Amazonのグローバルハッカソンで入賞!衛星データを使った山火事リスクの低減アルゴリズムの紹介
2022年夏に実施されたAmazonが実施する国際的なハッカソンAmazon Sustainability Data Initiative (ASDI) Global Hackathonにて入賞を果たしたチームに、その取り組み内容を伺いました!
今回の記事では、2022年夏に実施されたAmazonが実施する国際的なハッカソンAmazon Sustainability Data Initiative (ASDI) Global Hackathonにて、衛星データを使ったアプリケーションをチームで開発し入賞を果たした風間千春さんに、開発した内容を解説していただきました!
(1)Amazon Sustainability Data Initiative (ASDI) Global Hackathonとは
ハッカソンの概要
Amazon Sustainability Data Initiative (ASDI) Global Hackathonとは、2022年7月5日~8月31日の約2か月にかけて開催されたAmazonの国際的なハッカソンです。
このハッカソンの目的は、Amazonのサービスとデータを使って、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に貢献をするというものでした。
39チーム/個人(1487名の参加者)が応募して、私のチームはRunners Upという4位(賞金 $1,000 USD、$3,000 in AWS credits)をいただきました。
要求事項
ハッカソンの要求事項は、Amazonのサービスから最低1つ、Amazonが提供しているデータから最低1つを選び、国連の持続可能な開発目標の最低 1 つに貢献するソリューションを見つけることです。
サービス : Amazon SageMaker Studio Lab(トライアル無料の開発環境) または任意の AWS クラウド サービス
データ : ASDIまたは AWS Data Exchange
ASDI(Amazon Sustainability Data Initiative)は、AWS でホストされ、誰でも無料で利用できるペタバイト規模のデータへのアクセスを提供しています。
現在、ASDIカタログには、気象観測と予測、気候予測データ、衛星画像、大気質データ、海洋予測データなど、14 のカテゴリに編成された 130 (2022年夏時点)を超えるデータセットが含まれています。
17の国連の持続可能な開発目標についてはこちらを参照ください。
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_
development/sustainable_development_goals/
提出物
提出の際に必要なものは、以下の通りです。
-GitHub レポジトリーへのURL
-3~5分くらいにまとめられた動画(プロジェクトで選択された、国連の持続可能な開発目標にも言及する必要あり)
-ASDIのどのデータセットを使用したかを言及
審査基準
審査項目は以下の5つです。
-使いやすさ
-創造的
-独創的
-どのように/どの程度、AWSサービスやデータが使われているか
-国連の持続可能な開発目標と持続可能性の概念とどの程度一致しているか
(2)入賞したIndigenous Stewardship and Tech to Reduce Wildfiresの概要
ここからは実際に開発した内容について説明していきます。
詳しくは以下でも説明しています。
https://devpost.com/software/cfo2
説明動画はこちら。
着目した課題:森林火災
地球温暖化や気候変動によって、記録的な熱波が続き、世界各地で毎年史上最高の気温を記録しているのは、周知の事実です。
2021年、カナダでは49.5度、アメリカでも54度と記録し、猛暑の前にすでに干ばつに見舞われていた地域では、大規模な森林火災につながる可能性が高く、地域の住民を悩ませています。
2022年だけでカナダでの火災は5,449件、被害面積は1,610,216ヘクタールにのぼります(参考資料)。
カナダのShagowAskee財団は、先住民の知識を用いて生物多様性を維持し、森や森の生物系を守ることに力を注いできました。
今回のこのプロジェクトでは、彼らの森林の知識と、私達のリモートセンシングの技術を用いて、効果的な山火事削減活動をどのようにサポートできるかを示すソリューションを提示しました。
このソリューションは、国連の持続可能な開発目標17個のうち、目標7、8、9、10、11、12、13、15、17に貢献できたと思われます。
その中でも特に、次の2つに注目しました。
目標13.気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
目標15.陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、並びに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
アプローチの概要
