宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

実現間近!? 激化する軌道上サービスの開発競争、その分類と参入企業まとめ

軌道上サービスの実現が現実味を増してきています。激化する軌道上サービスの開発競争の今をまとめました。

昨年2019年10月9日に、軌道上サービスの実証機であるSpaceLogistics LLCの衛星が打ち上げられました。

宙畑でも、新たな宇宙市場として軌道上サービスを紹介してきましたが、実証機がついに打ち上がったことで、軌道上サービスの実現が現実味を増してきています。

今回は以下の項目を紹介しつつ、軌道上サービスの盛り上がりについて皆様にお伝えしたいと思います。特に、宇宙業界で新たにビジネスを興したいと考えている方の参考にしていただければ幸いです。

・軌道上サービスに取り組む企業
・軌道上サービスで必要とされる技術
・軌道上サービスから他の事業への展開

軌道上サービスの基本的な説明は関連記事をご覧ください。

注:必要に応じて、軌道上サービスを提供する衛星を「サービス衛星」、軌道上サービスを受ける衛星を「クライアント衛星」と区別しています。

(1)軌道上サービスに取り組む企業

軌道上サービスとは、文字通り軌道上(宇宙)で「衛星」が「衛星」に対して行うサービスのことです。

今までは、打ち上げ後に衛星が故障しても手が出せませんでしたが、軌道上サービスが実現すれば、修理が可能になります。修理を行う衛星が宇宙空間で待機して複数の衛星にサービス提供できれば、顧客側は衛星の再打ち上げ費用を削減できるだけでなく、短期間で自社のサービスを復旧できるという大きな利点があります。

修理に限らず、様々なサービスが考えられています。そこで、まずは軌道上サービスで提供されるサービスについて分類しました。その目的別に、「軌道の修正」、「寿命の延長」、「新しい軌道への移動」、「次のサービスに向けた廃棄」、「軌道環境保全」の5つで定義しています。詳細は表1に示しています。

「軌道の修正」や「寿命の延長」は予定したミッションが出来なくなった場合のケアを提供するサービスと考えられます。

「新しい軌道への移動」、「次のサービスに向けた廃棄」は、次のミッションに向けたサービスと考えられます。例えば、今持っている衛星を別のミッションへ流用したい場合や、運用が終了する衛星をどかして同じ軌道に新しい衛星を投入したい場合に、これらのサービスが必要になります。

「軌道環境保全」は民間というよりは公共事業に近いサービスで、宇宙のごみ(デブリ)を減らして故障リスクを減らす等のサービスになります。

ここに挙げた以外にも、「衛星」が「衛星」に対して行うサービスという意味では通信や電力供給など様々な軌道上サービスが考えられますが、今回は、「衛星」が「衛星」に対して物理的にアクセスするというスコープで以上の5つについてまとめました。

Credit : 宙畑
表1 軌道上サービスの分類

これらの軌道上サービスに取り組んでいる企業について紹介します。前回の記事では、軌道上サービスの注目企業(研究機関含む)として4社を紹介しましたが、それ以外にも多数の企業が軌道上サービスの検討・開発に取り組んでいます。これらの企業と提供されるサービスを表2に整理しました。参考にした資料は、2020年1月時点で一般に公開されているものです。

その結果、17社もの企業が、軌道上サービスへの取り組みについて発表をしていることがわかりました(宙畑調べ)。

表2 軌道上サービス事業者一覧

これらは米国、欧州、日本の企業であり、日本の企業は2社、それ以外を米国と欧州の企業で同程度の割合占めています。

企業独自の事業として進めている場合もあれば、NASA等の政府機関のプロジェクトに参画し、契約をもとに衛星開発を担当している場合もあります。そこで、事業化を目的としているかについても表2に反映しています。

顧客の募集やプレスリリースの情報をもとに、事業としてもしくは事業化に向けて活動をしている場合は〇、不明な場合は「?」としています。

加えて、これらの企業を主導・支援する政府機関の活動について一覧にまとめたものが、表3になります。

表3 政府機関の軌道上サービスに関する活動

前回の記事でも、「軌道上サービス市場を牽引すると想定されているのは寿命延長サービス」と紹介したように、「寿命の延長」は多くの企業が事業化を狙っているようです。加えて、「寿命の延長」に限らず、他のサービスについても満遍なく検討されていることが分かりました。

想定されているサービスから、各企業が市場のニーズをどのように考えているかを把握するため、各企業の紹介をまとめたところ、とても長くなってしまいました(笑)

