どんなCOVID-19対策アイデアが生まれたのか?SpaceApps COVID-19 Challenge開催レポート
2020年5月30~31日に開催された宇宙データを使ってCOVID-19に関する課題を解決するハッカソンSpaceApps COVID-19 Challengeの様子をお伝えします!
宇宙データを使ってCOVID-19に関する課題を解決するハッカソンSpaceApps COVID-19 Challenge(以下、 COVID-19 Challenge)が5/30(土)〜31(日)に開催されました。ローカルリードを務めた湯村が、その様子をレポートします。
SpaceApps COVID-19 Challengeについては、以前の宙畑の記事でも紹介しています。
宇宙データでCOVID-19に立ち向かえ!SpaceApps COVID-19 Challenge開催のお知らせ
SpaceApps Challengeは、宇宙データを使って地球の課題を解決するハッカソンです。米国航空宇宙局(NASA)が主導し、世界各国にて毎年開催されています。SpaceApps COVID-19 Challengeは、SpaceAppsの派生イベントとして今年急遽実施が決定され、NASAに加えて欧州宇宙機関(ESA)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、カナダ宇宙庁(CSA)、フランス国立宇宙研究センター(CNES)と世界中の宇宙機関での共催となりました。
COVID-19 Challengeは、150カ国から15,000人以上が参加し、2,000を超えるチームが誕生しました。COVID-19 Challengeは完全オンライン開催のため、都市ごとの運営や審査などはありません。参加者をサポートするために、過去のオーガナイザの有志がローカルリードという役割を務めます。私も東アジア・太平洋地域のローカルリードの1人を務めました。
COVID-19 Challenge参加者は、2日間の成果物をプロジェクトページにアップロードすることで完了します。
ただ、これだけでは他チームの開発状況やプロジェクト内容をあまり知ることができないため、日本地域でイベントをさらに盛り上げるために、情報交換用のSlackを立ち上げて参加者同士の交流を促し、開閉会式、中間報告会、最終発表会をオンライン会議ツールZoomを使って開催しました。
最終発表会には50名以上が参加し、22チームが発表を行いました。また、2日目の早朝にはSpaceXの民間有人宇宙飛行船Crew Dragonの打ち上げがあったため、Zoomにつないでみんなで打ち上げを見守るイベントも行いました。
Remoというオンラインサービスを使って発表会終了後の懇親会も行いました。
作品紹介
最終発表会で発表した22チームの作品を紹介します。発表会の様子はYouTube Liveにて配信し、全発表のアーカイブを見ることができます。
SpaceApps COVID-19 Challengeには12つの課題があり、参加者はこの中から1つの課題を解決策を2日間の成果物として提案します。
各作品の紹介の冒頭には、12個のチャレンジのうちどれを選択したかを記載しています。チャレンジについては下記のリンクから詳細をご覧ください。https://blog.spaceapps.jp/entry/2020/05/19/195745
草生える / Grass Grows
チャレンジ1) クワイエット・プラネット Quiet Planet
長期のStay Homeの影響により道路の草が伸び廃墟化している様子を分析。GCOM-Cの植生データを使用。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/quiet-planet/teams/grass-grows/project
kNOx Down COVID-19
チャレンジ1) クワイエット・プラネット Quiet Planet
COVID-19による人々の活動変化を調べるため、NASAのデータ分析可視化プラットフォームGiovanniを用いて、京阪神エリアの二酸化窒素量を分析。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/quiet-planet/teams/knox-down-covid-19/project
Thinking of Temporary reduction in global CO2 emissions / DEEP KICK
チャレンジ1) クワイエット・プラネット Quiet Planet
COVID-19がCO2排出に与える影響を、都市ロックダウンや航空機追跡情報をもとに考察しレポートを作成。地球観測データを活用したマップアプリも提案。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/quiet-planet/teams/deepkick/project
Only Tweet , Auto Analyzes China daily GDP and industrial output / Night light CH
チャレンジ3) 繋がりある所に道はあり Where There’s a Link, There’s a Way
中国の夜間光の人工衛星画像から、その日のGDPを算出。画像をツイートするだけで、解析して結果を返してくれるTwitterのbotとして実装。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/light-path/teams/night-light-ch-only-tweet-auto-analyze/project
災害から地域を守ろう / GRASS HOPPER STOPPER
チャレンジ4) 希望的観測 A New Perspective
食糧問題の解決に役立つ人工衛星データ等の情報をを表示するアプリケーション。ダッシュボードをWebアプリケーションとして開発。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/new-perspective/teams/grass-hopper-stopper/project
Space Chara-Bento project
チャレンジ5) 全てを芸術に The Art of It All
焼き海苔をレーザーカットし、宇宙キャラ弁を制作するプロジェクト。カットする型には、NASAやJAXAが公開しているロケットや宇宙機の3Dデータを利用。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/art-it-all/teams/space-chara-bento-project/project
Soap Dispenser “max Q” / Wakasa-Kikaku
チャレンジ5) 全てを芸術に The Art of It All
