宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

移動データの利活用事例とデータx新規事業創出のコツを聞く! 株式会社スマートドライブインタビュー

モビリティデータプラットフォームとして、自らも移動データを活用するサービスを展開する株式会社スマートドライブにデータ活用のコツをお伺いしてきました。

ビッグデータというバズワードが飛び交うその裏側で、膨大な量のデータの荒波をどのように乗りこなせばよいのかが分からない……ましてやデータを活かして事業を成功させるとなるとさらにハードルが。よし、ビジネスを推進する上でデータを有効活用している企業に直接聞いてみようじゃないか!

そんな思いを胸に、宙畑編集部が気になる企業を突撃する本連載「データ迷子からの脱却! ビッグデータ時代のデータ活用術を探る」の第3弾です。今回は、モビリティデータのプラットフォームとして、移動にまつわる様々なセンサーデバイスを通じて収集・解析されたビッグデータを利活用したサービスを展開する株式会社スマートドライブを訪れました。

移動データが私たちの生活を変える、MaaSの最前線に突撃!

今、MaaS(Mobility as a Service)やCASE(Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化))という言葉が当たり前に使われるようになり、ITを活用した移動の変革期にあると言っても過言ではないでしょう。

そして、その変革を支える鍵となるのが「データ」です。特定の対象物が今どこにいるのか、またはどこからどこへ移動したのか……任意の目的に対して移動にまつわるデータを集め、利活用することで、私たちの暮らしがより豊かになるのです。

では、実際に私たちの暮らしがどのように変わるのでしょうか。また、私たちの暮らしを変えるデータ利用のコツは? 宙畑編集長の中村が、データプラットフォーム事業を中心にデータ解析領域の技術開発及び事業開発を担当する株式会社スマートドライブ取締役の元垣内広毅さんに話を伺いました。

今回お話をお伺いした株式会社スマートドライブ取締役、元垣内広毅さん

(1)移動データの基盤を担い、自らもサービス提供を行うスマートドライブ社

中村今日は御社の事業とデータ活用についてお話をお伺いします。まずは御社の事業概要を教えてください。

元垣内弊社は「移動の進化を後押しする」をコーポレートビジョンに掲げ、モビリティデータのプラットフォームとして、車に限らず、移動全体を支えるような事業を大きく2つ展開しています。

1つは、MaaSやCASEといった移動にまつわるサービスを支える裏側、つまり、データを取れるIoT機器から解析するような基盤を提供する「モビリティデータプラットフォーム」の事業。

もう1つは、その基盤を使って私たち自身が、実際にサービス提供者として事業を運営する「モビリティサービス」です。

中村モビリティサービスは実際にどのような展開をされているのでしょうか?

元垣内モビリティサービスのサービスは3つ展開しています。1つ目の法人向けのソリューション「SmartDrive Fleet」では、法人車両の移動を可視化することで営業生産性の向上やドライバーの安全管理に利用いただけるサービスです。

2つ目はドライバーエンゲージメントサービスの「SmartDrive Cars」です。B2B2Cのサービスでして、たとえば、安全に運転しているとお得になっていくとか、ポイントが貯まっていくとか、保険料が安くなっていくなど。こういった動機付けによって、法人様とドライバーとの良い関係性を中長期的に築くことができます。

3つ目が「SmartDrive Families」といって、高齢者や免許取りたての方の移動データをもとに、自分の運転を自分が見るのではなく、家族と共有して安全の管理をする見守りサービスです。

中村基盤を作りながら、その基盤を利用して自社でもサービスを提供し、自社で事例も作っているというのは、MaaS業界を牽引する姿勢が如実に現れていて魅力的ですね。

元垣内ありがとうございます。まさに、基盤とサービス、両軸で展開していることは弊社の強みだと考えています。

(2)移動データ×〇〇、続々と生まれる事業提携と利用データ

中村御社のプレスリリースを拝見すると、自社事業のアップデートだけでなく、他社との事業提携が続々と生まれているように思います。

元垣内はい、最近だと小田急電鉄さんと家族見守りサービスの連携を3月から開始しています。また、ホンダ社のEVバイクとの連携やLTE通信型ドライブレコーダー事業を展開するユピテル社との連携は、象徴的な事例としてよくお話しています。

中村まだ始められて日が浅いとは思うのですが、すでに喜んでいただけたという事例があれば教えていただけますか?