そのパートは最後に回すこととして、次章以降では、軌道上サービスを展開するうえで必要な技術、また、今後の展開をまずはご紹介します。

(2)軌道上サービスで求められる技術

新しく軌道上サービス市場に参入したいと考えた場合には、どういったアプローチがあるでしょうか。

前述の企業のように、サービスのプロバイダーとなることも一つのアプローチです。ただしこの場合は、衛星を調達するために大きなリソースが必要になります。別のアプローチとして、主要な技術のサプライヤーとなることも考えられます。
一般的な衛星の機器では既に多数の競合他社が存在しますが、軌道上サービス特有のキーとなる技術であれば、競合が少ないため比較的市場に参入しやすい可能性があります。

軌道上サービス特有の技術を大きく3つに分類し、どういった取り組みが行われているかを整理しました。

●技術の分類
(1) 接近(ランデブ)
打ち上げ後、GPSやセンサ等を使ってクライアント衛星に接近(ランデブ)するための技術
(2) ロボティクス
クライアント衛星へのドッキングや検査・修理・交換・アップグレードに必要な技術
(3) 特殊な技術
燃料補給やデブリを捕獲するための技術等、各サービス衛星の特徴的な技術

●取り組みの例

(1) 接近(ランデブ)/想定されるコンポーネント:GPS、ランデブ用のセンサ等

ロケットでただ打ち上げただけでは、サービス衛星とクライアント衛星の距離は遠いため、高度や位相等を調整して手の届く距離まで近づく必要があります
例えば、国際宇宙ステーション(ISS)へ物資を運ぶ際にも、同様な技術が使われています。その一つが、日本の宇宙ステーション補給機(HTV、愛称:こうのとり)です。以下の動画をみると、流れが大変わかりやすいです。HTVはロケットで打ち上げられた後、遠く離れたところから国際宇宙ステーションの10m手前まで近づいていきます。

【タイムラプス】「こうのとり」7号機 国際宇宙ステーションへ到着!

相手に近づくためには、お互いの距離や速度差が必要なため、HTVではGPSや、RVSと呼ばれるレーザー測距技術を使っています。軌道上サービスに当てはめると、クライアント衛星が故障している場合や、近づく対象がデブリの場合はGPSを利用できないため、別の方法が必要になるでしょう。

RemoveDEBRISの場合は、カメラとLIDARと呼ばれるレーザーを使ったセンサを搭載しています。これらのセンサを使い、RemoveDEBRISから放出した小型衛星を捕捉し、網による捕獲を実証しました。

RemoveDEBRISで使用したナビゲーションシステムの概要 Credit : Airbus

その他の例として、2007年には、DARPAによってOrbital Expressと呼ばれる衛星を使った軌道上サービスの技術実証が行われました。Orbital Expressはクライアント衛星を模擬した衛星を軌道上で分離し、ランデブ技術、ロボティクス技術を実証することを目的にしています。ランデブ用のセンサとしてレーザーレンジファインダー、赤外カメラ、可視光カメラ等が使われています。

一般的に、宇宙用の機器は地上で使われる民生品に比べて高価になります。それは、耐環境設計へのコスト増加(真空、放射線など地上より環境が厳しい)、量産効果が小さいことなどがありますが、ミッションに合わせた開発によるコスト増加も挙げられます。

そこで、開発コストを抑えるため、既存の民生品(COTS)を宇宙用に改修して搭載するという試みがなされています。例えば、ARGOTECが開発しているArgoMoonと呼ばれるCubesatでは、民生品のレーザーレンジファインダーが搭載されているようです。

ArgoMoonは、他の12機の衛星とともに、NASAが開発中の大型ロケットSLSの試験機で打ち上げられる予定です。ロケットから分離された後は、自身を打ち上げたロケットをカメラで撮影・記録するというミッションを実施する予定です。この時、搭載したレーザーレンジファインダーにより、ロケットとの距離を適正に保つようです。

民生品を流用する場合は、十分な耐環境性を有しているか試験等で検証してみるまでわからない点や、ミッションへの最適化が開発品に劣る点は課題になります。最終的には、コストの削減効果とのトレードオフにより、採用有無が決定されます。

ランデブ用のセンサはサービス衛星にはなくてはならないものであるため、コスト低減はサービス費用の低減につながり、サービス自体の価格競争力を生みます。そのため、安価なセンサに対する市場のニーズは一定数あると思われます。

【参考】
虎野 吉彦 他, “第7章 宇宙ステーション補給機(HTV)技術実証機の飛行結果”, 平成21年度宇宙環境利用の展望.
Boeing, “Orbital ExpressOrbital ExpressProgram Summary and Program Flight ResultsFlight Results”
T. Weismuller, M. Leinz, “GN&C Technology Demonstrated by the Orbital Express Autonomous Rendezvous and Capture Sensor System”, AAS 06-016, 2006.
argotec, “CUBESAT TRADE OFF:THE ARGOMOON CASE”, iCubeSat, 2018.

