宙畑 Sorabatake

ビジネス事例

「ドローンにこだわっていたらAI米粒等級判定サービスは生まれなかった」スカイマティクス社に聞いた、リモートセンシングの今とこれから

ドローン画像と衛星画像って何が違うの? リモートセンシング技術の未来はどうなる? という疑問について、リモートセンシングビジネス最前線で活躍するスカイマティクス社のおふたりにうかがいました。

本記事はあらゆる産業課題を空から解決する企業として画像解析技術とGIS技術を強みとする、フォーブスジャパン2021年1月号にて日本のスタートアップ大図鑑にも掲載されている株式会社スカイマティクスのインタビュー記事後編です。※前編はこちら

・ドローン画像と衛星画像って何が違うの?
・リモートセンシング技術の未来とビジネスの展望について

調べれば情報は出てくるけれど、ビジネス上の実務として実際みんなどうしてるの?という疑問ってたくさんありますよね。宙畑としては上のような質問がそれにあたります。衛星データ解析を行っているけれど、実際にビジネスに取り入れるにはどのようなハードルがあるのでしょうか。

そんな疑問に答えてくれたのが自社の画像処理技術xリモートセンシング技術で様々な産業課題を解決するスカイマティクス社のCEO渡邉様とCTO倉本様。

元宇宙産業出身者であり、現経営者・技術者としての率直なお言葉は、リモートセンシングのこれからを考えるにあたっての金言ばかりでした。

後編のポイントは「衛星データとドローンの違いが生むユーザーと利用目的の齟齬」「変化が求められる衛星データの価格と小型衛星の勝機」「スカイマティクス社CEO渡邉さんの取材最後のお言葉」です。

これからのドローン、地球観測衛星リモートセンシングへの期待

宙畑「いろは」でも利用しているドローンについて、画像処理技術といったソフト面、ドローンの機体そのものといったハード面について、今後の技術動向に期待していることがあれば教えてください

今後のドローンに期待する3つのポイント

渡邉私たちは、ソフト面、つまりは画像処理技術とGISの技術に関しては高いレベルのものを持っていると自負しているので、期待しているのはドローンのハード面の進化です。

ひとつは、ドローンのデータ伝送の自動化です。現状では、ドローンに搭載したSDカードに撮影画像が保存され、ユーザーさんはそれらの画像データを一旦取り出したのちに私たちのサイトにアップロードするひと手間があります。ドローンの撮影データがそのまま私たちのクラウドサービスに自動転送されるような仕組みになると、ユーザーさんの使い勝手が更に向上すると考えています。

また、ドローンの事故をなるべく減らす技術的な工夫や、環境を問わず長時間かつ長距離飛行が安定的に可能なドローンの登場にも期待しています。

今後のドローンに期待する3つのポイント
①データ伝送の自動化
②事故を減らす技術的な進化
③長時間かつ長距離飛行が可能なドローンの登場

今後の地球観測衛星に期待する3つのポイント

宙畑それでは、衛星データについてはいかがですか?

渡邉まず、衛星の素晴らしい部分は広域性や網羅性ですよね。この特徴をより活かしていくために、「本当の意味で撮像したいときに撮像できない」「撮像後に画像を手にするまでに時間がかかる」という課題を解決することが重要だと考えています。

データは鮮度が大事だと我々は考えているので、ユーザーにデータを提供するまでのプロセスで技術開発が進むことに期待しています。

宙畑その点、スカイマティクス社のサービスでは、ドローンが撮影した画像をサービスにアップロードしたら、最短10秒で解析結果を確認できるというのは驚くべきスピードですね。

渡邉他には、なかなか難しいところがあるんですけれど、高解像度の画像がより気軽に手に入ると良いなと思います。

今、私たちが扱っているドローンの解像度は0.1cm~1cm程度である一方で、商用で購入できるもっとも解像度の良い衛星WorldView-3の解像度は31cmと、30~300倍もの差があります。このレゾリューションギャップ(解像度の乖離)が埋まってくると、ドローンと衛星を組み合わせたサービス展開も考えやすくなるなと。

