宙畑 Sorabatake

ロケット・衛星

宇宙ビジネスの登竜門!S-Booster 2022最終選抜会!優勝したのは○○のビジネス!?

2022年12月に実施されたS-Booster最終選抜会の様子と各チームの内容を詳しくお伝えします!

(1)S-Boosterとは

S-Booster 2022最終選考会の様子 Credit : ©S-Booster

S-Boosterとは、宇宙に関するビジネスアイデアを専門家と共にブラッシュアップし、資金調達に繋げることを目的とする、内閣府主催の宇宙ビジネスアイデアコンテストです。

2017年から始まり、今回が5回目の開催となる本イベントですが、専門家によるメンタリングを通じてアイデアを磨き上げるという点が、通常のビジネスコンテストとの最大の違いです。

なお、最終選抜会では、投資家や大企業等の前でプレゼンを行い、ビジネスマッチングを促進。優勝者には賞金1,000万円が授与されます。

イベントページはこちら
https://s-booster.jp/2022/

(2)最終選抜会概要

本イベントは、4月にアイデアを募集し書類選考や予選、関係省庁やメンターによるアドバイスを通じたアイデアのブラッシュアップを行ってきました。

そして、2022年12月、最終選抜会が実施され、日本チーム7つ含む11のアジア各国の団体がプレゼンを実施し、優勝チームが決定しました。

【最終選抜会概要】
日時:2022年12月15日(木)14:00~18:30
会場:日本橋三井ホール(〒103-0022 東京都中央区日本橋室町2-2-1 COREDO室町1 4F・5F)及びオンライン

最終選抜会の概要は以下のURLから確認できます。
https://s-booster.jp/2022/finalround.html

(3)入賞チームのビジネスアイデア紹介

S-Booster2022にて、審査員からの高い評価を受け、見事表彰されたビジネスアイデアをご紹介いたします。

①革新性②社会発展性③実現・収益性の3つの観点で審査員からの評価を受け、最優秀賞、審査員特別賞、アジア・オセアニア賞、各スポンサー賞が選定されました。

1.最優秀賞、RiskTaker賞
アイディア:ハイブリッドエンジンの大量生産・販売
チーム名:MJOLNIR SPACEWORKS

S-Booster2022にて最優秀賞を受賞したのは、ハイブリッドエンジンの大量生産・販売を提案したMJOLNIR SPACEWORKSです。

現在主流の液体ロケットは、極めて高い加工品質が求められるため、量産が難しく、年間数十基が打ち上げの限界となっておりました。

そのため、ロケット打ち上げのニーズに対し供給が追いつかず、宇宙ビジネス各社の事業上のネックとなっていました。

この課題に対し、MJOLNIR SPACEWORKSが提案したのが、要求加工精度が低く、無溶接できわめて安全なハイブリッドエンジンを大量生産して提供するアイデアです。

MJOLNIR SPACEWORKSが持つ独自の技術により、①安全で、②構造がシンプルな、③安価なロケットエンジンの製造を可能にしています。

また、MJOLNIR SPACEWORKSはロケット製造における業界の構造転換を提案します。

従来のタンク・エンジンから打ち上げまで垂直統合・一気通貫で行っていた仕組みを、水平分業にすることで、ロケットの更なる大量生産を実現するアイデアを提案しました。

本アイデアにより、ロケットエンジンを自動車のエンジンのように大量生産→提供して、宇宙利用のハードルを下げることが出来るのです。

衛星ビジネスの大前提は宇宙に行けること。

衛星ビジネスの根本的な課題に対するソリューションであることが高く評価され、最優秀賞とRisk Taker賞のダブル受賞となり、賞金1,000万円(加えてRisk Taker賞の賞金50万円)を手にしました。

2.審査員特別賞
チーム名:TSUKIMI(月見): Lunar Terahertz surveyor for SUbKIlometer- scale MappIng
アイディア:<Space Treasure Map>月・小惑星の資源宝地図

