なぜ今『宇宙ビジネス』なのか – 北海道宇宙ビジネスサミット レポート(前編)
札幌で開催したNoMaps2019内セッション、「北海道宇宙ビジネスサミット」。本レポートでは「なぜ今『宇宙ビジネス』なのか」というテーマで話された内容をお届けします。
2019年10月16日から20日までの5日間にわたり札幌市内で開催されたクリエイティブコンベンション、NoMaps2019。10月18日13時より、NoMaps2019内で開催されたセッション、「北海道宇宙ビジネスサミット」のレポートの前編をお届けします。場所はアスティ45のACU-A。
日本の宇宙ビジネスを代表する豪華パネリストの登壇もあり、会場は超満員。期待の高さを感じます。
なぜ今『宇宙ビジネス』なのか
本セッションの登壇者はモデレーターを含め、6人。各方の自己紹介後、パネルディスカッション形式で宇宙について語ります。モデレーターは一般社団法人SPACETIDE 理事兼COOの佐藤将史氏。
佐藤氏が最初に提起したテーマは「なぜ今『宇宙ビジネス』なのか」。佐藤氏は「現在、『宇宙ビジネス』がメディアのバズワードになっています。しかし、本日の登壇者は個人の想いとして、宇宙ビジネスを始めたのではないでしょうか。そこでお聞きしたいのは、なぜ皆様は宇宙ビジネスを手掛けているのか。そして、宇宙を手掛ける先駆者の人たちと、今現在メディアに取り上げられる『宇宙ビジネス』の視線は一緒なのか。なぜ『宇宙ビジネス』が盛り上がっているか。という話を伺いたい」と提起。パネルディスカッションが始まります。
一般社団法人SPACETIDE 理事兼COO
野村総合研究所にて16年間、宇宙業界やベンチャー振興を軸に、科学技術・イノベーション関連の政府・企業をクライアントとしたコンサルティングに、政策立案からビジネス戦略まで幅広く従事。2019年6月にispaceに参画。
ロケットの打上げを見ると、人生観が変わる
最初に話をするのはインターステラテクノロジズ株式会社、代表取締役社長の稲川貴大氏。小型ロケットを開発し、日本において民間企業開発として初めての宇宙へ到達する観測ロケット、MOMO3号機の打上げに成功したのは記憶に新しいところ。
インターステラテクノロジズ株式会社 代表取締役社長
1987年生まれ。東京工業大学大学院機械物理工学専攻修了。2014年より現職。経営と同時に技術者としてロケット開発のシステム設計、軌道計算、制御系設計なども行なう。「誰もが宇宙に手が届く未来を」実現するために小型ロケットの開発を実行。日本においては民間企業開発として初めての宇宙へ到達する観測ロケットMOMOの打上げを行った。また、同時に超小型衛星用ロケットZEROの開発を行なっている。
稲川 : なぜ『宇宙ビジネス』なのか。まずそもそものきっかけの話をすると、私たちはロケットの打上げをモチベーションとしています。ロケットを打ち上げると、感動するんですよ。大樹町や種子島でのロケットの打上げを見た人に話を聞くと、「人生観が変わり、感動しました」と言います。ロケットに感じる憧れは、人間として根源的なものでしょうか。
ロケット開発自体は宇宙開発には遠い。H2Aロケットの一回打上げで、100億円。『あまりにも遠い世界』である宇宙。私たちは遠い宇宙を近づけるため、安いロケットを開発しています。
ロケットはインフラ業ともいえます。宇宙ビジネスが広がると、ロケットを打ち上げる必要があるため、私たちのお客様が増えていく。私たちはインフラ業を徹底的に安くしようというモチベーションで宇宙ビジネスを行っています。
宇宙ビジネスはフワッとしてる?