(2) ロボティクス/想定されるコンポーネント:ロボットアーム等

ランデブによりある程度の距離まで近づくと、クライアント衛星を捕まえたり、機器を交換する等のために”腕”が必要になります。そういった開発を行っているのが、前述のTethers UnlimitedやEffective Spaceです。

その他にも、U.S. naval research(アメリカ海軍の研究所)はCubesat に搭載可能な7自由度のロボットアームについて開発しています。このロボットアームはISARと呼ばれる3UサイズのCubesatに搭載され、ISS内でロボットによる組立の自律化を実証する目的で使用されます。

一般的に宇宙機器にはサイズや質量などのリソースが小さいことが求められるため、小さく、軽いロボットアームは市場からのニーズが高いと予想されます。

開発では、宇宙特有の難しさもあるようです。無重力で動くロボットを地上の重力環境で試験するためには、重力を補償する必要があります。また、無重力と軽量化の結果、剛性が低くなるため設計・解析の際は柔軟性も考慮しなければなりません。宇宙空間でロボットアームを使うためには、打ち上げ時の振動や宇宙での温度変化を考慮しなければいないことや、真空で動かす場合には液体の潤滑剤は蒸発してしまうため、固体の潤滑剤が必要になります。

ISARのコンセプト図 Credit : United States Naval Academy

【参考】
Dakota Wenberg他, “Advancing On-Orbit Assembly With ISAR”, SSC18-WKIII-06, 2018.
西田信一郎他, “宇宙用ロボットの搭載系技術”, 日本ロボット学会誌Vol.14 No.7, pp.927~930,1996.

(3) 特殊な技術/想定されるコンポーネント:燃料補給機器、デブリ捕獲機器等

サービスによっては、それ独自の特殊な技術も求められます。

その一つが、サービス衛星のタンクからクライアント衛星のタンクに燃料を送り込むための燃料補給技術です。人工衛星によっては、軌道を変えたり維持するために燃料を搭載しています。この燃料が切れると、ミッションが続けられなくなるため、衛星の寿命を迎えることになります。

そこで、燃料を補給して寿命を延ばしてあげるサービスが必要になるわけです。新しい衛星を打ち上げるよりも低コストでサービスを提供できれば、サービスとして成り立つ可能性があります。この補給技術を開発しているのがベンチャー企業であるOrbit Fabです。彼らは既にISS内でのテストに成功しています。

Rapidly ATTACHABLE Fluid Transfer INterface (rafti) Credit : Orbit Fab

デブリ除去では、相手を捕獲するための技術が必要となります。RemoveDEBRISはデブリを捕獲するために網や銛を使う方法について実証しました。

RemoveDEBRISで使用したデブリ捕獲技術(網)の概要 Credit : Airbus
RemoveDEBRISで使用したデブリ捕獲技術(銛)の概要 Credit : Airbus

衛星開発のノウハウが無くても、軌道上サービス特有の”キーとなる技術”を提供できれば、市場で受け入れられる可能性があります。

【参考】
Orbit Fab
https://www.orbitfab.space/
RemoveDEBRIS(Airbusの紹介ページ)
https://www.airbus.com/space/space-infrastructures/removedebris.html
RemoveDEBRIS(SSCの紹介ページ)
https://www.surrey.ac.uk/surrey-space-centre/missions/removedebris

【関連記事】

(3)軌道上サービス技術の発展

軌道上サービス技術を確立することができれば、それを足掛かりにさらに他の事業へ展開できる可能性があります。その例をいくつかご紹介します。

軌道上組み立て

打ち上げられる衛星の大きさはロケットのサイズによって大きな制約を受けていまいますが、軌道上サービス技術を使い、宇宙空間で「組み立てる」ができれば、大きなブレイクスルーが生まれます。そういった考え方をしているのが、NASA、EROSSのコンソーシアム、Tethers Unlimited です。

