宙畑 Sorabatake

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月周回有人拠点ゲートウェイに関する覚書に署名。アルテミス計画実現へ前進【週刊宇宙ビジネスニュース 2021/1/11〜1/17】

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日本・NASAの間でゲートウェイMOUを締結

1月13日、日本政府と米国・NASAの間で、月の周回軌道上に構築される宇宙ステーション「月軌道ゲートウェイ」に関する覚書(以下、ゲートウェイMOU)を交わしたことを外務省が発表しました。このゲートウェイMOUは、2020年12月31日より効力を生じているとのことです。

ゲートウェイは、アルテミス計画の中核を担う存在で、月面や火星への中継基地としての利用が期待されています。2028年の完成を目指しており、2023年に最初のコンポーネントとなる有人モジュール (Habitation and Logistics Outpost , 通称HALO)と電力と推進を提供する装置(Power and Propulsion Element, 通称PPE)、次いで初期の居住モジュールが打ち上げられる予定です。

ゲートウェイのイメージと各国の担当モジュール Credit : NASA

ゲートウェイに関しては、2017年9月にロスコスモスがNASAと共同声明を発表し、2020年10月にヨーロッパ宇宙機関、12月にカナダ宇宙庁がNASAと覚書を締結しました。

日本は、2019年10月にアルテミス計画への参加を表明。その後、2020年7月に文部科学省とNASAが月探査に関する共同宣言(JEDI)を発表し、ゲートウェイの居住モジュールの建設や物資補給などの日本の協力内容や日本人宇宙飛行士の活躍の機会が確認されました。

さらに、9月には、各宇宙機関による民生宇宙探査および利用の諸原則について取りまとめたアルテミス合意(Artemis Accords)に、米国、日本、カナダ、英国、イタリア、ルクセンブルク、オーストラリア、UAEが署名しています。

今回発表されたゲートウェイMOUは、ゲートウェイの詳細設計、開発、運用および利用に関する責任を定め、JEDIで確認されたゲートウェイにおける政府間の法的枠組みが整備されたものです。日本のアルテミス計画への参画が、また一歩前進したと言えるでしょう。

JAXA理事長の山川 宏氏 Credit : 日米宇宙航空協力セミナー2021より

1月15日に開催された「日米宇宙航空協力セミナー2021」で、JAXA理事長の山川 宏氏は「JAXAとしては、政府方針に則り、米国をはじめとする国際パートナーとの一層の連携の下、火星を視野に月での持続的な活動を目指すアルテミス計画に参画し、国際宇宙探査の推進に、引き続き尽力して参りたいと考えています」と語りました。

また、2021年前半には、中国が独自の宇宙ステーション構築を開始する予定です。米国は、宇宙開発の勢いをあげる中国を敵対視しており、中国の動向がアルテミス計画のスケジュール等に影響する可能性もあるのではないかと考えられます。

SLSロケット エンジン地上試験、燃焼時間が足りず原因究明へ

1月16日、NASAはSpace Launch System(通称SLSロケット)のコアステージの地上試験「グリーン・ラン」の最終段階にあたる「ホット・ファイア試験」を実施しましたが、条件をクリアできなかったことが報道されました。

SLSロケットは、SaturnVに次ぐ、世界最大級のロケットです。アルテミス計画では、宇宙飛行士が搭乗するオリオン宇宙船を打ち上げる役割を担っています。

グリーランテストの実施状況 Credit : Credit NASA/Kevin O’Brien

今回実施されたホット・ファイア試験は、コアステージに4機搭載されたRS-25エンジンを点火し、実際の打ち上げで必要な8分間の燃焼が可能かどうか試験するものでした。しかしながら、エンジンはわずか1分強でシャットダウンしたということです。

