宙畑 Sorabatake

衛星データ

【2023年10月】衛星データ利活用に関する論文とニュースをピックアップ!

2023年10月に公開された衛星データの利活用に関する論文の中でも宙畑編集部が気になったものをピックアップしました。

宙畑の新連載「#MonthlySatDataNews」では、前月に公開された衛星データの利活用に関する論文やニュースをピックアップして紹介します。

実は、本記事を制作するために、これは!と思った論文やニュースをTwitter上で「#MonthlySatDataNews」をつけて備忘録として宙畑編集部メンバーが投稿していました。宙畑読者のみなさまも是非ご参加いただけますと幸いです。

2023年10月の「#MonthlySatDataNews」を投稿いただいたのは3人でした!

それではさっそく2023年10月の論文を紹介します。

Zero-Shot Refinement of Buildings’ Segmentation Models using SAM

【どういう論文?】
・本論文は、衛星画像における建物のインスタンスセグメンテーション(位置と形状をピクセルレベルで区別するプロセス)の精度向上を目的とする。
・従来のCNNベースのリモートセンシングモデルは、異なる地域や季節、時期によって変わる画像特性に対する一般化、つまり訓練データセットの範囲外の新しい条件でのパフォーマンス維持に課題を抱えていた中で、Segment Anything Model(SAM)と呼ばれる新しいタイプの基盤モデルを適用することで解決を図る。
・ただし、SAMはオブジェクトのセグメンテーション(物体の輪郭を認識して分割すること)には優れているものの、それらのオブジェクトが何であるか(例:この物体は犬か、猫か)を識別・分類する能力には制限がある。
・本研究では事前訓練されたCNNをプロンプトジェネレータとして統合することで、CNNの識別 / 分類能力とSAMの一般化能力を組み合わせ、衛星画像における建物セグメンテーション精度の大幅向上を目指す。

【技術や方法のポイントはどこ?】
・以下は本論文で採用している手法の全体像である。

Ali Mayladan, Hasan Nasrallah, Hasan Moughnieh, Mustafa Shukor, Ali J. Ghandour. (2023).Zero-Shot Refinement of Buildings

・本研究で利用するCNNモデルは、特に建物の輪郭を識別するのに特化しており、効率的かつ正確な特徴抽出を行うための「バックボーン」としてEfficient-Net-B3やResNet34といった構造を持つネットワークを使用している。
・CNNを用いて建物の形を正確に予測するマスクを生成し、そのマスクを元にしてSAMがピクセルレベルでのセグメンテーションを行うためのプロンプトを作成する。
・プロンプトジェネレータは、SAMがより正確に物体を区切るためのヒントを提供する部分である。
・プロンプトジェネレータは、単一点や複数点のプロンプト(ランダムに点を配置するか、建物の骨組みの形に沿って点を配置する)、またはバウンディングボックス(物体を囲む矩形)といった異なるタイプのプロンプトを生成できる。
・さらに、画像の背景やバウンディングボックスの外に配置されるネガティブポイント(対象物体ではない領域を示す点)と組み合わせることも可能である。
・SAMは、どんな物体でも識別してピクセルごとに区切る能力を持つ画像セグメンテーションモデルである。
・つまり、SAMは事前に特定のカテゴリーやタイプのオブジェクト(クラス)を学習していなくても、画像の中からオブジェクトや特徴を識別・分割することができるクラス非依存モデルである。
・このクラス非依存モデルという特徴により、特定のカテゴリーに制限されず、画像の中で何が映っているかを自動的に理解し、その形をピクセル単位で抽出することができる。
・SAMは、その中心技術としてビジョントランスフォーマー(Vision Transformer, ViT)を使用している。
・ViTは画像を小さな部分(パッチ)に分け、それぞれを数学的なベクトル(情報を格納する数字のリスト)に変換し、画像を理解する役割を担う。
・このベクトルは、自己注意機構(セルフアテンションメカニズム)を使って、画像のどの部分が重要かを判断する。つまり、画像の全体像を捉えつつ、重要な細部に焦点を合わせることができる。
・これにより、SAMはより複雑な形状やシナリオでのセグメンテーションの精度を高めるための豊かな情報を得ることができる。

