宙畑 Sorabatake

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Virgin Orbitが軌道投入に成功し、加速する輸送プレイヤーの競争【週刊宇宙ビジネスニュース 2021/01/18〜01/24】

一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを厳選してお届けする連載「週刊宇宙ビジネスニュース」は毎週月曜日更新!

Virgin Orbitが軌道投入に成功

空中発射ロケット開発に取り組んでいるVirgin Orbitが1月17日に2回目の試験飛行に挑み、見事上空100kmの宇宙空間に到達し、搭載していたNASAの超小型衛星の軌道投入にも成功しました。今回の成功で、Virgin Orbitは液体燃料ロケットで宇宙空間に到達した6社目のベンチャー企業となりました。今回の試験飛行の様子については、以下の動画をご覧下さい。

Virgin Orbitの衛星打上げシステムは、従来の地上の射場からではなく、自社保有するボーイング747の翼から小型ロケットを発射する「エア・ローンチ」と呼ばれるシステムを採用しています。エアローンチのメリットは大きく二つあります。

射場インフラの簡素化

ロケット企業にとって、ロケットを打ち上げる射場は重要なインフラです。通常の打ち上げシステムの場合、射場の整備や維持に一定のコストがかかってしまいます。しかしエア・ローンチの場合は、一般的な旅客機が離陸可能な滑走路やロケットの整備施設があれば良いので、従来の打ち上げシステムと比較して射場への負荷が小さくコスト削減に繋がります。 

また、Virgin Orbitは2019年6月にANAホールディングスと日本・アジア展開に関する契約を結んでいます。そして、2020年4月には大分県と人工衛星の打上げに関するパートナーシップ締結を発表しています。今後大分空港を民間宇宙港として活用し、最速で2022年の小型衛星打上げを目指しています。このように、複数の地域からの打ち上げが可能なのがエア・ローンチの強みです。

詳細はこちらの記事をご覧下さい。(大分県、Virgin Orbitと提携しアジア初の宇宙港へ【週刊宇宙ビジネスニュース 3/30〜4/5】

打ち上げ時の天候に対する制約条件が緩やか

ロケットを打ち上げる際、安全確認や天候など、様々な打ち上げ制約条件があります。SpaceXインターステラテクノロジズの打ち上げでも、天候不良による延期や安全区域への船舶の侵入による延期などは度々発生しています。

上空10kmからの打ち上げであるエア・ローンチの場合、一般的な旅客機が離陸できる気候条件さえクリアすれば打ち上げが可能です。今後小型衛星打ち上げの需要が更に高まる中、一般的な打ち上げシステムと比較すると打ち上げ延期の可能性が低いのは、エア・ローンチの強みです。

Mojave宇宙港で燃料補給するCosmic GirlとLauncherOne Credit : Virgin Orbit

Virgin Orbitがボーイング747を改良した小型ロケット運搬機”Cosmic Girl”は、小型人工衛星を搭載した液体式2段小型ロケット”LauncherOne”を取り付けたままカリフォルニア州のMojave宇宙港を1月17日午後1時38分に離陸しました。Cosmic Girlは南カリフォルニア沖の太平洋上まで飛行し、同日午後2時39分頃にLauncherOneを分離しました。その後LauncherOneは、第1段エンジンのNewtonThreeエンジンを約3分燃焼、第一段分離後に第2段エンジンのNewtonFourを約6分燃焼し、高度約500kmの地球低軌道にペイロードを軌道投入しました。

今回の打ち上げ成功にあたり、同社CEOのDan Hart氏が以下のコメントを出しています

A new gateway to space has just sprung open! That LauncherOne was able to successfully reach orbit today is a testament to this team’s talent, precision, drive, and ingenuity. That effort paid off today with a beautifully executed mission, and we couldn’t be happier.
(訳:宇宙への新たな扉が開かれました!今日、LauncherOneが無事に軌道投入を成功できたのは、このチームの才能・緻密さ・チャレンジ精神の賜物です。この努力が今日のミッションで報われ、これ以上の喜びはありません。)

Virgin Orbitは、次の目標である商業打ち上げの日程は明かしていません。しかし、米国宇宙軍や英国王立空軍といった軍事組織や、Swarm TechnologiesGomSpaceといった民間企業から既に打ち上げ契約を受注しているとのことです。

