宙畑 Sorabatake

特集

地球上の「火星っぽい場所」を整理。探してみると、やっぱり火星は遠かった

いつか訪れるかもしれない人類の火星移住。でも、火星に行ける人は一握り……そこで、地球上にある火星っぽい場所を文献や映画ロケ地の情報などをもとに探してみました。

JAXAが発表した「2021年度 宇宙飛行士候補者募集要項」は多くの人を驚かせました。宇宙に行けるのは大金持ちか超エリートだと思っていたのに、条件は「3年以上の実務経験と医学的特性を有すること」だけで、学歴不問とのこと。

筆者は一瞬エントリーしてみようか考えましたが、閉所恐怖症ゆえに映画『ファースト・マン』をみただけで息苦しくなるので断念。

しかし、諦めるのはもったいない。そうだ、近場で宇宙を感じられる場所を探そう。どうせなら一歩先をいって火星がいいかも。

以前、宙畑では京都と似ている街を衛星データで探しました。

だったら火星に似ている場所も探せる可能性だってあるのでは。京都と似ている街探しは、エンジニアの解析技術を用いて調査しましたが、解析技術がなくとも調べる方法はないのか?と思い、擬似火星旅行をすべく火星に似た景色をさがしてみることにしました。

(1)そもそも火星ってどんなところなのだろう

そもそも火星とはどんな場所なのでしょう。地球上で火星を探すなら、どんな条件が必要なのでしょう。

まず、火星の表面は主に玄武岩で構成されていて酸化鉄を多く含むため、太陽の光を反射して赤く見えます。内部の構造は地球と変わらず、風が吹いていることがわかっています。

大気は主に二酸化炭素(95%)で構成されており、地球と比較するとはるかに薄く、人間が呼吸することはできません。オリンパス山という高さ約27,000mの火山があり、エベレストの約3倍の高さだそう。

また、長さ3000km、深さ8000mのマリネリス渓谷があります。

生命体の可能性ははっきりしていませんが、20億年前には水があった証拠が見つかっています。

人間が火星に降り立ったことはないものの、万が一行ったとして往復で2年以上かかると言われています。映画『トータル・リコール』のように簡単にはいかないようです。

(2)似ていると言われている場所はいくつかある

火星に似ている場所は世界中にいくつかあり、研究者が探査機を走らせる実験や火星滞在に向けての訓練に利用しています。具体的にどんな実験が行われているのか、また行こうとした場合にかかる往復の時間を調べてみました。

カナダのデヴォン島

最も有名な場所は、カナダの北端にある無人島のデヴォン島でしょう。地球上で最も火星に近い環境と言われており、NASAのメンバーが毎年やってきて、月や火星の探査技術の検証や生活管理実験を行なっている場所として知られています。

Google Earthで「Mars on Earth」と検索すると表示されます。

気温は夏でも最高10℃程度にしかならず、冬には-50℃近くになることも。降水量は少なく、約2300万年前に隕石が落下したことでできたホートン・クレーターがあります。

残念ながらデヴォン島には一般人が足を踏み入れることはできません。Googleストリートビューのスタッフたちが特別にデヴォン島に入りましたが、これはかなり特別なこと。

アタカマ砂漠、チリ

NASAが火星探査車のテストを行なっているチリのアタカマ砂漠。2011年に観測を開始し、ブラックホールを撮影するのにも活躍したALMA望遠鏡があるところでもあります。

年間の降雨量が10mm以下という乾燥した場所で、赤っぽい砂が広がります。気温は夜間0℃、日中40℃程度。

最寄りの飛行場:アントファガスタ
成田からの飛行時間(片道):32時間
アントファガスタ空港からの陸路:約9時間
往復にかかる時間:約82時間

ユタ州ハンクスヴィル、アメリカ

将来的な火星移住に向けて、世界中の研究者が2週間ずつ滞在して擬似火星実験を行う施設「MDRS(Mars Desert Research Station)」があります。

