宇宙ビジネス企業39社のゆく年くる年、2020年を総まとめ&2021年へ!
国内宇宙ビジネス企業37社に2020年のトピックと所感を2021年の抱負と合わせてコメントをいただきました。2020年は日本の宇宙ビジネス企業にとってどのような年だったのでしょうか。
はじめに
2020年、ありがとうございました。そして2021年、あけましておめでとうございます。
『宙畑』では本年より「宇宙ビジネゆく年くる年」と題して、1年の振り返りと新年の抱負について、様々な宇宙ビジネス企業にアンケートをさせていただき、宇宙ビジネスの盛り上がりを読者の皆様と共有する記事を年末に実施してまいります!
今回は、以下3つの質問をお伺いさせていただきました。
Q1.2020年の貴社のトピックを教えてください
Q2.2020年は貴社にとってどのような年でしたか?
Q3.2021年の抱負、また、それ以降の目標を教えてください
本年のアンケートは宙畑がご連絡できた宇宙ビジネス企業の皆様に、アンケートの依頼をさせていただきました。今年呼ばれていないという企業の方で、来年以降ご協力いただける企業様がいらっしゃいましたら、ご連絡をいただけますと幸いです。
(1)回答いただいた企業紹介
第1回となる今回のアンケートでは、師走のお忙しい時期にも関わらず、総勢39の企業・法人に回答をいただきました。回答いただいた皆様には、改めて御礼申し上げます。
以下、今回アンケートに回答いただいた企業・法人を部門別に分けてまとめました。
(敬称略、五十音順)
■製造・インフラ部門
株式会社アクセルスペース、株式会社アストロスケール、株式会社天の技、株式会社インフォステラ、株式会社QPS研究所、さくらインターネット株式会社、スカイゲートテクノロジズ株式会社、株式会社SPACE WALKER、一般社団法人Space Port Japan、日本電気株式会社(NEC)、株式会社ワープスペース、匿名希望
■利用部門
株式会社ASTROFLASH、ウミトロン株式会社、株式会社ALE、京セラ株式会社、株式会社SIGNATE、株式会社Synspective、スカパーJSAT株式会社、株式会社スペースシフト、株式会社スペース・バジル、ソニー株式会社、株式会社星座、株式会社Solafune、株式会社DATAFLUCT、株式会社天地人、株式会社パスコ、一般財団法人リモート・センシング技術センター(RESTEC)
■探査部門
トヨタ自動車株式会社、株式会社OUTSENSE、株式会社TOWING、株式会社ダイモン
■その他部門
株式会社うちゅう、一般社団法人ABLab、オリガミ・イーティーエス合同会社、一般社団法人SPACETIDE、Space BD株式会社、パナソニック株式会社「有志団体 航空宇宙事業本部」、PwCコンサルティング合同会社
※部門をまたいで事業を展開している企業は、宙畑が主たる事業と判断した部門に掲載させていただいております。
まずは各社の回答を見たい!という方はこちらをご覧ください。
以下、それぞれの分野別にアンケートの内容と宙畑のコメントを紹介します。
(2)製造・インフラ部門企業の回答紹介
まず、最初にご紹介するのが製造・インフラ部門です。
製造・インフラ部門企業とは、宇宙ビジネスの中でも、衛星やロケット、地上インフラなどを製造していたり、宇宙ビジネスでサービス提供するためのインフラを提供している企業を指しています。
世界に目を向けてみると、2020年はSpaceXが歴史的な1ページを刻んだ年でした。
SpaceXの通算打上げ回数が100回を超え、2020年5月には2人の宇宙飛行士を乗せた有人宇宙船Crew Dragonのデモフライトに成功し、11月には日本人宇宙飛行士である野口聡一さんを乗せ、宇宙ステーションとの間を結ぶ往還輸送サービスの運用を開始させました。
また、ITジャイアントであるMicrosoft AzureがAzure Spaceと題し、地上局サービスや衛星ブロードバンド提供などへの参入を発表したことも大きな話題となりました。
世界では技術的にも大きく前進し、大手企業の参入もあった今年、日本の宇宙企業にとってはどんな一年だったのでしょうか。
今回アンケートに回答してくださったのは、以下の企業です。
・株式会社アクセルスペース
・株式会社アストロスケール
・株式会社天の技
・株式会社インフォステラ
・株式会社QPS研究所
・さくらインターネット株式会社
・スカイゲートテクノロジズ株式会社
・株式会社SPACE WALKER
・一般社団法人Space Port Japan
・日本電気株式会社(NEC)
・株式会社ワープスペース
・匿名希望
(敬称略、五十音順)
古参企業は新たなビジネス展開へ
回答して下さった企業の中で、NEC社は、古くから日本の宇宙開発に携わっている企業です。