NASAの主導するRestore-Lの資料では、軌道上サービス技術の発展先として、軌道上組立を挙げています。その他にも、有人探査やNear-Earth objects (NEOs)と呼ばれる小惑星や隕石から地球を守るための技術への適用も考えていることが伺えます。

深宇宙有人探査への適用

NASAと同様に、EROSSの資料においても、軌道上サービス技術の展開先として深宇宙有人探査が挙げられています。その他にも、ステーションへの物資輸送、Near-Earth Asteroids(地球近傍小惑星)の採掘物輸送への利用を視野に入れていることが伺えます。

近年の宇宙開発は、地球周回から離れ、月や火星の開発にシフトしつつあります。地球からより離れることで、開発に必要な物資や人を輸送するコストも上がってしまいます。この問題に対して、軌道上サービスをベースにした物流やロボティクスによる組み立て技術が、一つの解決策になると考えているのではないでしょうか。

軌道上でのサプライチェーンの構築

Tethers Unlimitedでは、その紹介でも触れたように、軌道上サービス技術に加えて、「軌道上組立技術」と「軌道上製造技術」を確立することで、軌道上でのサプライチェーンを構築することを考えているようです。これにより、例えば地上から衛星を打ち上げなくても、軌道上で回収した資源を再利用して衛星を製造できれば、高額な打ち上げ費用が不要になる等の利点が考えられます。

これらの例から、単に軌道上サービスに必要な技術として開発するのではなく、その先の市場にもつながる技術を開発しようとしていることがわかります。

Restore-Lの技術の適用先 Credit : NASA
Credit : EROSS

【関連】
Restore-L
https://sspd.gsfc.nasa.gov/restore-L.html
Sabrina Andiappane, “H2020 OG7 – EROSS”, PERASPERA 3rd Workshop, 2019. “
IN-SPACE SERVICES
https://www.tethers.com/projects/

(4)まとめ

SpaceLogistics LLC社が実証衛星を打ち上げたように、軌道上サービスの開発はこれから数年で大きく進むと予想されます。開発を進めている企業の数や、大手企業だけでなくベンチャー企業も加わっていることからも、活発な市場であることが感じ取れます。Orbit Fabのようにキーとなる技術を開発しているベンチャー企業もあり、これからさらに新しいプレイヤーが登場するかもしれません。

また、NASAやいくつかの企業は、軌道上サービスの先を見据えて、現在の開発を進めています。彼らの考える通り、軌道上サービスが物資輸送(物流)にも使われていくのであれば、その適用範囲は、月やその先の火星まで及びます。現在検討が進められている月周回有人拠点(Gateway)や、月面や火星の開発など、人類の活動域が広がるにつれて物資の輸送は必要になり、軌道上サービスの適用できる市場はより大きなものになっていくと期待できます。そうなれば、今回取り上げた5つのサービス以外の軌道上サービスが生まれるかもしれません。

軌道上サービスの定義を広く捉えると、現在でも衛星と地上の間の通信を中継する衛星があり、衛星に通信サービスを提供していると考えることもできます。同じように衛星にサービスを提供するという視点で考えると、例えば稼働している衛星に電力を供給するサービスなど軌道上サービスビジネスはまだまだ広がる余地があります。

SpaceXがロケットに革命を起こし、今では当たり前のように打ち上げられているように、軌道上サービスも、数年後には当たり前の技術になっているかもしれません。今後しばらくは軌道上サービスのニュースから目が離せないでしょう。これからも、宙畑では軌道上サービスの市場としての魅力を伝えていきたいと思います。

附録:各企業の紹介

(1)Airbus
Airbus はO.CUBED Servicesと呼ばれる軌道上サービスの構想を発表しています。このサービスではGEO servicing 、Logistics services、Clean up servicesと呼ばれる3種類のサービスを提供するとしています。

GEO servicingは「寿命の延長」、「新しい軌道への移動」、「機能のアップグレード」、「次のサービスに向けた廃棄」にあたり、静止軌道の通信衛星を対象としたサービスです。

Logistics servicesは「新しい軌道への移動」、「次のサービスに向けた廃棄」にあたります。低軌道に打ち上げられた衛星を静止軌道に輸送するサービスや、コンステレーション衛星が搭載されたディスペンサーを輸送し、コンステレーション衛星を所定の軌道に配置するためのサービスを提供します。使用後のディスペンサーはコンステレーション衛星の邪魔にならないよう、軌道離脱するサービスまでを含めています。

