衛星が撮影した夜の地球「夜間光」がお金に変わる!? 概要と利用事例
衛星が夜間に地上を観測した結果である「夜間光」データに焦点を当てた本記事。夜間光と経済活動には相関があると言われいます。果たしてどのように見えるのか、実際にデータを載せながらご紹介します。
高い場所から夜の街を眺めると、街がどう作られているのか、どのぐらいの人がいそうなのか、どれぐらい活発な街なのか知ることができます。
これをもっと高いところから見ると、さまざまな土地の状況を広範囲に見ることができます。そうです、衛星データです。本記事では衛星データのなかでも「夜間光」に焦点を当てて紹介します。
※本記事は宙畑メンバーが気になったヒト・モノ・コトを衛星画像から探す不定期連載「宇宙データ使ってみた-Space Data Utilization-」の第10弾です。まだまだ修行中の身のため至らない点があるかと思いますがご容赦・アドバイスいただけますと幸いです!
(1)宇宙から見た夜の地球「夜間光」とは
ISS(国際宇宙ステーション)から見ると、山から見るほど地上の構成は細かくは見えないのですが、都市の明るさは分かりますよね。明るい都市ほど、栄えている都市のように見えます。
このような、宇宙から見た夜景を夜間光と表現することがあります。
夜間光はさまざまな利用ができるのでは?と期待されている衛星データのひとつ。
たとえば、国・地域の経済活動状況を知る上で非常に有用と言われています。
人がいて、何かしら明かりを灯す必要のある状態だからこそ、街が明るく見えます。明るい地域ほど、経済的に恵まれていることが多い、と類推可能なわけです。
次の章から「夜間光」のデータをどこで確認できるのか、また、夜間光データの利用事例について紹介します。
(2)夜間光はいつ撮影されたデータなのか
上の図は衛星が地上を観測する時間帯をまとめたもの。10~12時に集まっているように見えますが、衛星は日中に観測した約12時間後にも地上を観測していることがあります。それが夜間光データです。
つまり、夜間光データが撮影される時間帯は午後22~24時のデータが多いとも言えます。
ただし、通常の衛星は、日中に撮影するように光学系の設計がされていることや、地上に降ろすことができるデータ量が限られていることなどの理由で、夜に撮影することをしていません。
たとえばLandSatのようなベースマップ撮像をしている一部の衛星(衛星が通過している陸域をすべて撮影している衛星のこと)が間を撮影しているのです。
日々夜間光を撮影している衛星としては、同じくアメリカの衛星であるVisible/Infrared Imager and Radiometer Suite(VIIRS) (マルチチャンネルイメージャ・放射計)を搭載しているSuomi-NPPが、一般に公開されているものだと、唯一の光学系のデータとなりそうです*1。
Suomi-NPPは地上分解能が400-800 mと粗くはありますが、日々情報も更新されているので、とても有用です。
(*1…もしも他にご存じの方がいらしたら情報提供をお待ちしています)
(3)夜間光データを取得できるサイト
夜間光データを確認する手段はいろいろとありますが、今回はGoogle Earth Engineとブラウザ上で確認できるサイトを2つ、元データのダウンロードサイトをご紹介します。
1. Google Earth Engine
先日に宙畑の記事(衛星画像解析が変わる!? 「Google Earth Engine」の何がすごいのか – 宙畑)で紹介したGoogle Earth Engineにも、夜間光データを取り扱うサンプルコードがあります。
サンプルコードはこちらから。
サンプルコードでは、NOAAで取得した2003年までの世界各国の夜間光データを確認できます。サンプルコードをいじることで、もっと最近までのデータを確認できます。
黒色が暗い地域で緑色に近いほど明るい地域を表しています。下図でも、関東や愛知、大阪などが明るく、なんとなく直感とも合っていることが分かります。
2.NASA World View
NASAのWorld Viewでは、Suomi NPPが取得している日々の夜間光データをブラウザ上で確認できます。翌日には情報がアップデートされており、日々データが更新されています。
ただし、雲が明るく見えてしまうため、雲を考慮しながらデータを確認しなければならないのが難点です。
上記キャプチャは11/20の夜間光データです。先ほどのGoogle Earth Engineと同様に、東京や愛知、大阪が明るく見えますね。それに加えて、雲が明るいことが気になります。
余談となりますが、同日のSuomi NPPが通過する時刻(午前1:30)のひまわりの画像を確認すると、同様の雲配置の画像が確認できます。
地方時に衛星が上空を通過しているんだ、ということを実感できます。つまりは、気象衛星から雲のある場所を特定し、夜間光データ上でマスクをかけることで、雲の影響を受けて明るくなっている箇所を除去することが可能、ということです。
3. Light pollution map
先ほどのWorld Viewは、日々データが更新されるものの、雲がある、ということが課題でした。それを解決してくれているのがLight Pollution Mapです。
こちらは2010年から2018年までのデータはあるものの、各年でしか情報が提示されていません。しかしながら、雲が除去されており、夜間光データが確認しやすくなっています。
また、こちらのブラウザは簡単な計算もできることが特徴です。こちらの地図では、数値情報も取得できるので、数値解析を行うことも可能です。
また、こちらのサイトでは合わせて人口や国土、輝度の数値データの一覧も示してくれるので、パッと傾向を見たいだけであれば、とても便利なサイトと言えます。
4. NOAA公開データ
Suomi NPPはNASA/NOAAで運用されており、NOAAのサイトからもデータを確認できます。
こちらのサイトでは、各年の雲を除去した夜間光データがダウンロード可能なので、自身でQGISなどの解析ツールを持っている方は、ダウンロードしてデータ解析することも可能です。ただし、ファイルが非常に重いため、注意は必要です。