【議論の内容・結果は?】
・まず、建物の屋根を識別するために、各建物についてCNNが予測したマスクを代表する点に置き換え、それをSAMに入力する。しかし、建物が不規則な形をしている場合(例えばL字型やU字型など)、この単一点プロンプトでは正確にセグメンテーションするのが難しいという課題があった。
・より広い範囲をカバーし、特に大きな建物の精度を向上させるために、各マスク内に5点のプロンプトを配置する方法を試した。これにはランダムに点を配置する方法と、建物の骨組みに沿った配置(スケルトン)の2つのアプローチを採用したが、予想に反して両者のパフォーマンスに大きな差は見られなかった。
・一方で、バウンディングボックス(物体を囲む箱)をプロンプトとして使用した実験では、WHUデータセットでのセグメンテーション精度が最も高くなった。バウンディングボックスのプロンプトは、IoU(予測されたマスクと実際のマスクの重なりを測る指標)、F1スコア(精度と再現率のバランスを測る指標)、TP-IoU、TP-F1(ともに正しい予測のみに焦点を当てた指標)で改善が見られた。
・特に、D-LinkNet CNNモデルを用いたバウンディングボックスのプロンプトを使った場合、分布外(トレーニングデータに含まれないデータセットでの性能)でのパフォーマンスが顕著に向上し、IoUで5.47%(24.49%→29.96%)、F1スコアで4.81%(27.63%→32.44%)という結果を得ることができた。
・さらに、このアプローチを他のデータセットにも拡張し、AICrowdマッピングチャレンジデータセットとマサチューセッツビルディングデータセットで実験を行ったところ、これらのデータセットでも改善が見られた。

Integrating object-based and pixel-based segmentation for building footprint extraction from satellite images

【どういう論文?】
・本論文は、建物の輪郭抽出の精度を向上させるため、オブジェクトベースのセグメンテーションとピクセルベースのセグメンテーションの統合を試みる
・LightGBM、XGBoost、NNといった機械学習手法を利用して、低スペクトル解像度解像度の画像を用いた幅広く利用可能で効率の良い方法を提案する

【技術や方法のポイントはどこ?】
・全体像は以下の通りとなる

Sohaib K.M. Abujayyab, Rania Almajalid, Raniyah Wazirali, Rami Ahmad, Enes Taşoğlu, Ismail R. Karas, Ihab Hijazi . (2023).

①光学画像フィルタリングの適用
・光学画像をArcGISにインポートして分析領域を切り取る。
・空間フィルタリング(画像の局所的な近傍のピクセル値を利用し、小さいサブイメージ(フィルタやマスクと呼ばれる)にある値と比較するプロセス)を適用してオブジェクトベースのデータセットを生成する。

②低周波フィルタの適用
・画像を滑らかにしてノイズを減少させるために使用する。
・平均化によって近傍ピクセル値の平均を計算し、画像をブラー処理する。画像内の小さな隙間を埋めるための前処理中によく適用される(エッジのぼやけをもたらす可能性があるため、特定のアプリケーションでは課題となる場合もある)。

Sohaib K.M. Abujayyab, Rania Almajalid, Raniyah Wazirali, Rami Ahmad, Enes Taşoğlu, Ismail R. Karas, Ihab Hijazi . (2023)

③高周波フィルタの適用
・コントラストを強調してエッジを検出するために使用し、強度の変化を際立たせる。
・低周波フィルタの逆の作用を持ち、異なるレベルのコントラストを生成するために画像に適用する。
・カーネル(係数の行列)を使用し、一定またはゆっくりと変化するグレーレベルの領域に適用した場合には結果がゼロに近づき、グレーレベルが急激に変化する領域では顕著な正または負の結果をもたらす。

Sohaib K.M. Abujayyab, Rania Almajalid, Raniyah Wazirali, Rami Ahmad, Enes Taşoğlu, Ismail R. Karas, Ihab Hijazi . (2023).