NEC社は「ベトナム向け地球観測衛星「LOTUSat-1」」ををトピックに挙げられており、これまでの業務範囲の枠を越えて、新しいビジネスの獲得に動かれている様子がうかがえました。
衛星製造の実績を積み、打上げへの準備を整える
ベンチャー企業の皆様の回答を見ていくと、
・株式会社QPS研究所:小型SAR衛星1号機「イザナギ」の運用実績を積み、改良した2号機「イザナミ」の打ち上げがスペースX社のファルコン9に決定し、今年12月以降に打ち上げ予定。
・株式会社アクセルスペース:AxelGlobeのための衛星であるGRUS-1BCDE、計4機の製造に奮闘
・株式会社Synspective:株式会社Synspective:実証機「StriX-α」の打上げを目指し、4月にRocket Lab社と契約。12月15日に打上げ無事成功。
・株式会社アストロスケール:世界初デブリ除去実証実験衛星「ELSA-d」開発完了、2021年3月打ち上げ決定
など、各社が衛星製造を着実に進め、打上げの時期を公表されていました。衛星関連ビジネスは打上げてからが、サービスの本番です。今後各社が、いつから、どのようなサービス展開をしていくのか期待が高まります。
インフォステラが商用サービス展開へ、地上システム事業に新規参入も
地上局のシェアリングサービスを提供するインフォステラ社は、2020年について、「Early Phaseのスタートアップから商用サービスを提供する会社への変化の年」とされており、プロダクト開発のフェーズからビジネスの検証フェーズへ移行していることに言及されていました。
また、この地上局サービスの分野では2020年2月にもう1社「スカイゲートテクノロジズ株式会社」が創業。「シードラウンドのクローズができたこと、プロダクト開発に着手」し、「最初の売上がたった」と回答をいただいています。
衛星ベンチャーが増えていく中で、需要が増えることが見込まれる地上局サービス分野。世界でもAWSやMicrosoft Azureが参入をはじめた分野でもあり、日本の企業がどのようなポジションを取るのか、注目です。
資金調達が進む輸送サービス。スペースポートが日本にも
輸送サービスでは、SPACE WALKER社が2回の資金調達に成功(プレシードラウンド総額3.25億円、プレシードエクステンションラウンド総額1.4億)しました。
また、日本へのスペースポートの誘致を進める一般社団法人Space Port Japanは、4月に大分空港が、9月には下地島空港がスペースポート化計画を発表したとのことで、日本から宇宙への離発着ができる港ができる未来が近づいて来ましたね!
新型コロナウイルスの影響も、体制の強化・事業の推進を実施
全体を通して、新型コロナウイルスという未曾有の状況にも関わらず、製造・インフラ業の各社は、その業務内容からか、着実に体制の強化を進め、事業を推進されていた印象でした。
・株式会社QPS研究所:社員数が前年の約2倍
・株式会社インフォステラ:海外Executiveの採用
・株式会社Synspective:社員数も95人に増え、18カ国からなるグローバルなチームへ
・株式会社ワープスペース:要素技術それぞれの要求水準を、地上実証において証明。人員体制も2倍以上に拡大させる。
・株式会社天の枝:内製スタートラッカー(ASC)のフライトモデル設計・検証・製造と衛星データ活用方法のノウハウの確立
製造・インフラ部門、各社の回答全文紹介
以下、各社のコメントをすべて掲載したスライドになります。本文中ではすべて紹介できなかった熱量の高い回答をいただいておりますので、ぜひこちらもご覧ください。
(3)利用分野企業の回答紹介
次に紹介するのは宇宙ビジネスにおける「利用分野」です。利用分野企業とは、衛星データや位置情報データ、通信衛星を利用したサービスの運営企業を指します。また、人工流れ星のような宇宙空間を利用したサービスを展開する企業も含んでいます。
2020年の宇宙ビジネス業界にでは、通信衛星コンステレーション構築を進めていたOneWeb社の破産申請が衝撃的なニュースでした。一方で、同様のビジネスを進めるSpaceXは自社のロケットで着実にStarlink衛星を打ち上げ(2020年12月時点で累計で1,000機弱)、ベータ版の通信衛星サービスのテストを開始しています。
また、2020年最大の関心事であった新型コロナウイルスの影響で人の移動に制限がかけられたことで、地球観測衛星が取得する衛星データをはじめとしたリモートセンシングに、より注目が集まった年だったとも言えます。工場密集地帯の空気が綺麗になった、特定の観光地の車の数が減ったなどの衛星画像をご覧になった方も多いのではないでしょうか。