Clean up services は「軌道環境保全」にあたります。2018年に打ち上げられたRemoveDEBRISの成果を活用し、軌道上のデブリを除去するサービスを提供します。

サービス衛星(左)とクライアント衛星(右) Credit : Airbus
デブリを捕獲するためのネットを放出するサービス衛星 Credit : Airbus

【参考】
O.CUBED SERVICES
https://www.airbus.com/space/Services/on-orbit-services.html

RemoveDEBRIS
https://www.surrey.ac.uk/surrey-space-centre/missions/removedebris

(2)SpaceLogistics LLC (Northrop Grumman子会社)
SpaceLogistics LLCは既にサービス衛星(Mission Extension Vehicle, MEV)の1号機を開発し、2019年10月9日に打ち上げを成功させています。打ち上げたMEV-1は、既存の人工衛星(IntelSat 901)に対して実際にサービスを提供する予定です。現在、他の企業に比べ先行している企業の一つといえます。

SpaceLogistics LLC は2種類のサービス衛星を発表しています。1つは今回打ち上げたMEVであり、サービス対象の衛星(クライアント衛星)に接近・ドッキングし、そのまま軌道維持や軌道遷移のための推進系として働きます。

もう一つはMission Robotic Vehicle (MRV)と呼ばれるサービス衛星です。こちらの衛星はロボットアームを有しており、MEVで提供するサービスに加え、ロボティクスに関する幅広いサービスを提供するための衛星です。MEVの働きをするポッド(Mission Extension Pod, MEP)をクライアント衛星に取り付け、「寿命の延長」や「新しい軌道への移動」のサービスを提供する構想となっています。「寿命の延長」では、検査や修理も提供予定です。

クライアント衛星にドッキング後のMEV(左) Credit : Northrop Grumman
MRV(左)がクライアント衛星(右)にMEPを取り付ける様子 Credit : Northrop Grumman

【参考】

What is Space Logistics?
https://www.northropgrumman.com/Capabilities/SpaceLogistics/Pages/default.aspx
Proton Successfully Launches EUTELSAT 5 West B / Mission Extension Vehicle-1 Satellites
https://www.ilslaunch.com/ils-proton-successfully-launches-eutelsat-5-west-b-/-mission-extension-vehicle-1-satellites/
MEV-1 Mission Profile (動画)
https://www.youtube.com/watch?v=_rgglvA5DdI&feature=emb_title
Northrop Grumman’s Mission Extension Pods (MEPs) (動画)
https://www.youtube.com/watch?v=V8WXA2MwzB4&feature=emb_title

(3)Thales Alenia Spaceを中心としたコンソーシアム
Thales Alenia Spaceは11のパートナー(企業・大学等)と協力し、EUのHorizon 2020プログラムの中でサービス衛星の開発を行っています。このサービス衛星は「寿命の延長」、「新しい軌道への移動」、「次のサービスに向けた廃棄」の提供を目的にしています。実証時期は不明ですが、2021年まではシステム設計及びサブシステムの地上デモンストレーションを計画しています。

衛星イメージ図 Credit : EROSS

【参考】
EROSS
https://eross-h2020.eu/

(4)Space Systems Loral (Maxar Technologies子会社)
Space Systems LoralはNASAのプログラムに参画し、Restore-Lと呼ばれる軌道上サービス衛星を開発しています。この衛星は低軌道の衛星に「寿命の延長」、「軌道の修正」、「新しい軌道への移動」を提供するサービスです。最も大きな特徴は、軌道上サービスを前提としたインタフェースを有していないクラインアント衛星であっても、サービスを提供可能な点です。

2019年4月には開発状況に関するプレスリリースがあり、衛星バスについてCritical Design Review (CDR)と呼ばれる設計審査会が終わったとのこと。衛星バスは、ミッション機器を除いた一般的にどの衛星でも必要となる機器を指します(構造、電源、通信のための機器等)。今後は衛星バスを2020年にNASAへ引き渡し、NASAによってミッション機器が取り付けられます。その後、2022年に打ち上げ、政府衛星(Landsat 7)に対して技術実証が行われます。

