宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

【独自事後取材付き】宇宙ビジネスで今までの常識を変える14のアイデア!S-Booster2023最終選抜会レポート~前編~

2023年11月16日に行われた宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S-Booster2023」の最終選抜会で発表されたアイデアについて、事後取材と合わせて紹介します。前編では、全14チームのうち、最優秀賞を獲得したチームを含めた7チームを紹介します。

S-Boosterおよび最終選抜会概要

S-Booster2023審査員とファイナリスト

S-Boosterは2017年から始まり、今回で6回目を迎えた宇宙を活用したビジネスアイデアコンテスト。ロケットや衛星の利用にとどまらず、宇宙アセットを活用した地上ビジネスも対象としています。

優れたアイデアに対して、経営面・技術面などのメンタリングを経て内容をブラッシュアップする点が大きな特徴です。

最終選抜会では、投資家・企業スポンサーらに対してプレゼンを実施し、事業提携などの機会発掘を促進します。

昨年開催された最終選抜会では、国内外14チームがプレゼンを行い賞金や新たな事業共創の機会を求めて、しのぎを削りました。

【最終選抜会概要】
日時:2023年11月16日(木)13:00~18:35
会場:日本橋三井ホール(〒103-0022 東京都中央区日本橋室町2-2-1 COREDO室町1 4F・5F)及びオンライン
URL:https://s-booster.jp/2023/finalround.html
最終選抜会の動画配信:https://www.youtube.com/watch?v=aPFgTzv4TQE&t=5538s

宙畑では過去のS-Boosterについても取り上げているので、興味のある方はぜひご覧ください。
https://sorabatake.jp/tag/s-booster/

また、今回は次の賞が用意されました。審査における評価ポイントは「①イノベーション②社会的インパクト③実現性・収益性」であり、各社の事業共創の可能性も含めて評価されました。

Source : https://s-booster.jp/2023/

では、いよいよ昨年の最終選考会後の独自取材も含めた発表チームのビジネスアイデアを紹介します。すでに最終選考会から新たな進展があったチームも多いようです。

最優秀賞&NEDO賞

受賞チーム:Astromine ASTROMINE
タイトル:小惑星に、毎月いける時代を創る
紹介動画:https://www.youtube.com/watch?v=bUVk9cyqWRY
関連論文:https://arc.aiaa.org/doi/abs/10.2514/1.G006487?journalCode=jgcd
(Arxiv版)https://arxiv.org/abs/2111.11858
    
▼受賞理由(最優秀賞審査員コメント)
小惑星探査機はやぶさシリーズなどで培った技術による実現性、国がやってきた探査を世界に先駆けてビジネス化したこと、宇宙資源や惑星保護など人類に与えるインパクトが大きい。世界をけん引することを期待。

▼受賞理由(NEDO賞審査員コメント)
小惑星の多さが知られていないことに着目した点や水資源不足、日本の鉱物資源不足を解決可能である点を評価した。

アイデア詳細

現在確認されているだけでも100万個以上ある小惑星。しかし、詳細な情報があるものはたったの17個。

小惑星の素性が不明であることが米国の白書でも課題として指摘される中、JAXAの探査機開発のノウハウを活用した小惑星探査を高速で行うのがASTROMINEです。

日本の強みである機械学習を活用したスイングバイによる軌道設計を用いて、月1回(年間12回)小惑星探査を実施。従来5〜10年と300億円を要する小惑星探査を小型衛星で培った技術で高頻度かつ数億円にまで削減します。

また、NASAが保有する小惑星データは位置・速度などの軌道情報のみであるため、ここに形状などの詳細情報を探査を通じて加えて価値の最大化を図ります。

この技術は隕石などから身を守るプラネタリーディフェンスや小惑星の水や鉱物資源の事前調査などに活用が期待されます。

今まで探査機の軌道を網羅的に全探索していたものが、機械学習による高速化の恩恵を受け効率的な探査の実現につながっています。

通常、小惑星探査は①望遠鏡による観測②資源探査のプロセスで行われており、様々な企業の事業として実施されています。

ASTROMINEは、その間である小惑星の事前調査を担うことで、不明瞭だった資源埋蔵量など小惑星の価値やリスクを定量的に評価可能である点が強みとなっています。

ビジネスモデルとして、初期段階ではプラネタリーディフェンスの方面で官需を獲得し、その後民需として資源探査に向けた事業展開を構想しています。

望遠鏡技術の発達により、2028年頃に小惑星の発見数の急増が見込まれており、搭載機器を目的に応じて変更しながら、12機の衛星コンステレーションによる月1、年12回の探査の実現に向けて取り組んでいます。

▼本人にもっと聞いてみた!