④分類器の開発
・LightGBM(Light Gradient Boosting Machine)・・・勾配ブースティングフレームワークの一種で、効率的な学習と高速な処理が特徴。多数の弱学習器(主に決定木)を逐次的に構築し、それぞれの学習器が前の学習器の予測を改善するように学習する。この手法は、少ない計算リソースで高い精度を達成するため、特に大規模なデータセットに適している。
・XGBoost(eXtreme Gradient Boosting)・・・上記と同様に勾配ブースティングを行うアルゴリズムとなっており、並列処理、ツリーのプルーニング、ハードウェアの最適化などの高度な機能を持ち、非常に効率的な実行が可能である。
・ニューラルネットワーク・・・脳のニューロンの構造を模倣したアルゴリズムで、複数の層を重ねることで複雑なパターンを学習する。各層は、入力データに対して異なる特徴を抽出し、最終層でこれらの特徴を組み合わせて予測や分類を行う。特に複雑なデータ構造を持つ問題に対して、高い予測精度を発揮することができる。

【議論の内容・結果は?】
・以下は提案手法を実装する前の結果である。

Sohaib K.M. Abujayyab, Rania Almajalid, Raniyah Wazirali, Rami Ahmad, Enes Taşoğlu, Ismail R. Karas, Ihab Hijazi . (2023).

・以下は提案手法を実装した後の結果である。

Sohaib K.M. Abujayyab, Rania Almajalid, Raniyah Wazirali, Rami Ahmad, Enes Taşoğlu, Ismail R. Karas, Ihab Hijazi . (2023).

・LightGBMは、トレーニングセットで正確度(Correctness)が0.9951、完全性(Completeness)が0.9951、品質(Quality)が0.9903、総合的な正確度(Overall accuracy, OA)が99.39%、F1スコアが0.9935、kappaが0.9870という高い評価スコアを達成した。
・XGBoostとニューラルネットワークも改善されたが、LightGBMには及ばなかった。
・以下の画像は実験結果の出力画像となっており、初期モデルの結果を示す”1~6”の割り振り番号と最適化したモデルを示す”opt”という表記が振られている。
(「初期モデル」とは最適化プロセスを行う前のモデルの状態を指す。この段階では、モデルは訓練データから学習したパラメータを使用している。「最適化後」とは、ハイパーパラメータの調整や追加の学習ステップを経て、性能を向上させたモデルの状態を指す。)

Sohaib K.M. Abujayyab, Rania Almajalid, Raniyah Wazirali, Rami Ahmad, Enes Taşoğlu, Ismail R. Karas, Ihab Hijazi . (2023).
Sohaib K.M. Abujayyab, Rania Almajalid, Raniyah Wazirali, Rami Ahmad, Enes Taşoğlu, Ismail R. Karas, Ihab Hijazi . (2023).

・サンプル1では、建物の影が初期にXGBoostモデルにとって課題だったが、最適化で影響が軽減された。
・サンプル2では、最適化後も、どのモデルもオリジナル画像に見える青い屋根を正確に抽出することはできなかった。
・サンプル3では、バスケットボールコートが建物と誤分類されず、隣接する建物の予測には満足のいくパフォーマンスが見られた。
・サンプル4では、ニューラルネットワークモデルの初期の推定において建物輪郭の鋸歯状効果(エッジや輪郭が直線的でなく、ギザギザした線として表示される現象)が観察されたが、最適化後はより滑らかで正確な建物の輪郭が得られた。
・サンプル5では、建物のファサード(建物の正面、つまり通りに面している側面)がXGBoostとLightGBMによって誤って独立した建物として識別されたが、ニューラルネットワークモデルではこの現象は観察されなかった。
・サンプル6では、全モデルがオーバル形状の白い屋根を建物として分類することができなかった。
・提案されたモデルの導入後、LightGBM、XGBoost、ニューラルネットワークの3つの手法すべての処理時間が増加した。
・LightGBMは以前の実行時間の約1.679倍の時間がかかるようになった。この時間の増加は、モデルの精度と効果の潜在的な向上を考慮すると、受け入れ可能な範囲内であり、改善された建物抽出性能との合理的なトレードオフとして許容できる。