衛星イメージ図 Credit : NASA

【参考】
Restore-L
https://sspd.gsfc.nasa.gov/restore-L.html
Maxar and NASA Successfully Complete Design Review for Restore-L On-Orbit Servicing Spacecraft Bus              Innovative spacecraft on track to make history as first-ever to refuel satellite in Low Earth Orbit
http://sslmda.com/html/pressreleases/2019-04-08-Maxar-and-NASA-Successfully-Complete-Design-Review-for-Restore-L-On-Orbit-Servicing-Spacecraft-Bus.php

(5)Tethers Unlimited
Tethers UnlimitedはLEO Knightと呼ばれるサービス衛星を開発しています。このサービス衛星は「寿命の延長」、「次のサービスに向けた廃棄」の提供を目的にしています。特徴としては、自社でサービス衛星を運用する以外に、そのシステムを販売することについても言及している点や、一般的な軌道上サービスに留まらず、「in-space supply chain」を提供するための宇宙での製造・組立技術の開発にも取り組んでいる点です。また、他社の衛星に比較して小さいサービス衛星を想定しています。搭載する11自由度のロボットアーム(KRAKEN)は折りたたむと3Uサイズまで小さくなります。

実証時期は2022年から2023年を予定しています。

クライアント衛星(左)とサービス衛星(右) Credit : Tethers Unlimited
ロボットアーム(KRAKEN)の外観 Credit : Tethers Unlimited

【参考】
IN-SPACE SERVICES
https://www.tethers.com/projects/
ROBOTIC ARM
https://www.tethers.com/kraken/

(6)Altius Space Machines
Altius Space MachinesはBulldogと呼ばれるmicrosatelliteスケールのサービス衛星の開発を行っています。このサービス衛星は「寿命の延長」、「次のサービスに向けた廃棄」、「機能のアップグレード」、「軌道環境保全」の提供を目的にしています。

軌道上サービスに必要な要素技術の開発に力を入れており、ロボティクス技術やサービス衛星-クライアント衛星のインタフェース開発等を行っています。

ベースとなっているのは電気的にON/OFFのできる永久磁石(ElectroPermanent Magnets, EPM)の技術です。その他にも、燃料補給に必要な極低温流体向けのカプラー、デブリのような非協力物体を捕獲するための捕獲技術も開発しています。
Astroscale、RUAG Space USAと同様、One webのパートナーとなっています。

衛星イメージ図 Credit : Altius Space Machines

【参考】
Altius Space Machines
https://www.altius-space.com/
Open Source Analysis of Iridium Failures and the Implications for Big LEO Constellations
http://altius-space.com/blog/wp-content/uploads/2018/02/AltiusSCAFPresentation-ImplicationsOfIridiumOnBigLEO_12Dec2017.pdf
OneWeb and OneWeb Satellites bolster commitment to Responsible Space with advanced grappling technology from Altius Space Machines
https://www.oneweb.world/media-center/oneweb-and-oneweb-satellites-bolster-commitment-to-responsible-space-with-advanced-grappling-technology-from-altius-space-machines

(7)Effective Space
英国に拠点を置くEffective SpaceはSPACE DRONEと呼ばれるサービス衛星を開発しています。このサービス衛星は「寿命の延長」、「軌道の修正」、「新しい軌道への移動」、「次のサービスに向けた廃棄」、「軌道環境保全」の提供を目的にしています。特徴としては、クライアント衛星を1500-4,000kgと想定しているのに対し、サービス衛星は400kgと比較的小型の衛星を想定している点です。
2018年にはEffective SpaceはイスラエルのIAIとパートナーになっています。
2018年の時点では、2020年に実証予定と発表されています。

衛星イメージ図 Credit : Effective Space

【参考】
Effective Space
https://www.effective.space/
Effective Space announces partnership with IAI for satellite servicing development
https://spacenews.com/effective-space-announces-partnership-with-iai-for-satellite-servicing-development/

(8)Chandah Space Technologies
他の企業とは異なり、Chandah Space Technologiesは宇宙状況把握(SSA)衛星を開発しています。

InsureSatと呼ばれる小型衛星のコンステレーションを墓場軌道(静止軌道より200km高い軌道)に配置し、静止軌道上の衛星の検査を行うサービスです。クライアント衛星の高解像度の画像、リアルタイムの動画、熱分布の画像の提供を想定しています。サービスに必要なリモートセンシングのライセンスは既に取得しているようです。

Chandah Space Technologiesは、ターゲット顧客として既に静止軌道上にある衛星、毎年打ち上がる衛星を考えており、それぞれ400機と20機程度/年と見積もっているようです。