Q.アイデアを実施する探査機に最低限搭載する必要のある機器は何でしょうか?
A.探査対象で異なりますが、可視光・分光センサは必須です。例えば、水や鉱物資源に対しては対象物質のスペクトルを調べるセンサが必要ですし、彗星なら質量分析を行って放出された物質を調べます。プラネタリーディフェンスに活用するときは、小惑星の質量・形状・重心などが知りたいので重力を検知する機器を搭載する必要があります。
 
Q.一度の探査でどの程度探査可能ですか?小惑星のどの部分を探査可能ですか?
A.小惑星表面については、半球の情報があれば全体の状態を推定可能です。小惑星探査機「Lucy」がこれを実現しており、コンステレーションで繰り返し探査すればよいと考えています。一方、地下資源についてはインパクタなど別の外装が必要になります。
 
Q.COSPAR惑星保護方針や資源関連の法律などの影響はどの程度考慮する必要がありますか?
A.火星とは違い探査機による小惑星汚染のリスクが小さいため問題ないと考えています。法律に関しては小惑星資源の所有権がいつどのタイミング発生するか,が気になります。
※COSPAR惑星保護方針:https://www.isas.jaxa.jp/feature/forefront/191025.html

★News★
2024年3月15日に本アイデアをもとに株式会社Astromineが始動するとのこと。今後の動向に期待です!

審査員特別賞

受賞チーム:SQUID3 Space
タイトル:ASTRID – Rethinking Spacecraft Thermal Design and Enabling Multi-Mission & Multi-Orbit Satellite Bus
紹介動画:https://youtu.be/gQImEM1YhLY
企業URL:https://www.squid3.space/
    
▼受賞理由(審査員コメント)
全ての衛星にとって避けられない熱設計において、簡単に実装可能なプロダクトで衛星開発に貢献し成果が期待できる。

アイデア詳細

SQUID3 Spaceはより高速な衛星開発に向けて、次世代熱制御技術ASTRIDを活用した新しい開発システムの提案を行いました。

従来の熱制御機器を活用した場合、形状が決まっており、反射率などの物理特性が一定のため、熱制御の設計〜試験まで衛星開発全体の15%を消費していました。

しかし、ASTRIDはテープ状で非常に軽量かつソフトウェアで物性を変更および制御が出来るため、設計自由度の高い熱制御が実施できる強みを持ちます。また、衛星表面の30%程度までなら適用できるとのこと。

これにより熱系の設計は今まで「各サブシステムの最後に行う」ものが、「各サブシステムと並行しながら設計開発が可能になる」ものに変化し、ミッション間の開発期間を40%削減可能と主張します。

提供:SQUID3

ビジネスモデルとして、ハードウェアの販売に徹し、提供するサービスは低軌道、静止軌道、シスルナ領域の3つ。Northrop Grummanなどが支援を表明しており、今後JAXAの熱制御の専門家やベンチャー企業とのフィージビリティスタディを経て開発を行う検討をしていると語ります。

また、素材の耐久性、物性の劣化、ライフタイムなどの評価は今後2025年頃のISSにて検証予定です。

※発表では登場しませんでしたが、反射率の制御を活用することでターゲットマーカーとしての運用することで、ドッキングの視覚的支援や衛星を不可視化(ステルス)にする用途も見込めます。

▼本人にもっと聞いてみた!

