古川聡宇宙飛行士のISS滞在訓練が公開。小型衛星の放出に使用されるエアロックを操作【宇宙ビジネスニュース】
【2023年5月15日配信】一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを宙畑編集部員がわかりやすく解説します。
5月12日、JAXAはISSでの長期滞在を予定している古川聡宇宙飛行士の訓練の様子を公開しました。JAXAは定期的に宇宙飛行士の訓練の様子を公開しており、今回は2017年4月に実施された金井宣茂宇宙飛行士のタンパク質結晶生成訓練以来の公開でした。
船内と宇宙をつなぐ二重扉「エアロック」
今回公開されたのは、筑波宇宙センターの宇宙ステーション試験棟内で実施されたエアロックの操作訓練です。
宙畑メモ
エアロックは、気圧の異なる場所を人や物が移動するときに、隣り合う室内の圧力差を調節する機能を持った出入り口として使用する通路あるいは小部屋です。
引用元:エアロック
ISSのエアロックのなかには宇宙飛行士が船外活動に出るときに使用するものもありますが、日本実験棟「きぼう」は物資専用です。近年はきぼうからの小型衛星の放出などにも利用されていて、放出された衛星は319機に上ります(2023年1月11日時点)。
エアロックは船内実験室側の「内側ハッチ」と宇宙に面している「外側ハッチ」の二重扉となっています。内側ハッチを開けると、なかには衛星放出機構などを装着する電動のスライドテーブルがあります。
ISSから小型衛星を放出するときは、スライドテーブルに小型衛星放出機構を設置し、スライドテーブルを収納してハッチを閉める作業は宇宙飛行士が、外側ハッチを開けて衛星を放出する作業は地上の職員がコマンド操作で実施します。その後、内側ハッチに残った装置の取り外しは宇宙飛行士が実施する流れとなっています。
スライドテーブルが異常停止、手動で操作
しかし、今回の訓練では、電動のスライドテーブルが異常停止した想定で、古川宇宙飛行士が手動でスライドテーブルの収納を完了させることとなっていました。
スライドテーブルが異常停止することは、古川宇宙飛行士には知らされていませんでした。古川宇宙飛行士は、訓練はスムーズに実施できたことを説明したうえで、スライドテーブルが停止した際のことをこう振り返りました。
「『あ、きた』という感じでした。スライドテーブルが動いている途中、普段はしない場面で『カチッ』という音がして止まりました。状態を表示するパネルを見てみたら、全部ライトが消えていたので、電源が遮断されたと考えておりました。実際の運用においては、そういう自分が見たり聞いたりした状態を、地上の管制官の方に報告します。なぜならば、音は現場にいる人間しかわからないので、そういった情報が、何が起こったかを解明する手助けになることもありますので」
手動での操作についても古川宇宙飛行士は「マニュアル(手動)操作で動かすときはギアを選んで回します。このギアを選ぶところは、指先のちょっと微妙な感覚が必要で、テクニックが必要なところです。最初、自分が考えていた感覚と違ったので、より確実にやるためにもう一度やり直したりもしました」と振り返りました。
信頼の回復に向けて
JAXAが2016年から2017年に実施した宇宙医学実験で、データの捏造や改ざんが行われた件で、古川宇宙飛行士は監督責任があったとして1月に懲戒処分を受けました。
信頼の回復について記者から質問を受けると、古川宇宙飛行士は
「しっかり訓練を積むこと、かつ地上の管制官、技術者、研究者の方々、さらに仲間のクルーと力を合わせることで着実に運用の仕事ができることを、訓練の過程や打ち合わせを通じて、言葉ではなくお示しできると嬉しいなと考えて、日々自分にできることを続けています」
と答えました。さらに、古川宇宙飛行士はISSでの科学実験についても「科学実験の場合には、いくつか『これはこうしてください』あるいは『これはしないでください』という注意事項が手順書に書いてあります。科学の目的意義に立ち返って、だからこの制約が、条件があるということを理解したうえで、しっかり運用ができるように。決して手順書に書いてあるからそれに従って行うだけではなくて、背景まで理解したうえでできるように、そういう気持ちで訓練を続けています」と述べました。
古川宇宙飛行士は5月下旬に出国し、ドイツ・ケルンにあるESAの施設で訓練を受ける予定です。