ミッション概要 Credit : Chandah Space Technologies

【参考】
Chandah Space Technologies
http://www.chandah.com/
CONFERS紹介ページ
https://www.satelliteconfers.org/wp-content/uploads/2019/09/Chandah-Space-Technologies.pdf
Chandah Space Technologies , “CHANDAHSPACE TECHNOLOGIES Corporate Overview”, 2018.
https://www.satelliteconfers.org/wp-content/uploads/2018/12/Helen-Reed-Chandah-Space-Technologies.pdf
National Oceanic and Atmospheric Administration, “Private Remote Sensing License”
https://www.nesdis.noaa.gov/CRSRA/files/CST_Public_Summary_Aug_11_2017.pdf
Brian Weeden , “The Evolution of Space Rendezvous and Proximity Operations and Implications for National Security”, USSTRATCOM Operational Law Conference , 2018.
https://swfound.org/media/206263/bw_usstratcom_olc_keynote_sept2018.pdf

(9)Infinite Orbits
Infinite Orbitsは静止軌道の通信衛星に対する「寿命の延長」サービスを提供するための衛星を開発しています。その他にも、「新しい軌道への移動」、「次のサービスに向けた廃棄」のサービスも提供します。そのために必要な接近するための技術とドッキング技術を開発しているとのことです。

実証衛星を2020年に、実際のサービス開始を2021年もしくは2022年としています。

衛星イメージ図 Credit : Infinite Orbits

【参考】
Infinite Orbits
https://www.infiniteorbits.io/
Interview: Singapore/UK Infinite Orbits on satellite life extension & tracking space objects
https://www.spacetechasia.com/interview-singapore-uk-infinite-orbits-on-satellite-life-extension-tracking-space-objects/

(10)Weintraus
Weintrausは低軌道から静止軌道の衛星に対して、「寿命の延長」、「新しい軌道への移動」を提供するサービスに必要な技術を開発している企業です。

衛星イメージ図 Credit : Weintraus

【参考】
Weintraus, Inc.
https://www.f6s.com/weintrausinc
WEINTRAUS OctoArm(動画)
https://www.youtube.com/watch?v=8_FTLDGcE5I

(11)Momentus Space
Momentus Space は低軌道に打ち上げられた衛星を、希望する軌道に配置するVIGORIDEと呼ばれるサービスを提供しています。その他にも、「次のサービスに向けた廃棄」のサービスも提供しています。今後は、VIGORIDEだけでなく、さらに発展させたサービスも展開していくようです。
VIGORIDEの技術実証を2020年夏に予定しています。

VIGORIDEのイメージ図 Credit : Momentus Space
VIGORIDEを使用してクライアント衛星を加速している様子 Credit : Momentus Space

【参考】
Momentus Space
https://momentus.space/
A MOMENTUS 2019 YEAR IN REVIEW
https://momentus.space/2019/12/19/a-momentus-2019-year-in-review/

(12)D-Orbit
D-Orbitは、InOrbit NOWと呼ばれるCubesatの打ち上げ調達サービスを提供しています。このサービスは、顧客が用意したCubesatをD-Orbitが提供するPOD(PicoSatellite Orbital Deployers:超小型衛星放出装置)に搭載して打ち上げ、希望の軌道で放出するというサービスです。

衛星イメージ図 Credit : D-Orbit

【参考】
D-Orbit
https://www.dorbit.space/

(13)Atomos Nuclear and Space
Atomos Nuclear and Spaceは原子力を使って軌道上サービス(スペースタグ)を実現しようとしています。Atomos Nuclear and Spaceは宇宙輸送市場を$5.5Bと見積もっており、サービス衛星によって「軌道の修正」、「新しい軌道への移動」、「次のサービスに向けた廃棄」のサービスを提供します。

衛星イメージ図 Credit : Atomos Nuclear and Space

【参考】
Atomos Nuclear and Space
https://www.atomosspace.com/#home
CONFERS紹介ページ
https://www.satelliteconfers.org/wp-content/uploads/2018/12/00-Atomos_-General-One-Pager.pdf

(14)Astroscale
前回の記事でも紹介したベンチャー企業であり、軌道上サービスにおいて、他の企業に比べ先行している企業の一つといえます。衛星開発だけでなく、デブリ除去で問題となる国際的なルール作りにおいても精力的に活動しており、日本以外にも英国、アメリカ、シンガポールに拠点を有しています。提供するサービスはEnd of Life(本記事では「次のサービスに向けた廃棄」に分類)と「軌道環境保全」です。
サービス衛星の技術実証衛星(ELSA-d)を開発中であり、2020年に打ち上げられる予定です。