Q.White Paper上でASTRIDのモードはlight modeとdark modeのみの記載でしたが、原理的にはその中間状態への変更や、各モードを場所ごとで部分的に制御することは可能ですか、今後の展望としてこれらの機能の開発の可能性はありますか。
A.可能であり、中核機能の一つでもあります。ASTRIDテープ付属のコントローラにより宇宙機表面の吸収率を0.05~0.9の区間で自由にプログラム可能です。また、軌道上運用におけるデューティーサイクル(電圧のオンオフが全周期のうちどの程度か)も調整可能で、周期の半分をライトモードに、もう半分をダークモードに設定することも可能です。
 
Q.ASTRIDと既存の熱制御機器はそれぞれメリット・デメリットがあり、場合によっては棲み分けする部分もあるかと思います。ASTRIDが得意な点と苦手な点(その場合の貴チームの取る対策も含めて)があれば教えてください。
A.この場では、ASTRIDと他の可変熱制御材料(サーモクロミックフィルム、エレクトロクロミックフィルム、メカニカルルーバー)の比較を行います。応答速度の観点では、他手法だと5~10分程度要するが、ASTRIDは熱光学特性を変更した際に瞬時に応答する点が強みになります。

また、ルーバーやサーモクロミック材料は放射率の遷移温度が決まっていますが、ASTRIDは遷移温度はないため、自由に制御可能です。拡張性においても、サーモクロミック材料は要求ごとに新しく開発を進める必要があるため、コストの増加につながります。しかし、ASTRIDは基本設計を維持しつつ設計要求に対応可能です。

サプライチェーンについても、手ごろな価格での購入への目途が付きつつあります。ASTRIDのデメリットとしては対象が宇宙機の表面に限定される点が挙げられます。
 
Q.熱制御による本質的なメリットは電力消費の抑制による運用期間の延長や実施可能なミッションの幅が広がること、熱制御系統の最小化による利用スペースの拡大と考えますが、ASTRIDの適用でどの程度達成可能でしょうか?ベンチマークになるような事例や試算があれば教えてください。
A.我々の考える最も革新的な側面はASTRIDが提供する熱的特性が自由に変更可能という機能です。従来の熱制御は一度設計すると反射率などの熱的特性は静的、つまり固定されるため、設計修正が生じた際のリードタイム延長や再調達の発生などの課題が生じます。

一方で、ASTRIDの導入による動的な熱的特性の設計が可能になると、ミッション間の熱開発の工程が40%削減可能です。加えて、ミッション部と統合するときでも値を自由に設定可能であるため、事前に標準バスに組み込んでおけば再設計の必要もありません。

アジアオセアニア賞

受賞チーム:Spiral Blue
タイトル:Enabling 3D virtual replicas of the Earth with LiDAR satellites
企業URL:https://www.spiralblue.space/
    
▼受賞理由(審査員コメント)
宇宙ビジネスにおいて、アクセス性・利用・スピード・データ・技術・資源が成功のキーとなるが、その点Spiral BlueのLiDAR技術が従来手法に対して非常に挑戦的であった。また、オーストラリアに限らずアジアオセアニア地域にも広く活用出来る点で将来ともに活動したいと思った。

アイデア詳細

Spiral Blueのメンバーは日常で植林活動に取り組む中、植林によるCO2吸収量が適切に計測されているのかと問い直し、LiDAR技術の活用による課題解決に取り組んだことがきっかけです。

Spiral Blueは20機体制のVidi AstraというLiDAR搭載の衛星コンステレーションとエッジコンピューティングを活用し、空中撮影よりも少ない回数かつ低コストで撮影を実施、そのデータを活用した3Dの高精細マップの構築を掲げています。

従来法の1つであるドローンは1㎞2あたり250ドル必要になりますが、衛星を活用し年1の撮影という少ない回数で空中撮影の1/4のコストかつ同等の画質で提供するとのこと。

協業他社と比較しても、エッジコンピューティング技術を活用した少ない回数で大量のダウンリンクが出来ることが差別化要因と語りました。

衛星の構成としては、Spiral Blueのコア技術であるエッジコンピューティングシステムを中心としたLiDAR観測システムで従来よりも消費電力を91%削減することが強みです。

搭載機器として、CANON製のSPADセンサ、YLPPレーザー、FUGROのspacestar positioningなどを搭載してアクセルスペースの衛星バスに乗せて、ワープスペースの衛星間通信を活用する検討をしています。

また、Cobalt platform(埋め込み API 統合プラットフォーム)を活用したデータを届けるシステムも利用しています。

既に31の商業および政府顧客と話を行い、コンステレーション構築に向けた資金調達も進行中です。

また、対象領域として炭鉱・農業・環境保全・防災・都市開発などを挙げています。

▼本人にもっと聞いてみた!

