林業×宇宙(人工衛星利用)、現状と事例【宙畑業界研究Vol.3】
宙畑では宇宙ビジネス(主に人工衛星利用)の可能性を探るため、6回に分けて様々な業界と宇宙の関係を紹介していく【宙畑業界研究】の連載を行っています。第三回目はもう一つの一次産業”林業”を取り上げます。
宙畑では宇宙ビジネス(主に人工衛星利用)の可能性を探るため、6回に分けて様々な業界と宇宙の関係を紹介していく【宙畑業界研究】の連載を行っています。
世界と日本を比較して見ていくと、国内では斜陽産業と思われる産業でも世界ではITの力で躍進している事例も見られます。
第一回目の農業、二回目の漁業に引き続き、第三回目はもう一つの一次産業”林業”を取り上げます。
該当する業界の方もそうでない方も、記事をお読みいただき、皆様のビジネスアイディアの一助になれば幸いです。
林業の現状~世界経済に翻弄される世界市場と伸び悩む日本市場~
林業と聞いてどんな印象を持たれるでしょうか。
斜陽産業、後継者不足、外材に押される国産材、、他の一次産業と同様に日本が苦戦を強いられている産業の一つです。しかし、世界を見てみるとのびしろのある産業であることに気付きます。
木材は、コンクリートやプラスチックなどと異なり生産に二酸化炭素を必要としない持続可能性の高い材料で、世界的な人口増加に伴いますます需要が高まっていくことが予想されています。木材は人類の発展と切っても切れないアイテムと言ってもいいでしょう。
一方で、日本の林業(木材生産のみ)の市場規模は2,000億円程度、木材生産に関してはピーク時の昭和55年から1/4ほどまでに下がり、15年以上横ばい状態になっています(下図)。2018年森林環境税の導入が決定され、2024年から施行されます。日本の森林管理をどうしていくのか注目が集まっています。
各国の林業の市場規模推移を表す指標として、丸太の生産量を見てみましょう。
国際連合食糧農業機関(FAO)による丸太の生産量の推移は上図に示す通り、各国の経済状況の影響を受けやすいことが分かります。木材は主に建築や燃料に用いられ、各国の経済状況と密接に連動していく様子が見て取れます。
最も生産量が多いアメリカはおおむね増加傾向であるものの、不況の度に生産量を落としています。特に、2009年のリーマンショックでは、まさに住宅ローンの問題であり、その生産量は大きく落ち込んでいます。ロシアはソ連崩壊後の混乱で90年代に生産量を落としていますが、その後中国の資源保護対策を機に中国への輸出を増やしています。しかし、2008年に今度はロシアが丸太の輸出関税を大幅に値上げする措置をとり、中国が生産量を伸ばしています。
一方の日本は、なだらかに減少傾向です。
継続的に質の高い木材を生み出していくためには、きめの細やかな手入れ(間伐等)が欠かせないですが、他の一次産業と同様の後継者不足により、育っている木材を伐採する人手がなく、日本の森林の質が低下しています。
木材を運び出す動力が無かった頃、斜面の傾斜を利用して木材を運んでいた日本は、圃場が急斜面であることが多く、これがトラクターの導入など林業の機械化を阻んでいる要因になっています。担い手は少なくなる一方にも拘わらず、機械化が進まない悪循環を生んでいるのです。
(2) 林業で活かせる宇宙~宇宙から森林の状態を把握、機械化を可能にする~
林業で衛星がなぜ役に立つのでしょうか。
広い土地を管理できる【広域性】
森林は広大です。人が見て回るには限界があり、ドローンを使ってもまだ余りある広さです。ここに衛星の強みがあります。
衛星で作業者の位置情報が分かれば、作業の効率化に役立てることができます。木々の様子をいちいち人が目で確認する代わりに、衛星で広域に写真を撮影することで、森林の様子(活性度など)を把握することができます。
2018年は世界的に猛暑で北欧やカリフォルニアで森林火災が発生しています。火災の広がりを把握するのにも衛星が役に立ちます。ドローンやヘリコプターでは危険で飛ばせないエリアでも、衛星であれば写真を撮ることができるのです。
同じ場所を観測し続ける【長期観測】
もう一つの衛星の特性は長期観測が得意であることです。
森林は農業ほど日々目まぐるしく変化していく訳ではありません。火災を除けば、季節ごとあるいは1年に1回様子が分かれば事足りる場合もあります。つまり、地上にセンサを設置しても使う頻度はそんなに高くないということです。ドローンをわざわざ用意するのも・・・(レンタルなら良いかもしれないが)というレベルです。