ロケットの打ち上げ映像に合わせて泡を吹き出すソープディスペンサー。泡がロケットの噴煙に見えたことから着想を得たとのこと。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/art-it-all/teams/wakasa-kikaku/project
『こびとさ〜ん 地球に愛をとどけて くださいな!』現実世界のパラメータを利用したシミュレーションゲーム / KOBITO_SAN
チャレンジ5) 全てを芸術に The Art of It All
人工衛星データを用いたシミュレーションゲーム。パラメータに放射輝度や光合成有効放射などのデータを利用。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/art-it-all/teams/kobito-san/project
Walking on the Moon / nanika
チャレンジ5) 全てを芸術に The Art of It All
月面を都市に見立て、月面の地図を作るプロジェクト。航空写真から建物と道路を識別するプログラムを月面画像に適用した。Webアプリケーションとして作成。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/art-it-all/teams/walking-on-the-moon-1/project
Emergency Evacuation during Pandemic (EEP) / tkhs-lab
チャレンジ6) SDGsとCOVID-19 SDGs and COVID-19
ソーシャルディスタンスなどを考慮した新しい災害避難の形を提案するスマートフォンアプリ。SpaceNetの建物検出Datasetで自習済みのモデルを使用し、避難所候補となる建物を検出。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/sdgs-and-covid-19/teams/tkhs-lab/project
The Day After Tomorrow / From Hongo with Love
チャレンジ6) SDGsとCOVID-19 SDGs and COVID-19
COVID-19による環境への影響を調べるため、温室効果ガスと電力使用量を例年と比較し分析。JAXAのGOSAT衛星やESAのSentinel衛星のデータを使用。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/sdgs-and-covid-19/teams/from-hongo-with-love/project
COVID-19 Impact on ASEAN economy / Bayleaf
チャレンジ6) SDGsとCOVID-19 SDGs and COVID-19
ASEAN地域に対するCOVID-19の影響を分析。農業経済への影響を見るため、Leaf Area Indexを分析して焼畑農業との関連を考察。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/sdgs-and-covid-19/teams/bayleaf/project
安眠植木ドーム インテリア×空気清浄 / 丑之日プロジェクト
チャレンジ8) 清浄な空気供給を Purify the Air Supply
植物の有害物質除去効果を活用し、睡眠時に利用する頭を囲う半球型ドームを提案。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/purify-air-supply/teams/ushinohi-project/project
Satelibration
チャレンジ8) 清浄な空気供給を Purify the Air Supply
安価な二酸化炭素センサのキャリブレーションのために、GOSAT-2衛星の観測データを使う提案。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/purify-air-supply/teams/satelibration/project
IoT Earth Purify Unite System / Earth Ventilator
チャレンジ8) 清浄な空気供給を Purify the Air Supply
空気清浄システムのアイデア提案。ダクト内でアルコール液と酸化チタン光触媒によって空気を浄化。さらに、GCOM-C衛星などの人工衛星データと連携し、空気の汚染状況に合わせて消費電力の最適化することも検討。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/purify-air-supply/teams/earth-ventilator/project
DailyMap かつて過ごした場所の、今の様子が知りたい。 / Meganium
チャレンジ9) 人為的要因 Human Factors
地図上にショートムービーを配置するスマートフォンアプリケーション。街の様子を知ることができ、社会的孤立の解消や人混みの回避に役立つとのこと。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/human-factors/teams/meganium/project
SpaceSuit for Offline Meetings / SpaceSuit
チャレンジ10) 隔離解法 The Isolation Solution
COVID-19感染症防止のために宇宙服を着用した生活の提案。宇宙服のデザインには人工衛星の画像データを活用。将来的に宇宙で生活する際のリハーサルにもなるとのこと。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/isolation-solution/teams/spacesuit/project
Human Re:fresh Products / Kenichi Shida by SBC. X lab
チャレンジ10) 隔離解法 The Isolation Solution
NASAの提唱する宇宙飛行士のための宇宙での生活のヒントをもとに、Communication Product、Leading & Follower Product、Self Care Product、Group Care Product、Fine Society Productの5つの製品を提案。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/isolation-solution/teams/kenichi-shida-by-sbc-x-lab/project
WindLetter
チャレンジ10) 隔離解法 The Isolation Solution
風が運ぶボトルメールをモチーフとしたアプリケーション。送信したメッセージが、風の向きや強さに応じて見知らぬ誰かへ届く。GCOM-W衛星の風速データを利用。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/isolation-solution/teams/wind-letter/project