Q.オーストラリア以外の市場で好意的に捉えている地域はありますか。
A.日本市場に特に期待をしています。というのも、オーストラリアに比べて宇宙技術の利用が成熟しており、洪水や地震などの自然災害管理に向けたデータ提供など様々な利用例があるためです。まもなくアメリカ・ヨーロッパ市場の開拓も予定しており、私がバングラディシュ生まれということもあり、発展途上国への技術提供にも関心があります。
 
Q.エッジコンピューティング技術の地上検証はどの程度進んでいますか。放射線試験等宇宙利用に向けた試験は実施していますか。
A.2023年にSatellogic社の衛星に搭載され、地上ー宇宙間のエッジコンピューティング実験を行いました。また同技術を計画中のLiDAR地球観測衛星コンステレーションに適用中であり、2026年初頭の打ち上げを目指して技術開発および検証中です。

ANA賞:スポンサー賞

受賞チーム:牛乳石鹸共進社株式会社
タイトル:コップ一杯の水で爽快な湯あがりを提供する『YUAGARI』
紹介動画:https://youtu.be/aFxhD3kLQig
企業URL:https://www.cow-soap.co.jp/
    
▼受賞理由(審査員コメント)
日本人の好きなお風呂、特に「ほっこり」という爽快感が宇宙のQOL向上につながる点に価値と共感を覚えた。地球での旅に限らず、介護・災害・水不足の地域にも使える広がりを感じた。お湯を用いずともお湯に近い形になると更に良いと感じた。

アイデア詳細

「いつでもどこでも「心地よい清潔」を提供する」をミッションとする牛乳石鹸共進社株式会社のチームは宇宙で「髪を洗った爽快感」つまり「お風呂あがり」の気持ちよさを提供するプロダクトを開発しました。

風呂やシャワーの存在しないISSでは、ドライシャンプーや濡れタオルで汚れを最低限落とすのみでした。そのため、ふけの発生や菌の繁殖だけでなく、頭皮を洗えない感覚の不快感はすさまじいものだといいます。

そこで、「YUAGARI」という、石けんのような洗浄剤・温水ミスト(100ml/回)・ブラシ形状のくしを組み合わせた、爽快な湯上り感を提供し宇宙生活でのQOL向上を図ります。

特に石けんのような洗浄剤には牛乳石鹸の114年の歴史を活用した①皮脂と混ざり、はがしやすい②髪・頭皮への広がりやすさ③石けんの特性を兼ね備えた素材を活用。

ISSで利用できないエタノールも使わず、通常製品と同等の製品テストを行い、洗浄剤が頭皮に残っても問題ないように作られています。

使い方は非常にシンプル。くしで髪をとかす様に使い、洗い終わったらタオルでふくだけ。

頭皮にミストを行きわたらせて風呂のような暖かさを提供することに焦点を置いており、ここがメンタル面や洗髪において重要な要素になるそう。

しかし、携帯性を維持しつつ温水を提供するという課題は残っていると語ります。

地上分野への転用として、介護や水不足の地域への利用だけでなく、産後ママなどよりお風呂に入れない人への需要も見込める点も評価されています。

また、ミストを頭皮に至近距離で局所的に届ける技術は陰部洗浄などにも活用でき、幅広い利用が見込めます。

SHISEIDO賞:スポンサー賞

受賞チーム:Whole.
タイトル:Next Generation Space Nutrition
紹介動画:https://youtu.be/OQxnjo0QhO8
企業URL:https://whole.green/
関連URL:
https://subak.org/blog/2loe5oxh0ocr41vt0w0dg25mwx0kye
https://groundcover.grdc.com.au/innovation/industry-insights/processing-technology-a-game-changer-for-nutrient-extraction
https://futurealternative.com.au/whole-to-bolster-winx-technology-with-1-5m-seed-raise/