Semi-Supervised Urban Change Detection Using Multi-Modal Sentinel-1 SAR and Sentinel-2 MSI Data

【どういう論文?】
・本論文は、迅速に進行する世界の都市化を監視するために、Sentinel-1 SARとSentinel-2 MSIデータを組み合わせた新しい半教師ありの都市変化検出手法を提案する。
・従来の単一センサー手法の制約を乗り越えるべく、ラベル不足という課題に対処することを目的とする。

【技術や方法のポイントはどこ?】
◾️データセットの準備
①既存データセットの問題点
・これまでの変化検出研究でよく使われるデータセット(EVIR-CDやWHUデータセット等)は、Sentinel-1(以下S1)とSentinel-2(以下S2)が運用される前のデータが中心となっており、最近のデータを扱うための提案手法の検証には不向きである。
・S2データを使用する現行の都市変化検出データセットは、変化検出のためのラベルは提供しているが、重要な建物のラベル情報が不足している。

②SpaceNet 7 データセットの利用
・SpaceNet 7は、2017年以降の高解像度衛星画像と、それに対応する多時点にわたる建物のアノテーションが提供される最新のデータセットである。
・これを利用することで、衛星データの時間的変化を分析し、急速に変化する都市環境をより正確に追跡することが可能になる。
・ただし、提供される全ての画像が完全にクラウドフリー(雲がない状態)であるわけではなく、時には建物のアノテーションが不完全な場合もあるため、データの選択や前処理には特別な注意が必要である。

③データ選択と前処理
・Sentinel-1画像を使用する際には、建物の形状がレーダー波の入射角によって大きく影響を受けることに注意し、アセンディング(衛星が北に向かって進む時のデータ)とディセンディング(衛星が南に向かって進む時のデータ)の画像を分ける。その上で最もデータ量の多いパスのS1画像を選出する。
・画像中のバックスキャッタ係数が−25 dB未満の領域は、信号よりもノイズが支配的であるため、これらの部分は画像から取り除く。そして、残された信号からスペックルノイズを減少させ、画像の空間解像度を維持しながら各偏波バンドの時系列平均を計算する
・S-2画像に関しては、取得された画像の中から最もクラウドフリーなものを選出する。

◾️プロセス1:ネットワークアーキテクチャの設計
①基礎アーキテクチャ
・Siam-diffデュアルタスクアーキテクチャは、U-Netに基づくモデルを拡張したものである。U-Netはその層を通じて画像から複雑な特徴を抽出し、変化予測と建物のセグメンテーションを行うことができる
②変化検出
・抽出された特徴は変化検出デコーダに供給され、最終的な変化予測を出力する。ここで、畳み込みと活性化関数が組み合わされ、ネットワークは衛星画像間の微細な変化を捉える。
③建物セグメンテーション
・同時に、重みを共有するデコーダを利用して建物予測を生成する。これにより、どの建物に変化が発生したのかの特定が可能になる。
◾️プロセス2:マルチモーダルデータの統合
①データ統合
・S1 SARとS2 MSIデータの両方からの特徴を抽出し、変化検出と建物セグメンテーションのために統合する。これにより、個別のセンサーデータだけでは捉えられない情報を活用し、精度の高い予測を実現する。
②予測の多様性
・提案されたネットワークは、各時点(𝑡1、𝑡2)に対して、S1、S2、そしてS1とS2の特徴を組み合わせた複数の予測を出力する。これは、センサー間で得られる情報の差異を利用して、予測の信頼性を向上させることを目的としている。
◾️プロセス3:半教師あり学習
①一貫性正規化
・ネットワークが摂動された入力データに対しても一貫した出力を生成するように訓練する。これにより、ラベルのないデータからも学習を進め、限られたラベル付きデータに対してモデルの過度の適合を防ぎながら、一般化能力を高めることができる。

