欧州に学ぶ!衛星データ利用事例まとめ~農業・輸送・物流・インフラ・旅行~
衛星データ利用が進む欧州では、続々と衛星データ利用事例が生まれています。 そこで、宙畑では欧州の利用事例を徹底調査しました!
衛星データ利用が進む欧州では、続々と衛星データ利用事例が生まれています。
そこで、宙畑では欧州の利用事例を徹底調査しました!
欧州の衛星プログラム「コペルニクス」とは
欧州連合の地球観測プログラム
コペルニクスとは、欧州連合(European Union:EU)の地球観測プログラムで、地球やその環境を観測することで欧州市民に様々な利益をもたらすことを目的にしています。
提供される情報は、衛星による地球観測と現地で測定されたデータを元にしています。
本プログラムは欧州委員会(European Commission:EC)によって運営されており、加盟国や欧州宇宙機関(ESA)、欧州気象衛星開発機構(EUMETSAT)、ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)、EUおよびMercator Ocean(海洋の解析や予測を行う民間NPO)によって実行されています。
コペルニクスで提供される情報は、無料かつオープンにユーザーに提供されます。
付加価値提供として、以下の6つのテーマでコペルニクスのサービスを提供しています。
・大気
・海洋
・陸域
・気候変動
・安全保障
・災害
それぞれのテーマごとに、担当機関やサービス提供者がおり、それぞれにサービスを展開しています。
2030年まで保証された衛星群Sentinelは7種類の合計10機
コペルニクスで提供される衛星データは、主にSentinelという衛星シリーズで撮影されたもの。Sentinel衛星はESAが開発する次世代の地球観測ミッションで、観測ミッション毎に7種類の衛星が計画されています。
Sentinel-1~3については常時2機体制での運用が予定されており、計画通り行けば10機の衛星で構成されることになります。現在は7機がサービス提供を行っています。
利用を促進するためのプラットフォーム
Sentinel衛星のデータを利用するためのプラットフォームは数多く用意されており、これらは、欧州以外の人も自由に無料で利用できます。
閲覧と簡易解析ツール EO browser
EO browserは、簡単に衛星画像の表示や解析が行えるGUI(Graphical User Interface)です。各衛星の観測結果を日時と場所から絞り込むことができます。
その他にも、以下キャプチャのように囲んだ範囲の植生の変化を求めることも可能です。秋ごろに植生指数の変化のピークが見られ、その後に下がっていることから、秋ごろに収穫する農作物を植えている地域なのだろうと推測できます。
オリジナルデータのダウンロードとAPI利用 Sentinel Open Access Hub
EO browserでは衛星画像を見て解析を行うことができますが、元の画像データをダウンロードすることはできません。ダウンロードボタンはありますが、スクリーンショットのようなものであり厳密には元のデータが持つ情報は失われています。
元の画像データにアクセスするためには、Sentinel Open Access Hubを利用します。
こちらではGUIベースで元のデータをダウンロードできる他、画像データを取得するAPIにもアクセスすることができます。
【コード付き】Sentinelの衛星データをAPI経由で取得してみた
https://sorabatake.jp/9987/
開発環境まで付いた5つのプラットフォーム DIAS
衛星画像はデータのサイズが大きく、ダウンロードするのに時間がかかる上、画像を解析するにはハイスペックなコンピュータが必要となります。
そこで、クラウドベースで開発環境まで合わせて提供しているプラットフォームDIAS(Data and Information Access Services)が5つあります。
それぞれ扱っているデータやサービスに個性があるので、ユーザーは利用用途に応じて選ぶことができます。ぜひ気になる方は確認してみてください。
コペルニクスが見込む市場規模
では、欧州がコペルニクスプログラムにこれだけの様々な投資を行うのはなぜなのでしょうか。
欧州が見据える世界全体の地球観測データの市場規模と、コペルニクスプログラムの各領域における市場規模を見ていきましょう。
2022年に世界全体で衛星画像の市場規模は4,800億円と予測
2019年2月にPwCが発行したCopernicus Market Reportによると、2017年の地球観測データの市場規模は3,100~3,400億円規模であったとのことです。
その内訳としては、画像そのものや付加価値を付けたサービス(Value added service:VAS)で1,800億円、情報商品やビックデータサービスに1,600億円となっています。
2022年に向かっては、情報商品やビックデータサービスが年平均成長率が25%を越えることが予想され、市場全体としては4,800億円規模に到達すると予想されています。
特に、今後10年はストレージや計算リソース、基本的な画像処理のツールなどを提供するクラウドプラットフォーム事業者がこの市場の牽引役を担うと言われ、この兆候はすでにAWSがLandsatを中心としたデータをオープンデータとして公開したパイロットプログラムに見て取ることができると述べています。
コペルニクスプログラムの累積経済価値は2.6兆円
では、コペルニクスプログラムでは実際どの程度の経済効果を生み出しているのでしょうか。
Copernicus Market Reportによると、2008年から2020年までの間にプログラムに投資された額は9,900億円となっています。
それに対し、衛星やITインフラを構築したり、衛星を打ち上げるための打上げサービスなどの上流工程(UPSTREAM)での経済価値が1.4兆円で、欧州圏内で年間17,260もの仕事が支援されたとのことです。
また、衛星が打ち上げられサービスが開始された2018年以降、後工程(DOWNSTREAM)側では、データの取得や保存、データ処理やエンドユーザーが利用するためのコンサルティングなどで5,700億円~1.2兆円規模での経済価値が生まれたとのことです。