衛星イメージ図 Credit : Astroscale
開発されたターゲット衛星(クライアント衛星を模擬するために使用) Credit : Astroscale

【参考】
Astroscale
https://astroscale.com/
SSTL Ships Target Satellite to Tokyo for Astroscale’s ELSA-d Mission
https://www.sstl.co.uk/media-hub/latest-news/2019/sstl-ships-target-satellite-to-tokyo-for-astroscal

【関連記事】

(15)川崎重工業
川崎重工業は「軌道環境保全」を目的にしたサービス衛星について、2025年度までに商用化を目指すことを発表しています。対象とするデブリは軌道上に存在するロケット上段であり、比較的大きなデブリを想定しています。
また、デブリ除去に必要な技術の実証衛星(DRUMS)を開発中です。DRUMSはJAXAの革新的衛星技術実証プログラムの2号機に選定され、イプシロンロケットにより打ち上げられる予定です。

デブリ除去のミッションシナリオ Credit : 川崎重工業
DRUMSの模型 Credit : 川崎重工業

【参考】
川崎重工が東京海上・三井物産と宇宙ごみ除去の事業化に向けた協業に合意
~宇宙ごみ除去を実現するビジネスモデル構築を目指す~
https://www.khi.co.jp/pressrelease/detail/20191118_1.html
第1回 スペースデブリに関する関係府省等タスクフォース議事次第
デブリ除去事業化へ向けての取り組み(KHI提供資料)
https://www8.cao.go.jp/space/taskforce/debris/dai1/gijisidai.html
「革新的衛星技術実証2号機のテーマ公募」選定結果について
http://www.jaxa.jp/press/2018/12/20181212_kakushin_j.html
「G20大阪サミット」で宇宙ゴミ除去技術を展示
https://www.khi.co.jp/news/detail/g20_1.html

(16)Surrey Space Centre(SSC)を中心としたコンソーシアム
Surrey Space Centre(SSC)、Airbusやその子会社であるSurrey Satellite Technology Limited (SSTL)等が協力して開発したデブリ除去技術の実証衛星が、RemoveDEBRISです。将来的にデブリ除去衛星で使われるデブリの捕獲技術として、網により捕獲する方法と、銛(もり)で衛星の構造部を貫き捕獲する方法の2つの捕獲技術が実証されました。また、捕獲に必要なデブリを捕捉するためのナビゲーションシステムについても併せて実証されています。
捕獲技術の開発担当はAirbusであり、その成果はAirbus の開発する軌道上サービス衛星O.CUBED Servicesに反映されるようです。

RemoveDEBRISの概要 Credit : Airbus

【関連記事】

【参考】
RemoveDEBRIS(Airbusの紹介ページ)
https://www.airbus.com/space/space-infrastructures/removedebris.html
RemoveDEBRIS(SSCの紹介ページ)
https://www.surrey.ac.uk/surrey-space-centre/missions/removedebris

(17)clearspace today
clearspace todayはEPFLスペースセンター発のスタートアップ企業であり、「軌道環境保全」を目的としたClearSpace-1と呼ばれるサービス衛星を発表しています。
除去するデブリは120kg程度のVESPA adapter(Vegaロケットの一部品)、実証時期は2025年を予定しています。

デブリ除去のミッションシナリオ Credit : clearspace today
サービス衛星(左)とデブリであるVESPA adapter(右) Credit : clearspace today

【参考】
clearspace today
https://clearspace.today/
EPFL startup heads a mission to clean up space
https://actu.epfl.ch/news/epfl-startup-heads-a-mission-to-clean-up-space/
Clearspace One Mission animatique
https://www.youtube.com/watch?v=NkRdR0MHplU&feature=emb_title

以上のように、多くの企業が軌道上サービスの構想を発表しており、軌道上サービスに市場としての可能性を感じていることが伺えます。サービスの提供対象は静止軌道と低軌道の地球周回衛星が多く、顧客ターゲットにはその衛星を使って事業をしている企業や政府を考えていると思われます。

これらの企業を調べると、2025年頃までがサービス提供時期の一つの目標となっており、ここ数年で開発が大きく進むことが予想されます。したがって、軌道上サービス市場やさらにその先の市場へ参入したいと考える企業にとっては、2020年代前半は目の離せない年になることは間違いないでしょう。