宙畑 Sorabatake

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ロケットベンチャーのAstraがSPACを活用して2021年中にNASDAQ市場に上場 【週刊宇宙ビジネスニュース 2021/02/01〜02/07】

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ロケットベンチャーのAstraが2021年中にNASDAQ市場に上場

2020年12月に宇宙空間への到達を果たした新興ロケットベンチャーであるAstraが、2月2日に、Holicity Inc.による買収及び経営統合契約に締結したことを発表しました。既にNASDAQ市場に上場しているHolicity Inc.がAstraを買収することで二社は合併しAstraは上場企業となります。

買収契約が完了するとAstraは最大5億ドルの現金を手にし、企業価値約21億ドルで、2021年の第2四半期までにASTRのティッカーシンボルでNASDAQ市場へ上場します。

Holicity Inc.はSPACと呼ばれる、自社では事業を持たずに未上場ベンチャーの買収を目的につくられた企業です。

宙畑メモ
SPAC(特別買収目的会社)とは、その企業自体は特定の事業を持たずに、一定期間内に未公開会社・事業を買収することのみを目的として株式市場に上場する企業のことです。SPACを活用すると、資金調達を行いながら上場が果たせるほか、従来の新規株式公開(IPO)よりも簡素なプロセスで上場を果たせるため、近年この方式の上場を採用するベンチャー企業が増加しています。

2019年にニューヨーク証券取引所に上場したVirgin Galacticや、2021年中にNASDAQに上場予定のMomentusAST & Science LLCもSPACを活用しました。詳しくはこちらから(Virgin Galacticがついに上場!【週刊宇宙ビジネスニュース 10/28〜11/3】小型衛星向けの推進機器を手掛けるMomentusが、特別買収目的会社を活用して来年初頭にNASDAQに上場へ【週刊宇宙ビジネスニュース 2020/10/05〜10/11】

2020年12月の試験飛行の際のRocket 3.2の様子 Credit : Astra

今回の発表で、SPACを通じた宇宙ベンチャーの上場としては4社目、NASDAQ市場への上場は3社目となりました。

Astraは、NASAに在籍経験もあるシリアルアントレプレナー(連続起業家)のChris Kemp氏が2016年に立ち上げたロケットベンチャーです。2019年10月には、Airbus VenturesやSalesforceのCEOのMarc Benioff氏などから、約1億ドルの資金調達にも成功していました。その後、2020年2月にDARPA(アメリカ国防高等研究計画局)が実施する技術開発プロジェクト「DARPA Launch Challenge」に参加し小型ロケットの打ち上げに挑戦したことで、Astraは一躍注目を集めました。

2020年9月の打ち上げ試験を経て、2020年12月には液体燃料ロケットを宇宙空間へ到達させましたが、惜しくも軌道投入には届きませんでした。

Astraは、2021年に400万ドル、2025年には15億ドルの収益獲得を目指しています。収益化に向けて、Astraは打ち上げ事業のみならず「Modular Spacecraft Platform」と呼ばれる、ロケットの上段部と搭載する衛星のバスシステムを一部統合させる、いわゆる垂直統合の事業戦略も打ち出しています。

宇宙ビジネスにおける垂直統合型ビジネスモデル
垂直統合とは一般的に、ある企業が自社製品のバリューチェーンに沿って、付加価値の源泉となる工程を取り込むことを指します。宇宙ビジネスにおける垂直統合とは、ロケット開発企業が⾃社のロケットを活⽤して⾃社の⼈⼯衛星を打上げたり人工衛星に関するサービスを展開することを指します。

世界を見渡しても、ロケット企業であるSpaceXが小型通信衛星事業のStarlinkを手掛けたり、小型ロケット界のリーディングカンパニーであるRocket Labが衛星バスのPhotonを開発したり、インターステラテクノロジズが完全⼦会社のOur stars株式会社を設立したり、ロケット×⼈⼯衛星のサービス展開は増えてきています。詳しくはこちらから。(Rocket Lab独自の衛星バスシステムPhoton。更に高まる競合優位性とその狙い【週刊宇宙ビジネスニュース 8/31〜9/6】)(インターステラテクノロジズが人工衛星事業に参入【週刊宇宙ビジネスニュース 2020/12/21〜12/27】