そしてこの経済価値のうち、93%は衛星画像による価値提供を最終的に享受するエンドユーザーからもたらされたものだとしています。
好調なのは災害対策と大気監視、次いでエネルギーと農業
コペルニクスの中でも具体的にどの産業分野でどれほど成長しているか、さらに詳しく見ていきましょう。Copernicus Market Reportでは、中間業者(Intermediate Users)と最終利用者(End Users)に分けて報告がされています。
中間業者とは、コペルニクスの衛星の生データをエンドユーザ―が利用できる形に処理をする業者を指しています。
産業分野別にみると、最も売上が大きかったのは海洋監視で71億円、次いで安全保障で30億円となっています。どちらも観測領域が広く、中間業者としては価値を生み出しやすいと考えられます。
エンドユーザーは、中間業者から提供されるデータやコペルニクスから提供されるデータそのものを利用してサービスを作るユーザーのことです。
2018年の売上として最も大きかったのは、災害対策で810億円、次いで大気のモニタリングで650億円規模となっています。その他、売上の大きい分野としてはエネルギー分野や農業分野などが上げられます。
また、いずれの領域でも高い成長率を示しており、今後衛星が拡充されることに伴って市場規模はさらに大きくなるものと思われます。
コペルニクス事例20選!~農業・物流・旅行~
では、実際にコペルニクスでどのような事例が生まれているのか分野ごとに紹介していきます。今回紹介するのは、農業、物流、旅行の3領域ですが、他にもたくさんの事例がコペルニクスのウェブサイトで紹介されていますので、興味のある方は確認してください。
農業
Hawkingはすでにサービス化されている、作物や農場の状態に対する分析の効率化や分析精度の向上を目的としたサービスです。リアルタイムデータに加えて、過去の衛星画像をプラットフォームに追加することで、独自の機械学習を適用しています。
GroWiseは単に農家の人に情報を提供するのではなく、農家の人に資金や設備を貸し出す人向けに情報を提供することで、アフリカの貧しい農家の売上向上を狙ったサービスです。
InsSATは現在実証実験を行っているプログラムです。
従来の現地調査を通じた保険金請求の手続きを、衛星を用いることで簡素化しています。
FertiSatでは穀物生産における適切な窒素肥料の量や時期を決定できるサービスです。
実験では、窒素肥料の使用量が19.5%減少し、1haあたり35kgの節約に繋がったという成果が出ています。
KOREは地球観測衛星やUAV、ドローンなどの情報を組み合わせて、精密農業が行えるようにするためのサービスです。農家自身だけでなく、アドバイザーの人に情報を提供することで、より的確なアドバイスをすることを可能にしています。
持続可能な社会が注目を集めている中で、温室効果ガスとして有害性が高いメタンを観測、回収、処理、貯蔵、流通させることで、顧客の組織に価値をもたらすことができます。
輸送
欧州では移動手段としての自転車が注目されています。
Beelineは利用者の位置情報を元に、利用者好みの最適なルートを提案してくれるサービスです。
SkyLibertyは、衛星通信や測位衛星、気象衛星の上を用いて、安全なフライトのための包括的な情報提供を行うサービスです。現在は、実証実験を行っています。
GIP4 Smart Airportでは、Pleiadesなどの超高解像度光学衛星データによる、空港敷地内屋外の高解像度地図とSentinel-1,2のデータによる、時間分解能の高い空港内の最新地図、また測位衛星を使ったリアルタイムな車両の位置情報を組み合わせて、リソースの最適化を行うサービスの構築を目指しています。
列車に取り付けられた慣性計測装置のセンサーやブレーキパイプの圧力変動のモニタリングと、測位衛星による列車の位置情報を組み合わせて、列車の状態を常に把握できるようにするサービスです。
欧州では、日本と比べて非常に広い範囲で国をまたいで列車が走っているため駅間の距離も大きく、衛星による監視が効果をあげるようです。
SaMoLoopは、測位衛星から得られる列車の位置情報を利用して、従来人手で作業していた処理を自動化するサービスです。
インフラ
イギリスの電力供給会社では、電力供給を行う鉄塔などに樹木が接触し、電力供給が止まる事態に備えるため、今後5年間で約10億ポンド、日本円にして約1,300億円もの費用がかかると予想しています。
日本でも近年台風の影響などで甚大な停電被害がでており、日本でも適用できそうなアイデアですね。
物流
衛星からの測位データとローカルシステムからの測位データを組み合わせて、現在の物流を効率化しようとするサービスです。
海運業は従来、長期的な傾向分析、港湾当局からの出港記録などに頼って石炭の動きを推定していましたが、これは非常に複雑で不正確で時間がかかっていました。
ATMMは商用で高頻度の光学衛星や、Sentinel衛星を用いて、炭鉱港の活動状況(輸送と容積)や石炭輸送船を監視することで、より正確な情報をすばやく入手することができるようになります。
近年利用が進むドローンの飛行ルートについて、正確な地形プロファイルを提供するサービスです。
旅行
山岳地帯への旅行の際に、衛星データを利用して積雪・降雪情報がスマホで分かるサービスです。
旅行先を検討する際に、旅行先候補がどのような場所なのかを事前に知ることができるサービスです。
水上の旅行の際に、ワンストップで情報を提供してくれるサービスです。
利用者は測位衛星による位置情報を利用して、多様なAR作品を楽しむことができます。
災害対応
検知や予報の難しい津波について、衛星からの海面高度の測定により正確かつリアルタイムに予想しようというサービスで、現在実証を行っています。
まとめ
今回の記事ではコペルニクスプログラムの概要と、その中で生まれている事例についてご紹介しました。
みなさんのビジネスに活かせそうなものがあればぜひ詳しく調べて見てください。
宙畑編集部でも、今回ご紹介した事例の中から今後さらに深掘りをしてみる予定です。