▼受賞理由(審査員コメント)
宇宙のような限られた環境で効率的な栄養補給が可能である価値のみならず、技術の独自性や化粧品の製造などに転用可能な汎用性を感じた。

アイデア詳細

月面開発や火星探査などを行う際、長期間の移動や活動が予想されるため、如何に効率よく資源を活用するかがカギとなります。

特に、宇宙空間では食料生産能力は限られるため、長期間保存、フードロス最小化、栄養価の保存が求められます。

そこで、Whole.は高圧加工技術により細胞レベルで液状に圧砕しながらも栄養価を維持する技術WINX™を開発しました。

圧砕により微小粒子レベルまで食材を小さくすることで、Bioavailability(生物学的利用能:人体に投与された薬物のうち、どれだけの量が全身に循環するのかを示す指標)の向上、常温保存可能、消費期限の延長(バクテリアもまとめて破砕するため)も可能になります。

1/3は食品加工の時点でフードロスが生じている中、WINX™の利用でほぼ0にすることが可能です。また、動物実験から同量の餌でより成長する(栄養を吸収している)ことも分かっています。

Source : https://www.youtube.com/watch?v=OQxnjo0QhO8

既にオーストラリア国内の大学や食品メーカとの450を超える実験を行い、機器の開発、成果物の組成、機能特性などを様々な観点で特許化を予定しています。

今後は宇宙飛行士が活用する栄養素に注目した開発や極限環境への栄養価を維持した状態での輸送法といった開発を行いながら、顧客の事業に対して技術のライセンス料でロイヤリティを獲得する計画を発表しています。

▼本人にもっと聞いてみた!

Q.圧力加工に向いていない食材はあるのでしょうか。その場合、事前に何らかの処理が必要になるのでしょうか。
A.WINXは、ほぼすべての食品に活用できます。圧力加工により食材すべて(Whole)を無駄なく取り込み、栄養の生物学的利用能(bioavailability:投入された栄養がどれだけ全身に循環するか)を高めることが可能で、粒径を調整すれば食品・飲料にも利用可能です。特定の材料(オーツ麦やその他のデンプンを多く含む投入物など)は酵素による前処理が必要ですが、加工に必要な前処理であり、栄養的に補助するものでありません。
 
Q.圧力加工による栄養価の保存により一番恩恵を受ける成分は何でしょうか。また、加工する際に逆に壊れてしまう栄養素はあるのでしょうか。
A.栄養価の保持に限らず、生物学的利用能の向上がWINXの重要なポイントです。豚の動物実験で加工したジャガイモの皮を与えた際には、飼料要求率(畜産物1kg当たりの生産に要する摂取飼料数量)が7〜8%改善しています。
 
Q.どの程度の食品を加工するために、どの程度のリソース(金額面、時間、スペースなど)が必要になるのでしょうか。
A.現時点では、1500L/hrの圧力処理済みの液体(スラリー)の実績と1500L/hrの規模への対応技術が確立しています。コアな装置の設置は4~6m2で済み、初期設備投資費用は通常150万~300万豪ドルで技術利用や特定の用途によりロイヤリティの継続的な支払いが必要になります。

スカパーJSAT賞:スポンサー賞

受賞チーム:AOZORA
タイトル:民間気象衛星による新気象サービス構築
    
▼受賞理由(審査員コメント)
線状降水帯の情報の社会的な実用性・必要性の理解度の高さ、マイクロ波を活用した技術力がスカパーとの事業のシナジーを生むと期待できる。光データ中継などと組み合わせることが出来ればさらによい。
 
関連論文:
・アメリカの小型気象衛星の事例
1. `Technology development for small satellite microwave atmospheric remote sensing’ W. J. Blackwell, 017 IEEE MTT-S International Microwave Symposium (IMS), Honololu, HI, USA, 222 – 225 (2017)
2. `Overview of Temporal Experiment for Storms and Tropical Systems (TEMPEST) CubeSat Constellation Mission’ S. C. Reising et al., 2015 IEEE MTT-S International Microwave Symposium, Phoenix, AZ, USA, 1 – 4 (2015)
 