気軽にという点は、衛星画像の購入価格なのですが、私が衛星画像販売をやっていた2014年ごろから超高解像度衛星画像の価格帯はあまり変わっていない印象です。やはり技術の進歩とともに価格はどんどん安くなるというような世界であってほしいと思うのですが、高性能な人工衛星って数百億円をかけて造られるものだから、いきなり価格を下げるなんてできないというところが難しいですよね。

宙畑「情報の鮮度」だけでなく、「レゾリューションギャップ」「価格」の2点についても衛星データの利活用が拡がるうえでより重要なポイントになるということですね。

今後の地球観測衛星に期待する3つのポイント
①情報をよりタイムリーに
②解像度の向上
③低価格化

宙畑また、お話の中でドローンと衛星を組み合わせたサービス展開という言葉が出てきました。「レゾリューションギャップ」と「価格」のそれぞれについて、どのように衛星データが進化すれば理想の世界になるのか、詳細にお伺いしたいと思います。

「解像度」と「価格」から探る衛星データとドローンの連携の可能性

衛星データの解像度が10cm程度になると良い!? その意図とは

宙畑まずはレゾリューションギャップについてお伺いします。衛星の解像度が31cmから具体的にどの程度まで向上すると、ドローンと地球観測衛星の連携サービスが拡がりそうでしょうか?

倉本光学画像同士での連携サービスなら、現在100倍の差が、10倍程度になると共創の未来がより近づくと思います。

宙畑10倍というと1cm~10cm程度でしょうか。

渡邉例えば、解像度0.1cmのドローン画像では、田んぼの中の雑草を発見したり、キャベツであれば、結球一つひとつが判別でき、L玉・M玉・S玉が分類が可能だったりします。

渡邉ご覧いただくと一目瞭然だと思いますが、一度0.1cmの画像を見てしまうと、衛星画像よりもドローンの画像を使いたいとなりますよね。

宙畑ドローンの画像、すごく綺麗ですね。これだけ見えると、人が地上を歩いて回るよりも、ドローンで探した方が雑草を見つけやすそうです。

衛星データの場合は、ここまで細かい雑草の検出まではできないですね。

倉本そうです。つまり、レゾリューションギャップが大きいと、見るべき情報や見る目的が変えなければならないということです。

解像度が10倍程度落ちた場合、「雑草がここにあるね」とか「葉っぱの中に病変があるね」といったことはわからないにせよ、稲の株1個1個は見えているので、稲の物理量は見ることができます。

ただ、解像度が100倍以上になってしまうと、土壌と稲の情報を分離することが難しくなり、「これそもそも何を見ているんだっけ」となってしまいます。

渡邉つまり、情報を利用するユーザーが変わるということです。解像度50cmの画像も、農場を大まかに管理したいJA(農業協同組合)の方々の業務には役立ちますよね。しかし、農家さんが自分の農作業のために使うには、解像度としては不十分なのです。

業界は同じでもユーザーが異なると、そもそもサービスを融合するということが難しくなります。逆に同じユーザーが、ドローンのデータと衛星のデータを目的に応じて最適に使い分ける未来が来ると、レゾリューションギャップやセンサータイプの違いがあっても衛星とドローンを組み合わせたサービスが生まれるのではないでしょうか。

衛星データの「価格」が下がる鍵と小型衛星の強み

宙畑次は価格について教えてください。衛星画像の販売業務をされていた渡邉様は、衛星画像の価格が下がるにはどのような変化が必要だと思われますか?

渡邉:衛星の用途は全方位的ですよね。この業界でも使える・あの業界でも使えると。

宙畑農業専用の衛星”Farm-Sat”的なものを打ち上げてみるとか?

渡邉:そうそう、用途を絞った尖った衛星を打ち上げてもいいのではと感じます。

宙畑最近はどの国のどの市場まで狙うということまで見据えたベンチャー企業も現れているので、今後、価格設定も注目していきたいと思います。

倉本あとは、バス(人工衛星としての基本機能に必要な機器の組み合わせ)はどんどん安くなっているし、ロケットも今安いのを作ろうとしていますよね。他にも地上システムにかかる費用など、そういったものが全部安くならないと、なかなか衛星画像の価格は安くならないと思うので、その点も期待しています。

