Web体験の利便性の裏側を知る! 広告配信に使用するデータと活用メソッドを聞いてみた
普段何気なく見ているWebサイトに掲載されている広告の裏側はどうなっているの!? 広告のデータ活用と衛星データ活用の可能性について、Supership株式会社に聞いてみました。
ビッグデータというバズワードが飛び交うその裏側で、膨大な量のデータの荒波をどのように乗りこなせばよいのかが分からない……ましてやデータを活かして事業を成功させるとなるとさらにハードルが。よし、ビジネスを推進する上でデータを有効活用している企業に直接聞いてみようじゃないか!
そんな思いを胸に、宙畑編集部が気になる企業を突撃する本連載「データ迷子からの脱却! ビッグデータ時代のデータ活用術を探る」の第5弾です。今回は、膨大な量のデータを用いて、企業のデジタルマーケティング支援を行うSupership株式会社を訪れました。
■デジタルマーケティングにおけるデータ活用の今を知る!
2019年度は広告業界の潮目の年となりました。日本国内のインターネット広告費が1兆9,984億円(前年比113.6%)に対して、テレビメディア広告費(地上波テレビ+衛星メディア関連)は1兆8,612億円(前年比97.3%)となり、インターネット広告費がテレビメディア広告費の金額を上回ったのです。
たしかに、ニュースを含む様々な情報のほとんどは、テレビではなく、Webサイト、SNSやアプリから取得しているという方も少なくないでしょう。また、広告主の視点で見ても、ネット広告はユーザーの行動データをログとして残せるため、広告効果の可視化や配信設計の自由度も高いのです。
一方で、個人情報保護の観点からデータ活用には様々な配慮も必要なようです。個人を特定しないデータを基本としながら、どのようなデータを用いて広告の最適化を行っているのか。
宙畑編集長・中村が、膨大なデータ量と様々な種類のデータを武器に、デジタルマーケティング支援を行うSupership株式会社の中嶋さんと赤津さんにお話を伺いました。
【今回お話を伺ったお二人のプロフィール】
赤津 安昭
アドプラットフォーム事業領域 プロダクト企画部
シニアプラットフォームエキスパート
中嶋 真
アドプラットフォーム事業領域 プロダクト企画部 データビジネス推進グループ
グループリーダー
(1)広告主の悩みは新規顧客の獲得と広告配信ユーザーの見える化!
中村:まず、御社とデータ活用に取り組まれる広告主企業(以下、クライアント)はどのような課題を抱えていることが多いのでしょうか?
中嶋:基本的には新規のユーザーをどんどん獲得したいという要望が多いなという印象です。通常の広告施策で限界を感じて、「データを使って何か新しいことができないのか?」と相談に来られる方も多いですね。
中村:通常の広告施策の限界というのはどのあたりに感じられているのでしょうか?
赤津:広告を配信すべきターゲットや広告がリーチした人物像が見える化できていないというのが大きな課題だと思います。
もちろん、分析ツールを使えば性別や年齢といったデモグラフィック情報は分かるのですが、「なんか女性が多い気がする」といったざっくりとしか把握しかできない。そうすると、「どういった媒体を選べばよいか」「どのような広告表現をすればよいか」といった広告設計や「適切なユーザーに届いたのか」といった広告配信後の検証も曖昧なまま進めることになってしまいます。
中村:たしかに、男性、女性、20代、30代といっても最近は趣味嗜好や生活形態も多様化しているので、デモグラの情報だけでは頼りないかもしれませんね。そこで御社の事業が広告主に価値提供ができると。
赤津:私たちの場合は、キャリアデータやその他のデータを元にした精度の高いデータを広告主の持つデータと掛け合わせて配信のトライ&エラーを繰り返すことで、ユーザーの人物像をどんどん可視化することができます。それが私たちのマーケティング支援における強みですね。
–今回、Supershipのデジタルマーケティングにおけるデータ活用についていただいた話からフロー図を作成しました。フロー図と合わせてご覧ください。
フロー図を見ていただくと分かる通り、今回お伺いした中でポイントだなと思ったのは、データ活用に取り組んで一発で良い結果が出ることを期待するのではなく、仮説設定と効果検証のPDCAを繰り返しながらデジタルマーケティングの精度を上げていくことが重要であるということ。
以下、PDCAのサイクルを分解して、ステップごとにまとめてインタビュー内容を掲載しています。PDCAをどのように回しているのかに意識してご覧ください。
(2)データ活用の初手は既存ユーザーの可視化と分析
中村:では、実際にクライアントのユーザーのイメージ像を明らかにしたいとなった場合、まずどのようなことをされるのでしょうか。
中嶋:まずはクライアント企業が保有しているユーザーデータを対象に分析を行います。
具体的には、クライアントのサイトで商品を購入したユーザーや購入前に離脱したユーザーのデータを訪れた時間帯や曜日、年齢、性別で一度クラスタリング(データを外的基準なしに自動的に分類)します。次に、弊社の提供できる高精度なデータと掛け合わせた結果、可視化できた特徴量をさらにクラスター毎に算出します。
このように、クライアントの持つデータを元に、弊社のデータを掛け合わせることで、クライアントのペルソナを明確にすることが、まず最初にデータを活用して実施するステップです。
