宙畑 Sorabatake

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Starshipの2回目の高高度飛行試験が延期【週刊宇宙ビジネスニュース 2021/01/25〜01/31】

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Starshipの2回目の高高度飛行試験は、FAAによる最終承認がおりず延期

SpaceXの新型宇宙船Starshipの2回目の高高度飛行試験は1月28日に実施予定でしたが、2月1日以降に延期されました。SpaceXは今回の飛行試験で用いるプロトタイプ機Starship SN9の準備を直前まで進め、燃料充填も実施していましたがFAA(アメリカ連邦航空局)による最終承認がおりず延期となりました。

SpaceXは2020年12月に、StarshipのプロトタイプであるStarship SN8で高高度飛行試験に初めて挑戦し、高度約12.5kmまでの飛行及び空中での姿勢制御には成功しましたが、着陸には失敗し爆発しています。
(参考:Starshipが高高度飛行試験を実施し、飛行データの取得に成功【週刊宇宙ビジネスニュース 2020/12/7〜12/13】

2020年12月10日に実施したStarship SN8の飛行試験の様子 Credit : SpaceX

FAAによる商業打ち上げの承認

FAAは、米国の民間企業による商業打ち上げのライセンスを付与する権限を持っている連邦機関です。FAAはライセンスを付与する上で打ち上げ機体に対して個別の安全審査を実施します。

SpaceXのStarshipに限らず、機体は打ち上げ毎に事前にFAAの安全審査の承認を得なければライセンスが付与されません。承認を得るための具体的な規則は、連邦規則集(CFR:Code of Federal Regulations)における航空宇宙部門Subchapter C – LICENSINGに明記されています。

SpaceXはFAAに打ち上げミッションの詳細(打ち上げにおける保全体制の詳細など)を提出し、提出内容をもとにFAAは安全審査を実施します。安全審査の内容及び手順については、以下のように14 CFR § 431.31 – General.に記載されています。

431.31 General.

(a) The FAA conducts a safety review to determine whether an applicant is capable of launching an RLV and payload, if any, from a designated launch site, and reentering the RLV and payload, if any, to a designated reentry site or location, or otherwise landing it on Earth, without jeopardizing public health and safety and the safety of property.
(訳:FAAは、申請者が公共の安全を確保し自然環境を危険にさらすことなく、指定された打上げ場所から RLV⦅再使用ロケット⦆ を打上げ、指定された場所への再突入及び着陸が可能かを判断するために、安全審査を実施する。)

(b) The FAA issues a safety approval to an RLV mission license applicant that satisfies the requirements of this Subpart. The FAA evaluates on an individual basis all public safety aspects of a proposed RLV mission to ensure they are sufficient to support safe conduct of the mission. A safety approval is part of the licensing record on which the FAA's licensing determination is based.
(訳:FAA は、本章の要件を満たす再使用ロケットのライセンス申請者に対して、安全性を審査し承認する。FAAは申請された再使用ロケットの安全面に関して、個別に評価する。安全性の審査の承認は、FAAのライセンス付与の根拠の一部となる。)

(c) The FAA advises an applicant, in writing, of any issue raised during a safety review that would impede issuance of a safety approval. The applicant may respond, in writing, or revise its license application.
(訳:FAAは、審査の際に提起された問題の中で安全性に支障をきたすものがあれば、申請者に書面で通達する。申請者は、書面での回答や免許申請書の修正を行うことができる。)

上記のように、FAAの安全性の審査では、打ち上げ場所周辺及び空域の安全や自然環境の保全の観点から審査が実施されます。審査は通常、打ち上げ実施の48時間前までに行われます。

SpaceXのCEOのElon Musk氏は今回の延期についてTwitterで不満を述べていましたが、FAAは既に、近年の打ち上げ数の増加を受けてライセンス付与のプロセスをより柔軟にする取り組みに着手しています。

FAAは打上げ申請の審査プロセスを柔軟にするために、2020年12月に785ページに及ぶStreamlined Launch and Reentry Licensing Requirements(打上げと再突入のライセンス要件に関する最終規則)を発行しており、現在政府による最終承認中です。

CEQからStarshipのライセンス付与についてFAAに通達

今回のStarshipの打ち上げ延期の具体的な理由については、SpaceXとFAAの両者が言及を避けているため、詳細は分かっていません。
しかし、米国大統領府の直属機関であるCEQ(Council on Environmental Quality)がFAAに対して送った通達は公開されており、Starshipのライセンス付与について言及しています。

