エンターテイメントに衛星データを!大喜利から生まれたアイデアに実現性はあるか!?
そもそも衛星データって何ができる?どんな特許が取られている?広告代理店がクライアントに衛星データを使ったアイデアを提案するとしたら? 知財データベース「知財図鑑」と「Tellus」がそれぞれの知見を活かし、衛星データが秘めるビジネスの可能性に切り込んだ、1時間のオンラインセミナーの模様をお届けします。
2021年6月17日、クリエイティブラボ「PARTY」に対して衛星データの可能性を紹介するオンラインセミナーが開催されました。
主催は、新規事業を創出するための知財データベース「知財図鑑」を運営する株式会社知財図鑑とその母体となるクリエイティブカンパニー「konel(コネル)」。
知財図鑑は、定期的にこうしたインプットのためのセミナーを開催しており、今回は、日本発の衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」の開発・運用を行うさくらインターネットより、衛星データの基礎知識から活用事例を紹介しました。
さらに、konelのクリエイターたちが事前に大喜利形式で考えた衛星データの企画アイデアとその実現性にまで踏みこみ、質疑応答まで1時間ほどにギュッと詰めこんだ内容の濃いセミナーの様子をお届けします。
宙畑メモ
「Tellus」は、2020年度に知財図鑑で紹介してきた様々な知財の中から、衛星データへのアクセシビリティが高まったことによるビジネスへの貢献は広範囲に渡ると評価され、西の横綱に選出されました。
https://chizaizukan.com/pickup/column/5C5ZlTB6osHwNjVff6od4u/
そもそも「Tellus」とはなにか?
セミナーは、まずはじめに「そもそもTellusとは何か?」「衛星データで何ができるのか」といった基礎知識の学びからスタート。
登壇したのは、TellusPRグループの竹林正豊氏です。
竹林:そもそも「Tellus」とは何か。Tellusは、経済産業省からさくらインターネットが受託して運用している日本発の衛星データプラットフォームです。
ざっくりいえば、衛星データを用いたビジネスを生み出すために作られました。
もともと衛星データは各所にバラバラに散らばっていて、容量も大きく、一般の人が簡単に解析できる状態ではありませんでした。そこで、1カ所にデータを集め、クラウド上で解析をかけられるようにしたのがTellusです。
現時点での利用者は約2万人超。宇宙産業の従事者が9000人くらいとされている中、さまざまな業界の方々にご利用いただいています。
衛星データではどんなことがわかる?
竹林:では、衛星データからはどんなことがわかるのか。たとえば、陸や海、空においてこんなことが読み取れます(下図)。
竹林:地球のはるか上空から地球をぐるぐると周回する人工衛星は、下記のような4つの特徴があります(下図)。
竹林:衛星が上空から撮影する画像には、「光学画像」と「SAR画像」の2種類があります。「光学画像」はデジカメで撮ったようなもので、「SAR画像」は妊婦さんのお腹のエコー写真のようなもの。これらの観測画像によって、たとえば下記のようなものが可視化できるようになります(下図)。
竹林:現在Tellusには、こうした光学データやSARデータ、標高データ、植生データ、気象データなど、さまざまなものが入っています。
これらを掛け合わせることによって、意外なことが見えてくることも多いのです。
具体的な活用事例については、次のコーナーでご紹介します。
衛星データの利活用の事例3選
続いて登壇したのは、Tellusでビジネス開発に関わり、『宙畑』の記事企画もつとめる田中康平氏です。
田中:今、ぼくたちの身の回りではたくさんの衛星データが活躍しています。
たとえば天気予報に利用される「気象衛星ひまわり」。あるいは、「ポケモンGO」のように測位衛星を使った位置情報サービスも数多く出てきています。
ここでは、具体的な衛星データの使い道を3つご紹介します。
1.車の生産台数の把握し、株価を予測する
田中:企業ごとの車の生産台数は、本来なら工場を訪問しないとわからないことですが、車は屋外に置かれていることが多いため、人工衛星のデータを見れば上空から台数を把握することができます。
つまり、衛星を使って車の台数を見れば、その企業の景気を推測できるということ。
実際、人工衛星のデータは株価予測の分野でも使われています。
2.稲の収穫時期を予測する
田中:次に衛星データは、稲の育成状況を把握することにも使われています。
まず、「光学画像(地表を写したカラー写真のこと)」で稲が色づいていくのを広い範囲で見わたすことができます。
さらに、「近赤外線域の画像」を見ることで、光学画像だけでは判断が難しい適切な収穫時期の予測に活かすことができるのです。
というのも、植物は元気な状態であればあるほど近赤外線を強く反射します。
稲は収穫時期に向けて近赤外線の反射が強くなるため、近赤外線の反射の強さの数値と、農家の人が経験的に行っている収穫時期のデータをあわせて蓄積すれば、衛星画像を見るだけである程度収穫時期を推定できるようになります。
今、農家は後継者不足に悩まされており、一人当たりがチェックする田んぼの面積がどんどん増えている状況です。
こうした場合に、人工衛星で自分のもつ田んぼを広く見渡し、細かく収穫時期を予測できると便利です。
3.地盤沈下やインフラを監視する
田中:人工衛星は同じ軌道をぐるぐると回っています。つまり、同じ場所を定期的に定点観測ができます。1回目の観測時と2回目の観測時を比較したとき、数cm単位で差がわかります。
以前、調布で陥没事故があった際、日経新聞が衛星データをチェックし、工事前と工事後の地盤の変化を可視化していました。
もちろん、工事中は地上でも地盤の状況を確認していたはずです。
ただ、「点」では監視できても、広い範囲で監視するのはむずかしいもの。その点、人工衛星は「面」での監視に役立ちます。
「衛星データ大喜利」8連発!その実現性は?