・マイクロ波放射計の有効性、また小型コンステの有効性を示す論文
3. `The growing impact of satellite observations sensitive to humidity, cloud and precipitation’ A. J. Geer et al., Q. J. R. Meteorol. Soc. 143 3189 – 3206 (2017)
4. `The alternative of CubeSat-based advanced infrared and microwave sounders for high impact weather forecasting’ LI Zhenglong et al., ATMOSPHERIC AND OCEANIC SCIENCE LETTERS VOL. 12 NO. 2 80–90 (2019)
 
・気象においてデータと両輪で重要な予測技術に関して、特に最近発展著しいAI気象に関わる論文
5. `Learning skillful medium-range global weather forecasting’ R. Lam et al., Science 382 1461 – 1421 (2023)
6. `Accurate medium-range global weather forecasting with 3D neural networks’ K. Bi et al., Nature 619 533 – 538 (2023)

アイデア詳細

近年激甚化する自然災害の影響で経済損失は20兆円以上といわれ日本は米中に次ぐ被害を被っています。特に風水害が7割を占め、その中でも線状降水帯に注目が寄せられています。

線状降水帯とは、次々と発生する積乱雲が線上に列をなし、長時間にわたる大雨を降らせる自然現象です。発生メカニズムが不明で気象庁も十分な予測が出来ないとしています。

2022年時点で3/13の的中率および予測できなかった事例が8件と正確な予測が困難であることが分かります。

そこでAOZORAは日本の強みである国内初のマイクロ波を用いた民間気象衛星で線状降水帯など激甚化する自然災害に対応するアイデアを提案しました。

気象分野は上流が官、民間は下流のみを受け持っており、官民一体の民間衛星による気象情報の利用推進を観測から予報までワンストップで行うことが目的です。

気象情報における官民一体の活動は海外では行われており、成果物の買取といったアンカーテナンシーの事例は多くあるとのこと。

現在、気象観測は静止軌道衛星の遠赤外線による観測、低軌道衛星のマイクロ波による観測がなされています。それぞれ観測頻度や雲の下の観測などの違いがあり、数時間で様相が変化する線状降水帯を安定して観測するのは困難です。

そこで、マイクロ波センサ搭載のCubeSatによる海上域の水蒸気量などの高頻度観測を目指します。なお、大型衛星の補完を行うのが本衛星の立ち位置であると強調しています。

観測幅(swath)の広いCubeSatを低軌道上の軌道を複数混合して利用することで、観測場所を絞れば1.5~2時間ごとに観測可能になるとしています。

災害に対する即時性は、衛星間通信や中継衛星などの導入で改善を図るそうです。

官民共創型の民間気象衛星の活用を通じて、気象観測から予測・社会実装まで一気通貫で行うWSaaS(Weather Satellite as a Service)の構築を目指すのが本アイデアの肝になります。

民間気象衛星はあくまで線状降水帯のモデル作成に必要なデータの観測および提供を気象庁に行うという位置づけで、観測データをその他交通・金融など様々な領域にデータに提供するビジネスモデルを構想しています。

▼本人にもっと聞いてみた!

Q.気象衛星は他に比べると運用やデータ処理などのノウハウが限られているように見えますが、気象庁などとどのようにノウハウの共有や協業を計画しているのでしょうか。
A.まさにその通りで、民間に技術が乏しく、官に蓄積されている技術の民間公開もテーマの一つです。アメリカでは気象機関NOAAが官民連携のもと、CWDP/CDPといった民間気象データ購買のアンカーテナンシーの仕組みが出来上がっています。

一方で日本では気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)(事務局:気象庁)が立ち上がり官民連携の事例もありますが、アメリカほどではありません。我々は気象衛星を起点とした官民連携を進めるべく、気象庁やJAXA EORCなどに相談をさせて頂く予定です。