Astraの創業者兼CEOのChris Kemp氏は、今回の上場について次のようにコメントを出しています。

“This transaction takes us a step closer to our mission of improving life on Earth from space by fully funding our plan to provide daily access to low Earth orbit from anywhere on the planet. We see an opportunity to design spacecraft that perfectly integrate with our launch system and allow us to take our customers from concept to constellation in months instead of years. This allows us to address a larger market faster, which is key to a vertically integrated platform.
(訳:今回の取引により、地球上のどこからでも地球低軌道へのアクセスを毎日提供するという計画に資金を投下されることで、宇宙から地球上の生活を向上させるというミッションに一歩近づきます。私たちは、当社の打上げシステムと完全に統合された宇宙船を設計する計画を考案しており、数年ではなく数か月で顧客の衛星のコンセプトからコンステレーション構築まで導くことができます。これにより、垂直統合プラットフォームの鍵となる大きな市場への迅速な対応を可能にできます)

Astraの小型ロケットは、約250万ドルという低コストで、100~150kgのペイロードを地球低軌道に投入可能とのことです。上場を果たし、まずは軌道投入の成功、そして商業打ち上げサービスの実施を目指すAstraの今後に注目です。

2020年12月の試験飛行の際のRocket 3.2の様子 Credit : Astra

中国のロケットベンチャーのiSpaceが打ち上げ失敗

中国のロケットベンチャーのiSpace(北京星际荣耀空间科技股份有限公司)が、酒泉衛星発射センターから4段式固体ロケットHyperbola-1の2号機の打ち上げに挑みましたが、失敗に終わりました。

iSpaceは、Hyperbola-1の1号機を2019年7月25日に打ち上げ、中国のロケットベンチャー企業として初めて商業打ち上げを達成した企業です。

今回打ち上げた2号機は、1号機と以下のように仕様が異なっているようです。

iSpaceの固体ロケットHyperbola-1の仕様比較 Credit : sorabatake

上記表の通り、かなりロケットの打ち上げ能力が強化されていることが分かります。

また、iSpaceは、新型ロケットのHyperbola-2の開発も進めています。Hyperbola-2は、Hyperbola-1と異なり、メタンを燃料とする液体燃料ロケットです。Hyperbola-2は、再利用可能ロケットで、1,100kg以上のペイロードを高度500kmの太陽同期軌道に投入する能力を有する予定のようです。中国のロケットベンチャーの打ち上げは、現状では固体ロケットがメインとなっているため、液体燃料ロケットの開発を行うiSpaceには今後も注目です。

iSpaceは2021年1月に、上海株式市場が運営する証券市場であるStar Market(Science and technology innovation board)に新規株式公開を申請する予定であると明かしており、ビジネス面での進展も注目を集めています。

中国の国有ロケットだけでなく、民間ロケットベンチャーの取り組みも加熱しています。

射場に設置されたHyperbola-1の2号機 Credit : 航天爱好者网

SpaceXがStarshipの高高度飛行試験に挑むも失敗

SpaceXは2月2日に、新型宇宙船StarshipのプロトタイプStarship SN9の高高度飛行試験に挑み、離陸と空中での姿勢制御は成功しましたが、前回の飛行試験と同様、着陸に失敗し爆破しました。

前回の飛行試験は、着陸速度が想定より大きく、いわゆるハードランディングとなってしまい爆発しました。今回の飛行試験では着陸の際の姿勢制御が上手くいかず、機体が斜めになった状態での着陸となり爆発しました。

今回の失敗の原因として、着陸の際にラプターエンジンを逆噴射するのですが、エンジンが1基しか点火しなかったことがあげられています。

SpaceXのCEOのElon Musk氏のTwittre上でのやりとりによると、今回はもともと全部で3基あるエンジンのうち2基しか点火しない予定だったようです。3基点火させない理由としては、エンジン3基を点火するとエンジンの出力が過大になってしまい、横方向に動いてしまうリスクがあったからのようです。しかし点火予定だった2基のうち1基が故障し点火しなかったため、機体をうまく垂直に保つこと出来ませんでした。

今後は、最初にエンジンを3基点火させ、推力方向の軸が重心から一番近いエンジンを消すシステムを採用するようです。着陸の際のエンジンの逆噴射のシステムについては、次のStarship SN10では改良が行われる予定です。

Starshipの飛行試験の翌日には、Falcon 9による通信衛星Starlink60機の打ち上げに成功しています。Falcon9のようにStarshipが着陸を当然のように成功できるようになるか、今後の飛行試験にも期待です。

着陸の際、1基しか点火してないStarship SN9のエンジン Credit : SpaceX

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