宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

キーワードは「T型人材」。アクセルスペースに聞く、衛星ベンチャーで活躍できる人材とは?

2023年8月に創業15周年を迎えたアクセルスペースに、これまでの事業の変遷と現在の組織についてお話をうかがいました。「宇宙ビジネス企業で働く」ことに興味がある方は必見です。

日本初の商用地球観測衛星コンステレーションを構築し、業界を牽引するアクセルスペースは、2023年8月に創業15周年を迎えました。創業メンバーのひとりである、執行役員 Co-CTO(宇宙機技術担当)の永島隆さんは、「小型衛星を皆さんに使っていただきたいという思いは創業から一貫しています。しかし、その方法は変遷してきました」と振り返ります。

永島さんへのインタビューで、市場のニーズに応じて変化してきたアクセルスペースの事業・体制や、求める人材像を伺いました。

アクセルスペース初の衛星開発の舞台裏

アクセルスペースは、東京大学大学院航空宇宙工学専攻 中須賀・船瀬研究室の卒業生ら3人の技術者が2008年に創業したベンチャーです。これまでに9機の衛星を開発し、運用を行なってきました。そんなアクセルスペースには、これまで3つの転換点があったとCo-CTOの永島さんはいいます。

ひとつ目は、民間気象会社・ウェザーニューズとの衛星の共同製作です。2013年に打ち上げられた「WNISAT-1」の製作がスタートしたきっかけは、アクセルスペース設立前に永島さんらが取り組んでいたキューブサット衛星の開発でした。衛星に搭載したカメラによる地上撮影の実績に、ウェザーニューズが関心を持ったのです。

共同製作をしていた当時を振り返りながら、ウェザーニューズの創業者・石橋博良さんの「プロジェクトはHow Muchから語るものではない。How Wonderfulから語るものだ」と言う言葉が特に印象に残っていると永島さんは話します。

最初から大きな利益を出そうとするのではなく、自分たちが衛星を通じて生み出す価値に重点をおき、プロジェクトに取り組もうという考えです。

さらに、契約にあたっては、両社で目指す夢や理想といった哲学的な内容を含む「コト作り契約書」が取り交わされたのだとか。

そのようなこだわりを反映してか、WNISAT-1には「コトづくりの裏ミッション」として、「北極海航路を航行する船舶に向けたサポート強化」という本来の目的とは異なる、二酸化炭素排出量を測定するためのレーザーも搭載されました。

ふたつ目のビジネスモデルの転換「AxelGlobe」

衛星開発をサポートするなかで、ウェザーニューズのように、企業が自身で衛星を所有し、開発、打ち上げ、運用することは、想定以上に敷居の高いことが明らかになっていきました。そこでアクセルスペースは、ふたつ目の転換点となる地球観測プラットフォーム「AxelGlobe(アクセルグローブ)」を立ち上げます。

AxelGlobeは、アクセルスペース社が開発・運用する100kg級の小型衛星「GRUS(グルース)」による地上観測から得た衛星データの販売や解析を通じて、ユーザーのビジネス課題の解決を支援するサービスです。
※アクセルスペースはGRUSを2018年に1機、2021年に4機打ち上げ、2023年の現時点で5機の衛星を運用しています。

つまり、アクセルスペースは、製造した衛星をユーザーに販売するビジネスから、衛星活用によるソリューションビジネスへと、ビジネスモデルの転換を図ったのです。

AxelGlobeのサービス提供にあたり、衛星データの加工や解析を得意とするエンジニアをはじめ、様々な領域の専門性を持つエンジニアを採用するようになったといいます。

すでに多くの分野でのビジネス活用が進むAxelGlobeの活用事例とユーザーの声は、宙畑の記事「国内外で利活用が進むアクセルスペースの衛星画像サービス、新たに雲なし画像生成など4つの新プロダクトを発表」でも紹介していますので、ぜひご覧ください。

パッケージ化により、衛星活用の敷居を大幅に下げる「AxelLiner」

一方で、近年は「GRUSのような衛星を活用して独自のミッションをやりたい」という企業からの要望が増えてきました。そこで、2022年に新たに立ち上げた事業が「AxelLiner(アクセルライナー)」です。

衛星活用に必用となる、開発から運用、さらに各種の許認可手続きなどを含む複雑なプロセスの全てをパッケージ化したサービスです。よりクイックに、競争力のある価格で衛星活用を提供できることから、ユーザーにとっての敷居は大幅に下がります。

また、従来通りの一品生産では、急増するユーザーのニーズにタイムリーに応えられなくなる可能性が出てきたことを受け、2022年4月に機械部品の製造・販売を手掛けるミスミグループ、精密切削加工技術に強みを持つ由紀ホールディングスらと「宇宙機製造アライアンス」を組成。小型衛星の量産体制の構築を目指しています。