また、技術開発段階から、必要な技術や知見を有する様々な大学/国立研究機関、大企業、スタートアップに協力のお声がけをしており、座組形成の準備を進めております。
 
Q.気象衛星のデータ補完として風、水蒸気、温度を中心にデータ取得を行うとしていますが、将来的なデータ拡充に向けて他の種類のデータを取りますか。あるいは、データ精度や扱いやすさの向上に努める方針でしょうか。
A.風、大気中の水蒸気量と温度が重要な中、我々のセンサーはマイクロ波放射計の中でもサウンダーを用いた水蒸気量と温度の3次元観測を行う予定です。現状、特に海上域の水蒸気量が不足しているため、まずはこの2つに注力します。

ですが、CubeSatのアジャイル開発がしやすい特性を生かして、随時センサーのアップグレード・変更しながら最適な開発を進めるつもりです。
 
Q.今回は線状降水帯に注目していますが、本技術の開発や活用により、他のどんな気象現象の解明に役立つでしょうか。
A.線状降水帯はわかりやすい題材の一つで、水蒸気量や温度の観測データは日常の気象予測から台風/豪雨の様な極端現象、多くの気象現象の予測に関係するため、これらの予測精度向上に繋がるとの期待が出来ます。

SONY賞&LocationMind賞:スポンサー賞

受賞チーム:Team Triton
タイトル:漁業者支援サービス「トリトンの矛」で実現する水産DX
紹介動画:https://youtu.be/ao22uz1l_tU
企業URL:https://www.ocean5.co.jp/
    
▼受賞理由(SONY賞審査員コメント)
弊社は地球見守りプラットフォームに取り組んでおり、水産資源に対するコンセプトにシナジーを感じた。また、SONYはGNSSの活用もしており、技術的にもシナジーを感じた。
    
▼受賞理由(LocationMind賞審査員コメント)
弊社は位置情報の組み合わせが事業でデータの取り方の重要性を理解しており、海洋データ取得に自力で泥臭く取り組んだ姿勢に惹かれた。

アイデア詳細

94%が個人事業主かつ海洋資源の減少や乱獲などによる漁獲量減少が生じている漁業において、持続可能性を担保し、水産文化を守り、食卓から魚が消えない未来を作るがコンセプトのオーシャンソリューションテクノロジーのTeam Triton。

操業場所や漁獲量などを記録する創業日誌の自動作成に向けて、準天頂衛星みちびきの位置情報や気象衛星などのデータを活用する沿岸漁業において世界初の取り組みを行っています。

また、漁業資源の管理から経験の浅い漁業者の操業支援も同時に実施し、持続可能性のある漁業に向けた開発がされています。

本アイデアの一部は、宙畑でも過去に取り上げているので、興味のある方はご覧ください。

コンセプトは「漁業者に何もさせない」。94%が個人事業主つまり一人乗りが非常に多い漁業において、負担と危険を伴った運用をさせてはいけないという過去の反省が発端でした。

スマホ向けアプリケーションの電子操業日誌を開発し、2021年の沿岸漁業者向けに実証実験を実施。

すると、年配の漁業者にはスマホの扱いが難しく、若い世代でもボタンの押し忘れ・洋上の危険な作業時の利用が困難だと分かり、自動化する必要がありました。

利用する漁業者へのインセンティブとして、自身の操業データ・漁協や市場の有する水揚げ量等のデータ・海況データの紐づけによる漁獲効率向上・事業承継への活用があります。

加えて、操業実態との照会による虚偽報告の洗い出しも可能で、各種データの精度が低い地域でも活用の糸口はあり、トレーサビリティの確保にもつながります。

また、インドネシアでは約39万隻の船舶へのVMS機器搭載の義務化が発表されており、同社は同国海洋水産省と提携し、2024年4月から導入実験を開始するとのこと。

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以上、前半の7チームのアイデア発表レポートと事後取材の回答を紹介しました。

2023年で7回目となったS-Booster、本当に様々なアイデア、かつ、実際に私たちの未来の生活や環境が変わると実感できる素晴らしいものが増えているとすでに感じていただける読者の方も多いのではないでしょうか。

後編でも、残り7チームのアイデアと事後取材の回答を紹介しています。ぜひ合わせてご覧ください。

後半のチーム紹介記事は以下になります。