宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

【独自事後取材付き】宇宙ビジネスで今までの常識を変える14のアイデア!S-Booster2023最終選抜会レポート~後編~

2023年11月16日に行われた宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S-Booster2023」の最終選抜会で発表されたアイデアについて、事後取材と合わせて紹介します。後編では、前編で紹介がしきれなかった7チームを紹介します。

この記事は以下のS-Booster2023最終選抜会に関する記事の続きです。S-Booster2023の概要やその他のチームの内容については下記をご覧ください。

HONDA賞:スポンサー賞

受賞チーム:MYAIAS FLASHNET
タイトル:Forecasting and Localised Sensing for Hazard: Networked Evacuation and Transportation
紹介動画:https://youtu.be/STbyV7b8WQE
    
▼受賞理由(審査員コメント)
弊社は交通事故死者0という大きな目標に向けて取り組んでいる。水害において車内で死ぬ人も一定数存在しており、この課題を解決するために必要だと感じた。

アイデア詳細

気候変動の影響により道路を覆うほどの水害が多発しており、東南アジアだけでも12.4億人が水害のリスクに晒されています。

その中でも、特に鉄砲水(急激な河川の増水)の被害により失われる人命や経済損失が生じる重篤な状況が続いており、MYAIASはFlashNETというシステムで本課題の解決に取り組みます。

FlashNETは、①データ収集②クラウドプラットフォーム上でのAIによるリスク予測③ユーザーへの通知に分かれています。

ひまわり8号から収集した気象情報と地上に配置したIoTデバイスのリアルタイム情報をFlashNETのData Driven Platformに送信し計算を行います。地上デバイスは実証試験で5㎞以内であればデバイス間通信が可能とのこと。

2種のデータの組み合わせを元に約60秒で洪水予測(98.7%の予測精度)を行い、みちびきの位置情報データを活用して当該リスクを抱えるユーザーに通知します。

モビリティ分野を中心にした事業ですが、他にも地方自治体、保険会社、農業、指導開発業者、倉庫業などの利用先も検討されていました。

提供:MYAIAS FLASHNET

ビジネスモデルとして、現在は小さな地域コミュニティでの実証試験を行っていますが、将来的には東南アジア地域の水害による推定1億米ドルの自動車被害の解消に向けて、複数機関との協業を行っています。

車両に100米ドルでFlashNETのソフトウェアを実装、5000米ドルの地上デバイスの1万台配備を目指して政府機関との連携・実証にも取り組んでいます。

▼本人にもっと聞いてみた!

Q.安定して予測精度を出すためのソフトウェア・ハードウェア上での課題やFlashNETの普及に向けて法整備や各種支援に対する期待はありますか。また、住民からの理解はどの程度のものでしょうか。
A.技術的課題として①衛星データや地上データなど複数種のデータ統合②AIアルゴリズムの微調整③増大するデータ需要に対応するための拡張性④災害時など非常時のリアルタイム通信の促進などが挙げられます。上記の解決に向け、インフラ構築や低遅延通信網の導入などに取り組んでいます。

また、法律や政治的な側面においては地方自治体や政府機関との積極的な協力、官民パートナーシップへの参加、規制プロセスを合理化する政策の提唱が必要です。住民への認知普及なども重要と捉えており、教材・SNS・地域への働きかけを通じた啓発活動の推進が期待されます。
 
Q.一度に可能な解析範囲や予測頻度はどの程度でしょうか。鉄砲水に対する予測の即時性はあるのでしょうか。
A.地上に配置するIoTデバイスの配置次第で半径5~10kmあるいは適切なデバイスが見つかればそれ以上の範囲を網羅できると考えています。鉄砲水に対する予測の即時性は準リアルタイムを目指して開発中です。
 
