H3ロケット2号機打ち上げ成功!国際競争力の確保に向け飛躍【宇宙ビジネスニュース】
【2024年2月21日配信】一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを宙畑編集部員がわかりやすく解説します。
2月17日9時22分、JAXAは種子島宇宙センターからH3ロケット試験機2号機を打ち上げ、衛星の軌道投入に成功しました。
H3プロジェクトマネージャの岡田匡史さんは、打ち上げ後に実施された記者会見で「本当にお待たせしました。ようやくH3が『オギャー』と産声を上げることができました」と語りました。
リスク承知の相乗り打ち上げ
H3ロケット2号機には、ロケット性能確認用ペイロードのほか、宇宙システム開発利用推進機構(JSS)とセーレン、ビジョンセンシング、アークエッジ・スペースが共同で開発・運用する3Uサイズのキューブサット衛星「TIRSAT」とキヤノン電子の50㎏級衛星「CE-SAT-1E」が搭載されていました。
宇宙システム開発利用推進機構らが開発したTIRSATは、熱赤外センサで工場の熱源を感知し、稼働状況を推定することなどが期待されています。
TIRSATは当初、ロシアのソユーズロケットで打ち上げる予定でした。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、打ち上げの機会が確保できなくなり、開発は完了したにもかかわらず、打ち上げられずにプロジェクトは凍結状態に。そんなときにH3ロケット試験機2号機での超小型衛星の相乗りが検討されていることを知ったと宇宙システム開発利用推進機構 宇宙利用拡大推進本部 技術参与の三原荘一郎さんはいいます。
今回の相乗り打ち上げの費用は無償となっています。そのため、一般的な商業輸送打ち上げとは異なり、万が一、打ち上げ時に衛星を喪失した場合もJAXAは再打ち上げ機会の提供や衛星の開発経費の補償等の処置を取らないことについて合意をしたうえで進められていました。
宇宙システム開発利用推進機構の三原さんは、
「我々にとって衛星を軌道上で実証できる、運用できるのはチャンスでした。(打ち上げが)失敗するかもしれないということは全く考えず、喜んで衛星を提供しました」
と心境を語りました。
ほぼ狙い通りの軌道投入精度
ユーザーである衛星事業者から見たH3ロケットの強みを聞かれると、三原さんは、日本国内のロケットであり、国際情勢や国の方針によって打ち上げが延期や中止ならないといった安心感があることに加えて、海外のロケットと比べて軌道投入の精度が非常に高かったことを挙げました。
H3プロジェクトマネージャの岡田さんは、試験機2号機の軌道投入の精度は「ほぼ狙い通り。高度の誤差が1kmもない状態」だったといいます。
「(今回の)1回だけだとまだわからないのですが、やはり何度か(打ち上げを)重ねると実力が見えてきます。今回はたまたまかもしれませんが、もう本当にストライクゾーンの中のど真ん中にドーンと衛星が入りました」
軌道投入の精度が良いと、衛星が軌道を修正するのに必要な燃料を節約することができるため、結果的に長く衛星を使えるようになる可能性があります。
H3ロケットを事業の軌道にも。今後の展望は?
記者会見では、H3ロケットの商業打ち上げについても言及されました。プロジェクトマネージャーの岡田さんはこう話しました。
「H3ロケットはまだ非常に手がかかる状態です。製造するとき、あるいは打ち上げるときにトラブルが起きれば手直しして、というのを繰り返しているところなので。これを上手くこなしていって、H3を宇宙の軌道というよりも、事業の軌道に乗せていくことが重要だと思っています」
三菱重工業 執行役員 防衛・宇宙セグメント長の江口雅之さんは、目指す売上の規模感を挙げて、今後の展望を語りました。
「今の売上高は500億円前後です。ロケット1機あたりの値段は下がってきていますが、売上は2割、3割と増やしていきたいと思っています」
「今の打ち上げの能力は年間5〜6機がせいぜいですが、できれば8機、インフラの整備が必要になりますが10機と増やしていきたいです」
「現時点ではコストダウンは目標には達していませんが、できれば10号機から15号機には競争力が出るように持っていきたいと思います。」
(編集部注:H3ロケットの1回当たりの打ち上げ費用はH-ⅡAロケットの半分程度の約50億円を目指しています)
H3ロケットは日本の宇宙産業の成長を牽引していくことが期待されます。3号機以降は先進レーダ衛星「だいち4号」や新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)をはじめ、多くの打ち上げが計画されています。安定した打ち上げを積み重ねていけるかどうかに注目です。