半乾燥気候で、年間平均気温は約11℃、年平均雨量は146.mmとのこと。

最寄りの飛行場:モアブ
成田空港からの飛行時間:約38時間
モアブ空港からの陸路:約2時間
往復にかかる時間:約80時間

オリサバ山、メキシコ

標高5,675mのメキシコ最高峰の火山です。メキシコの研究者たちは、火星を植民地化した場合に、どうやって居住可能な場所にするかの研究をこの場所で行なっているそう。標高4,000mまで樹林帯があり、生命維持が可能な最も標高の高い場所でもあります。そのため、火星のような厳しい環境でも植物を育てられるのかが主な研究のひとつとなっているようです。平均年間降水量は1,600mm。

最寄りの飛行場:ベラクルス空港
成田からの飛行時間:約31時間
ベラクルス空港からの陸路:約4時間
往復にかかる時間:約70時間

エルズミア島、カナダ

カナダ最北部にある有人島。2006年にNASAのエンジニアが2週間滞在して1.8mの穴を掘りました。この時に使ったドリルは、約60Wの電力で動いていたそう。石油掘削装置と家庭用ドリルのハイブリッドのような道具で、似たようなものが、将来的に火星の水や生命体の調査に使われる可能性があるようです。

冬の間は雪と氷に囲まれてしまうエルズミア島は、5月から8月の間にしか上陸できず、手段はクルーズ船のみ。プランによって期間が変動しますが、筆者が見つけたのはオタワから18日のクルーズコースでした。成田から出発地のオタワまでのフライト時間は約18時間。ざっくりと20日くらいかかると理解しておけばいいかもしれません。

カリフォルニア州デスバレー、アメリカ

NASAが火星探査機「キュリオシティ」のレーダー性能の地上実験を行った場所として知られています。

最寄りの飛行場:ラスベガス空港
成田からの飛行時間:約14時間
ラスベガス空港からの陸路:約2.5時間
往復にかかる時間:約33時間

ワディ・ラム、ヨルダン

映画『ミッション・トゥ・マーズ』(2000年)、『レッドプラネット』(2000年)、『ラスト・デイズ・オン・マーズ』(2013年)、『オデッセイ』(2015年)などの撮影現場として知られる場所です。ワディ・ラムの赤い砂は酸化鉄によるもの。気候は穏やかで冬でも0℃を下回ることはありません。年間降水量は100mm程度なので、映画の撮影に重宝されるのも納得です。

最寄りの空港:アカバ空港
成田からの飛行時間:約39時間
アカバ空港からの陸路:約1時間
往復にかかる時間:約80時間

張掖丹霞地貌、中国

「七彩山」の異名をもつ中国の丹霞地形は、2002年に発見されたばかりで、赤い砂礫岩が集まった東洋のグランドキャニオン。その姿はしばし火星のようだと喩えられることがあります。

他の地域のように、実際に実験や訓練に使われたり、SF映画の撮影地になっていたりするわけではありませんが、実は筆者が1番行ってみたい「火星っぽい」場所。火星のことがほとんどわかっていなかった頃にイメージした、理想の火星のような雰囲気がありませんか。色とりどりの岩や木があったり、フレンドリーだけど凶暴化したら怖い異星人がいたりといった、「こうだったらいいな」を具現化しているよう。

夏には30℃、冬には−10℃になることも。しかし、他の場所と比較すれば穏やかな気候といっても差し支え無さそう。

最寄りの空港:張掖航空
成田からの飛行時間:約15時間
張掖航空からの陸路:約1時間
往復にかかる時間:約32時間

(3)火星は遠い。でも、火星に近いところも遠い

ちょっと調べてみただけで、火星ほどではないにせよ、火星に似た場所ですら日本からはかなり遠いということがわかりました。一番近くて身近に感じられるのはデスバレーでしょうか。

しかも、火星探査機のテストを行ったり、研究者が長期間にわたる訓練を行ったりするのは、厳しい環境ばかり。「火星に憧れてきました」程度の覚悟では遊びに行けなさそうです。