次に話をするのはインターステラテクノロジズ株式会社取締役、堀江貴文氏。「ホリエモン」の愛称で誰もが知る存在です。今回の超満員は堀江さんの知名度も影響したのではないでしょうか。
インターステラテクノロジズ株式会社 取締役
1972年、福岡県生まれ。SNS media&consulting株式会社ファウンダー。現在は宇宙ロケット開発や、スマホアプリ「TERIYAKI」「755」「マンガ新聞」のプロデュース、また予防医療普及協会としても活動するなど幅広い活躍をみせる。
佐藤氏は「宇宙ビジネスは、なんでこんな人気があるんでしょうか?」とバトンを渡します。
堀江 : 宇宙に対して、みんなフワッとしてるんじゃないですか? インターネット業界より、宇宙業界のほうがよりフワッとしている。なんでフワッとしてるかって? 勉強してないからですよね。勉強してたらフワッとしない。ちゃんとした宇宙についてのビジョンが見えてくるはず。勉強しないでエッセンスだけに聞きに来ようと思っているから、フワッとしているんですよ、正直。インターネットのほうがソフトウェアベースなので、勉強している人が多い。「私、文系なので……」と何も調べない人がいると、「アホか」と思います。(会場笑)
堀江 : 今後、宇宙ビジネスが隆盛を迎えるかどうかはインフラの普及にかかってきます。インターネットのインフラの普及についてはYahoo!BBを普及した孫正義さんが頑張ったわけです。
例えば今、宇宙ビジネスで儲かりやすいのはリモートセンシング。衛星を打ち上げて、オイルタンカーの数を調べたら、原油相場がわかり、小麦やトウモロコシの生育状況で穀物の相場が予測できる。金融取引で稼げちゃうんです。リモートセンシングの会社に100億円集まるわけです。確実だから。
でも結局、「そこで終わりだよね」と思います。稼げるだけで、その先がない。その先にある「人間が衛星の軌道上に行くには」ということを考えると、輸送系が大事ですよ。宇宙マーケットは今の予測されている100倍はあると思います。輸送系を安くしないと、宇宙ビジネスの隆盛はありません。私たちはインフラである輸送系を手掛けています。
「やりたい話」か「儲かる話」か
3番目に話したのはさくらインターネット株式会社代表取締役社長、田中邦裕氏。さくらインターネットは、経済産業省の「政府衛星データのオープンアンドフリー化・データ利活用促進事業」を受託し、クラウド上で衛星データの分析ができる日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus」を構築・運営しています。
さくらインターネット株式会社 代表取締役社長
1996年、国立舞鶴工業高等専門学校在学中にさくらインターネットを創業、レンタルサーバ事業を開始。1999年、さくらインターネット株式会社を設立、代表取締役社長に就任。その後、最高執行責任者などを歴任し、2007年より現職。インターネット業界発展のため、各種団体に理事や委員として多数参画。
佐藤氏は事業家である田中氏にも宇宙ビジネスについてのテーマを投げかけます。
田中 : 私も堀江さんと同じく、宇宙ビジネス自体がフワッとしている印象を受けます。整理すると、
・衛星を打ち上げる話
・衛星を作る話
・データを活用する話
の3つはバックグラウンドが全く違う3つの話で、分けるべき。これを分けないで「宇宙ビジネスはどうなのか?」と問うても答えに窮します。
世の中には「儲かる話」と誰かが「やりたい話」の二つしかない。堀江さんのリモートセンシングの話は「儲かる話」。宇宙に打ち上げる話は「やりたい話」で、将来に「儲かる話」。時系列が違う。世の中のほとんど人は、儲かる話にしか投資できない。でも、「やりたい話」が「儲かる話」に変わる時に、めっちゃ儲かるんですよ。
田中 :宇宙データビジネスは「儲かる話」ではなく、「やりたい話」。宇宙の衛星のデータは1枚買うだけでとても高価です。そうではなく、細かいデータをタダで取得できるようにして、時系列のデータをもっと欲しければ、1枚あたり5銭や10銭で流通すればいい。
宙畑メモ
衛星は広範囲を一度に撮影します。単位面積当たりの価格は安かったとしても、衛星が撮影する範囲は広いため、画像を1枚買うと高額になってしまいます。現在は必要な範囲のみ買う、という切り売りはできず、画像を丸ごと買う必要があるため、切り売りできるようになると価格も下がるので購入しやすくなりますよね、ということが背景にあります。
田中 :もっと普及すれば、私たちの「やりたい話」が「儲かる話」変化する時期が来るのだろうと考えています。データが「やりたい話」から「儲かる話」に変化すると、データをプラットフォームに入れた人も稼げるようになる。
