関西電力が小型ロケットベンチャー・スペースワンに出資。雷予測等のノウハウ提供で事業支援へ【宇宙ビジネスニュース】
【2022年7月11日配信】一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを宙畑編集部員がわかりやすく解説します。
6月30日、関西電力はグループ会社である合同会社K4 Venturesが、小型ロケットによる衛星の輸送事業や和歌山県串本町のスペースポート紀伊の運営を目指すスペースワンと資本業務提携したと発表しました。
スペースワンは、キヤノン電子、IHI エアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行らが出資し、2018年7月に設立された企業です。2022年末に初の打ち上げを予定しています。
関西電力グループ、落雷予測などロケット打ち上げに欠かせない技術を提供
プレスリリースに掲載されている参考資料によると、今回の関西電力グループとスペースワンの提携の目的は、ロケットの打ち上げおよび射場の運営に関する協業です。関西電力グループは、エネルギー供給・通信サービスで培ってきた技術やノウハウを活かし、ロケット打ち上げおよび射場運営の支援を行います。
関西電力グループの担当者に具体的な支援内容について聞いたところ、現時点では落雷の予測や工程管理等のノウハウ提供を計画しているとのことです。
「人工衛星の打ち上げの際、雷を避ける必要があります。関西電力グループでは、電力の安定供給のために、落雷に関連した情報を保有しています。グループ会社である気象工学研究所では、落雷予測システム『カミナール』を開発し、サービスとして提供しています。精度の高いピンポイントの雷予測のノウハウをご利用いただくことで、スペースワンのロケット打ち上げの成功確率を高めることができると考えています。」
「ロケットの打ち上げでは、さまざまな部品の管理から組み立て作業に至るまで、工程を管理し、精度の高い作業を行う必要があります。関西電力グループでは、24時間365日、電気をお届けする中で培ってきたエンジニアリング能力があり、工程管理や、精度の高い作業を担うことで、射場の運営を支援していくことができると考えています。」
ロケットによる輸送事業、宇宙太陽光発電とのシナジーは?
関西電力グループは、京都大学と宇宙太陽光発電に必要となるマイクロ波送受電に関する実証を行っています。さらに、2019年6月には、このマイクロ波の送受電技術を継承した京都大学発ベンチャーであるSpace Power Technologies社に出資するなど、宇宙太陽光発電技術の開発に積極的な姿勢がうかがえます。
宙畑メモ
宇宙太陽光発電は、宇宙空間で太陽光を電気に変え、その電気エネルギーをマイクロ波などの無線で送るものです。エネルギー基本計画において、2050年カーボンニュートラル実現のための手段のひとつとして位置づけられており、着実に研究開発・実証を進めるとされています。
宇宙基本計画工程表では、「マイクロ波方式の宇宙太陽光発電技術について、2025年度を目途に地球低軌道から地上へのエネルギー伝送の実証を目指す」とされており、今後、さまざまな準備が行われていくと考えられます。
関西電力グループの担当者に宇宙太陽光発電についてうかがうと、
「宇宙太陽光発電は化石燃料に依存しない安定的なエネルギー源となる可能性があり、リーズナブルに利用できるようになれば、脱炭素に向けたゲームチェンジャーになりえると考えています。今後、技術的な実証に加え、法的な整備、採算性の検証、社会的受容の確認、設備の建設、安定的な運用などさまざまなプロセスが必要であり、動向を見守っていきたいと考えています。」
と、実用化に向けた課題は残っているものの新たなエネルギー源として有力視しているようでした。
また、今回発表されたスペースワンとの提携と宇宙太陽光発電の関連について、関西電力グループの担当者は
「宇宙太陽光発電の実現に向けては、(京都大学生存圏研究所・篠原真毅教授によると)『部品輸送等のイニシャルコストを下げるため、部品を減らす、安いロケットを開発するなど解決しなければならない』とされています。(出典)スペースワンのロケットによる打ち上げは、この宇宙太陽光発電に関する技術的な実証の際の宇宙への建設資材運搬に活用できるものだと考えています。」
と、宇宙太陽光発電の技術実証を実施する際に、スペースワンの小型ロケットがペイロードを安価に輸送する手段になり得るのではないかという期待を語りました。
宇宙インフラが“あたりまえ”に活用される社会に向けて
また、関西電力グループは宇宙事業のポテンシャルについて、プレスリリースで「宇宙インフラが“あたりまえ”に活用される社会に向けて」と題して説明しています。
この内容を踏まえ、関西電力グループの担当者に宇宙産業およびビジネスへの期待をうかがうと、このような回答がありました。
「現在の生活においても、気象衛星を用いた天気予報やGPSを用いたナビの利用など、宇宙からの情報は私たちの暮らしを便利で快適なものにしてくれています。将来的にはこれらの精度があがることも考えられると思いますし、さらなる情報も付加されていくことも期待されます。また、宇宙インフラを利用した通信サービスが出てきていますし、将来的には宇宙太陽光発電を用いたエネルギーサービスなども考えられるかもしれません。さらに、宇宙への人・モノの移動も増えてくると考えられます。
このような流れにより、将来、宇宙は『新たな社会基盤』になり、それが当たり前に使われるようになると考えています。」
近年、異分野で活躍する企業が宇宙産業に参入するケースが増えています。宇宙利用がより暮らしに身近なものになっていくにつれて、宇宙事業は企業にとってなくてはならないものになっていくのかもしれません。