元垣内ユピテル社との事例をご紹介すると、今、ドライブレコーダーはすごく広がっているものの、多くのドライブレコーダーは基本的にはSDカードに入っているので、オンラインになっておらず、データを見たい場合はひとつひとつ取りに行って手作業で外して見ているという状況です。

それが今回の事業連携を通して、ドライブレコーダーがクラウドに全部つながっている状況を作れたので、何か危険な運転があったときに、いつでも確認できるようになったり、またそれだけでなく、クラウドに集まったデータを分析して様々なインサイトを創出することができるようになったことは、すごく喜んでいただいているポイントかなと思います。

中村ドライブレコーダーのデータがクラウドに溜まっていくとなると、そこからさらに新しいサービスが生まれそうですね。

元垣内まさに。まだ私たちも構想段階ではありますが、ドライブレコーダーのデータは、視点を変えると「動く防犯カメラ」になります。

元垣内現時点では、ストリーム処理をして好きなタイミングの動画データを取ってくるということは、ハード面や通信回線のコストの課題もあるのでなかなか難しいですが、5Gの世界が当たり前になったとき、リアルタイムに、オンデマンドに、地上を見たいときに確認できるような世界がくると……そういったところも考えています。

あとは、モビリティサービスという枠組みを超えて、街を支える基盤や街づくりのための移動データにも可能性があるかなと。

中村具体的に教えていただけますか?

元垣内私たちの移動データの活用基盤を、各地方自治体の持つ行政サービスのデータ、医療的なデータなどをうまく組み合わせることで、スマートシティやスーパーシティにおける「都市OS(オペレーティングシステム)」としても活用することができると考えています。

また、各地域に住まわれている方の移動の情報を分析することで、こういうモビリティの在り方だったら心地よく暮らせるよねと、分析と提案を含めた実証実験を進めることで、街づくりにも移動データが活かせる可能性がないかを探る取り組みも既に開始しています。

中村高齢者にとって住みやすい街、若者にとって住みやすい街といった二元論ではなく、その街独自の移動データに合わせた柔軟な街づくりができそうでとてもワクワクします。

(3)可能性の宝庫を最大限使い倒すための「機動的な検証」ができる仕組み構築

中村移動データ、聞けば聞くほど、今後も新たな利用法が生み出される期待感が高まる、まさにお宝のようなデータですね。私たち宙畑も、衛星データがお宝のようなデータと考えているのですが、可能性が無限にあるように思えるからこそ、どのように検証を進めていくかを考えることが多く……実際に事業の検証を行う上で、どのような優先順位付けを行われているのでしょうか?

元垣内これまでは、目指す未来を実現する上での基盤となる要素技術を作るフェーズだったため必要なものが明確で、そういった領域では、優先度に悩むことは少なかったというのが正直なところです。

ただ、おっしゃる通り、移動のデータ自体の利活用の仕方や、移動データと組み合わせるデータは無限にあるので、私たちの技術基盤を使って、どんな価値が生まれるかっていうのは、私たちも実際にサービス提供をする過程で体得しながら、それこそ日々未知なる価値の宝探しをしているような感覚をもっています。一方で、そういった探索をしながら、プロダクト開発に必要な要件を整理して、実際のサービスに必要な機能開発をしていくことは、非常に難しいということもこれまで痛感してきました。

そもそも、どういったデータをどう料理して、いつ誰にどのように表現したら価値があるのかの仮説検証が最重要でありながら、そういったトライをしながら、サービスとして提供可能なレベルの機能開発を進める事自体が、油断をすると非効率な開発を招きやすいという経験もしました。また、そういった中での仮説検証の結果、「これちょっと違ったね」となった場合、それなりにサンクコストが積み上がりスピーディな方向修正がしづらく、また、新たな打ち手を取るにしても、機動的な開発ができにくいということもありました。

そういった経験から、暗中模索的にサービスの機能を作りこむ前に、移動のデータとその他のデータを組み合わせながら、様々なトライを機動的に検証できる仕組みとして、私たちのモビリティデータプラットフォーム基盤の中にデータウェアハウスを構築し、移動データの価値創出のサンドボックスとしてもフル活用して、提供価値の検証をしやすい環境を整備しています。

可能性の幅があるからこそ、盲目的になって可能性を狭めないための仕組みとしてサンドボックスを作って実現できているというのは編集部一同、目からウロコでした。

中村データの組み合わせにより生まれる価値が100%分からない状態においては、優先順位をあえてつけずに、試作段階のものを多く生み出せる基盤を作って検証の数をこなすということですね。実際に検証の良し悪しはどのように判断されているのでしょうか?

元垣内シンプルに、ユーザーからのフィードバックですね。良いものは、「欲しかったのはまさにこれです!」とものすごく感動されるので、そのような反応やフィードバックを見ながら進めています。

中村データの組み合わせを考えるとなった際に、移動データと言っても位置情報データ、センサデータと様々だとは思いますが、どのデータを使うのかを取捨選択する場合に意識していることはありますか?