【議論の内容・結果は?】
・ラベル付きデータの割合に基づく性能評価では、完全な教師あり学習条件(100%ラベル付き)においてマルチモーダルモデルが最も高い性能を示した(F1スコアは0.554〜0.559、IoUは0.384〜0.388)。これは複数のセンサーデータを組み合わせることの利点を示している。
・しかし、教師ありモデルが限られたラベル付きデータ(特に10%)で訓練されると、性能は大幅に低下した。これは、限られた教師データではモデルを一般化するのが難しいことを意味している。
・提案された半教師あり方法は、ラベル付きデータが少ない場合でも性能が大きく低下しないことを示している。特に10%のラベルデータのみで訓練された状況では、教師ありモデルよりもはるかに良好な結果(F1スコア0.491)を達成し、他の半教師あり方法と比較しても22.1%の性能向上を確認できた。この結果は、ラベルデータが少ない環境下でも効果的に学習できる手法の必要性を強調している。
・提案されたモデルは、単一センサーのデータよりも精度が高い建物のセマンティックセグメンテーション予測を生成した。特にS2ベースの予測は、S1ベースの予測より一貫して優れていた。この優れた予測能力は、マルチモーダルデータが持つ豊かな情報と、教師あり学習モデルが対応できないラベル不足を補う半教師あり学習の枠組みの恩恵によるものであることが推測される。
・一貫性正規化を加えた半教師ありモデルは、完全教師ありモデルに比べて、限られたラベル条件下で改善されたパフォーマンスを示した。これは、ラベルが少ない状況でのモデルの堅牢性を高めることの重要性を示唆している。
・ラベルデータが豊富な場合でも、一貫性正規化が性能向上に貢献することは、ラベルが少ない時だけでなく、幅広い状況での一貫性正規化の効果を示唆している。

SAMRS:Scaling-up Remote Sensing Segmentation Dataset with Segment Anything Model

【どういう論文?】
・本論文はSAM(Segment Anything Model)を利用して衛星画像のピクセルレベルのアノテーションを効率的に行うことを目的とする
・SAMはオブジェクトの位置と輪郭を正確に捉えることができ、様々なオブジェクトを前景と背景で区別することが可能な上、大規模なデータセット上で訓練されているかにかかわらず、ゼロショットセグメンテーション能力が高い

【技術や方法のポイントはどこ?】
①SAMの適用法
・SAMによるセグメンテーションには画像データに加えて、オブジェクトを識別するためのプロンプト(点、水平ボックス、回転ボックス)が必要であり、これらはモデルが前景と背景を識別するための重要な要素となる。

②データセットの選択とプロンプトの設定
・SAMの効果を検証するため、HRSC2016(主に船を対象としたデータセット)、DOTA-V2.0、DIOR、FAIR1M-2.0(いずれも複数のカテゴリを持つ大規模データセット)を利用する。
・衛星画像のオブジェクトは任意の方向を向いている可能性があるため、SAMは標準の水平ボックスに加えて、回転ボックス(R-Box)を外接する最小の水平ボックス(RH-Box)をプロンプトとして用いる。

