「道が見えてきた」アストロスケール、25年まで実証衛星を毎年打ち上げ。サービスの本格稼働を目指す【宇宙ビジネスニュース】
【2023年2月6日配信】一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを宙畑編集部員がわかりやすく解説します。
1月12日、スペースデブリ除去をはじめとする軌道上サービスを開発するアストロスケールが報道陣向けに事業説明会を開催しました。
2021年以降、衛星とデブリのニアミスが3倍に
アストロスケールの創業者兼CEO 岡田光信さんによると、デブリが衛星の1km以内に接近する「ニアミス」は2020年までは月に2000回程度でした。しかし2021年のニアミスの件数は、月に6000回程度にまで急増。21年3月18日には、中国の衛星「雲海1号02」にロシアが打ち上げたロケットの残骸が衝突し、破損する事故が起こりました。
2026年から27年にかけては、現在運用中の衛星コンステレーションの世代交代や商用宇宙ステーションの打ち上げが予定されていて、宇宙環境はさらに悪化すると見られているといいます。
毎年の衛星打ち上げで技術を実証
そこでアストロスケールは、宇宙を持続可能に利用していくための軌道上サービスを本格的に提供できるように2026年から27年頃までに体制整えていく考えです。
アストロスケールが計画している軌道上サービスは、「衛星運用終了時のデブリ化防止のための除去(End of Life,EOL)」、「既存デブリの除去(Active Debris Removal,ADR)」、「衛星の寿命延長(Life Extension,LEX)」、「故障機や物体の観測・点検(In-Situ Space Situational Awareness,ISSA)」の4種類です。
衛星運用終了時のデブリ化防止のための除去(EOL)については、2021年3月に打ち上げられたデブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」が模擬デブリを捕獲する実証を行いました。
アストロスケールが模擬デブリの捕獲に成功。衛星センサや地上システムの動作確認も【週刊宇宙ビジネスニュース 2021/8/23〜8/29】
ELSA-dによって、ランデブ・近傍運用技術や自律制御技術・アルゴリズム、捕獲する衛星にあらかじめ搭載しておくドッキングプレート、運用技術などが実証されました。
また、ドッキングプレートは通信衛星コンステレーションを構築するOneWebの衛星数百機にすでに搭載されていて、2024年末に打ち上げを予定している衛星「ELSA-M」で、役目を終えた複数の衛星を捕獲・除去する計画です。
さらに、2023年は既存のデブリ除去(ADR)の実現に向けた、商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」が打ち上げられる予定です。ADRAS-JはJAXAの商業デブリ除去実証(CRD2)プロジェクトのフェーズⅠで開発されている衛星で、長期間にわたり放置された日本のロケットの上段に接近し、その運動や損傷、劣化状況を撮像します。
ADRAS-JとELSA-Mに続き、2025年も複数の衛星を打ち上げる計画が決まっています。岡田さんは「毎年、技術をきちんと作って実証していき、⽣産技術も向上させます」と意気込みを語りました。
5月にオープン予定の新拠点、量産工場や見学可能エリアも
事業説明会では体制強化に向けた動きについても説明がありました。2023年5月に移転する予定の都内の新オフィスは、オフィスエリア、500キロ級の衛星を同時に4機製造できる工場や管制室、さらに一般の方が宇宙の持続可能性について学べる見学可能エリアが設けられます。
また、アストロスケールホールディングスの子会社で、人工衛星の製造・開発を担うアストロスケールの代表取締役社長に加藤英毅さんが2月1日付けで就任することが発表されました。
宙畑メモ
グローバルの方針決めや資金調達を担うアストロスケールホールディングスの傘下に、開発や営業などを担当する各国の拠点が完全子会社として配置されています。
加藤さんは、三菱電機で衛星開発に従事した後にアメリカに渡り、タレス・アレーニア・スペースやロッキード・マーティンなどで衛星開発を行った経験を持っています。フランスや中国での駐在経験もあり、事業説明会では自身の経験を「色々な国の宇宙産業を見る経験をしました」と振り返りました。
岡田さん「道が⾒えてきた」。創業10周年を前に感じた変化
アストロスケールは2023年5月に創業10周年を迎えます。記者から意気込みを聞かれると岡田さんはこう語りました。
「何か扉を開けても、また次の扉がある。そんなことの繰り返しでございます。そのくらい(サービスの実現は)難しいものです。ただ、もう今は道が⾒えてきました。それが⾒えているのと、⾒えていないのでは全然違うんです。あとはやり切るのみです」
創業当初は、デブリ除去や衛星の寿命を延長させる事業構想について「ゴミを除去して誰がお⾦を出すんですか」と厳しい意見を言われることもあったと岡田さんはいいます。
しかしながら2022年にELSA-dによる技術実証を成功させたこと、持続可能な宇宙利用を目指すためのルールづくりが進んでいること、サービスについての問合せが増えて需要が見えてきていることから、状況が大きく変わったそうです。デブリ除去サービス開発を牽引するアストロスケールの動向に今後も注目が集まりそうです。