国内宇宙ベンチャー初の上場、ispaceの壮大な構想とリスクを見込んだ戦略的ビジネス【宇宙ビジネスニュース】
【2023年4月12日配信】一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを宙畑編集部員がわかりやすく解説します。
4月12日、月面への物資輸送や月面探査を計画するスタートアップispaceが東京証券取引所グロース市場へ上場しました。
日本の宇宙ベンチャーが上場するのは同社が初めて。同日に開催された記者説明会で、ispaceの代表取締役CEOの袴田武史さんは
「宇宙で事業をやっていくことは簡単なことではありません。ただ、不可能ではなくて、(宇宙ベンチャーが)我々のようにしっかりと事業を築き始められていることは、世の中に対しても非常に良いメッセージになると考えています」
と語りました。
複数ミッションの並行実施と月保険で財務リスクを軽減
ispaceは2022年12月に民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」ミッション1の月面着陸船(ランダー)を打ち上げ、運用を続けています。上場を果たした4月12日には、ランダーの月面着陸予定日を最短で4月26日(日本時間)に設定したことも発表されました。
月面ランダーの着陸について、記者説明会で代表取締役CEOの袴田さんはこう説明しました。
「信頼性の高いスラスターや(アポロ計画で)実績があるナビゲーションソフトウェアを使い、非常に高い確率で着陸ができるように設計を進めてきております。さらに、我々はミッションの前半で全ての機器のチェックをしています。しっかりと動いておりますので、十分に着陸できる可能性があると考えています」
海外の宇宙ベンチャーのなかには、上場を果たしたもののロケットの打ち上げ失敗等により株価が下落し上場廃止警告を受けたり、経営難に陥り破産を申請したりするケースも見受けられます。
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失敗のリスクについても、代表取締役CEOの袴田さんは言及しました。
「我々はこうした(失敗の)リスクを最大限削減できるようビジネスモデルを開発してきました。旧来の宇宙の事業は、ミッションを実施した後に、次の資金調達または予算確保をして、ミッションを実行してきました。我々はすでに3つのミッションを同時並行で開発をするだけの資金を確保して、ミッション1の学びをすぐにミッション2とミッション3にフィードバックして、技術の信頼性を高めていくということができております。こうして大きな失敗によるリスクを避け、我々は継続的な事業を実現することができています」
ispaceは複数ミッションを並行開発するための資金調達実施や顧客からの前金等を受領することで、1ミッションの成否だけで事業継続が大きく影響を受け難い事業モデルを実現しています。さらにミッション1では、三井住友海上と月保険を締結することで、ミッション失敗時の財務リスクの軽減を図っています。
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ミッション1に続く事業構想
創業以来、累計268億円を調達してきたispace。ミッション1ランダーの打ち上げ後に開催された記者説明会では、代表取締役CEOの袴田さんは、開発にかかる多額の資金を継続的に確保していくことの難しさを語っていました。
市場環境が悪化するなか、今回上場を決断した背景には「なるべく早期の資金調達を行っていきたい」という考えがあると取締役CFOの野﨑順平さんは説明しました。その一方で、黒字化への道筋も見えてきていると野崎さんはいいます。
「引き続き開発負担が続きますので、赤字の状態はもう少し続くと思います。ただし、ミッション3からは、大型の着陸船(シリーズ2ランダー)を使います。これは最大500kgまで荷物(ペイロード)を搭載でき、本格的な事業収益を目指すようなモデルになります。徐々に収益をしっかり出していって、向こう数年間での黒字化を目指していきたいと考えております」
ispaceは2024年に同社の月面探査車(ローバー)と高砂熱学工業、ユーグレナ、台湾の国立中央大学宇宙科学工学科らのペイロードを輸送するミッション2ランダーを、2025年にはNASAの商業月面輸送サービス(CLPS)のペイロードなどを輸送するミッション3のランダーを打ち上げる計画です。
ミッション1とミッション2に使用する「シリーズ1ランダー」はペイロードの搭載枠が30kg程度であるのに対し、ミッション3で用いられる「シリーズ2ランダー」は月面へ最大500kgのペイロードを輸送可能であることに加え、月周回軌道への輸送も可能な設計になっています。月面輸送事業の黒字化に向けては、この「シリーズ2ランダー」が鍵となります。
さらに記者説明会では、今後は月面輸送事業だけでなく、データ事業にも事業を広げていく構想が語られました。
「まずは輸送事業によって、しっかり売り上げを作っていきます。その後はデータが非常に重要なマーケットになっていきます。月面のデータをローバーなどで確実に取得していくことと、さらには衛星を月の周りに配備して、グローバルな(広範囲の)データを取得していきます。グローバルなデータとローカルのデータをしっかりとデータベースにすることで我々はデータビジネスを今後確立させていくことを考えています」(代表取締役CEO 袴田武史さん)
ispaceが描く壮大な構想の第一歩となるミッション1のランダーの月面着陸にますます注目が集まりそうです。