さらには、地球観測衛星製造&画像販売のベンチャー企業のリードランナーであるPlanet Labs社の衛星画像が国防省やインテリジェンス・コミュニティなどが利用する地理空間情報システムに追加されるなど、ベンチャー企業の提供する衛星画像のクオリティが政府の求めるレベルまで高まってきていることを象徴するニュースも増えてきました。
では、国内宇宙ビジネス企業にとって2020年はどのような年だったのか。アンケートの回答を見てみましょう。
今回アンケートに回答してくださったのは以下の企業です。
・株式会社ASTROFLASH
・ウミトロン株式会社
・株式会社ALE
・京セラ株式会社
・株式会社SIGNATE
・株式会社Synspective
・スカパーJSAT株式会社
・株式会社スペースシフト
・株式会社スペース・バジル
・ソニー株式会社
・株式会社星座
・株式会社Solafune
・株式会社DATAFLUCT
・株式会社天地人
・株式会社パスコ
・一般財団法人リモート・センシング技術センター(RESTEC)
衛星データ活用のハードルが下がり、利活用・コンペが拡がる
まず、衛星データ解析ソリューションを展開する企業のコメントをまとめると以下のようになります。
上記を見ていただくと分かる通り、衛星データを活用した民間企業主導のサービスが、実証や研究含め矢継ぎ早に発表された2020年だったように思います。ソリューションの内容を見ると一次産業における衛星データ活用が目立ちますが、その他業界への展開も少しずつ見られ、今後どのサービスがビジネスとして成長するのか、今後どのようなソリューションが生まれるのか楽しみになるコメントを多くいただきました。
また、SIGNATE社、Solafune社が主催するデータ分析コンペで衛星データが扱われる機会が増えるなど、これまでは大学機関や研究者といった限られた人が扱うものであった衛星データをより多くのデータサイエンティストが触れる機会も増えた1年となったのではないでしょうか。
2021年は衛星データ活用のハードルがより下がり、触れるデータサイエンティストも増えることで、先に紹介した衛星データ活用サービスの実用化や新規衛星データ活用ソリューション誕生の加速が期待されます。
宇宙空間を使う発想がより自由に
衛星データ利活用以外の観点では、人工流れ星の実現を進める株式会社ALE社が着々と開発を進めながらリブランディングを行い、大気データ取得活動や宇宙デブリ対策装置の開発を進めていること。また、スカパーJSAT株式会社も従来の「衛星通信」事業の枠を超え、宇宙デブリ除去事業でレーザーによるデブリ除去ということで世界初の取り組みとなる予定など、新しいチャレンジへの強い意気込みをコメントいただきました。
さらに、以下3社のように新しい宇宙の使い方が実現可能なアイデア・プロジェクトとして産まれていることを感じられる1年だったように思います。
株式会社ASTROFLASH:投資家・VCからの調達や公的な補助金の獲得、メーカーとの交渉など、これから本格化する初号機の開発に向けて最低限の目標はクリアできた
ソニー株式会社:宇宙感動体験事業を目指してSony Space Entertainment Projectを発足!東京大学、JAXAと共にソニーのカメラシステムを搭載した超小型人工衛星の開発に着手
株式会社スペース・バジル:新しい仕掛けを企画開発中です。これらが世の中に発表されれば、宇宙×マーケティング、宇宙×エンターテイメントが認知されるものと考えています
とても良い意味で、宇宙を使うことへのハードルが下がっていることに今後も斬新な宇宙空間利用サービスが産まれる期待が高まります。
以下、各社のコメントをすべて掲載したスライドになります。本文中ではすべて紹介できなかった熱量の高い回答をいただいておりますので、ぜひこちらもご覧ください。
利用部門、各社の回答全文紹介
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(4)探査分野企業の回答紹介
次に紹介するのが、宇宙ビジネスにおける「探査分野」です。
探査分野企業とは、月や火星といった地球以遠の天体(深宇宙)において、探査するローバー(車)を開発したり新しい衣食住の在り方を定義する事業に取り組んでいる企業を指します。
世界に目を向けると、2024年の有人月面着陸を目指しているNASAのプロジェクトであるアルテミス計画があります。アルテミス計画は、着陸だけを目的にしているわけではなく、人類が宇宙に滞在する上で必要な環境やシステムを整えることで火星探査のハードルを下げることも目的の一つに据えているのが特徴です。その他、SpaceXが開発中の新型宇宙船Starshipも飛行試験を着実にこなしています。