上記の通達には、以下の内容が記載されていました。

  1. 【①打ち上げ試験場付近の環境について】
    Boca ChicaにおけるSpaceXの打ち上げ試験場の周囲は自然環境に囲まれている。西はLower Rio Grande Valley国立野生生物保護区、北はBrazos島州立公園、南はテキサス州沿岸保護区がある。この地域は生物学的に非常に重要で、北米の国立野生生物保護区の中でも最多レベルの植物と動物が生息している。
  1. 【②打ち上げ試験場付近の環境状態を保護する計画の不足】
    SpaceXが提出したEIS(環境影響評価)は、Falcon9やFalcon Heavyといった機体で算出されており、資料の更新が必要。
  1. 【③周囲環境の封鎖について】
    再使用ロケットの打ち上げの際に実施する近隣の地域の閉鎖は、年間180時間以下に制限するという取り決めだったが、直近3ヶ月間だけで近隣地域の閉鎖は225時間を超えており、改善が求められる。

上記の観点から、環境状態の継続的なモニタリングと、近隣の動植物を保護する具体的な計画を示すことがSpaceXに求められるようです。

ロールアウトしたStarship SN10(左側)と、待機中のStarship SN9(右側) Credit : Elon Musk氏のTwitter

Starship SN9は打ち上げ実施に向けて射場で待機していますが、次のプロトタイプ機であるStarship SN10も射場に運搬されており、上記画像のように射場では2機が並んでいます。

Starshipの開発を進めるには打ち上げ試験を何度も重ねる必要がありますが、一方で周辺環境を保護し、地球環境の維持も重要です。SpaceXがFAAから打ち上げの承認を獲得し、より安全に試験を実施ていけるか今後の対応にも注目です。

電気推進ベンチャーのApollo Fusionが新規契約を獲得

小型衛星向けの電気推進システムを開発するApollo Fusionが、小型衛星開発メーカーYork Space Systemsが開発する地球低軌道衛星に使用される電気推進システム(Apollo Constellation Engine)を納品する契約を締結したと発表しました。

Apollo Fusionは、Googleで気球によるワイヤレス接続サービスを目指す「Project Loon」を率いていたMike Cassidyが2016年に立ち上げたベンチャー企業です。

Apollo Fusionは現在、キセノンやクリプトンを燃料とするホールスラスタの開発に取り組んでおり、これまでに、2,000時間以上の電気推進システムの試験を実施しています。同社にとっての強みは技術面だけでなく、ホールスラスタを大量に生産できる製造パートナーにもあります。具体的な製造パートナー名は公開されていませんが、1か月に10個~100個のホールスラスタを生産することも可能とのことです。

近年、MomentusPhase FourThrustMeといった電気推進システムを開発するベンチャー企業が増える中、ホールスラスタ開発を強みとするApollo Fusionの今後に引き続き注目です。

同社のホールスラスタApollo Constellation Engine Credit : Apollo Fusion

ハイブリッドロケットエンジン燃料を開発するFirehawk Aerospaceが追加の資金調達に成功

ハイブリッドロケットエンジン燃料を開発するFirehawk Aerospaceが、追加シードラウンドで120万ドル(約1億3000万円)を調達しました。今回の資金調達ラウンドは、ダラスを拠点とするベンチャーキャピタルのHarlow Capital Managementがリードインベスターとして参加しました。今回の資金調達で、昨年のシードラウンド資金と合計して累計調達額は250万ドル(約2億6000万円)となりました。

Firehawk Aerospaceは、固体燃料と液体酸化剤を用いるハイブリッドロケットエンジンの燃料を3Dプリンターで製造し、安全で低コストな燃料の開発に挑んでいます。

Firehawk Aerospaceは現在、ハイブリッドロケットエンジン燃料の3Dプリンティング技術に関連する5つの特許を取得しており、推力200ポンド(約90kg)と500ポンド(約230kg)の2種類のエンジンで燃焼試験を実施しています。

ハイブリッドロケットエンジンの概念は古くからありますが、液体燃料ロケットエンジンと比較すると性能面で劣る部分があり、商用利用の実績はまだまだ限定的です。

Firehawk Aerospaceの今後の開発が楽しみです。

3Dプリントされたロケットエンジン燃料 Credit : Firehawk Aerospace

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