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アルテミスⅠがいよいよ打ち上げへ。相乗りする「オモテナシ」の月面着陸成功確率は30%、そのワケは?【宇宙ビジネスニュース】

【2022年8月28日配信】一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを宙畑編集部員がわかりやすく解説します。

Credit : NASA

新型ロケット「SLS」の初号機が、いよいよ8月29日に打ち上げられる予定です。

このSLSロケットを用いて月面有人着陸を目指すアルテミス計画の最初のフェーズであり、月周回軌道に無人のオリオン宇宙船を送り込む「アルテミスⅠ」が実施されます。アルテミスIには10機の探査機が搭載され、うち2機は日本の探査機です。

JAXAが8月26日に開催した、SLSロケット初号機に相乗りする日本の超小型探査機「OMOTENASHI(オモテナシ)」と「EQUULEUS(エクレウス)」についての記者説明会で語られた内容からは、相乗り打ち上げならではの難しさが見えてきました。

アルテミスⅠに相乗りする日本の2つの超小型探査機

オモテナシとエクレウスは、2015年8月にNASAがアルテミスⅠの打ち上げにあたり、相乗りさせる超小型衛星を国際パートナーに募集したことがきっかけとなり、始まったミッションです。

オモテナシのミッションは、月面着陸技術の開発・実証およびSLSロケットから切り離されてから月に向かう間の放射線環境の測定です。初めて月面に着陸する日本の探査機になると見られていることで注目されています。
エクレウスのメインのミッションは、地球-月系のラグランジュ点L2点への飛行を通じて、太陽-地球-月圏での軌道操作技術を実証することです。

記者説明会資料より Credit : JAXA

NASAの募集内容やオモテナシとエクレウスのミッションの詳細については、こちらの記事をご覧ください。

オモテナシ、着陸成功確率は30%程度

SLS搭載超小型探査機プロジェクトチーム チーム長 橋本樹明さんによると、NASAがアルテミスⅠに相乗りさせる衛星を募集した2015年はほとんどなかった月面着陸ミッションとしてオモテナシは提案されました。

大気がない月面に着陸するには、落下のスピードを減速する大きな推進力が必要です。さらに月面までの距離を測定する着陸レーダーなどのセンサも搭載する必要があり、従来の月面探査機は大型のものが一般的でした。オモテナシには、低コストの超小型探査機が月面に着陸できる技術を開発・実証し、月面探査の敷居を下げることで、大学や中小企業、あるいは個人でも探査を可能にする狙いがあります。

ミッションシーケンス Credit : JAXA

オモテナシは、固体ロケットモーターで減速しながらも、着陸時に衝撃がかかるセミハードランディング(セミハード着陸)が予定されていて、1万G(地上の重力の1万倍)程度の衝撃が機体に加わっても装置が壊れないように設計されています。

宙畑メモ
SLS搭載超小型探査機プロジェクトチームの橋本樹明さんによると、国際的な統一基準はないものの、月面衝突速度がおおむね10m/秒を超えるとセミハードランディング、それ以下はソフトランディングに該当するそうです。

軌道決定の精度などの誤差を加味して、オモテナシの月面衝突速度が75m/秒以下となり、着陸が成功する確率は60%だと見積もられていました。

しかしながら、現在予定されている8月29日に打ち上げが実施された場合は、オモテナシが月に到着するときは太陽が月の影に入っていて、太陽光が当たらない時間が非常に長くなることが判明しました。

記者説明会資料より Credit : JAXA

月面着陸のための減速(DV2)の方向が垂直に近づくほど、オモテナシの月面衝突速度は小さくなり、衝撃を抑えられます。しかしながら、日陰を回避するために着陸地点を当初の検討よりも緯度が高い場所に再調整する場合には、月面着陸のための地面に対する減速方向は当初予定よりも20度緩やかな60度程度となり、結果として着陸が成功する確率は30%程度まで下がると推算されています。

動作確認ができないまま1年が経過

アルテミスⅠの打ち上げが延期したため、JAXAがオモテナシとエクレウスを2021年7月にNASAに引き渡してから、1年以上が経過していて、その間探査機の動作確認ができていません。チーム長の橋本さんは、オモテナシの状況について、こう説明しました。

「JAXAの探査機は、ロケットに乗せてから少なくとも数カ月で打ち上げますし、直前まで健全性をチェックしますが、我々はもう1年前に(NASAにオモテナシを)渡したきりで、探査機のチェックも何もしていないので、確かに非常に不安はあります。ここが絶対に駄目だというところは特にありませんが、やはりこれだけは長く時間を置いて打ち上げたことは今までないので、不安はあることはあるという状況です」

橋本さんによると、オモテナシは引き渡した後もNASAが定期的に充電を行なっているため、バッテリーは満充電に近い状態で打ち上げられるといいます。また、アルテミスⅠが打ち上げられるケネディ宇宙センターは、海が近く、湿度も高いため、電子部品が腐食しないように事前にコーティングによる対策をしているそうです。

また、SLS搭載超小型探査機プロジェクトチーム 副チーム長 船瀬龍さんは、オモテナシと同様にエクレウスも定期的に充電を行なっているため、バッテリーは問題ないと説明した上で、動作確認ができていないことに対する不安を語りました。

EQUULEUSのイメージ Credit : JAXA

「動作確認ができないまま1年が経過していますので、絶対に大丈夫だとは言えない状況なのは、オモテナシと同じかと思います。ただ、明らかにこの1年間の待機で駄目になるような要素は特にないとは思っているので、おそらく大丈夫だとは思ってはいます。しかし、搭載した後にここまで打ち上げまで期間が空くというのは超小型衛星、普通の衛星でもなかなかないことだと思いますので、未知の領域だというふうに考えております」

ロケットに搭載される相乗り衛星は電源がオフの状態で搭載されるものの、自然放電によりわずかに電力を消費してしまうため、長期間放置することでバッテリが枯渇する可能性があります。そのため2つの探査機のバッテリーについて話題に挙げられていますが、今回は定期的に充電されているため問題はなさそうです。

2つのミッションは、アルテミスⅠの相乗り衛星の募集がきっかけで始まりましたが、相乗りするがゆえの難しさにも直面していることがわかりました。オモテナシとエクレウスの挑戦にぜひ注目してください。

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