S-Booster2022にて審査員特別賞を受賞したのは、月・小惑星の資源宝地図を提案したTSUKIMI(月見)です。

近年、民間主導による月面ビジネスの創出が活発化してきていますが、その中で、月面開発に必要となる資源・エネルギーをいかに調達するかが大きな課題となっています。

その資源として大きく注目されているのが、水資源です。実は月には水以外の資源が少なく、持続的な月面開発のためには、水を現地調達する以外、方法はないとも言われています。

しかし、水を地球から輸送する場合、年間約80兆円かかるという試算が出ており、月において水を現地調達する方法が模索されてきました。

地球上で水を採掘する場合に予め水脈を調査してから採掘を始めるのと同様に、月においてもある程度見当をつけて採掘を始める必要があります。

Tsukimi(月見)は、月面の水資源を衛星に搭載したテラヘルツ波を用いて探知し、水資源マップとするアイデアを提案しました。

月の水資源からはじまり、いずれは各小惑星の資源宝地図も作成し、顧客に最適な情報を提供していきます。

今後、生活環境が宇宙へ広がっていく中、課題として未知数である資源問題を解決し得る「唯一無二のサービス」として大きく評価され、審査員特別賞を受賞、賞金100万円を手にしました。

3.アジア・オセアニア賞 100万
チーム名 LEET Carbon
アイディア LEET CARBON

S-Booster2022にてアジア・オセアニア賞を受賞したのは、世界中のカーボンニュートラル実現に向けたプラットフォーム「LEET CARBON」を提案した、LEET Carbonです。

LEET Carbonは①DaaS(Data as a Service)②Maas(Monitoing as a Service)③Carbon Marketplace ④Nature Networkingの4つのソリューションを1つのプラットフォームを通じて、脱炭素化を促進したい国や企業に対して提供していくアイデアを提案しました。

DaaSとMaaS、2つのサービスを通じて、特定の土地における森林のカバー率等のデータ収集や、森林の荒廃による二酸化炭素の吸収ロスを算定、それぞれの樹木の状況などをモニタリングすることができます。

そして、CMP(Carbon Market Place)にて二酸化炭素排出者と農家などの二酸化炭素の吸収者をマッチングします。

最後がNature Natworking。アプリを通じて一般人でも森林の生育状況などを把握することができるなど、二酸化炭素の削減に向け、個人として一歩を踏み出す機会を与えます。

緊急性の高い世界中の課題である「カーボンニュートラル」に向けたソリューションである点が高く評価され、アジア・オセアニア賞を受賞し、賞金100万円を手にしました。

4.京セラ賞
チーム名 Team BPS
アイディア リモートセンシングによる大規模プランテーションの病害および土壌水分量推定サービス

S-Booster2022にて京セラ賞を受賞したのは、リモートセンシングによる大規模プランテーションの病害および土壌水分量推定サービスを提案した、Team BPSです。

現在、マレーシアのオイルパームの15%が病害で損失を受け、年間2,000億円もの損失が発生しています。

被害を最小化するためには、病気の早期発見が重要ですが、ドローンや衛星を使った従来の解析方法では病気を早期に発見することが出来ませんでした。

そこでTeam BPSは、①スペクトル解析技術②多波長超小型衛星 2つの強みを活用することにより、病気の早期発見を可能とするアイデアを提案しました。

本技術は、オイルパームの病害の予防のみならず、土壌汚染の予防や化学肥料・農薬の提言にも活用可能であり、世界中の農業の課題解決に貢献することが出来ます。

Team BPSが提供する、衛星通信を活かしたソリューションが、京セラが掲げる「衛星通信を活かした世の中への価値貢献」というテーマと合致し高い評価を受け、京セラ賞を受賞しました。

5.スカパーJSAT賞
チーム名 株式会社 Space quarters
アイディア 宇宙溶接を用いたパネル接合型大型ステーションモジュールの建築

S-Booster2022にてスカパーJSAT賞を受賞したのは、宇宙溶接を用いたパネル接合型大型ステーションモジュールの建築を提案した、株式会社 Space quartersです。