③アブレーション研究
・プロンプトの組み合わせ(点、ボックス、マスク)に関して、SAMに最適な設定を研究した。
・「点プロンプトのみ」を使用した場合、mIOUI(予測されたセグメンテーション結果と実際の正解ラベルとの間の一致度を測定する指標)は16.14、mIOUP(ピクセルレベルでのmIOUI)は2.72と非常に低い性能を示した。
・「H-Boxプロンプト(水平ボックス)のみ」を使用した場合、mIOUIは89.97、mIOUPは79.40と非常に高い精度を達成した。
・「R-Boxプロンプト(回転ボックス)」を使用した場合、mIOUIは65.54、mIOUPは59.78だったが、このプロンプトだけでは最適な結果を出せていない。
・回転ボックスを外接する最小の水平ボックス、つまり「RH-Box」をプロンプトとして使用した場合、mIOUIは88.85、mIOUPは76.42と優れた性能を示した。これはSAMが直接R-Boxを扱えない場合に、回転したオブジェクトに対しても効果的なセグメンテーションを提供するための優れた解決策であることを意味する。

④プロンプト設定の詳細
・上空から撮影される衛星画像のオブジェクトは任意の方向を向いているため、通常の水平バウンディングボックス(H-Box)の他に、回転バウンディングボックス(R-Box)も利用
・SAMは直接R-Boxプロンプトをサポートしていないため、R-Boxを内包する最小の水平長方形(RH-Box)を使用

③実際の実験内容
・事前学習では、UNet、UperNet、Mask2Formerなど複数のセグメンテーションネットワークを使用し、事前に教師あり学習を行った重み(ImageNet、MillionAID)および教師なし学習の重み(BEiT、MAE)を組み合わせてモデルの初期化を行った。その後、SAMRSデータセットでの事前学習を通じて、モデルのセグメンテーション性能をさらに高めることを試みた。

Di Wang, Jing Zhang, Bo Du, Minqiang Xu, Lin Liu, Dacheng Tao, Liangpei Zhang. (2023).

【議論の内容・結果は?】
①UperNetと階層的特徴バックボーンへのSEP効果の定量的評価
・UperNetと階層的特徴バックボーン(例:ResNet、Swin Transformerなど)を含むモデルにSEP(Segmentation Pre-training)を適用した際、平均的にF1スコアが約0.5ポイント、mF1(平均F1スコア)が約1.35ポイント向上した。
・この結果は、階層的な情報を扱うモデルが、SEPを通じて得られる豊富なピクセルレベル情報を効果的に活用し、より精度の高いセグメンテーションを行えることを示唆している。②ISPRS PotsdamデータセットのSEP効果
・トレーニングデータが極端に限られている(1%, 3%, 5%のサンプルのみ)場合でも、SEPを適用することでmF1スコアが最大約3.98ポイント向上することを確認できた。
・これは、限られたデータセット上でのトレーニングにおいても、事前に大量のラベル付きデータで学習した知識を活用することが、モデルの汎化性能を向上させることを示している。
③IsAIDデータセットでのSEP適用による不安定性
・IsAIDデータセットでは、一部のモデルでSEPの適用によりmIOUが最大約17.79ポイント向上したが、異なるアノテーションスタイルに起因する不安定さも観察された。
この不安定性は、データセット間の異質性が、モデルの予測に混乱をもたらす可能性があることを示唆し、異なるデータソースを組み合わせる際のプロセスに注意が必要であることを意味している。
④事前学習データセットの規模の重要性
・大規模なセグメンテーションデータセットSAMRSでの事前学習は、特に限られた量のトレーニングデータしかない場合に有効であり、従来の事前学習データセット(ImageNetやMillionAIDなど)よりも優れたパフォーマンスを提供する。

Modelling and mapping Soil Organic Carbon in annual cropland under different farm management systems in the Apulia region of Southern Italy

【どういう論文?】
・本論文は、GISとGoogle Earth Engine(GEE)を用いて、研究対象地域の年間耕作地(ACL)での土壌有機炭素(SOC)の分布を、従来の農法(CM)と保全農法(CA)に分けて高精度にモデリング / マッピングする方法を開発することを目的とする
・SOCは、生物由来の物質が土壌中に蓄積されることで形成される炭素であり、植物の栄養素供給、水分保持、微生物活動の促進などに貢献し、農業生産と気候変動への対応にとって重要な要素である