中村:ちなみに、クライアントによっては自社のサイトのデータを保有していないということもあると思うのですが、そのようなケースはほとんどないのでしょうか。
中嶋:そのようなケースもあり得ます。その場合は、データ収集の段階から並走して設計をしていきます。単純にいつ何人訪れたというアクセスログだけではなく、どのページにどのタイミングで何人訪れて、何人がどのタイミングで離脱したのか、また、クライアントによっては、決済ページまで訪れたユーザーがどの商品を買おうとしたのかといった特殊なフラグを振る場合もあります。
また、広告配信などのマーケティング活動だけではなく、商品開発や生産管理など、幅広くデータを使いたいといった話がある場合は、さらに前段のCDP(ユーザーのデータを蓄積するプラットフォーム)や分析基盤の構築をグループ会社のDATUM STUDIOと一緒に行うということもあります。
中村:まず分析対象となるのは、クライアントのデータで既存顧客を知ることが重要ということですね。イメージを可視化するためには、貴社の提供するどのようなデータと掛け合わせると有効なのでしょうか。
中嶋:行動が明確になる、精度が高いデータとしては、ユーザーの検索行動が対象となるデータが挙げられます。
実際にユーザーが能動的に検索しているキーワードというのは、ユーザーの興味・関心やその状況を強く反映しているためです。
また、分析で可視化したデータをもとにターゲットとするグループを作りにいくと、既存のユーザーの傾向に沿ったユーザーだけに配信をする流れになるので、そこで捉え切れない潜在層となるユーザーをどう捉えていくかは議論としてよく上がります。
その場合、クライアントの顧客データをタイムスタンプや行動時間などをもとに、類似度が高いユーザーを機械学習で探して、ユーザーの拡張を行うことがあります。
(3)広告配信における指標決めのコツは?
中村:では、広告配信を行った後の評価をする際に良いデータ、悪いデータはどのよう段階でどのように判断されているのでしょうか。
赤津:そうですね、良いデータか悪いデータかというのは、仮説検証を繰り返して見えてくるもので、一概にこうですというのは言いづらいです。より正確性の高い教師データを照らし合わせることは重要ですが、最終的には広告を配信した結果をしっかりと見ていくことが大切です。
中村:何度か試行錯誤を繰り返してようやく良いデータがクライアントごとに明確になっていくということですね。では、広告のクリック率やクリックから実際に購入に至った割合など、どのような指標を計測されていますか?
赤津:クライアントによりけりですが、クリック率は広告のクリエイティブ次第でかなり影響が出やすいので、評価が難しい指標です。また、実際に購入に至った割合といっても、オンライン上でそのまま購入するケースはもちろんありますが、オフラインで購入したケースは計測ができないので、それもまた難しい。
中嶋:うまくいっている事例としては、購入するまでのユーザー行動のステップをいくつかに分けていくことです。段階毎の見込み顧客を獲得しながら、次の分析のためのユーザークラスターを増やしに行くというケースが多いですね。
赤津:あとは、リフト値と言って、広告配信の前後で「ユーザーの興味がどれだけあがったか」というのを比較して数値化するケースもあります。
例えば、車メーカーさんの場合、そもそも車をウェブサイトで購入するというユーザーは少なく、オフラインで購入するケースがほとんどなので、指標としてサイトページのユーザー行動のみでは広告の評価が難しい。
その場合、Plan時の分析の時点で、クライアントサイトを訪れているユーザーの興味関心をカテゴリ別に分けて、その割合を数値化します。その後、車メーカーの場合は車に興味を持つユーザーが10%だった場合、広告配信後にその割合が15%になっているといった計測を行うのがリフト値を目標とした広告配信です。
(4)広告配信のPDCAを回すにはコミュニケーションが必須
中村:最初の分析でクラスタリングをする際に、仮説ありきでデータを掛け合わせてクラスター群を作っていくとなると、恣意的であまり意味のないクラスターを作ってしまう可能性もあるのではとも思ったのですが、実際にそのような失敗事例もあるのでしょうか。
中嶋:そこはストラテジストの裁量に寄ってしまうところもあります。だからこそ、仮説設定の部分には一番時間をかけてクライアントとコミュニケーションをとっていますね。
中村:クライアントの恣意的なクラスターができあがってしまうことも実際にあるのでしょうか。また、実際に配信してみて、良い結果が出なかった場合「分析が違うのではないか」「データに問題があったのではないか」といったケースもありそうだな、と。
中嶋:すでに持っていた仮説が強すぎて、実際に配信してみて「こんなはずではなかった」というケースもあります。
ただ、感情論になってしまわないように、基本的にはパフォーマンスを数値化することで定量的な評価をしています。
もちろん、データが良かった、悪かったという判断は定性的にならざるを得ないケースもあるので、再度仮説を設定して、次はこうしましょうの繰り返しです。
中村:クラスター群の評価についても、クライアントと密にコミュニケーションをとりながらPDCAを回すことが重要ということですね。
(5)今後への期待と新型コロナの影響
中村:今後こういったことができると面白そうだなと思っている事はありますか?