衛星であれば、地球上のあらゆるところを撮影しているので、必要な時だけ自らの圃場を撮影できます。
林業の場合には、林業専用の衛星よりも広く一般に開かれた衛星データを用いるのが望ましいと考えられます。
一方で、林業ならではの課題もあります。
新施策導入の効果が見えにくい【効果の見える化】
林業は非常にスピードの遅い産業です。日本では植樹してから伐採まで30年以上かかるケースも珍しくありません。これはつまり、新しい施策を行っても、その効果が確認できる(売上が上がる)までに30年以上かかることを意味しています。これでは、行った施策に効果があったかどうか、評価するのは難しくなってきます。
さらに、需要側に左右されやすく経済状況次第で簡単に売り上げが下がってしまうという問題があります。
実際、日本の林業は林業家の支援のため税金が多く投入され、自力で利益を出している林業家はほぼゼロという現状があります。これでは、新しい施策に投資しようというモチベーションは生まれないでしょう。
撮影から手元に届くまでの時間【リアルタイム性】
森林における衛星活用でよく聞かれるのが森林火災や違法伐採の監視です。
しかし、これらの実現には一つ大きな技術的な課題があります。衛星で撮影した画像はすぐさまユーザーの手元で確認できるわけではありません。衛星から地上にあるアンテナにデータを伝送し、アンテナのある場所からユーザーのいる場所にデータを送らなければならないのです。
地上にあるアンテナの場所は限られており、衛星がちょうどその上空を通るときのみ通信ができるので、まずそこに半日レベルで時間がかかってしまいます。地上に降りて来てからも、衛星データは非常に重いため、データの授受には30分かかることもざらでです。
それだけ時間がかかってしまうと、火災であればどんどん広がってしまいますし、違法伐採者は逃げてしまうでしょう。
もちろん費用をかけてアンテナの数を増やす、回線速度を上げる等の対策をすればデータ入手までの時間が短くはなりますが、費用対効果のバランスが取れなくなってしまいます。
もう一つの方策として、静止衛星での観測(静止リモセン)という考え方も近年では取り上げられています。気象衛星ひまわりのように常時観測を行うことができ、かつ常に地上へデータが送付できます。リードタイムの観点では理想的ですが、衛星の高度が高く(通常の地球観測衛星が約500kmなのに対して、静止衛星は3万km)その分、解像度の粗いものになる点に注意が必要です。
(3) 林業x人工衛星利用の事例紹介
上記のように、宇宙を利用した林業のメリットと課題がある中で、海外でも日本でも宇宙を利用する企業がいくつかでてきています。以下にいくつか紹介していきます。
◆KOMATSU
https://home.komatsu/jp/
事業内容:
スウェーデンなどではMAXIFLEETというサービスで建機の位置情報や伐採した丸太の情報を自動で収集することで、効率的な林業を行っています。
◆arbonaut
https://www.arbonaut.com/en/
事業内容:
森林資源量の把握を、分解能の異なる衛星データから算出しています。
◆AABSyS
https://www.aabsys.com/
事業内容:
森林管理を行う地理情報システムを販売しています。林道の識別や変化抽出などの機能を有しています。
◆FIRESAT/Quadra Pi R2E
http://gfmc.online/current/FIRESAT-Brochure-2017.pdf
事業内容:
森林火災を世界規模で見つける衛星ネットワークです
(4) 林業と宇宙の未来~人工衛星が知見の”見える化”に貢献~
宙畑業界研究シリーズ第三回は林業について取り上げました。
調べてみると、第一回の農業、第二回の漁業と同じく日本が苦戦している状況が見えてきました。
しかし、日本は世界有数の森林大国であることもまた事実です。木材は輸送費が価格の多くを占め、地産地消が適する産業です。日本林業のポテンシャルは決して低くはないはずです。
森という特性上業界のスピードが遅いために、PDCAが回しづらく、一次産業の中でもとりわけIT化の波に取り残されているように見える林業ではありますが、逆に考えればまだ改善の余地がいくらでもあるということです。
衛星を含めたテクノロジーで日本林業復活なるか。目が離せません。