【技術や方法のポイントはどこ?】
① 土壌サンプリング
・GPSモデルSP20 handheld GNSSを用いて、精密な座標情報を取得し、採取地点を正確に記録した。これにより、サンプリングされた土壌サンプルから取得した正確な位置情報をもとに、後の分析で環境データと正確に結びつけることが可能になる。
・表土のサンプリングでは、代表的な土壌サンプルを得るため、地点の中心及びその周辺で採取して複数のサンプルを混合することで、変動を平均化し、より信頼性の高いデータを確保する。

② 土壌サンプルの分析
・Walkley-Black法を用いた分析は、標準的な土壌科学の手法であり、土壌サンプル中の有機炭素含量を定量的に測定する際の信頼性と精度が高いとされている。この手法を用いて、土壌有機炭素(SOC)を推定し、土壌の肥沃度や炭素貯留量の評価に活用する。

③ 環境共変量の収集と処理
・気候データは、ERA5-Landの高解像度再解析データセットを活用し、細かい地域レベルでの気候変数を取得する。
・Landsat 8 Tier 1画像から得られる植生指数は、GEEを通じて算出し、土壌有機炭素含量の空間的変動(土壌特性と地表の観測データとの間の関係性)を解明するための重要な共変量として利用する。
・NASAの30m解像度のDEMから取得した地形変数は、土壌の物理的特性と結びついた環境因子として使用する。
・R言語のfastDummiesライブラリを用いて、岩石学的な母材のデータを統計モデルで使用可能なダミー変数(質的な情報を0と1の二値データ)へと変換し、環境共変量の多様性をモデルに組み込めるようにする。

④ 数理モデルの構築と評価
・GWR(地点ごとに異なる環境特性に基づき回帰係数を局所的に調整することを可能にする高度な統計手法)は、R言語内のGWmodelパッケージを用いて実施し、これにより地点ごとの環境特性を考慮したSOCの空間的予測モデルを提供する。
・AICを活用して、モデルが特定の地点のデータに過剰適合するのを防ぎ、モデルが地点ごとのデータに適切にフィットするように調整する。

⑤ デジタル土壌マッピングとSOC分布の分析
・QGISによるリサンプリングにより、異なる解像度を持つ共変量データをLandsat-8の解像度に合わせて調整する。これにより、異なるデータソースを一貫したスケールで分析可能とする。
・RのcaretパッケージのfindCorrelation関数を用いて多重共線性を持つ共変量を同定し、最適な共変量の組み合わせでモデルを構築する。
・ステップワイズ手法は、AIC基準により変数選択を行い、SOC予測に最も寄与する変数を含む最適なモデルを効率的に識別する。

【議論の内容・結果は?】
①CM(従来の農業管理)とCA(保全農業)によるSOC変動
・CM:土壌有機炭素(SOC)の値は平均16.68 g/kg、範囲は5.10から51.89 g/kg。
・CA: SOCの値は平均17.73 g/kg、範囲は5.75から58.70 g/kgで、CA下ではSOCが約6.3%増加している。
・データ分布の特徴:歪度がCMで1.06、CAで0.70と、両方のデータセットで正の歪度を示しており、尖度はCMで3.72、CAで2.68。これは分布が非対称であり、両方のデータセットが正規分布でないことを示している。

②環境共変量とGWRによるSOCの推定
・CAとCMのシステム間で、SOCと高地、露出度、緯度などとの間に強い相関を確認できた。
・CAのSOC予測におけるGWRの決定係数は0.71で、CMの場合は0.52であった。これはGWRが地域規模でのSOC予測に他のモデルよりも優れていることを示唆している。

Matteo Petito, Silvia Cantalamessa, Giancarlo Pagnani, Michele Pisante. (2023).
Matteo Petito, Silvia Cantalamessa, Giancarlo Pagnani, Michele Pisante. (2023).