さらに、2024年第一四半期に打ち上げ予定の実証衛星初号機「Pyxis(ピクシス)」では、軌道上での実証に向けて、ソニーグループとペイロード(衛星に搭載する機器などの貨物)の開発などを通じた共同研究を進めています。

ソニーグループは、衛星リモートセンシングとIoTデバイスやセンサーを組み合わせ、地上の変化の観測や予兆分析に役立てる「地球みまもりプラットフォーム」構想を発表しており、Pyxisを通じて、その通信システムの技術実証なども計画しています。

永島さんは「宇宙分野で、POCのサイクルを早く回すのは簡単ではありません。だからこそ、衛星やペイロードの打ち上げを通じて、宇宙でなるべく多くのデータを取ることが大切です。それらのデータから、はじめて次の段階が見えることがあるからです。今後も共創の機会を増やすことで、サイクルを早めていきたい」と話します。

15周年を迎えたアクセルスペースの組織はどうなっている?

2023年10月時点のアクセルスペースの社員数は145人。24ヵ国から集まった外国人社員が全体に締める比率は3割を超え、社内では日本語と英語の両言語が飛び交っているといいます。また、転職者の8割以上は様々な分野にバックボーンを持つ宇宙業界未経験者。

3人の技術者によって設立されたアクセルスペースは、多様性溢れる企業に成長したのだと数字だけを見ても分かります。

では、実際にアクセルスペースはどのような組織体制で事業を推進されているのでしょうか。アクセルスペースには現在、衛星ビジネスを担う直接部門として、AxelGlobeとAxelLinerのふたつの事業本部があるといいます。

AxelGlobe事業本部は、オプティクスや先端技術に精通するエンジニア、GRUSによる観測データを処理する専門家、国内外のパートナーとともに活動する営業部隊などで構成されています。

また、AxelLiner事業本部は、ソフトウェア、通信などの衛星に搭載するサブシステム単位のチーム、衛星を自動運用するためのプラットフォーム開発や運用を行うチーム、営業部隊などで構成されています。

現在、アクセルスペースは事業拡大とともに積極的な人材採用を行っているそう。では、そこで活躍できるのはどのような人材像なのでしょうか?

アクセルスペースが求める人材像

アクセルスペースが求める人材像を永島さんにうかがうと、「プロジェクトマネジメントの経験」「T型人材」という2つのキーワードが返ってきました。

ひとつ目のプロジェクトマネジメント経験について、永島さんは
「他業界の方にもぜひジョインしていただきたい。家電や自動車、産業機械などのプロダクト開発に携わっていた方は、当社との親和性が高いです。衛星開発では、機械部品、エレクトロニクス、ソフトウェアを組み合わせ、ひとつのシステムとして機能させます。この意味で、先に挙げた分野とプロジェクトマネジメントのスタイルが近いのです」と話します。

ふたつ目のT型人材。Tの文字の縦棒は「専門性の深さ」、横棒は「技術領域の幅広さ」を示します。

衛星開発において、自分の専門領域だけを最適化することは、必ずしもシステム全体の最適化につながりません。「自分の技術ドメインと関連する他の技術ドメインの繋がりや、その繋がりが持つ意味。さらに、それらにどのような制約があり、何を最適化すべきなのか。こういったことをシステムレベルで俯瞰できる人材を求めています」と永島さん。

特に大企業からの転職者にとっては、「システム全体を見られること」がモチベーションに繋がったり、入社の決め手となる傾向があるといいます。

一方で、「シーズドリブン」な、専門知識に特化して他の領域に意識がなかなか向かない「I型」タイプの方は合わないかもしれないと永島さんは言います。宇宙工学は「目的ドリブン」であり、達成すべき目的に応じて、必要な技術や要素を学ぶ必要があります。つまり、目的に対する柔軟性が求められるのです。

宇宙ビジネス企業への転職・就職に興味がある方は、SPACETIDE Career Connectへ

本記事では、創業15周年を迎えたアクセルスペースの最新事業とその組織、そして、求める人材像について紹介しました。

わずか3人のメンバーによる衛星の受注一品生産からスタートし、今では衛星の開発から運用のほか、衛星データの提供や解析、衛星の量産化等を含むソリューションサービスを展開するアクセルスペース。

アクセルスペースの社員の大半が宇宙業界以外からの転職者であるということ、必ずしも宇宙産業に固有の知識・経験が求められるわけではないことについて、意外に思われた方もいらっしゃるかもしれません。

2023年11月17日に、宇宙産業の今を一挙に把握できる「SPACETIDE 2023 YEAR-END 」と合わせて、宇宙産業でのチャレンジに関心のある参加者による交流イベント「第二回 SPACETIDE Career Connect」が開催されます。

Credit : SPACETIDE

本イベントにはアクセルスペースも出展予定。本記事を通して宇宙産業に興味を持たれた方は、ぜひ参加してみては。

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第二回 SPACETIDE Career Connect