宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

地表を撮影する衛星で、宇宙空間や衛星の様子も把握。協業から始まったアクセルスペースの挑戦【宇宙状況認識(SSA)のいま】

アクセルスペースは、HEO Robotics、NorthStar Earth & Spaceの2社と提携し、それぞれのSSAサービスに観測データを提供することを発表。各社のCEOに話を伺いました。

衛星の打ち上げ機数が増加するにつれて、安全に宇宙空間を利用していくために軌道上の宇宙機やスペースデブリを観測する「宇宙状況認識(Space Situational Awareness, 通称SSA)」の必要性が高まっています。

このシリーズでは、SSAに携わる企業や人を取材し、世界の動向を探ります。第一弾となる今回のテーマは「地球観測衛星の応用」です。

日本初の商用地球観測衛星コンステレーションを構築したアクセルスペースは、海外のスタートアップであるHEO Robotics、NorthStar Earth & Space(以下NorthStar)の2社と提携し、それぞれのSSAサービスに観測データを提供することを発表しました。

アクセルスペース社の観測サービスは本来は地球の状態を観測するためのもの。各社はSSAにおいてどのような事業を構想し、どのような経緯で提携に至ったのか、ユーザーのニーズ、今後の方針をうかがいました。

小惑星ビジネスから宇宙状況認識へ

2022年11月、最初にアクセルスペースとの提携を発表したのはオーストラリアのスタートアップHEO Roboticsでした。

HEO Roboticは、衛星運用者に軌道上の衛星の状態や動作状況、リスクや異常検知などを知らせるサービス「HEO Inspect」を提供しています。提携により、HEO RoboticはアクセルスペースのGRUS衛星のセンサにアクセスできるようになりました。11月時点でHEO Roboticがアクセスできる宇宙ベースセンサは35個。HEO Inspectの機能向上が進んでいます。

HEO RoboticはなぜSSAビジネスに参入するに至ったのでしょうか。CEOウィル・クロウさんは、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学で、複数の宇宙機で小惑星の質量を推定する研究を行う博士課程の学生でした。そして、小惑星の姿を宇宙機で撮影するサービスを提供しようと、博士課程に在籍中の2016年にHEO Roboticsを創業しました。当時は複数のスタートアップが小惑星での資源採掘の構想を発表していて、小惑星探査にビジネス界からも徐々に関心が集まってきていた時期でした。

ところが、クロウさんらはアメリカで顧客を訪問しているうちに、小惑星探査や採掘は「まだ市場がない」とわかったといいます。ターゲット層を変えて、事業をプレゼンテーションしていると、オーストラリアの政府関係者からこのようなフィードバックがあったそうです。「HEO Roboticsが小惑星向けにやろうとしていることは、軌道上にある衛星の状態を調べて、把握するのに役立つでしょう」。この言葉がきっかけとなりHEO Roboticsは事業をピボットして、SSAの事業に参入することになったのです。

地球観測衛星で、ほかの機体のダメージを把握

クロウさんによると、HEO Inspectの顧客はオーストラリア宇宙庁をはじめとする政府機関や防衛・情報機関、そして民間の宇宙企業です。ユーザーの一番のニーズはやはり宇宙機が宇宙空間でどのように変化しているかを知ることだとクロウさんはいいます。

「宇宙機の変化というのは、機体に何らかのダメージがあった、あるいは意図しない動作をしているのかを意味します。また、衛星がどの方向を向いているのか、姿勢に問題がある場合はどのくらいの速度で姿勢が変化しているのかを把握することも必要です。それによって、衛星が復旧可能かどうか、セーフモードにあるのかどうかを判断することができるのです。

さらに、衛星から観測することで、ソーラーパネルやアンテナなどの機器類が正しく展開されているか、現在の展開状態はどうなっているかを把握することもできます。これらはすべて、私たちのお客様にとって重要なことです」

アクセルスペースと提携した理由を尋ねると「衛星が素晴らしいから」と回答がありました。そのほか、HEO Roboticsはアルゼンチン発の衛星ベンチャーSatellogicや韓国のKARI(韓国航空宇宙研究院)とも提携しています。「大規模な地球観測コンステレーションを持つ企業であれば、ぜひパートナーになりたいです」とクロウさんは話しました。