Space quartersは、地球上で作り、宇宙でドッキングしていた「衛星モジュール」を、宇宙空間で作る手法を提案しました。

今までのモジュール製造は、地上で製造をしていたため、ロケットのサイズを超えるような大型なものを作ることは出来ませんでした。

しかし、材料をロケットに積み込み宇宙に輸送し、宇宙空間で溶接をしてモジュールを作ることで、大型のものやこれまでロケットに積みこむことが難しかった構造のモジュールを製造することを実現し、かつての体積比20倍のモジュールを宇宙に持ち込むことを可能にしました。

Space quartersは打ち上げに伴う一連の業務を全て担うわけではなく、技術の提供者として、ロケット製造や打ち上げなどを実施するパートナー企業に技術を提供する形でサービスを展開していきます。

スカパーが30年以上手がけてきた衛星通信事業の更なる拡大のためには、地球のみならず宇宙での衛星通信の活用が必要となり、そのためには宇宙で人が住めるようになることが前提となります。

宇宙空間への人類の進出ならびに通信ビジネスの発展には、宇宙上におけるロボットの活躍が必要不可欠であり、Space quartersの技術がその発展に貢献すると評価を受け、スカパーJSAT賞を受賞しました。

6.ソニーグループ賞、NEDO賞
チーム名 SpaLCe
アイディア えきくろ5.0 〜超小型液体クロマトグラフィーの進化〜

S-Booster2022にてソニーグループ賞とNEDO賞をダブル受賞したのは、えきくろ5.0 〜超小型液体クロマトグラフィーの進化〜を提案した、SpaLCeです。

今まで、液体クロマトグラフィー(えきくろ)は、液体を分析する装置として多くの場面で活躍してきました。

製薬や食品・飲料、水・土壌汚染などの分野で、物質を解析するための道具として用いられたり(えきくろ2.0)、研究所でしか使われていなかったえきくろを身近なサービスとして利用する(えきくろ3.0)など地球上で多く用いられてきました。

SpaLCeは、そんなえきくろの超小型化、超高速化に着手(えきくろ3.5)し、宇宙へ持ち込むことを提案(えきくろ4.0)しました。

宇宙への持ち込みに先んじて、来年度から地上でのテーラーメイドヘルスケアサービスを実施。

数年後には宇宙滞在者の汗を地上のデータと照合し、宇宙サプリメントの開発等を実施していきます。サンプルを地球へ送り返すことなく、宇宙での物質解析が可能になります。

2040年には月面、2050年にはスペースコロニーへえきくろを持参し、サービスを展開していきます(えきくろ5.0)。

これまで液体クロマトグラフィー活用のためには、調べたいものを研究所に持ち込む必要がありました。

今回のアイデアはその小型化に留まらず、宇宙に持っていくという斬新なものであり、宇宙のみならず地上での応用が期待できるという点が評価され、ソニーグループ賞ならびにNEDO賞をダブル受賞しました。

7. Honda R&D賞
チーム名 株式会社エイシング(AISing Ltd.)
アイディア エッジAIが提供するあらゆる場所での安全の実現

S-Booster2022にてHonda R&D賞を受賞したのは、エッジAIが提供するあらゆる場所での安全の実現を提案した、株式会社エイシング(AISing Ltd.)です。

宇宙事業において、エイシングのエッジAIが必要な理由は、対の概念として比較されるクラウドAIとの違いにあります。

クラウドAIは学習と予測の機能をクラウド上で行うものであり、通信を伴うため、多少の遅延が生じます。この遅延が宇宙と地球の距離で発生すると致命的となります。

一方、エイシングのエッジAIは、それぞれのデバイス上で学習も予測もリアルタイムで行うため通信の必要がなく、遅延が生じることはありません。

このエイシングのエッジAIを宇宙探査で用いるとどうなるのでしょうか。

はやぶさ2で起きた不具合の対処も地球からの通信を通じて行う必要なく、自律的に問題を解決することが出来たかもしれません。

今年の11月に月面着陸に失敗したOMOTENASHIに関しても、衛星軌道上に投入する際、姿勢をリアルタイムに制御できていればロストすることもなかったかもしれません。