無料で使えるデータも多くなり、かつ身近な情報を宇宙から集めることができる人工衛星。広告代理店がクライアントに企画提案をする際に、衛星データをからめた企画を立てられたら、他社とは一味ちがった提案ができるのではないでしょうか。
そこで、続いてはKonelのテクニカルディレクターで知財ハンターの荻野靖洋氏と、「Tellus」の田中康平氏が、衛星データを使えそうな企画をアイデアフラッシュ!
様々な業種のクライアントを持つクリエイティブラボ「PARTY」のヒントになりそうな衛星データを使った企画8本の実現性を探ります。
8本のアイデアはこちら
・ベストコンディションの聖地巡礼
・気象メシ
・リアルウォーリーを探せ
・巨大QRコード
・傘を使ったキャンペーン
・超俯瞰・花火大会
・フェス会場の音量&音域を可視化
・衛星データでスキンケア
【1】ベストコンディションの聖地巡礼
荻野:こちらは出版界やアニメ業界とのコラボ企画として考えてみました。今、アニメの聖地巡りが人気ですが、行ってみると季節や天気が違ってガッカリすることも…。
衛星データをチェックすることで、アニメの名シーンとぴったり同じ景色を見ることができる日がわかったりしませんか?
田中:わかると思います!
衛星で観測したデータは過去の膨大なデータが蓄積されているので、過去データから数日先の気象条件を予測することはできるはずです。
つまり、アニメのシーンと同じような気象条件になるベストな訪問タイミングを予測してお知らせすることは可能だと思います。
もちろん天気だけでなく、桜や紅葉の開花予測もすることで、よりアニメの景色に近い演出になっている日を選ぶこともできるのではないでしょうか。
【2】気象メシ
荻野:こちらは、飲食メーカーさんとのコラボ企画を想定してみました。最近人気のものといえばキャンプ。キャンプメシっておいしいですよね。
ただ、気象によってごはんの美味しさが左右されてしまうこともありそうです。そこで「この場所の、この天気で食べるなら、これが美味しい!」というような情報を衛星データでわかりませんか?
田中:五感で食事を楽しみたい、ということですよね。
こちらも先ほどの聖地巡礼と同じように気象条件を予測することでわかりそうです。
天気がわかるだけだと美味しさまでは演出できないので、もう一歩踏み込んで考えてみるなら、たとえば、過去の膨大な気象データと標高データをAIで処理すると、その場所に雲海がいつ発生しそうかを予測できるはずです。
そこで、「こういう気温(気象)になるから、こういう味付けがいいんじゃないか?」というサービスが提供できるかもしれません。
味覚だけじゃなく、五感で楽しむごはんが演出できて、キャンプがより楽しくなるんじゃないでしょうか。
【3】リアルウォーリーを探せ
荻野:これは過去にGoogleが行った「Google マップでウォーリーをさがせ」から考えてみました。
衛星写真からリアルにウォーリー(人)を探したり、ナゾ解きをしたり、世界中に散りばめたマンガのキャラクターを探してもらうというような企画も面白いんじゃないかなと思います。
田中:映画では人工衛星でスパイを見つけるシーンが描かれていることもあるので、一見リアルウォーリー探しもカンタンにできそうな気がするかもしれないですね。
ただ、残念ながら衛星での人探しは難しいんです。
田中:というのも、世界で一番解像度の高い写真が撮れる衛星でも、上空からは人影がわかる程度で、誰かまでは見分けられません。
そのかわり、どんな衛星も大きなものを見つけることは得意です。
田中:たとえば、上図は無料の人工衛星の画像なのですが、地上に描かれたパンダが見えます。中国のメガソーラーが作ったもので、2017年に現れました。このような地上にいるとわからず、空から見ることで見つけられるものがあると楽しいですよね。
ちなみに、こうした可視光でみる光学画像のほか、近赤外などのほかの波長に切り替えると見え方が変わってさらに見えやすくなったりもします。
【4】巨大QRコード
荻野:衛星画像を使ったアイデアをもう一つ。衛星が地球の上空を飛びながら観測していることを利用し、1コマごとを巨大なQRにして、読みこむとストーリーが進んでいくコンテンツを考えてみました。どうでしょう?
