おすすめ宇宙映画7選とNASAが宇宙映画に協力するワケ、今後の宇宙映画撮影の展望
トム・クルーズ氏がISS(国際宇宙ステーション)で映画を撮影するのはいよいよ今年と言われています。宇宙を題材にした数ある映画の中でも、宇宙開発を加速しただろう映画を7つ厳選しました。
『ミッション・インポッシブル』シリーズで知られるトム・クルーズ氏(58歳)が、2021年の10月に宇宙へと飛び立ち、ISSで映画の撮影に挑みます。
宇宙をテーマにした映画の歴史は古く、1902年のフランス映画『Trip to the Moon』にまで遡ることが可能です。人類初の映画が1878年に登場した『The Horse In Morion』であることを考えると、宇宙と映画は、ともに歴史を歩んできたと言っても過言ではありません。
VFX技術の発展により、ロケット内の閉塞感すら生々しく感じられるような作品が出てくる中、映画は宇宙をテーマにするに止まらず、ついに撮影舞台を宇宙に移すことになりました。
そこで今回は、あらためて宇宙と映画を振り返り、NASAと映画の関係を掘り下げていきたいと思います。
(1)宇宙をテーマにした映画の数々
まずは宇宙をテーマにした映画の中でも、後世の宇宙開発に影響を与えた、もしくは与えるだろうものを7つ厳選してピックアップしてみました。
1.『Trip to the Moon』(1902年)
Georges Méliès監督による『Trip to the Moon(原題:Le Voyage dans la Lune)』は、初のSF映画です。ライト兄弟が飛行機を発明したのが、1903年なので、その1年前に公開されたことになります。
約12分の短編からは、当時の人々が宇宙や月に強い憧れを抱いていたことがわかります。巨大化したキノコの星や、異星人の描写、月と地球の距離感といった当時の人たちの考えが窺い知れる貴重な歴史的資料とも言えるでしょう。
2.『スタートレック』(TVシリーズ1966年~1969年)
『スタートレック』とNASAの関係は深く、1967年のNASAのアポロ計画のアポロ1号が悲劇的な火災事故後、事故の衝撃で希望を失いかけたNASAに勇気を与えたもののひとつが、未知の生命体や文明と交流することを描いたスペースドラマ『スタートレック』だと伝えられています。
【参考】
・How Star Trek Helped NASA Dream Big(And how NASA helped Star Trek stick around.)
その後、より現実的で説得力のある設定を求めた『スタートレック』の作者であるジーン・ロッデンベリー氏はNASAに協力を求め、ストック映像やモデル、アニメーションから技術的指導を提供してもらい、NASAの実験室にも入ることができたそう。
『スタートレック』は、エンジニアや科学者、宇宙飛行士を目指すきっかけとなった作品のひとつとしても有名です。それは、白人だけでなく、アフリカ系アメリカ人、アジア人、ネイティブアメリカンなどの人種の多様性や、文化の多様性を描たことで、幅広い層の人々に、自分と宇宙を関連づけて考えさせることに成功したからでしょう。
【参考】
・How ‘Star Trek’ inspired NASA, astronauts and more
・Star Trek公式サイト(海外)
3.『2001年宇宙の旅』(1968年)
宇宙映画を語る上で、本作を取り上げないわけにはいきません。NASAは製作に直接関与していないませんが、2014年には、「1968年のサイエンスフィクションが今日の現実」というコラムで本映画がいかに未来の宇宙研究の発展を正しく伝えていたかを書いています。
例えば、作中の低軌道を回る宇宙ステーションは、形は違えど、今の宇宙ステーションとコンセプトは同じです。
また、1968年には前例がなかったフラットスクリーンのコンピュータモニターは、現在、宇宙ステーションで一般的に使用されているものです。宇宙での機内エンターテイメントは、現代のDVDやiPod、コンピュータなどに当たるでしょう。
宇宙ステーションでのエクササイズも作品を代表するシーンのひとつですが、これも今の宇宙ステーションでの日常と同じです。
NASAが本作に強く関わったのは、公開から40年後の40周年式典のこと。カリフォルニア州ビバリーヒルズにあるAcademy of Motion Picture Arts and SciencesのSamuel Goldwyn Theatreでの記念上映の際に、軌道から特別にメッセージを送っています。
【参考】
1968 Science Fiction is Today’s Reality
4.『アポロ13』(1995年)
1970年4月に打ち上げられた米国のアポロ計画の3度目の有人月飛行であり、通称「輝かしい失敗」をテーマにした作品です。事故に見舞われ、電力と水不足という深刻な状況に陥りながらも、宇宙飛行士3人が全員無事に帰還した様子をドラマティックに描いています。
劇中のリアルな無重力描写は、宇宙飛行士が無重力空間を擬似体験する訓練に使用する、NASAのKC-135を使用して撮影しています。