民間事業者による人工衛星の軌道打ち上げに成功しているのは、スタートアップ企業としてはSpaceXRocket LabiSpaceGalactic Energyの4社です。
次は、Virgin Orbitの商業打ち上げ成功に注目です。

iSpaceが一般株式市場への上場を検討中か

中国のロケットベンチャー企業であるiSpace(北京星际荣耀空间科技股份有限公司)は、上海株式市場が運営する証券市場であるStar Market(Science and technology innovation board)に新規株式公開を申請する予定であると明かしました。Star Marketは、CITIC SecuritiesとTianfeng SecuritiesをiSpaceのアドバイザリー会社として指名しています。

Star Marketは、2019年7月に新設された、いわゆるNASDAQ型の中国の新しい証券取引所です。Star Marketは、IT・先端機器・素材・エネルギー・バイオなどのハイテク分野の企業に焦点を当て、中国の科学技術イノベーションを支援するために設立されました。

AlibabaやTencent、Xiaomiといった中国企業による大型IPO(新規株式公開)はニューヨーク証券取引所や香港の市場で実施されており、Star Marketは中国国内での株式上場を促進する可能性があるとして期待されています。

iSpaceは、固体ロケットのHyperbola-1で、2019年7月に中国の民間企業として初めて人工衛星の軌道投入に成功しています。
詳細はこちら(中国・iSpace社 同国初の民間衛星打ち上げに成功【週刊宇宙ビジネスニュース 7/22〜7/28】

同社は2020年、シリーズBの資金調達で1億7300万ドル(約179億円)を獲得すると同時に、液体燃料ロケットHyperbola-2の開発に着手しました。メタンを燃料とするHyperbola-2は、再利用可能ロケットとなる予定で、1,100kg以上のペイロードを高度500kmの太陽同期軌道に投入する能力を有しています。

長い間、中国国内の民間企業の宇宙産業進出は禁止されていましたが、2015年の政策転換により、民間企業にもロケットの開発が許可されました。現在iSpace以外にも、ロケット開発や衛星開発に取り組むスタートアップ企業がどんどん増えています。
詳細はこちら(宇宙強国なるか?中国の宇宙開発の今~ロケット、衛星、探査計画、予算~

宇宙強国である中国の民間企業の動向にも注目です。

Hyperbola-2に搭載する新型エンジンJD-1の燃焼試験の様子 Credit : iSpace

Redwireが6社目となる買収を発表

昨年以降、軌道上サービスに関する企業の買収を続けているRedwireが、Oakman Aerospace, Inc. (OAI)を買収したことを発表しました。買収に関する取引条件は公開されていません。Redwireの買収企業としては6社目となるOAIは、2012年7月に設立された、デジタルエンジニアリングサービスや宇宙船の設計開発支援サービスなどを手がける宇宙企業です。

Redwireの会長兼CEOのPeter Cannito氏は、今回の買収に関して以下のコメントを出しています。

Oakman Aerospace adds a critical capability in digital engineering that will significantly enhance our space infrastructure solutions. Their modular open systems architecture design and development approach and proprietary commercial off-the-shelf software suite is transforming the way future space capabilities are designed, developed, deployed and operated.
(訳:Oakman Aerospacが有するデジタルエンジニアリングの技術を我々が獲得することで、当社の宇宙インフラソリューションが大幅に強化されます。彼らのモジュラー(組み合わせ)アーキテクチャの設計や開発アプローチ、独自の宇宙用ソフトウェアは、将来の宇宙開発の設計プロセスを変革していくと期待しています。)

今回の買収で6社目となるRedwire。過去に買収した企業は以下の通りです。()内は主な事業ドメインです。

  1. Adcole Space(小型衛星や宇宙機のコンポーネント)
    Deep Space Systems(宇宙探査機の設計や製造、運用など)
    Made In Space(宇宙空間で使用可能な3Dプリンター開発)
    Roccor(太陽光パネルなどの宇宙空間での展開物の開発)
    LoadPath(ペイロードアダプターや宇宙空間で展開可能な構造物の開発)

買収した企業同士のシナジーを生む戦略などが、今後Redwireから出てくるかもしれません。

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