者から、思いもよらない、また、なるほど、といった新しいアイデアが数多く生まれるといいなと思います。それをシスコや慶應SDMで継続してサポートできることになれば尚良いと思っています。
Tokyo Moonshot Challenge、リフトオフイベントへの申し込みはこちらから!
日程:2019年11月13日(水)15:00~18:00 ※受付開始は14:30
場所:X-NIHONBASHI(東京都中央区日本橋室町1-5-3 福島ビル7階)
参加方法:以下URL記載のメールアドレスまでご連絡ください
https://cisco.com/jp/go/moonshot-liftoff
※申込締切は11月12日(火)17:00まで。
Tokyo Moonshot Challenge、ラーニングセミナーへの申し込みはこちらから!
日程:2019年12月4日(水)18:30 〜 21:00 ※受付開始は18:00
場所:X-NIHONBASHI イノベーションハブ(東京都中央区日本橋室町1-5-3 福島ビル7階)
参加方法:以下URL記載のメールアドレスまでご連絡ください
https://www.cisco.com/c/m/ja_jp/training-events/events-webinars/2019-moonshotchallenge-day1.html
※申込締切は12月3日(火)午後5時まで。人数把握の為、出来るだけお早めにお申込み下さい。