月飛行の過程をわかりやすく説明する箇所があるだけでなく、宇宙で危機的状況に陥ったとしても対応可能であることを広く伝えることに成功した本作は、NASAと月飛行を知る導入編としても最適な映画です。
【参考】
・On Apollo 13’s 20th anniversary, a look at how they made the film so realistic
5.『ゼロ・グラビティ』(2013年)
宇宙ゴミの衝突により宇宙に投げ出されてしまった医療技師が、たった一人で地球へ帰還する様を描いた作品です。
NASAの科学者たちが、宇宙飛行士が宇宙服の下にオムツをしていなかったことや、サンドラ・ブロック演じるライアンが問題なく軌道を移動できる点などの科学的な矛盾を指摘する一方で、宇宙での生存方法はNASA仕込みだそう。
宇宙飛行士のキャディ・コールマン氏は宇宙からサンドラ・ブロックとチャットし、無重力状態での移動方法や、家に帰ることができない心理状態の対処方法などを、宇宙に取り残されたサンドラの気持ちになって考え、伝えたそうです。その甲斐があって、コールマン氏の目には宇宙での彼女の実際の経験を正確に描写しているのだとか。
6.『オデッセイ』(2015年)
たった一人で火星に取り残されてしまった宇宙飛行士の生存をかけた孤独な戦いと、彼を救い出すために奮闘するNASA職員の姿を描いた作品です。
本作を作るあたり、リドリー・スコット監督は、NASAに直接電話し、協力を仰いだそう。NASAは、著名な監督からの電話ではなく、NASAの火星探査というビジョンを映像化することに魅了され、依頼を受けたとのこと。
NASAの惑星科学のディレクターであるジム・グリーン氏は、スコット監督やクルーからの、ロケットや住居、ローバーに関する質問に答えただけでなく、NASAが構築していた住居や実際のプロトタイプを見学させました。
7.『ドリーム』(2017年)
NASAの知られざるキーパーソンたちに焦点を当てた作品。アフリカン・アメリカンの女性計算手たちが、人種や男女差別と戦いながらNASAで活躍した様を描いています。
著者のマーゴット・リー・シェッタリー氏が、NASAの元女性計算手たちに取材を行ながら書いた『Hidden Figures: The American Dream and the Untold Story of the Black Women Mathematicians Who Helped Win the Space Race』を原作とした本作は、セオドア・メルフィ監督が脚本も担当しています。
本作は、NASAに資料提供を受け、敷地内での撮影許可をもらっただけでなく、当時を知るNASAの歴史家ビル・バリーとともに脚本を確認しあい、できる限り事実に沿う内容にすることを目指したそうです。
1960年初頭の、有色人種女性の立場が弱かったとされる時代に、頭脳と先見の明で自らの活躍の場を勝ち取っていく姿を描いた本作は、STEM教育(Science、Technology、Engineering、Mathematics)を推進する上でも重要な映画となっています。
(2)NASAがエンターテイメント業界に協力する理由とは
上述した作品を見ると、ほとんどの作品にNASAが撮影の協力を行っているか、宇宙開発の推進剤になっていることが分かります。
NASAがエンターテイメント業界に協力する理由はずばり、次世代に宇宙への興味を持ってもらい、未来の宇宙飛行士やエンジニアを獲得するためです。
映画がきっかけになり、その道を目指すことは決して珍しくありません。
例えば、1986年代に公開された『トップガン』は、多くの若者がマーヴェリックに憧れ、80年代後半から90年代の海軍入隊志願者が爆発的に増えました。その経験から、続編の『トップガン マーヴェリック』公開をきっかけに、パイロット志願者の減少に悩んでいる空軍と海軍は、再びパイロットを目指す若者が出てくることを期待しています。
NASAは次世代にインスピレーションを与えることと、巨額の予算を確保するべくより高い認知度を目指し、エンターテイメント業界への協力を惜しみません。最近では、STEM(Science,Technology,Engineering,Mathematics)教育の面白さを伝えるために、スヌーピーのキャラクターで人気の『ピーナッツ』とスペースアグリーメントを結び、Apple TV+オリジナルの『SNOOPY IN SPACE』の製作に協力し、ターゲットを低年齢化させています。
また、毎年100本を超えるドキュメンタリーに協力し、映画へのフッテージやロケーション提供をしています。メディアの人々がNASAにコンタクトをとるための「Bert Ulrich」という専用エージェントもあるほどです。
しかし、誤解を招きそうな内容である『アポロ18』や、事実と大幅に異なる『レッドプラネット』には協力しなかった過去があるので、協力する作品は吟味しているようです。
(3)ISSでの撮影費用と今後の宇宙映画撮影の可能性
冒頭で紹介したトム・クルーズ氏の宇宙での映画撮影を例に、そのコストをまとめ、今後の宇宙での映画撮影の可能性についての考察をしてみました。
ISSでの撮影費用はいくら?