赤津:今は私たちが扱っているデータはオンラインの世界でのユーザーの行動データが中心で、ここにオフラインのユーザー行動が加わってくると、デジタルマーケティングがより面白いものになると考えています。
中嶋:今回、新型コロナの影響で人の行動がかなり変わりました。リアル店舗に比べてECでの購買が増えたり、オンラインでのコミュニケーションが活発化することで、デジタルマーケティングの視点では、オンラインでのユーザー行動がより蓄積される状況になっていると思います。
赤津:もちろん、マーケティングへの活用のみならず、クライアントのサービス・ソリューションのアップデートにもつなげることで、さらに生活者にとっても便利さや豊かさを生み出せると、より良いですよね。
(6)広告配信において、衛星データを使えるとしたら?
中村:最後に、広告配信における衛星データ活用についてディスカッションさせてください。何か、衛星データをこうやって使えるのでは?というアイデアはありますか?
赤津:そうですね、まず思いつくのは気象データかな。コンビニの発注や棚替え、飲料メーカさんなどは気象データを重要視していますよね。ただ、インターネット広告の中ではなかなか効果的に使われていない場合もあるようでして……。もっと細かく、リアルタイム性もあって、連携しやすい形で取れているとマーケティング活動にも使いやすくなるのかもしれません。
中村:たしかに、気象データも衛星データですね。今はひまわりの情報は2.5分おきに取得できているので、あらためて考えてみると様々な利用法が思い浮かぶかもしれません。例えば、雨のタイミングでは日焼け止めの広告は出さないとか、天気によってECサイトの掲出する商材を変えるなどはできそうですね。
中嶋:位置情報も衛星データですよね。そうすると、完全に思い付きなのですが、クライアントの最終的なKPIのその前のトリガーとなる傾向を見出せるかもしれないな、と思いました。
中村:具体的にはどういうことでしょうか。
中嶋:例えば、ランニングをして、美容室に行って、結婚式場を回って……と結婚関連の行動をしているとわかれば、結婚の予定がある人だとわかるなど・・、もちろん、個人情報の扱いには配慮しないといけませんが、ここまで明確に行動がわかってくると、ユーザーにとっても最適化した情報を届けることができますよね。
中村:明確になればなるほど、ユーザーにとっても相性の良い広告を出せるようになりますからね。位置情報はたしかに個人情報と密接に関わるので配慮する必要があると思いますが、地球観測衛星のデータの精度が上がり、Webの行動ログとの連携も進めば、近いことはできるかもしれません。
あらためて、デジタルマーケティングの今後について、まだまだできること・面白い活用例がどんどん出てきそうだなと感じました。今後の広告配信におけるデータ活用の未来を楽しみにしています! 本日はありがとうございました!
(7)妄想編集後記~もしも衛星データを広告配信に使うなら~
私たちが普段何気なく目にしているインターネット広告の裏側には、様々なデータを基にした配信ロジックがありました。そして、広告主は何度も繰り返して自社に最適なクラスター化と広告配信を探求しています。
では、そのロジックの中に衛星データが入り込む余地はあるのか!? 編集部でも考えてみました。
アイデア:商圏分析による商材とマッチしない地域と人への広告配信除外
クライアントがデータを活用した広告配信の目的は新規顧客の獲得にありますが、その言葉の裏は「いかに効率的に」「安く」という言葉もあります。
そこで、無料の衛星データをベースに、Webサイトを閲覧している時間と外部の位置情報から、広告配信するべきタイミングか否かを予測し、無駄な配信を減らすことに利用できるかもしれません。
たとえば、
A:車メーカーのクライアントが広告配信を行う場合、家にいるだろう時間帯に、車が必要だろう地域でWebサイトを閲覧している人であれば広告を掲出し、公共交通機関で生活が成り立つだろう地域であれば広告を掲出しない。
B:スポーツブランドのクライアントが広告配信を行う場合、朝5時に起きている、かつ、衛星データから見て、ちょうどよいランニングコースが割り出せる地域にお住いの方に、ランニングコースとセットで自社の商材を訴求。
など、時間帯とざっくりとした地理空間情報の掛け合わせによるユーザーの推定による広告配信はいかがでしょうか。
以上、宙畑編集部による衛星データを広告配信に使うなら………でした。今後、衛星データを使えることが前提になるということを妄想しすぎているかもしれませんが、ぜひ読者の皆さんも考えてみてください!