中国は、国際月面研究ステーション(LIRS)の構想を発表しており、月面探査機”嫦娥5号”は月面からのサンプルリターンに見事成功し、12月17日に無事に地球に帰還しました。月の試料を回収するサンプルリターンに成功したのは、1976年にソビエト連邦が打ち上げたルナ24号以来、44年ぶりの快挙です。また、火星探査機の”天間1号”の打ち上げにも成功しており、2021年の2月に火星に到着予定です。
それでは、日本の探査企業にとって2020年がどんな1年だったのか、アンケートの回答を見ながら振り返ってみたいと思います。
今回アンケートに回答してくださったのは以下の企業です。
・トヨタ自動車株式会社
・株式会社OUTSENSE
・株式会社TOWING
・株式会社ダイモン
月面探査を実行するローバー開発が着実に進行
日本を代表する企業、トヨタ社が本格的に宇宙ビジネスに参入。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同研究を進めている月面有人与圧ローバーの名称を”LUNAR CRUISER(ルナ・クルーザー)”と発表しました。世界の自動車トップメーカーが繰り出す月面車がどのようなものになるのか、今後の発表が期待されます。
月面探査車YAOKIを開発するダイモン社は、YAOKIのフライトモデルの仕様が確定し、2021年のAstroboticの月着陸船Peregrineに搭載に向けて最終局面に突入しています。成功すれば日本初となる月面探査となります。
NASAが進めるアルテミス計画にはJAXAも参画を発表しており、「月探査協力に関する文部科学省と米航空宇宙局の共同宣言(Joint Exploration Declaration of Intent ,略称JEDI)」には、先に紹介したJAXAとトヨタ社のLUNAR CRUISERの研究開発の実施も示されています。
トヨタ社の宇宙ビジネス参入をきっかけに、これまで宇宙とは関わりが無かった産業も含めて様々な企業がアルテミス計画に参加することが期待されます。
月面における衣食住の実現に向けて
OUTSENSE社は、大田区にオフィスを移転し町工場の技術者と「折り」技術の研究開発に注力しています。多くの企業と連携しながら、製品開発のノウハウ獲得や研究開発資金の創出を着実にこなしています。
また、TOWING社は、「食」の課題解決を目指す共創プログラムであるSPACE FOODSPHEREプログラムへの参画を発表しました。月面基地や火星基地の中で作物を栽培する「資源循環型栽培システム」の開発に着手しながら、地域農業発展のための栽培実験に取り組んでいます。
深宇宙における衣食住の事業を展開する企業は、月面での衣食住システム実現に必要な要素技術を定義しながら、それらの技術ノウハウを地球上で活用するビジネスモデルを構築しています。宇宙ビジネスの中でも、長期的な視点を持ちながら地上と宇宙の2つの軸で事業展開することが求められているのが、深宇宙での衣食住を手がける企業の特徴と言えるでしょう。
2021年秋に13年ぶりに日本人宇宙飛行士の募集が実施されます。新しく募集される宇宙飛行士は月面に着陸する可能性もあります。月面での有人探査に必要となる衣食住システムの実現に向けて一歩一歩課題を乗り越えていく動きが楽しみであり、今後この分野に参入する企業が増加することも期待されます。
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探査部門、各社の回答全文紹介
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(5)その他部門企業の回答
上記3分類には当たらない、もしくは3分野を通して広く関わっている企業をこちらでご紹介していければと思います。
今回アンケートに回答してくださったのは以下の企業です。
・株式会社うちゅう
・一般社団法人ABLab
・オリガミ・イーティーエス合同会社
・一般社団法人SPACETIDE
・Space BD株式会社
・パナソニック株式会社「有志団体 航空宇宙事業本部」
・PwCコンサルティング合同会社
宇宙ビジネスの範囲は多岐にわたる
以下、紹介する6企業はその活動範囲と内容が大きく異なります。
株式会社うちゅう社は宇宙で活躍できる人材を増やすための人材育成を行っている企業です。本年度は教育分野ということで、「コロナウイルス感染拡大によって対面での教育が縮小し」「今までオフラインで実施していた教室を全てオンラインに移行」されたとのことで、今後の展開についてもデジタル技術の活用を検討されているそうです。
