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ニコンが金属3Dプリントの受託加工企業を子会社化。宇宙産業に本格参入へ【週刊宇宙ビジネスニュース 2021/04/05〜04/11】

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ニコンが航空宇宙分野に特化した受託加工企業を子会社化

精密機器メーカーのニコンは、積層造形技術を用いて、航空宇宙企業向けに金属部品を受託加工するMorf3D社を子会社化したと発表しました。これにより、ニコンは航空宇宙事業に本格的に参入することになります。

宙畑メモ 積層造形技術(Additive Manufacturing 以下、AM技術)
樹脂や金属などの素材を積み重ねて加工・製造する技術のこと。一般的に3Dプリンティングと呼ばれています。

スマホカメラの普及により、かねてよりニコンの経営を支えてきた一眼レフ等のカメラの市場が縮小傾向にあります。ニコンは一眼レフカメラの国内生産を終了し、タイ工場に集約すると4月2日に報道がありました。そのような状況の中、同社は中期経営計画で、再起を図るために注力する成長領域の一つとして、材料加工事業を掲げています。

中期経営計画 Credit : ニコン

同社が航空宇宙分野への参入する決め手は何だったのでしょうか。ニコンの担当者を取材すると、

「インターネット接続や地球観測画像の取得・分析の需要等から中小型衛星の市場が急拡大していること、また、航空宇宙分野はAM技術との親和性が極めて高いことが理由です。」(ニコン 担当者)

と、回答がありました。内閣府の資料によると、世界の小型衛星の打ち上げ機数は2030年までに約10倍に伸びると予想されています。

AM技術の動向に精通しているAM Ventures・アジア地域統括ディレクターのSimon Lee(サイモン・リー)氏によると、航空宇宙業界はAM技術が頻繁に活用されている業界の一つだと言います。

Simon Lee氏 Credit : Haruka Inoue

「航空宇宙分野で用いられるコンポーネントは複雑な形状なものが多いうえに、切削加工が難しいチタンや高合金アルミニウム、超合金などのハイエンド材料が使われています。航空宇宙産業の企業は、特定のコンポーネントをAM技術で連続生産する本格的な段階に達しており、適用される部品とアプリケーションの数は増加している傾向にあります。エアバスやボーイング、GEなどの企業は、生産速度を上げるため設備に多額の投資を行っています。」(AM Ventures  Simon Lee氏)

さらに、SpaceXやRocket Labなどのベンチャー企業もコンポーネントの製造に、AM技術を用いていることが知られていて、多くの航空宇宙企業がAM技術導入に取り組んでいることがわかります。

子会社化が発表されたMorf3D社は、2015年に創業した米国のベンチャー企業です。必要な航空宇宙機関連の認証を取得していて、ボーイング社をはじめとする企業にサービスを提供しています。同社について、Lee氏はこのように分析しています。

「2020年末に新しい3Dプリティングプラットフォームの導入を発表し、合計11台の金属3Dプリンターが設置されました。より膨大なボリュームのサービスが提供されるようになるでしょう。ニコンの出資により、同社のAM産業でのポジションは、より高いものになるのではないかと考えられます。」(AM Ventures  Simon Lee氏)

ニコンはMorf3D社の技術と、自社開発したレーザーで金属材料を加工する「光加工機」をはじめとする精密加工技術と組み合わせて受託加工ビジネスを展開する計画です。Morf3D社について、ニコンの担当者は、

「AM受託生産企業として、世界的な成長産業である航空宇宙分野に的を絞った事業展開を行っており、強固な顧客基盤・豊富な人脈を持っていることが強みです。」(ニコン 担当者)

と語りました。Morf3D社との連携により、ニコンは精密機器の開発・製造で培ってきた技術を活かして、再起を図ることができるか、今後の動きに注目したいと思います。

Lockheed Martinのシステムをドイツの宇宙状況把握センターが採用

Lockheed Martin(ロッキード・マーティン)が開発する、宇宙空間の交通管理ソフトウェア「iSpace」が、ドイツ航空宇宙センターに採用されたと発表されました。

iSpaceは衛星の軌道変更やデブリの衝突など、宇宙空間の状況をリアルタイムで認識し、異常を検知すると、オペレーターに対応を提案するというものです。プレスリリースによると、米空軍の宇宙状況把握システムを開発する際にも、iSpaceのナレッジが活用されたそうです。

サービスのイメージ Credit : Lockheed Martin

ドイツ航空宇宙センターは、ドイツ空軍と共同で「ドイツ宇宙状況把握センター(GSSAC)」を運用しています。iSpaceは同国の監視・追跡レーダーなどと接続して、使用されます。

ホワイトハウスが2022年度予算案を発表。地球科学プログラムは15%増

米国・ホワイトハウスは、10月から始まる2022年度の予算案の一部を発表しました。NASAについては、約6.3%増の約247億ドルが提示されています。

その中でも、地球科学プログラムは「次世代の地球観測衛星を導入し、気候科学の緊急課題を研究する」という目的で、15%増の23億ドルが割当てられています。スケジュールの後ろ倒しが懸念されているアルテミス計画については、前年から3億2500万ドル増加した69億ドルが割当られていますが、詳細は不明です。

今回発表された一部の予算案のみで、すでに前年の予算を上回っている状況です。SDGsに関する欧州の動きやその他国際的な立ち位置等が影響していることが考えられます。米国の予算次第では、日本やその他諸外国が共同で行っているプロジェクトにも影響が出る可能性があります。

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参考

米国の宇宙航空機部品受託加工会社Morf3D Inc.に出資、子会社化

「光で、ものづくりを」

German Space Agency Selects Lockheed Martin ISpace System For Space Situational Awareness

Acting NASA Administrator Statement on Agency FY 2022 Discretionary Request

EXECUTIVE OFFICE OF THE PRESIDENT OFFICE OF MANAGEMENT AND BUDGET

Biden administration proposes $24.7 billion budget for NASA in 2022