渡邉:それから、小型衛星は安いけれど寿命が短いとネガティブに捉えられることも多いと思いますが、私はメリットだと思っています。

寿命が短いということは、打ち上げる度にその時点の最先端の電子部品を使えるわけです。そうするとテクノロジーが陳腐化せずに周りの進化をすぐに取り入れることができます。

私たちがソフトだけをやっているのも、これが理由でして、ドローンも進化のスピードが尋常でないほどに早いのです。したがって、もし固定の種類のドローンに依存したサービスを開発していると、一瞬で技術が陳腐化してしまうのです。

倉本それこそドローンで言うと、2019年にコンシューマー向けで1番解像度の良かったドローンって20メガピクセルのものだったんですけど、2020年に出たやつだと、もう48メガピクセルになっているんですよ。

宙畑倍以上ですか…! それはすごい進化ですね。

衛星の利用目的を尖らせるという意味でも、小型衛星のメリットは大きいですよね。宙畑も今後の技術動向は引き続き注目したいと思います。

スカイマティクスが目指すリモートセンシングの未来

宙畑最後に、スカイマティクスが描くリモートセンシングの未来、そして新しい技術を社会実装させるために必要だと感じていることを教えてください。

渡邉今回ドローンや衛星データについてお話させていただきましたが、私たちはドローンの会社でも人工衛星の会社でもなく、画像解析処理プラットフォームの会社です。ドローンの画像をサービスでよく利用していますが、実は、ドローン業界出身者は一人もいません。

だからこそ私たちはデバイスにこだわりがなく、ドローンを用いる「いろは」やスマホのカメラを用いる「らいす」といったサービスを生み出すことができたと思っています。もし私たちがドローンにこだわりのある会社だったら、らいすの着想の際に「いや、ドローンでお米の等級は分からないですね」と言って終わっていたでしょう。

宙畑サービス検討のきっかけが、「ドローンを使おう」「衛星データを使おう」と手段を起点に考えてしまうと、顧客が欲している本当のサービスを考えることは難しくなるよということですね。

渡邉実際、私と倉本はスカイマティクスを創業してから「ドローンを使って何ができるか」なんて考えてサービスを作ったことは一度もありません。そして、データさえ出せば誰かが使ってくれるだろうなんて考えてサービスをリリースしたこともありません。

自分たちのテクノロジーに課題を無理やり合わせるのではない。お客さんの課題はお客さんの課題としてそのまま真摯に聞いて、その課題を解決するための技術は本当に何が最適なのかを真摯に考えないと、お客さんにサービスとして使ってもらえるプロダクトってやっぱり実現できないんです。私たちはこの思考にかなり腐心をしているし、そこには徹底的にこだわってやっている自負があるからこそ、今のスカイマティクスがあります。

あと、これだけはどうしても言っておきたいことがあるのですが。

宙畑はい!

渡邉私と倉本も、宇宙業界出身で宇宙産業が大好きなので、何かの形で衛星と接点を持って共創していきたいと強く思っています。

私たちの「いろは」はこれからどんどん普及していきます。普及していく中で多くの農家さんが使い始めて、自治体の方が「これ衛星データも入れたら、全部町ごと見れますかね」といった意見を頂ければ、すぐに衛星データも入れたリモートセンシングサービスに繋がるかなと。

だからこそ僕と倉本は、宇宙側から入るのではなく、農家さんとの接点を増やし、そこから町全体に広がっていくことによって、衛星の活躍の場が出てくるといった道を選択しました。こういう世界を実現すると、宇宙業界出身ではあるものの、画像処理解析のプラットフォーム側からスタートした私と倉本の二人の意味が出てくると思っています。

宙畑今日はとても勉強になり、反省する点も多くあり、励みになるお言葉たくさんいただけました。取材の時間をいただきありがとうございました!

まとめ

宇宙業界出身のお二人が立ち上げた、画像解析処理プラットフォーム企業スカイマティクス。
泥臭い作業も厭わずに顧客の課題に寄り添いながら、リモートセンシングという技術の社会実装に挑む姿勢は、衛星データ利活用はもちろん、技術で世界を変えようと考えているすべてのビジネスパーソンの参考になるのではないでしょうか。

宇宙業界出身のお二人が描くリモートセンシングの社会実装からは目が離せません。

スカイマティクスの渡邉様、倉本様、ありがとうございました!