「人に寄り添い人の移動とくらしを進化させる」という本田が掲げるテーマと、
モバイルが自律分散的に学習を続けるという点で、人に寄り添うモビリティであると評価を受け、Honda R&D賞を受賞しました。

8. 三井物産賞
チーム名 株式会社Dinow
アイディア 民間宇宙旅行におけるトータルヘルスケアサービス

S-Booster2022にて三井物産賞を受賞したのは、民間宇宙旅行におけるトータルヘルスケアサービスを提案した、株式会社Dinowです。

宇宙空間は放射線量が地球に比べてとても多く飛んでおり、国際宇宙ステーション(ISS)に2、3日いると地上での年間放射線の被ばく量に到達する特殊な環境となっています。

今までは宇宙飛行士など、宇宙に関わる人のみが宇宙空間に行くことになっていましたが、今後、一般人が宇宙に行く可能性が出てきました。

これから先、様々な方が宇宙に行き、放射線のみならず、微小重力や狭い環境での生活など大きな健康不安が生じるため、従来とは違う新しい医学検査をする必要が出てきます。

それに対しDinowでは、DNAの損傷評価を通じてこの課題に取り組んでいきます。

放射線の管理手法はこれまで、対線量で比較するものでしたが、本質的には身体に当たった放射線量ではなく、身体にどんな影響があったかを直接見る必要があります。

そのニーズを叶えるのがDNAの損傷評価なのです。

これまでDNA損傷評価は、研究所の施設と技術が必要でしたが、Dinowは自動化してデバイス一つで評価を可能にするアイデアを提案しました。

Dinowが目指すのは、これまで宇宙飛行士にJAXA等が実施してきた医学検査を民間が実施できるようにすること。

Dinow社は人材と検査項目を提供し、病院が医療設備を提供することで、民間宇宙旅行者が病院に行くだけでDNA損傷評価をできるようにします。

今後、宇宙ビジネスを発展させるためには、宇宙という特殊空間を人が住める環境にできるようにする必要があります。

人類の宇宙進出に貢献するDinow社の技術が評価され、三井物産賞を受賞しました。

9. JAXA賞
チーム名 Aumsat Technologies
アイディア Chika Mizu: Integrated Groundwater detection, tracking, prediction, forecast, estimation, and remediation by novel non-invasive techniques for irrigation management

S-Booster2022にてJAXA賞を受賞したのは、衛星データによる地下水の観測システム「Chika Mizu」を提案した、Aumsat Technologiesです。

現在、イラク人の5人中3人は水不足であり、水資源の6割を隣国から輸入しています。

その問題を解決するためにAumsat Technologiesが提案するのが、AIを活用した精密水分析により、地下水資源の探査・予測・観測を行うことが出来る「Chika Mizu」です。

本手法により、水資源確保において従来と比較して75%のコスト削減を実現。

農家や国連省庁、灌漑担当局への価値提供を通じて、既に10万ドルの収益をあげております。

水問題という地球上の重要課題に目をつけビジネス化を狙った点に加え、JAXA衛星を活用したソリューションという点も評価を受け、見事JAXA賞を受賞しました。

受賞チームに加え、今回のファイナリストは以下のページから確認できます。
https://s-booster.jp/2022/finalists.html

(4)まとめ

今回はS-Booster2022にて入賞したビジネスアイデアを紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。

入賞者のアイデアやそのビジネスモデルを参考にしていただき、今後の宇宙ビジネス創出の一助としていただければと思います。

最終選抜会の動画アーカイブはネット上でも公開されてますので、より内容を詳しく知りたい方はご覧になってみてはいかがでしょうか。

S-Booster2022の最終選抜会の詳細はこちら
https://s-booster.jp/2022/finalround.html