田中:おもしろいですね。これも読み込むものを衛星で判別できる大きなものにすれば実現可能だと思います。
世界中を使うなら、今、SDGsとして地球環境への課題に注目が集まっているので、世界各地にQRコードをちりばめて、その場所の環境課題にひもづいたストーリーを展開していくと、より世界規模でどんな人でも楽しめるマンガになるかもしれません。
ちなみに、世界にはアルファベットに見える地形がたくさんあるので、ABCを見つけたらこの話に進んでねってこともできるかもしれません。これはQRコードというよりパスワードに近いですが、文字のような地形的な特徴を使いながらストーリーを進めるということもできそうです。
【5】傘を使ったキャンペーン
荻野:こちらはファッション分野とのコラボを考えた企画です。
さきほど、上空から見えるのは最高の解像度でも人影くらいだとのお話がありましたが、傘のサイズなら意外と見えるんじゃないかなと。
特定の色や素材の傘を指すことで一体感を生み出す施策、あるいは傘から見るファッションリサーチやマーケティングなどの可能性はいかがでしょう?
田中:サイズとしては人影よりは見える可能性はありますが、傘を使う機会、つまり、雨雲があると地表の様子が見えないんです。
でも、工夫すれば見えるかもしれない事例を紹介しますね。
使うのは、妊婦さんのお腹の中が見えるエコーのようなデータが撮れる「SAR衛星」です。SAR衛星なら、雲で遮られた地表の様子もわかります。
SAR衛星が放つ電波は金属によく反射するので、傘のビニール部分を金属製にしてみるなど工夫をすれば、はっきりと写すことができるかもしれません。
たとえば地方の野外フェスで雨が降った場合、みんなでそういう傘をさすと、SAR画像で見たときに傘の数だけ衛星データに光が写って面白い演出になりそうです。
【6】超俯瞰・花火大会
荻野:続いて、打ち上げ花火は下から見るか横から見るかと言われていますが、実は上からも見られるのでは?超俯瞰で味わう花火体験なんていかがでしょう?
田中:地上の花火は、人工衛星からも見ることはできます。
実際に撮影された画像がこちら。ただ、人工衛星は秒速7.9kmくらいのものすごい速さで地球の軌道を回っているので、ムービーで撮影しても同じ場所を見られるのは長くても5〜10分ほどです。
なので、タイミングよく撮影できるかは良く調べておかないといけないですね。
でも、たとえ一枚だけパシャっと撮影したものだったとしても、通常は絶対に見られない視点の光景なので、自分が行った花火大会の衛星写真がもらえたりすると面白い演出になりそうですね。
【7】フェス会場の音量&音域を可視化
荻野:フェスの会場で「この音はここまで聞こえる」「どこまで届くか」などをチェックし、ステージ設計に活用することはできるでしょうか?
田中:「音がどこまで聞こえるか」という点では、宇宙は真空で音が全く聞こえないために観測するのはむずかしそうです。
でも、音がどこで響きやすいかを推測することはできそうなので、会場設計に使うことはできるはずです。たとえば、周囲の山の起伏がわかっていれば、やまびこの戻り方なども予測できるんですよ。
2020年の抱負を叫ぶため、衛星データでやまびこができるポイントを探す!(前編)
音速と距離を計算し、「1秒後にやまびこが帰ってくるのはこの距離」という予測ができるのではと考えられます。
その点を考慮しながらフェスの土地を選び、会場を設計すると、山びこをエコーとして使うコンサートもできるんじゃないでしょうか。コール&レスポンスも楽しくなるかもしれませんね。
【8】衛星データでスキンケア
荻野:最後は、美容ジャンル。湿度や気温をもとにベストなシャンプーを提案したり、日射量にあわせてスキンケアを手助けしたり。衛星データによる合理的なビューティの提案はどうでしょう?