(4)夜間光を比較してみる
では、2012年と2016年の雲除去済みのデータを利用して、各地域での変化を確認してみましょう。RGBの割り付けはどのようにしてもよいのですが、個人的にはRを2016年の青色データに、GBに2012年の青色データを割り付けるのが、変化を捉えやすいように思います。
赤色の地域が2012年まで暗かったのに2016年に明るくなった地域を、水色の地域は2012年には明るかったのに2016年には暗くなった地域を、白色は変わらず明るい地域を表しています。
世界で見てみるとインドが赤くなっており、豊かになっている様子が示唆されます。また、北半球に比べてアフリカや南米、オーストラリアは暗く、南北問題が生じていることを感じ取ることができます。
次に、日本近辺の夜間光データを確認してみます。都市圏周辺が2016年に明るくなり、代わりに地方が暗くなった、というのがなんとなく分かるかと思います。また、日本地図を思い浮かべると、山のある地域は暗いことも分かります。
それでは明るい地域が経済的に豊かなのか、ということをいくつかの指標と合わせて具体的に見ていきましょう。
オープンデータが公開されているRESASというサイトを主に利用します。
■財政力指数
まずは、各地域の財政力指数を確認してみます。
上キャプチャが2012年の各都道府県の財政力指数です。
そしてこちらが2016年の財政力指数です。
少し分かりにくいかもしれませんが、財政力指数の高い地域が明るく、低い地域は暗く見えている、というのは分かりますね。都市圏に一極集中している様子が分かります。
もう少し細かく見てみましょう。
千葉周辺の財政力指数と夜間光の比較になります。財政力指数の高い地域が白いのは分かりますが、2012年と2016年の財政力指数の変化、となるとあまりないように見えますね。
そのため、夜間光の比較によって、青くなっている地域との相関が分かりにくいように思います。
■地方税
夜に明るい地域ということは、街灯が多く灯っているということだ、というように理解すると、街灯をつける財力、つまり夜間光が明るい地域は税金が多く集まっている地域である、というように理解することもできます。そこで、実際に2012年と2016年の地方税と夜間光データを比較してみましょう。
先ほどと比べると、2012年に濃いオレンジ色だった地域が2016年には黄色になっており、地方税が減少している地域が、青色の地域のように見えます。
地方税が少なくなっている、ということは企業が減っている、もしくは人口が減っている、というように捉えることもできます。
■企業数
次に企業数を見てみましょう。
白い・黒い地域と企業数の多い・少ない地域は一致していますが、赤・青色と企業数に相関は特になさそうです。
他にも、事業所数や従業員数と比較してみましたが、特に差はなさそうでした。そのため、夜間光データの変化と企業数の変化に相関はなさそうなことが分かります。
■人口
次に、人口について見てみましょう。2015年の人口増減のデータを見てみると、夜間光データで青かった地域は、確かに人口が減少している地域であることが分かります。
人口とは相関がありそうなので、より細かな人口メッシュ分析で見てみると、さらに夜間光データで青色が確認できた地域は人数が減っていることが分かります。そのため、夜間光データの変化と人口の変化には相関がありそうだと分かりました。
さて、日本のケースは分かりましたが、他国はどうでしょうか。
例えばアメリカの夜間光データを見てみましょう。今回はGoogle Earth Engineで見てみましょう。
東側の方が、西側に比べると明るい地域が多く、東側の方が裕福であることが示唆されます。
実際に、esri社が可視化している各州の所得データと見比べてみると、貧富の差が夜間光と相関をもって現れていることが分かります。
最後に、世界地図で唯一と言ってよいほどに赤くなっていたことが気になったインドを見てみましょう。
先までの例と同様に、2012年に比べて2016年の方が明るい地域を赤色にしています。広い範囲で赤色になっていることが分かります。つまり、経済的に豊かになった地域がかなり多い、ということですね。
実際に、GDPがどう変化しているのか見てみましょう。2012年に比べると2016年にはGDPが倍増していることが分かります。明るくなった地域がかなり多いことも納得です。
以上から、明るさの変化と経済状況の変化に相関がある、ということは間違いなさそうです。
(5)まとめ
今回の記事では、夜間光データをもとに、GDP、財政力指数、人口の増減、地方税など、さまざまな切り口でデータを比較してみました。
当然、反例データもいくつかあるかとは思いますが、今回のことから、財政状況を公開していない地域であっても、夜間光データを確認することで、おおよその財政状況を推測可能である、ということを感じ取れたかと思います。
衛星は一か所だけでなく、地球を周回しているので、世界中を観測しています。そのため、自分自身しか見えない範囲の状況のみならず、より広い範囲で視野広く状況を把握し、考えることができるようになります。
また、世界中で比較できるため、反例データを探しやすい、つまり、正しい認識を得やすい、というように言い換えることもできます。
経済動向が分かることで、何ができるようになるのか?
データとデータをつないで、仮説をたてて検証することで、新たな知見を得られるかもしれません。
夜間光データを利用したブロックチェーンのサービスとして、EXAというプロジェクトも立ち上がっています。暗い地域、つまり経済的に豊かではない地域にトークンを埋めることで、格差の是正と富の分散を促そうとしているようです。とても面白い試みです。
今回は夜間光データを眺めてみただけですが、実際に解析を回すことで、夜間光データと何のデータの間に相関がありそうか、ということを探すのも面白いかもしれません。
参考:
1.Google Earth Engine
2.NASA World View
3.気象庁
4.Light pollution map
5.RESAS
6.NOAAのサイト
7.esri
8.世界経済のネタ帳
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