一般社団法人ABLabは、約2年半前に設立された宇宙ビジネスのコミュニティです。設立3年以内に宇宙ベンチャーを1社以上輩出するという目標を掲げ活動を続け、2020年12月に見事コミュニティからSEESE株式会社を輩出し、目標を達成しています。コメントとして「会員同士が共鳴し合うように、多くの挑戦がありました。宇宙ビジネス分野において、勉強し知識を深めるだけではなく、協力しながら前のめりにアウトプットする文化がより色濃くなったと言えます。会員の成長を促す機能が強化された1年でした」といただいており、今後ABLabから多くの宇宙ビジネスベンチャーが生まれることが期待されます。
オリガミ・イーティーエス合同会社は、上記で紹介した天地人社、DATAFLUCT社と同様、JAXAの職員が出資し設立する、JAXAの知財やJAXAの業務で得た知見を利用した事業を展開するベンチャー企業です。オリガミ・イーティーエス社は日本の宇宙産業へ貢献するというミッションを掲げており、ベンチャー企業ながら幅広い事業展開をしています。2020年は構造解析ソフトウェアライセンス事業・コンサルティング事業に加えて、SARデータの解析・コンサル事業も開始し、JAXA探査ハブとの共同研究で大型アンテナや太陽電池パドルを月面ローバに適用するための、軽量で収納可能な膜展開構造物の開発という先進的な研究をスタートしたとのことです。
Space BD株式会社は、「宇宙商社」をキーワードに宇宙における事業開発のプロフェッショナルとして、 グローバルで加速する 「官」から「民」 への宇宙ビジネスの潮流の中で、衛星打上げサービスを始めとする多種多様な宇宙関連サービスを展開されています。2020年最大のトピックはJAXAより新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)1号機の「超小型衛星放出技術実証ミッション事業を受託」されたこと。同社はこれまでにもJAXAによる民間開放案件を3件受託しており、衛星打上げサービスのグローバル市場での同社のプレゼンスが高まっています。
PwCコンサルティング合同会社は、PwC Japanグループとして宇宙ビジネスチームを有しており、特に宇宙ビジネス領域では、衛星データ利活用とサイバーセキュリティ領域で活動されています。Covid-19(新型コロナウイルス)の感染拡大禍の影響として、「データ利用促進の動きが急速に広まり、衛星データの利活用に注目している企業も増えてきている印象を受けた」とのことです。
また、パナソニック株式会社では、社内で宇宙ビジネスの立ち上げを検討する有志団体が産まれています。2020年は様々なメディアにその活動が取り上げられ、メンバー数は300名を超えているとのことで、事業部としての立ち上がりに期待が高まります。このように大企業内での宇宙ビジネス事業部立ち上げの動きは徐々に生まれており、NTTコミュニケーションズでも新規事業創出社内コンテストで宇宙ビジネス進出の提案があり、期待が高まっているようです。
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その他部門、各社の回答全文紹介
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(6)2021年の各社の予測統計
今回のアンケートでは2021年の宇宙ビジネス予測についても選択式で各企業に回答をいただきました。
アンケート内容は「投資額」「市場規模」「新規参入企業数」について、2021年は増加予測か、減少予測かというもの。その結果をまとめたグラフが以下になります。
上記グラフをご覧いただくと分かる通り、「投資額」「市場規模」「新規参入企業数」はいずれも2020年より増加という予測が最も多く、それぞれ60%を超えていました。
なかでも「市場規模」「新規参入企業数」については、増加予測と回答した75%以上という結果となりました。市場規模については、国内でも早期黒字化を目指す、2021年は売上を作りに行くというコメントにもあったように国内宇宙ビジネスの市場規模拡大にも期待できます。新規参入企業数についても、2020年もトヨタ社やソニー社といった大企業が参入し、スカイゲートテクノロジーズ社や株式会社Solafuneといった新興ベンチャーが誕生しました。大企業の新規事業部として宇宙ビジネスを検討しているという声も増えてきており、2021年の新規参入企業にも注目が集まりそうです。
一方で、投資額については約15の企業が減少予測と回答しています。定期的に宇宙ビジネス業界の動向をレポートするBryce Space and Technologyの「Start-Up Space Update on Investment in Commercial Space Ventures」によれば、宇宙ビジネス業界全体の投資額は大きく伸びているものの、SpaceX、OneWeb、Blue Origin、Virgin Galacticの投資額を抜くと2019年よりも2018年の方が投資額が多かったとのこと。