データは1人が使おうが1億人が使おうが、一緒。使われば使われるほど、フィードバックされるお金が多くなります。そうなると、データをプラットフォームに入れる衛星開発者のインセンティブになります。
昔はモノ自体の価値が高かったので、衛星を作るだけで儲かっていました。ただ、今はモノの価値が相対的に低くなり、衛星を作るだけでは儲からない。そこで宇宙データビジネス自体が「儲かる話」になる時、衛星開発者も儲かるようになる。アウトプットの価値が大きくなればなるほど、インプットするハードウェアの価値も高まってくるでしょう。
なんのためのデータかを徹底的に考える
続いて話したのは株式会社ポーラスター・スペース代表取締役、三村昌裕氏。同社は北海道大学発ベンチャーで、社内には北海道大学と東北大学で5機の小型衛星を打ち上げ経験を持っているメンバーもいます。
株式会社ポーラスター・スペース 代表取締役
東京工業大学 大学院博士前期課程修了。2017年4月、リモートセンシング技術を活用したデータソリューション事業を志向して株式会社ポーラスター・スペースを設立。北海道大学発ベンチャーとして北大の研究成果の社会実装を担う。2019年、経済産業省によりJ-Startupに選定される。
お金儲けに関する田中氏の話にあわせ、佐藤氏が「宇宙ビジネスにおいて、お金はどれくらい重要ですか?」と問いかけます。
三村 : お金がないと経済的に合理性がありません。マーケットに受け入れられなければ、継続することができませんね。「継続できないと責任を果たせない」という悪循環に陥っていきます。ただ、期待感だけでお金を集めるのも本質的ではありません。
私は(継続的なビジネスをする上で)衛星データの利用が大事だと思っています。しかし、衛星データの利用でいうと、今までの衛星データは使えないデータの蓄積であったように感じており、その反省点を踏まえ、重視しているのは「使えるデータを集めよう」ということです。
使えるデータを収集するためには「なんのためにデータが必要だっけ?」ということを徹底的に考え、その上で「どうやってデータを集める必要があるんだっけ?」とデータを蓄積していくことが大切です。
そのためには「地上で何が起きているか」をしっかり理解して、地上の現場にどのような課題があるかを見据えて、データを集めていく。そして、リモートセンシングでマネタイズする戦略を元にして、事業を動かそうとしています。
宇宙ビジネスにとって、お金とは
最後は北海道大学公共政策大学院教授の鈴木一人氏。宇宙空間におけるルール作りを進める立場であり、今回の登壇者の中では唯一、公に近い立場での参加です。
北海道大学 公共政策大学院 教授
2000年英国サセックス大学博士課程修了(国際政治学)。2000年から筑波大学専任講師、助教授を経て2008年から現職。2012年プリンストン大学客員研究員、2013年から2015年まで国連安保理イラン制裁専門家パネルのメンバーとして勤務。2008年から世界経済フォーラム宇宙部会委員。2010年から国際宇宙アカデミー正会員。2015年から宇宙政策委員会安全保障部会委員。
鈴木 : 宇宙ビジネスとお金については私から3点。
1つ目は今の宇宙ビジネスはまだまだ「期待」でお金を集めていること。イーロン・マスクのスペースXやジェフ・ベゾスなどの億万長者が自分のお金を使って、開発をするモデル。これはできるんじゃないかという期待が高い。
2つ目は、あえて「宇宙ビジネス」とくくることによって、お金が流れやすくなっている点。投資家の目から見ると、良くも悪くとも一緒のカテゴリにされています。それは誤解を生むことはありますが、実際にお金が集まっているのは事実。
3つ目は、異次元の金融緩和でお金が余っています。ただ、有望な投資先が限られている現在、宇宙ビジネスはやったことがない分野であるからこそ、期待が高まっていますね。リスクがある投資であっても、投資家の判断があれば、今の宇宙ビジネスの形になります。
鈴木 : ただ、本当に持続的な宇宙ビジネスになりえるのか、単なる期待だけで終わらないか。期待だけで終わらないように、堀江さんが言ったように、誰かがベースになるインフラを整え、田中さんの仕事のように、みんなが使える環境を整えることが重要です。
宇宙ビジネスにお金が流れている今、宇宙ビジネスの環境を育てることができるかどうか、基礎固めができるかどうか、という点が今、宇宙ビジネスのやるべきこと。今後の宇宙ビジネスが上手くいくかどうかのポイントになるでしょう。
『北海道の宇宙ビジネス像とは?』 – 北海道宇宙ビジネスサミット レポート(後編)
「Tellus」で衛星データを触ってみよう!
日本発のオープン&フリーなデータプラットフォーム「Tellus」で、まずは衛星データを見て、触ってみませんか?
★Tellusの利用登録はこちらから