まず、トム・クルーズ氏が映画を撮影するロケ地「ISS(国際宇宙ステーション)」の滞在費用は、記事を執筆している2021年2月末時点(*)で3万5000ドル/泊、ロケットでの移動には約7500~8000万ドルかかると言われています。一定の健康基準を満たし、事前に訓練を受ければ年に2回、最長で30日間滞在できるそうです。さらに、カメラなどの機材を持ち込むとなると機材輸送費も追加でかかるでしょう。
*…ISSの商用利用の料金表は改定されました。詳しくは「宇宙ロボ開発のGITAIが18億円を調達。米国市場進出に意欲【週刊宇宙ビジネスニュース 2021/3/1〜3/7】」をご覧ください。
過去の興行収入実績と合わせて考える今後の宇宙映画撮影の可能性
では、今より宇宙が身近な存在になれば、宇宙映画は宇宙で撮影するのが一般的になるのでしょうか。映像業界は目まぐるしく発展しているため、一概にYES、NOを言うことはできませんが、一般的になる可能性は低いと考えています。
というのも、映画は製作費よりも興行成績が上回らなければ成功とはいえません。つまり、低予算であればあるほど、収益との差が開きやすくなり、興行成績的に成功する可能性はあがります。
トム・クルーズ氏は監督のダグ・リーマン氏とISSに8日間滞在する予定といわれており、ざっと計算すると、2人分の宇宙への旅費と滞在費で最低でも1.5億ドルがかかると考えられます。この作品は製作費が2億ドルと言われており、高額製作費トップ30に入るか入らないかの規模です。
最高額製作費は、『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』の3億7650万ドルと言われており、この作品の興行成績は約10億ドル。認知度が高く、観客を呼び込めるだけのブランド力があるからこその予算と結果だと言えるでしょう。
今はVFX(Visual Effects)で多くのものが再現できてしまう時代です。宇宙をテーマにした映画に特化していえば、『ゼロ・グラビティ』は宇宙に行かずとも見事な宇宙空間を再現し、『ファーストマン』はロケットの中の閉塞感が観客にまで伝わってくるほどでした。現時点でここまで再現し、かつ表現の自由を確保できているのなら、リアルを求めてISSに行く必要はないように感じます。
トム・クルーズ氏が初の宇宙撮影に挑むことが話題になっているのは、まだ見ぬ景色を届けることができるからに他なりません。物珍しさが先行していて、映画そのものが必ず評価されるとは限りません。
物珍しさが先行して評判になった作品に、『ザ・マミー/呪われた砂漠の女王 』があります。本作では、主演のトム・クルーズ氏たっての希望で、旅客機のエアバスS310を放物線飛行させ、無重力状態を作り出して撮影しました。飛行機落下シーンを実際に再現したとあって、前評判は上々でしたが、肝心のストーリーテリングがスケールに見合わず、残念な結果に終わっています。
同氏の作品で実際のアクションが評価されているのは、『ミッション・インポッシブル』シリーズですが、それはあくまでストーリーの完成度も高いからと言えます
つまり、宇宙映画を実際に宇宙で撮影したからといって、内容が伴わなければ興行成績の成功は約束されず、リスクをとってまで莫大な予算がかかる宇宙撮影を映画業界が行い続けるとは思えないのです。
もちろん、トム・クルーズ氏の作品が宇宙で作る映像に上述したコストを上回る価値を見出すことができれば、宇宙での撮影が映画業界の常識を大きく変えることもあり得るでしょう。引き続き注目したいと思います。
(4)まとめ
今回の記事では、NASAと宇宙映画の関係を掘り下げました。取り上げた映画は、主に見た人が宇宙に興味を持ちそうなもの、宇宙関連ビジネスにつきたいと思うきっかけになりそうなものを選びました。名作といえど、子どもには理解しづらい作品はあえて紹介していません。
NASAが本格的にメディアに協力し始めた作品は『アポロ13』なので、その関係は古くからのものではありません。しかし、今やISSで映画が撮影される時代になろうとしています。トム・クルーズ氏が国際宇宙ステーションに足を踏み入れることは、NASAにとっては小さな一歩だが、映画業界にとっては偉大な飛躍」と言えるかもしれません。