【どういう論文?】
・魚群集中区域(Potential Fishing Zone)を衛星データを用いて特定することを目的とした論文
・SNPP-VIIRS衛星データを用いて対象区域内の漁場モデルを推定することで、地元の漁師が漁獲量を増やし、より効率的に漁業ができるよう支援することを目指す
※SNPP-VIIRS(Suomi National Polar-orbiting Partnership – Visible Infrared Imaging Radiometer Suite)衛星は、地球の気候変動を監視し、大気、陸地、海洋の状態を観測するためのアメリカの環境観測衛星。2011年に打ち上げられたこの衛星は、極軌道を使用して地球を周回し、幅広いスペクトル範囲において詳細な画像を提供する能力を備える

【技術や方法のポイントはどこ?】
◾️使用データ
・SNPP-VIIRSによる海面温度(SST)データ
・Aqua-MODISによるクロロフィルaデータ(海水中の植物プランクトンの量を示す指標)
・衛星高度計による海流データ

◾️衛星データの処理方法
①熱前線に基づいた魚群集中区域(PFZ)の抽出
・熱前線(温度が大きく変わる「境界線」)はSST(海面温度)データから自動的に検出する。このプロセスにはSIED(Single Image Edge Detection)と呼ばれるエッジ検出手法が用いられ、画像内の温度値の分布に基づいて前線を識別する。具体的には、ヒストグラムアルゴリズムを使用して画像のサブセット内の値の頻度分布に基づき熱前線を検出する。
・熱前線を検出する際には閾値が設定され、本研究では0.5°Cの温度差を熱前線と定義した。この閾値はインドネシア水域における熱前線検出に最適な値とされている。
・熱前線の重心を特定した後、PFZを識別するために中心点を求める。
・本実験の対象地域であるインドネシアでは、季節風が変わると海の条件も変わる。このため、季節ごとに最適な漁場の場所が変わる可能性がある。そこでどの季節にどの場所が最も良い漁場になりそうかという情報を更に特定する。

【議論の内容・結果は?】
①熱前線に基づくPFZの季節変動分析の応用
・9月-10月に集中してPFZの傾向が高かったため、この時期を特に注目して漁場の予測モデルを調整すると良いことがわかった。
・他の季節における熱前線の検出が低い傾向を示している場合、これを補完するために他の生物学的指標や物理的特性を追加検討する必要性がある。
②クロロフィルa分布とアップウェリング兆候の応用
・クロロフィルa濃度が高い地域は、アップウェリングが発生しやすく、栄養塩が豊富であることが示唆される。これは漁場の豊かさの指標となるため、クロロフィルaの分布データを積極的に利用して漁場の特定に活かすと良いことを示している。
・アップウェリングとは、深い海底から栄養分を豊富に含む冷たい水が表層に上昇する海洋現象を指す。
・アップウェリングが発生すると、普段は深海底にある水中の栄養塩(リン、窒素、鉄などの養分)が表層に運ばれ、植物プランクトンの成長を促進する。植物プランクトンは海洋食物網の基礎をなす生物であり、その増加は魚介類を含む上位の生物へと続く豊かな生態系を支えることに繋がる。

以上、2023年10月に公開された論文をピックアップして紹介しました。
皆様の業務や趣味を考えた時に、ピンとくる衛星データ利活用に関する話題はありましたか?

最後に、#MonthlySatDataNewsのタグをつけてTwitterに投稿された全ての論文をご紹介します。

Semi-Supervised Urban Change Detection Using Multi-Modal Sentinel-1 SAR and Sentinel-2 MSI Data

Modelling and mapping Soil Organic Carbon in annual cropland under different farm management systems in the Apulia region of Southern Italy

Predicting thefuture landscape ofDhanbad District: ananalysis ofland‑use change andurban sprawl throughcloud computing andneural networks

Zero-Shot Refinement of Buildings’ Segmentation Models using SAM

来月以降も「#MonthlySatDataNews」を続けていきますので、お楽しみに!

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