元垣内データにもいろいろ種類がありますが、私たちは基本的にはシンプルな情報だけで本質的な価値が出せないか、例えば、位置情報データだけでなんとかできないか、というようなことを考える癖がついています

車両走行の位置情報データだけでも、細かい単位で取得して入れば、2点間の位置関係から速度とその向き、さらにその変化から加速度とその向きまでもわかり、非常に細かい運転の癖も可視化され、精緻な運転評価が可能ですし、そういった位置情報データは、法人車両の場合、企業活動そのものを表現しているため、単なる車両管理の枠を超えて、企業の生産性改善や、人・モノ・拠点等の最適なアロケーションといった企業経営に関わる重要な意思決定材料として活用することができます。

つまり、最初から「あれもこれも必要だ」ではなく、「このデータだけでこんなことまで見えてくるし、さらに他のデータあればこんなこともわかる」という考えです。目的に対して、関連する全ての項目データを網羅的に取得しようというのではなく、汎用的に取りやすい比較的シンプルなデータだけで、どうにかその目的が達成できないか、その上で必要なデータが何かという考え方をした方が、スピーディかつスケールしやすいデータ活用ができるのではないかなと。

–現在、移動データ活用の基盤が整備され、これからさらに移動データの新たな可能性検証が続々と進むといったところでしょうか。そこで、データ活用に焦点を絞り、データ活用のコツを元垣内さんにお伺いしたところ、重要な視点を3つ教えていただきました。

(4)データ活用のコツその①「目的の設定とデータ取得・管理」

中村ざっくりとした質問になってしまいますが、データ活用を行う上で意識されていることがあれば教えてください。

元垣内そうですね、まずお伝えしたいことは、ビッグデータって宝にもなるんですが、扱い方次第で全然宝にならなくて……「Garbage in, garbage out.」とよく言われたりもするんですけど、データを目的もなく闇雲に集めて、ビッグデータになったからと言って、良い結果を見つけ出せるわけでは無くて、逆に、そういった目的もなく集められたビッグデータをどんと渡されてから手をつけるデータ分析は、非常に無駄な作業が多くなったり、そもそもインサイトを出すこと自体が難しくなることさえあります

データ分析する前に、データを取得する段階から「こういうことを検証したい」とか「こういう仮説があるので、こういうデータを集めてくる」とか「こういったデータ分析をしていくんだ」ということを、あらかじめそれなりにデザインして進めないと、データを集めても結局ゴミの山でしたとか、永遠に仮説検証をずっと続けてしまうことにもなりがちなので。

そもそもどういうことをやって、どういう目的で、何を検証したいのかとか、仮に全てが明らかでなくても想像力を働かせて、事前に、データ活用のイメージをもって設計したデータを取得していく必要があります

中村ビッグデータは、様々なところで耳にする言葉ですが、いざ魅力的な規模のデータを目の前にすると盲目的にエイヤで始められている事例があるのも事実。データを扱う上で、このデータを利用して何がしたいのか、は常に意識しておかなければなりませんね。

「データは扱い方次第」と言われることについて、さらにお伺いしたいのですが、元垣内さんにとって「データとは何か」と問われたら何と答えますか?

元垣内データとは何か……私自身は、学生時代に統計解析の専攻でデータ解析技術の研究開発に携わり、就職してからもずっと数字やデータに関わる仕事をしているので、昔から人生を共にしている存在みたいな感覚なのですが、実用の観点で考えると、「現実的な課題を解決するための材料」だと思っていて、「身近な何か問題を解決するときの最初の一手が打てるもの」だなと。

つまり、目の前の事象に対して、何かものすごい真理だったりとか、理論やモデルを作った上で、解決を図る演繹的アプローチはなかなか大変ですが、何らかの事象に対して、データがあれば、それを基に最初の一手が打てて、最終的には帰納的に問題を解決できる。それがデータだと考えています。

中村もはや人生を共にしている存在みたいな感覚というのはまた凄いお話ですね。そして、今の回答をいただいて、具体的なアクションを打つための材料だと考えられているからこそ、データ活用の目的意識がより強まるようにも感じました。ありがとうございます。

(5)データ活用のコツその②「汎用性と頑健性をもったデータの料理」

中村では、データ活用を進められる中で課題と感じられていることはありますか?