NASAは原因の特定にあたっているとのことですが、無人飛行試験「アルテミス1」の実施スケジュールにどのような影響があるのかは不明です。

世界最大級の見本市「CES2021」に宇宙関連企業が出展

毎年ラスベガスで開催される世界最大級の家電・テクノロジーの見本市CES。今年はコロナウイルス感染症(Covid-19)のパンデミックを受け、完全オンラインで、1月11日から14日にかけて開催されました。37カ国から700社のスタートアップ企業を含む、約2,000社が出展したと言います。

今年度のメインテーマは、リモートワークやヘルスケア、エンターテインメント、モビリティなどでしたが、航空宇宙についてのセッションも用意され、注目を集めました。

Research and Technology Development in Space

1月14日(日本時間)には、「Research and Technology Development in Space」と題し、宇宙に関連する研究開発活動や各社、組織の取り組みが紹介されました。

モデレーターを務めたのは、CNNでイノベーション・宇宙分野を担当しているリポーターのレイチェル・クレーン(Rachel Crane)氏です。クレーン氏は、SpaceXのイーロン・マスク氏やAmazonのジェフ・ベゾス氏にインタビューをした経験があり、NewSpace Journalism賞の受賞者でもあります。

登壇者として迎えられたのは、Lockheed Martin(ロッキード・マーティン)のシステムエンジニアであるキャット・コデール(Kat Coderre)氏、微小重力下での研究開発を行うベンチャー企業SpaceTango(スペース・タンゴ)のジャナ・スタウドマイアー(Jana Stoudemire)氏、NASAの宇宙飛行士であるセレーナ・オーノン・チャンセラー(Serena Aunon-Chancellor)氏の3名です。

左から、CNN レイチェル・クレーン氏、Lockheed Martin キャット・コデール氏、SpaceTango ジャナ・スタウドマイアー氏 Credit : CES

コデール氏は、ロッキード・マーティンで主任研究員として、宇宙飛行士用の放射線防護ベストの開発に携わっています。この防護ベストは、ロッキード・マーティンとイスラエルのスタートアップ企業・ステムラド(StemRad)によって共同で開発されており、宇宙飛行士が長期間宇宙に滞在する際に懸念される放射線被曝から身体を守り、ガンの発生リスクを低減させる効果があります。

さらに、地上においても、放射線治療を受けている患者や被曝のリスクがある作業員の防護服としての利用も期待されていると言います。

コデール氏は、大手企業だけではなく、スタートアップ企業や中小企業ともコラボレーションをしながら宇宙開発に携われることや、宇宙で利用するために開発した製品の技術が地上にも活かされるのは素晴らしいことだと語りました。

左から、CNN レイチェル・クレーン氏、NASA セレーナ・オーノン・チャンセラー氏 Credit : CES

同セッションは登壇者が全員女性だということもあり、最後はジェンダーや民族に対しての意識の移り変わりに話題が及びました。オーノン・チャンセラー氏は、女性の宇宙飛行士が増えてきていることが象徴的に感じたと語りました。

オンライン展示会に宇宙企業が出展

オンライン展示会は、各社がCES2021のサイト上で製品発表会の動画配信や資料配布する形で行われました。

宇宙分野でも複数の企業が出展しており、Sierra Nevada Corporation(シエラネヴァダコーポレーション)は開発中の宇宙船「Dream Chaser」を、オランダ発の衛星データ企業であるHiber(ハイバー)はオイルやガスのモニタリングサービス「Hiberhilo」を展示しました。

Hiberhiloのダッシュボード Credit : Hiber

オンライン展示会が主流となり、スタートアップ企業であっても展示会に出展しやすくなる一方で、製品やサービスの価値を訴求するコンテンツ作りが課題になるのではないかと考えられます。

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参考

民生用月周回有人拠点のための協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国航空宇宙局(NASA)との間の了解覚書の発効

NASA, Government of Japan Formalize Gateway Partnership for Artemis Program

NASA Conducts Test of SLS Rocket Core Stage for Artemis I Moon Mission

CES 2021 Makes History as Largest Digital Tech Industry Event