Q.全ての現象に対する網羅的な予測が理想ですが、現在解析が困難なケースはありますか。それは技術的またはそれ以外の側面でどのように難しいのでしょうか。
A.リアルタイムデータの可用性と品質の確保が解析を難しくする点になります。これに対してFlashNETは、複雑なシナリオ分析に高度なモデリング、機械学習、AIを活用することで、この課題に取り組んでいます。また、品質保証のためにデータアクセスに向けたパートナーシップの確立や冗長系の対策などを講じています。

三井物産賞:スポンサー賞

受賞チーム:Stellar Forecast
タイトル:宇宙からの気象予測で運に頼らない観光体験を~ Gamble-Free Aurora Trip! ~
関連URL:NICTのオーロラアラート
https://aurora-alert.nict.go.jp/
    
▼受賞理由(審査員コメント)
弊社は様々な形でコミットしたいと考えている。本アイデアは、コロナ明けの我々にわくわく感を提供しつつも、変革力・スケール・ビジネス性に優れ、シナジーを期待できる。

アイデア詳細

アラスカなどで見られるオーロラですが、十分に楽しめると言われるレベル3以上(数字が大きいほどハッキリ見える)は年に1/3程度。

にもかかわらず、予測をもとにした旅行商品はないため不確実性が高い・現地での待機時間が長い・見られなくても返金はないなど、非常にギャンブル性が高いことが課題です。

そこでStellar Forecastは、「運に頼らず、見える日に見に行くことが当たり前の世の中に」をモットーに太陽活動からオーロラの発生日時、明るさレベルを予測するシステムを構築します。

NOAAらが公開する太陽風観測データや太陽コロナの情報などを元に、時系列解析・画像解析による明るさレベル3以上のオーロラの発生予測を行います。検証にはNICTが協力しています。

アプリケーションイメージ図
提供:Stellar Forecast

太陽風の影響を観測することで3ヶ月前からの長期予報が可能、また太陽表面の画像データなどから10日前~当日までの直前期予報で発生時間帯・オーロラ爆発の予測が可能です。

オーロラ予測をする無料のサイトはありますが、あくまで直前予報であるため、3か月以上前から高精度に予測し旅行プランに組み込むという点で差別化は可能です。

また、NICTデータでの検証の結果、4日間の旅行で鮮明なオーロラが見られる確率は、27日前で95%という予測精度が出ています。また、2023年10月に旅行会社の7日間のオーロラツアーで検証した結果、予測精度は86%となりました。なお、検証期間をより長く取れば直前予報の精度は上がるといいます。

ビジネスモデルとして、まずは旅行会社や保険会社に提供することで需要喚起や現地での時間の有効活用に向けて旅行プランに組み込む形を取ります。

なお、予測精度が高いとはいえ、雲の発生予測が困難であることが課題であるため、リスクヘッジとして保険による返金補償制度を設けることなどを検討しています。

太陽活動の極大期が2025年ごろと近づいているため、オーロラを楽しめるまたとないチャンスです。

他分野への活用として、衛星の打ち上げに対する障害予測、宇宙旅行などが挙げられており、旅行会社からはインバウンド需要に対する桜の開花予報という期待もありました。

▼本人にもっと聞いてみた!

Q.長期予報と直前期予報は技術的あるいは扱うデータの観点などからどのように異なるのでしょうか。
A.
長期予報:オーロラの原因となるコロナホールが出現した日を起点に、太陽の自転周期(27日周期)を利用し、3ヶ月後までのオーロラ発生予測を行います。
直前期予報:太陽活動データ(太陽表面の画像、太陽風のシミュレーションデータ、CME画像)を組み合わせて独自に解析することで、オーロラ発生の10日前~当日までの予報を可能にします。
 
Q.旅行会社との実証実験で得られた課題はどのようなものでしょうか。
A.
課題①コロナホールが発生した日(太陽表面画像から解析)から数日後のオーロラ発生を予測できるものの、現行のツアーは直前で予報が分かっても現地でのアクティビティのスケジュール調整ができない。
課題②月に数回しかオーロラツアーの設定がないため、そもそもオーロラが発生する予報の日にツアー設定がない場合がある。
 