HIYA - Stress reduction through communication / LatLatLong.LAB
チャレンジ10) The Isolation Solution
孤独を解消するため、話したい時に話すことのできるアプリケーション。NASA、JAXA、ESAの、宇宙におけるコミュニケーションについての情報を参考に開発。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/isolation-solution/teams/latlatlonglab-2/project
Measuring of economic damage caused by COVID-19 using Night Light / GEOJACKASS
チャレンジ12) 総合評価 An Integrated Assessment
夜間光の画像を用いた経済指標との関連性の調査。夜間光の強さと年収や店舗集積度などとの相関を市区町村毎に算出。夜間光データにはNASA VIIRSのデータを使用。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/integrated-assessment/teams/geojackass-1/project
Satellite Data Assimilation for COVID-19 Prediction
チャレンジ12) 総合評価 An Integrated Assessment
SEIRD感染モデルをベースに、長期再解析データJRA-55から風、温度、湿度などのデータからパラメータを見積もった感染シミュレーションを構築。
https://covid19.spaceappschallenge.org/challenges/covid-challenges/integrated-assessment/teams/satellite-data-assimilation-for-covid19/project
発表終了後、JAXAの方から次のようなコメントを頂きました。
松尾 尚子さん
発表を楽しく聞かせていただきました。衛星データを使ってもらって嬉しかった。我々も衛星データを解析しているが、解析結果がCOVID-19のロックダウンの影響なのかどうか、要因の識別が難しく、同じ苦しみを味わっているところ。COVID-19 Challengeの開催が決まってから、JAXAのどの衛星データが提供できるか整理してきた。人間活動の影響等のチャレンジが多かったためGCOM-Cのデータに着眼していたが、GCOM-Wの風速データも使われていて感動しました。
池畑 陽介さん
2日間お疲れさまでした。みなさんアイデアが抱負で、この短い時間できれいなユーザインタフェースやハードウェアを作られていて、高い技術力に驚きました。Slackでもいろいろと支援させていただき、難しいところもあったと思うんですけど、総じてまとまった形でデータの利用や見せるところができていたのが素晴らしいと思いました。今後も利用していただいて、ぜひシチズンサイエンスという形で楽しんでもらえれば良いかなと思います。
オンラインハッカソンの運営について
SpaceApps初のオンライン開催ということで、これまでのSpaceAppsとは様相が大きく異なりました。
参加者には事前にSlackに入ってもらい、基本的に全ての連絡をSlackで行うようにしました。開閉会式や中間発表、最終発表といったイベントを行う際には、その都度Zoomに集合してもらいました。SlackもZoomも比較的広く使われているツールということもあり、使い慣れた参加者も多く、大きなトラブルはなかったように思います。
一番大変だったのがチームビルディングです。もともとハッカソンにおいてチームビルディングはすごく重要ですが、オンラインならではの難しさもありました。チームメイトを探したいチームビルディング希望の参加者には、事前にどのチャレンジに挑戦したいかを決めてきてもらい、チームビルディングシートに記載してもらうようにしました。当日は、そのシートの情報を元に、いくつかのグループに分かれてビデオチャットによるディスカッションをしてもらい、チーム分けを行いました。チーム分け自体は比較的スムーズにいきましたが、その後、方針の違いでチームが分かれるといったこともあったので、ディスカッションがやや不十分だった面もありそうです。
原因としては、現地開催とは異なり、複数グループにまたがったディスカッションができなかったり、他のグループのディスカッションの様子を覗くことができなかったりしたことが挙げられます。この辺りにはまだ多くの課題がありそうです。
懇親会はRemoを使って実施しました。RemoはZoomのようにビデオチャットができるオンライン会議ツールですが、テーブルごとに分かれる機能があり、話したい人の席に自由に移動し、少人数で会話することができるようになっています。特に座席指定もファシリテートもせずに参加者任せで行いましたが、通常の懇親会のように参加者みな積極的に話して盛り上がりました。
通常のSpaceAppsは3〜4ヶ月かけて少しずつ準備を進めますが、今回のCOVID-19 Challengeは4月末に急遽開催が決まり準備期間が1ヶ月しかなかった上に、初のオンライン開催で不確定要素も大きく、改めて振り返ってみるといろんな苦労が思い起こされます。イベント運営おいて、段取りが全てと言っても過言ではないくらい事前準備は非常に重要なものですが、オンラインイベントでは、当日現地でなんとかするといった運用でカバーすることができないので、よりいっそう事前準備が大切になることを実感しました。
COVID-19 Challengeを終えて
COVID-19を対象としたイベントということで、与えられたチャレンジは、人間の行動分析からレポートを作成するといったデータ分析系がいつも以上に多かったです。参加者層も、普段のSpaceAppsでよく見られる宇宙好きエンジニアに加え、医学生などの医療系の参加も目立ちました。
2日間という限られた時間では、アプリケーションの完成度に限界があったり、十分なデータ分析ができなかったりしますが、SpaceAppsで行うのは、アイディアを試すためのコンセプト検証(Proof of Concept:PoC)を作ることです。参加者のみなさんには、今回試したアイデアをもとに、今後継続してCOVID-19対策に取り組んでもらえると嬉しいです。
これから、各チームが作成したプロジェクトページをもとにオンライン審査が行われ、6月に受賞候補チームが選出され、8月に6つのGlobal Awardが選出される予定です。これまでのSpaceAppsでは、日本からのGlobal Award受賞チームはまだ出ていません。今回初受賞なるか結果を楽しみに待ちたいと思います。また、10月3日(土)〜4日(日)には通常のSpaceAppsも開催されますので、こちらもぜひ参加しましょう!