森林火災は、その燃料となる枯れ木など乾燥した木材が多くある場所で広がりやすくなります。
そこで、乾燥した木材が多い地域のマップを作成することにより、消防活動のプライオリティを示すことができると考えています。
そのために森林エリアの過去の炭素貯蔵量を計算し、現在の枯れ木のマップと組み合わせ、燃料マップ(乾燥した木材が多い地域のマップ)を作成しました。
(3)アルゴリズム紹介
処理の大きな流れを上図に示します。処理は大きく二つ、①炭素貯蔵量マップの作成と②枯れ木マップの作成に分けられ、①と②を組み合わせて③燃料マップを作成します。
①炭素貯蔵量マップの作成
炭素貯蔵量の計算には、スタンフォード大学のInVest(https://naturalcapitalproject.stanford.edu/software/invest)という無料のアプリの中にある、Carbon Storage and Sequestration modelを使いました。
インプットは、土地被覆図と、その土地被覆図のクラスの炭素プールテーブルです。
アウトプットは、単位面積あたりの炭素貯蔵量(単位:トン/ヘクタール=1ピクセル)となります。
インプット:土地被覆図
土地被覆図は、ASDIの提供しているデータの一つである、ESAのWorldCover(解像度10m)を使いました。私達のターゲットとした地域では、10種類の被覆の種類(森林、水域、牧草地、市街地など)があります(マングローブはない地域)。
インプット:炭素プールテーブル
10種類の被覆それぞれに対して、文献などから単位面積あたりの炭素貯蔵量(単位:トン/ヘクタール)の平均値を設定し、被覆に応じた以下のような炭素プールテーブルを作りました。
アウトプット:単位面積あたりの炭素貯蔵量
Outputは上記に示した通り、単位面積(1ピクセル)に含まれる炭素貯蔵量になります。
私達が使ったWorldCoverは、2020年のものだったので、OutputのTiffファイルには、2020年時のターゲットとするエリアでの炭素貯蔵量がピクセルごとに表示されているマップになります。
②枯れ木マップの作成
①で作成した炭素貯蔵量マップは2020年時点のものなので、2022年の現在の様子を知るために、2020年から2022年で枯れ木に変化した場所を把握します。
枯れ木のマップについては、私達のチームは過去に、森林の中の枯れ木を検出するモデルをディープラーニングを用いて作成していました。その際に使用したデータは光学画像である、Sentinel-2です。
こちらのモデルには、2枚の画像をインプットとして使います。今回は、2020年の夏の画像と、2022年の夏の画像を使用しました。
このモデルは、最初の画像では健康的だったけれど、次の画像で健康状態が悪くなっている樹木の位置を検知します。
今回の例では、2020年の時には健康だったけれど、2022年では健康状態が悪くなり枯れてしまった樹木の位置を検知します。
Sentinel-2の私達が使っている画像の解像度は10mにリサンプリングされているので、正確には1本1本の枯れ木の位置は検知できませんが、ある程度まとまって枯れ木になっている場所を検知します。
③燃料マップの作成
①で作成した2020年時の炭素貯蔵量のマップと、②で作成した2020年から2022年にかけて枯れ木になった場所のマップをかけ合わせて平方根を取り、2022年時点での、燃料マップ(燃える可能性のある乾燥した木材が多い地域)を作成しました。
左上は解像度500m,右下は解像度2000mです。
このテーブルは、解像度2000mでの燃料マップです。XYで場所が示されています。この地域で火災が発生したときの、山火事削減活動のプライオリティに役立てるように作成しました。
衛星データを扱って苦労した点
まず取り掛かった時期が遅かった(締め切り2週間前から始めた)ので、時間的に厳しかったというのが一番大きいです。
私たちは、SageMakerを以前に使ったことがなかったので、まずSageMakerで何ができるのかを知り、私たちが見せたいと思っていることをSageMakerを使って実現させるのに、2週間はギリギリの時間でした。
個人的には、炭素プールテーブルの作成が大変でした。
こちらにも記載してあるように(https://community.naturalcapitalproject.org/t/invest-carbon-model-carbon-pool-data/1504)特定の地域の炭素貯蔵量を探すのは難しい場合が多いです。
こちらのサイト(https://cdiac.ess-dive.lbl.gov/epubs/ndp/global_carbon/carbon_documentation.html#tables)を参照することが多いですが、すべてのクラスの炭素貯蔵量が記載されていない場合もあるので、論文をあたってみたり、いろいろなところから情報を集める必要がありました。
まとめ
本記事では、Amazonが主催する国際的なハッカソンで入賞を果たした、森林火災のリスクマップの作成について、チームメンバーの風間さんに紹介していただきました。
今回ご紹介したデータの多くはオープンソースであり、皆さんもアクセスできるものとなっています。興味を持った方は、ぜひデータに触って見ていただければと思います!