では、条件は火星に近くなくても、少しでも火星の雰囲気を味わえる場所は日本にはあるのでしょうか? いくつかの条件を照らし合わせて探してみることに。

日本で探したい火星の特徴を以下の2つに絞って探してみました。

1)赤い砂
酸化鉄を多く含む砂や岩が集まる場所。

2)楯状火山
火星には、高さは約27,000mのオリンポス山という楯状火山があります。同じ規模のものは地球上には存在しないので、楯状火山で玄武岩を多く含み、オリンポス山の俯瞰写真に形状が似た山を探します。参照するデータは、「第四期噴火・貫入活動データベース」です。目ぼしい山をリスト化し、衛星写真で形状を確認し、最も似ているものをオリンポス山の画像と重ね合わせてチェックします。
https://gbank.gsj.jp/quatigneous/index_qvir_datalist.php

(4)果たして日本に近い場所はあるのか? 

1)赤い砂

砂といえば鳥取砂丘ですが、石英と長石が主な鉱物となり白っぽいので検索リストから外しました。

赤い砂がある場所を探すべく「red sand in japan」のキーワードで検索すると、長崎の小値賀島に「赤浜海岸」という場所があることがわかりました。

Google Mapの航空写真でみてみると、確かに赤い。

Google Mapで表示してみたところ、総面積は3,876.94平方メートルと決して広くはありません。また、海岸なので、目の前は海。両サイドには低い山があるため、火星の景色とはいえません。

さらに、赤浜海岸の砂が赤い理由は、海底火山が噴火した際に、鉄分を多く含む溶岩が流れ着き、冷えて固まる際に酸化して色が赤くなったそうです。つまり、玄武岩ではないようです。

赤い砂という観点の調査をすると、どうしても玄武岩に含まれる鉄が酸化して赤い土地となっているという場所を見つけづらいと分かりました。

※もちろん、地質データと衛星データから取得する土地の色を重ね合わせる解析を行えば、インターネット調査のみに頼らずにより効率的に望む場所を探せるかもしれません。

そのため、次の調査方法に移ります。

2)楯状火山

「第四期噴火・貫入活動データベース」で、「楯状火山」と「玄武岩」のキーワードを含む山をピックアップしたところ、11ヶ所見つかりました。

主な岩石を玄武岩だけにすると京都府の「宝山」、兵庫県の「神鍋火山群」、島根県の「隠岐島後」、長崎県の「小値賀島火山群」の4ヶ所、また、カルデラをキーワードに含めると東京都の「伊豆大島」「伊豆鳥島」 の2ヶ所のみに絞られました。

そこで、伊豆大島と伊豆鳥島について、Google Mapの航空写真を確認することとします。

■伊豆大島

■伊豆鳥島

航空写真だけを見ると、伊豆大島の中央にある裏砂漠が日本では珍しい場所のように思えます。また、伊豆鳥島の見た目も”火星っぽい”場所と言えるのではないでしょうか。

続いて、標高データなども比較してみます。

まず、火星のオリンポス火山の等高線が以下になります。

ADVANCING EARTH AND SPACE SCIENCEより
伊豆大島
伊豆鳥島

いかがでしょうか。伊豆鳥島は、島全体がオリンポス山に似ているようにも思えます。もちろん、厳密には違いますが、少なくとも楯状火山であり、主な岩石に玄武岩があり、かつカルデラがあるという条件が3つ、もっと言えば、無人島であることと、交通手段が八丈島からのチャーター船かヘリコプターのみで東京都から許可が必要というアクセスの悪さも入れれば5つも揃っています。

一度は開拓を試みたものの、今では一般の人が入ることが禁止されているようです。

気軽な気持ちで始めた身近な火星探しが、赤浜海岸と伊豆鳥島に辿り着き、筆者の中では「やはり火星は(地球上であっても)遠い」という結論が導き出されました。

実際に火星にいくことはできないけれど、いった気持ちだけでも味わいたい!という方は、デスバレーや丹霞地形、ワディ・ラム、そして赤浜海岸への旅行を検討してはいかがでしょうか。