HEO Roboticsは軌道上の衛星の様子を把握するために、光学センサを使用しています。今後はさらに赤外線センサと紫外線センサを使用する予定です。

ハイパースペクトルセンサは試験的に導入したことがあるものの、軌道上でどのように活用できるのかを検討している段階で、本格的な使用には至っていないといいます。

顧客のニーズは正確でタイムリーなアラート

2023年1月には、アクセルスペースと、民間として初めてSSA事業に参入した企業として知られるカナダのベンチャーNorthStarが提携を発表しました。この提携により、NorthStarはアクセルスペースのGRUS衛星の撮影データを使用できるようになりました。

NorthStarのCEOスティワート・ベインさんはSSAサービスにおける顧客のニーズをこう説明します。

「研究機関や民間企業、軍事機関、政府、全てのお客様が求めていることはひとつです。自身の衛星に何か物体が近づいたときに、より正確でタイムリーな警告が欲しい。物体がどこに行くのかを予測したい。そしてそれらの情報を簡単なフォーマットで手に入れたい。あるいは『何か今日、脅威となるものはありますか?』『私が気付いていない脅威はありますか?』という質問に答えてくれるサービスです」

NorthStarがSSAに目を向けたのは2011年から2012年にかけて、ベインさんらがNorthStarを創業する前に、人々が直面する課題は何かと考えたことが始まりでした。衛星の打ち上げ機数が少なかった当時は、宇宙空間の状況の悪化を懸念する人はそれほど多くはなかったといいます。

それでも、NorthStarがSSAのサービスを提供しようと考えたのは打ち上げられる衛星の数が飛躍的に増加し、宇宙環境の混雑を避けるために迅速に行動する必要があると予測し、NorthStarでSSAサービスを提供すると決定したそう。

また、ベインさんの活動の原動力となっているのは、現在、宇宙空間という貴重な環境を利用して私たちが恩恵を受けられていますが、これを次世代のためにも保全し続けるという思いだと話しました。

ただし、これまで創業当初の計画通りに進んできたわけではありません。NorthStarはSSAとハイパースペクトルセンサの両方の機能を持った衛星による大規模なコンステレーションを構築する予定でした。しかし、実現には膨大な資金が必要だったため、即効性があり、資本を集約させない方法を模索したところ、SSAとハイパースペクトルセンサの事業を分離するに至ったといいます。ベインさんは「スタートアップとして生き残るには、(市場に)適応することと健全な危機感が必要です。何が起きているのか、何が最善の方法なのかを予測して、対応しなければなりません」と語りました。

NorthStarは2023年に独自のSSA衛星を打ち上げ、アクセルスペースから提供を受けるデータと合わせて、強靭な観測体制を構築する予定です。さらに、2026年にはハイパースペクトル衛星を打ち上げて、SSA衛星のデータと統合していく考えです。

アクセルスペース、次世代衛星は本格的なSSA対応も検討

では、なぜNorthStarとアクセルスペースは提携することになったのでしょうか。

NorthStarはSSAサービスを開始するにあたり、すでに軌道上にあるセンサのなかから運用コンセプトが近いものを探し始めました。そして、センサの設計や協力体制などを加味して絞り込んでいったところ、候補が数千あるなかでアクセルスペースのGRUS衛星が協力を依頼する第一候補となったといいます。

Credit : アクセルスペース

アクセルスペースのGRUS衛星をSSAで使用するにあたっては、技術的な課題もあるそう。地上を観測するときは下を向いているセンサを、SSA用のデータを取得するには45度に動かす必要があります。それは依頼を受けたらすぐにOKと言えるものではなく、様々な解決すべき課題が発生することとなります。

アクセルスペース社は、NorthStarから打診を受けたときのことを「地球観測衛星だけを扱う企業としてスタートした当社の衛星をNorthStarがSSAプロジェクトで使用したいと声をかけてくださったことは、素晴らしいサプライズでした」「本当に驚きました」と振り返りました。NorthStarの技術チームから説明を受けると「これは何か可能性がある」とわかったといいます。そして2022年10月頃から、実際にGRUS衛星による撮影が始まりました。

アクセルスペースが今後打ち上げる次世代のコンステレーションは、本格的にSSAに対応させることも検討されています。アクセルスペース社はHEO RoboticsとNorthStarとの提携は「アクセルスペースにとって素晴らしいスタートです」と語りました。