田中:気象データを利用することで実現できそうです。実はこの分野は化粧品メーカーさんが本格的に研究に乗り出している領域なんです。
気象条件に応じてスキンケアを変えるという意味では、たとえばオゾン層の状態に応じて紫外線の強さが変わるため、そういう大気情報とからめてスキンケアの助言をするサービスを提供することは可能だと思います。
荻野:ありがとうございます!事前に弊社チームで大喜利して用意したアイデアは以上です。ダメもとで出したアイデアもありましたが、意外な衛星データ使い方もわかって、今後の企画アイデアのヒントにもなりそうです。
衛星データや衛星写真に関する“特許”はある?
続いて、特許情報に精通する「吉田・若林特許事務所」の若林裕介先生から、衛星データにまつわる特許についてご紹介していただきました。
若林:現在、特許庁のデータベースに載っている件数は、およそ1500万件です。
「特許情報プラットフォーム」を使って最新の衛星データ関連技術をリサーチしたところ、衛星データの特許・請求としてヒットしたのは、338件でした。
公開日順に100件程度をチェックしたところ、ユニークなものがいくつかありました。そのうち3つをご紹介しますね。いずれもエンジニアリングを本業としない会社が出願している特許です。
【1】公共福祉活動の可視化のための方法
若林:これは、中国のアリババ・グループが2018年に出願している特許です。
オンラインで公共福祉活動(植樹など)に寄付するシステムは寄付した実感が乏しいということで、この特許技術が作られました。
どういうことかというと、たとえば植樹に寄付をした場合、衛星画像を用いて自分が寄付して植えた樹がわかります。自分の樹だけではなく、友人の樹などもわかる仕組みとなっています。
AR的に情報を組み合わせて視覚的に表示することで樹の状態を確認でき、自分が寄付した樹が育っているか実感を持たせることができるというものです。
【2】テレビ番組用広告の提供方法
若林:これは電通が出願したすでに認められている特許です。内容は、衛星画像から農産物の収穫時期を予測する技術を、広告商品のPRに生かすというもの。
たとえばキャベツや茄子などについて収穫時期の予測を立て、それらがたくさん採れる時期にPRを増やします。
農産物の需要予測に基づいて、効率的に広告を打つことができるという特許ですね。
【3】評価装置および評価方法ならびにプログラム
若林:これは、三井住友海上火災保険がもっている、衛星画像にもとづいて保険のリスクを読みとる特許です。たとえば、宅地を上空からチェックし、将来的にこの家が空き家になるリスクをAIで判定して保険料を算出するというもの。
画像だけでは空き家発生リスクまではわからないため、周辺情報と組み合わせてAIに学習させ、保険の実績データもからめて算出すると思われます。
皆さんも保険に入るときは家の屋根をきれいにしておき、AIに低く見積もられないようにしたほうがいいかもしれません。
以上、特に気になった3つの特許を紹介させていただきました。
荻野:ありがとうございました!
まとめ
こうして1時間のセミナーが終了しました。
最後に、参加いただいたPARTYさん、アイデアを出していただいたKonelさんそれぞれから、今回のセミナーについてコメントをいただいたので紹介します。
PARTY
衛星で取得できる豊富なデータや時間の変化、また衛星データに加えて気象データなどあらゆるデータを組み合わせていくことで、見えてくるものが広がり、研究開発だけではなくエンターテイメントにおいても新しいアイデアが生まれてくる可能性を感じることができました。
Tellusは、APIやマーケットなど衛星データを活用した開発環境も用意されていて、手を動かしながらアイデアを具現化していく仕組みもしっかり整備されているという印象を受けました。
Konel
今回は大喜利という形で、Tellusさんを用いたアイデアの創出をさせていただきましたが、データの種類が非常に豊富で、アイデアの湧出が止まりませんでした。
衛星データだけでなく、今後増えていくであろうマーケットプレースのデータや自前のデータと組み合わせることでより多くの可能性を秘めていると感じます。
また、Tellusチームの皆さんは私たちの無茶なアイデアにも現実的なフィジビリティを示してくださり「これなら本当にできるかもしれない」と思わされました。
現在はベータ版の提供ということですが、今後より一層データが充実されていくのが非常に楽しみです。
Tellusは今後もさらにデータの充実を図る予定です。複数のデータを掛けあわせることで生まれるビジネスの種は無限大。ぜひ皆さんもTellusを覗いてみてください。
★Tellusの登録はこちら