つまり、宇宙ビジネス業界は新規参入企業が増加する中で収斂も同時に起こっているとも言えます。実際に、SpaceXは快進撃を続け、2021年も大型投資を予定しているとのニュースがある一方で、2020年はOneweb社やIntelsat社の破産申請もありました。
SpaceXが設立した2000年代前半はITの進化が後押しし、第2次宇宙ベンチャーブームとも言われた時代で、この頃にVirgin Galacticも設立されています。今後投資額が増えるか否かは、SpaceXと同時期に登場した宇宙ビジネス企業、そして、次の宇宙ベンチャーブームである2010年前後に誕生した宇宙ビジネス企業の事業がどれだけビジネスとして成功している状態を作り出せるかにかかっています。
例えば、小型ロケット市場ではRocket Lab社が成功実績を着実に積み上げるなか、日本ではインターステラテクノロジズ社やSPACE WALKER社がロケット開発、打ち上げを進めています。
また、人工衛星の製造と画像提供については、Planet Labs社が衛星データ市場をリードする中で、国内でも2020年はアクセルスペース社が自社の衛星データ販売とソリューション事業による黒字化に向けて設備投資を行い、Synspective社とQPS研究所社も衛星開発と打ち上げに成功しており、今後国内宇宙ビジネス企業の成功事例が出てくることが期待されます。
さらには2020年にはスペース・バジル社やソニー社の参入など、宇宙を利用するという発想がより自由になった1年でもあったように思います。新しい宇宙ビジネスの可能性という点でも今後目が離せません。
また2021年が終わるタイミングで実際に投資が活性化していたのか、それとも逆の結果になったのかは宙畑として注目し、来年も記事としてお届けしたいと思います。
(7)まとめ
黎明期のNEW SPACEが築いた道が新規参入宇宙ベンチャーの事業スピードアップに繋がっている
今回のアンケートを通して全体の印象として感じたのは、新たに参入・創業された企業のビジネスの立ち上がりが非常に早いという点です。
2019、2020年に創業された企業が、すでに資金調達をし、サービスを開始・売上げを立てられており、「宇宙ビジネスは時間がかかる」とよく言われますが、5年前と比べると大きく様相が変わっていると実感します。
これは、それぞれの企業の方々のお力はもちろんのこと、これまで10年近く日本の宇宙ベンチャーとして業界を切り開いて来られた方々のご尽力(一般の認知の高まり、投資家の方々の宇宙ビジネスへの理解、政府施策への入れ込みなど)が大きいのではないかと推察します。
ようやく宇宙ビジネススタートアップの素地が揃ったとも言え、2021年どんな新しいビジネスが生まれてくるのか楽しみです。
政府機関・JAXAがこれまでに蒔いた種が一気に芽吹いた2020年
さらに、全体を通して見えてくるのは政府系の支援です。
31社のうち、6社がJAXAとの連携を、1社がS-Boosterを、1社が令和2年度 オープン&フリー衛星データ実証事業をトピックや振り返りの中で挙げていました。
特に、JAXAの名前を挙げた企業は、TOYOTA社やソニー社など日本を代表する企業。これまで宇宙とは関係が無かった企業が、宇宙ビジネスへ参入することで、宇宙ビジネスのさらなる加速が期待されます。
今回のアンケート結果は、宇宙ビジネスへの新規企業の呼び込みに政府の施策の効果が一定あったと言えると見られ、今後も継続した支援が望まれます。
NEW SPACEと古参企業の融合はあるか
逆に今回のアンケートからはあまり見えてこなかったのは、日本の宇宙ビジネス企業同士の連携です。特に、NEW SPACEと呼ばれる宇宙ベンチャーと、古くから日本の宇宙開発に携わる企業の連携については、各社言及はありませんでした。
例えば海外では、衛星ベンチャーにおける衛星開発の初期フェーズが終了し、コンステレーション構築のための量産体制を作っていく中で、古参企業の製造能力を利用し協力体制を作っているところもあります。
日本の宇宙ベンチャーも実用化フェーズに入りつつある中、さらなる飛躍のために、新たな協力体制が構築できると良いかもしれません。
以上、宇宙ビジネス企業ゆく年くる年2020~2021でした。2021年も宙畑は宇宙ビジネスを盛り上げるため、よりよい記事を更新していきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。