元垣内あえて挙げるなら、私たちのお客様は、業種はもちろん、それこそ目的や課題感が全然違うので、ひとつの単体製品の中での追加機能開発で、それらに対応しようとするとかなり難しいという点ですね。

中村たしかに、移動データは利用の可能性が幅広く、イメージしやすいので、様々な要望が集まりそうですね。

元垣内いきなりそれぞれの要件をなんでも叶えるプロダクトを開発するというのはなかなか難しかったりするので、先ほどお話したデータウェアハウスを活用して、BIツール等で見せ方も試しながら、各社のニーズや課題に柔軟に対応できる、いわば、データを活用しやすい仕組みを整えています

最近はその環境自体を丸っとお使いいただける「モビリティデータウェアハウス」という新サービスの提供も開始しまして、ゼロベースで環境構築をする必要がなくアカウントを作成するだけで、ある意味、データ取得・管理を気にせずに、宝探しにフォーカスすることができる点がとても好評です。

中村様々なニーズに対して、データ活用をしやすい仕組みという点について、連携する機器が増えた時の工夫についても、もう少しお伺いできますか?

元垣内例えば、ホンダ社のEVバイクでも、ユピテル社と連携しているドライブレコーダーでも、その他の機器からのデータであっても、データのフォーマットを揃えることで、同じような解析ができて、同じような管理ができる工夫をしています。

また、より意識しているのは、私たちが自社開発したデバイスだけでなく、他社製品含むマルチデバイスになったりとか、四輪車だけでなく二輪車での活用や、日本だけでなく海外の道路環境で使われることも視野に入れた、汎用性の高いデータの料理の仕方です。

先ほどのシンプルな情報だけで本質的な価値が出せないかを考えるということにも通じますが、「できるだけシンプルな情報を使い、かつ、データ取得が多少網羅的でなくても目的が達成できるようなデータの料理をする」という考え方は重要かもしれません。それができると、おおよその機器で汎用的に取れるようなデータを使って、また、国内外問わず、データの欠損や多少データの精度が悪いシーンもあっても頑健性をもって、網羅的に取れていないからダメだとならずに、前に進めることができます

中村データの料理の仕方で、仮に、理想的な条件が揃っていなくても目的を達成できるということは大きなメリットですね。

(6)データ活用のコツその③「データ活用の民主化」

中村あと、これは衛星データ活用を広める私たちが感じている課題のご相談なのですが……衛星データがどのようなもので、どうやって活用すれば良いか分からないと言われることがとても多く、移動データの活用でもそのような課題はありますか?

元垣内ものすごく多いですね。そこは私たちも正直手探りですが、単にツールを「どうぞご提供します」というだけだと、なかなか使っていただけないと思っています。かといって、全て私たちがやってしまっても意味がありませんし、スケールしません。

そこで、私たち自身がサービス提供しているなかで培った経験値をもとに、まず私たちがデータを活用する過程から見ていただきながら、もうちょっとこうしていこうとか、コミュニケーションを取りながら、改良していくというやり方が良いと考えています。データの活用を推進する立場の人間もある意味では共に汗をかいてというか、頭をひねる過程も含めて一緒に創出していくというところは、近道のひとつなのではないでしょうか。

「データについて理解してもらう」という考えではなく「データが直感で有効だと思ってもらう」という状態をいかに作れるか、宙畑の記事作成においてもとても重要な視点をいただきました。

中村データプラットフォームだけでなく、サービス提供まで事業展開しているからこその強みですね。実際に、データを活用する過程から支援することがポイントになると。

元垣内そうですね。最近のトレンドでもありますが、データの取り扱いに明るい一部の専門家でないとできないようなことではなくて、いろいろな方が自分自身でデータを活用して、新たな価値を創出しやすいような、もっとデータを扱うことに対して敷居の低い環境を作ることで、データ活用を民主化していくことが、やはり重要と感じています。

「データ活用の民主化」の目安としては、データの取り扱いを専門としない部署の方々が、自身のテーマについて、自分でデータに触れて、「これだったらこういうことに使おう」とか、実際にデータに基づいて何らかのアクションのイメージができるところまで落とし込めるとよいのではないでしょうか。

(7)まとめ

データ活用のコツについてお伺いする本連載も今回で3回目。言葉は違えど、目的の重要性、プロダクトを誰もが理解・活用できるレベルにまで落とし込むことの重要性を感じさせられる取材でした。

また、スマートドライブ社がデータプラットフォーム事業として「データの扱い方」についても重要な知見が蓄積されており、とても勉強になりました。

そして、なんといっても移動データの無限の可能性をあらためて知る機会となり、今後の事業展開がとても楽しみです。

衛星データ活用のディスカッションは残念ながら十分に議論をする時間が取れなかったため、また次回機会あれば実施したいと考えています。お楽しみに!