Q.今回はオーロラの発生予測に対する宇宙天気のデータ活用が主でしたが、他のデータとの組み合わせの余地はありますか。あるならば、どのような解析が可能になるでしょうか。
A.現状太陽活動データ(宇宙天気)以外のデータとの組み合わせは考えていません。ですが、太陽活動のデータを主として、オーロラ発生予測・衛星打ち上げ・有人宇宙旅行時の太陽風による悪影響の予報などへの発展を想定しています。

横河電機賞:スポンサー賞

受賞チーム:Team LCDL
タイトル:水を使わない宇宙洗濯機 ー宇宙の最適な資源循環を目指してー
紹介動画:https://youtu.be/mhpw9sS9YOI
関連資料:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fiber/62/8/62_8_P_240/_pdf
https://www.tokyo-shirt.co.jp/news_release/detail/4
    
▼受賞理由(審査員コメント)
横河電機は2050年のサステナビリティゴールとして「Net Zero Emissions」「ウェルビーイング」「サーキュラーエコノミー」を掲げている。S-Boosterでは「Net Zero Emissions」「ウェルビーイング」を焦点に当てて審査を行った結果、本アイデアは宇宙と地上の双方で上記の達成が期待できるため。

アイデア詳細

数十~1000人規模が月や火星に滞在した際の資源の地産地消を目標とするTeam LCDL。

今回は、衣類という資源に着目し、光触媒を組み込んだ衣類と紫外線を用いた水不要の洗濯機(特許申請中のため非公開)を活用したプロダクトによる資源循環を目指した取り組みになります。

光触媒を活用した衣類は既に宇宙飛行士による活用事例や一般販売されていますが、あまり普及していません。主な理由は、地上では水で洗濯する方が安く、扱いが楽だからです。

しかし、宇宙においては状況が逆転し、光触媒の衣類の方がコストも下がり、水がない方が取り扱いも容易になります。

そのため、光触媒の効果をより発揮する洗濯機を開発し、宇宙で活用するプロダクトの開発に至ったそうです。

この衣類の特徴は、「水レス・取り扱いの容易さ・低コスト」。特に光触媒の製造と再生には酸化チタンが必要ですが、月面のレゴリスに含まれているため現地調達も可能です。

光触媒は衣類を傷め、洗浄力は水による洗濯に劣りますが、光触媒の担持(触媒物質が何らかの物質に載っている状態)の仕方などによる最適化の余地はあるとのこと。

ですが、日清紡との共同実験による成果から汚れや皮脂は十分落ちると分かっています。

提供:Team LCDL

ビジネスモデルとして、デファクトスタンダード(機関認証によらない業界標準)を目指し、洗濯機はOEM方式でクローズドに生産、光触媒の衣類は一般市場にも流しフィードバックを得る流れになっています。

また、衣類は宇宙に限らず、防災・砂嵐の影響で衣服を干せない地域への提供・水道管が破損した場面など、水が使えない場面での活用が期待されます。

▼本人にもっと聞いてみた!

Q.洗濯によって生じる廃棄物はありますか。その事後処理なども含めて、どの程度資源利用を削減可能か、再利用可能になるか教えてください。
A.水や洗剤などの消耗品を利用しない衣類の循環システムが本提案のポイントのため、衣類の劣化や廃棄を除けば、洗濯の工程内で廃棄物は生じません。また、一般的に8kgの洗濯(一般的な下着重量0.2kg/人×月面滞在人数40人と仮定)に対して100L/回以上の水+洗濯後の排水処理分の水を使用します。

ですが、これらを丸ごと削減するほか微小重力/低重力環境で水の扱いが困難になる課題を解消するのが大きな価値と考えます。
 
Q.光触媒を活用するにあたり、衣類の材料の制約または取り扱い方は普通の衣類と異なるのでしょうか。あるいは、取扱いにおいて地上と異なる部分はあるのでしょうか。
A.光触媒は有機物を分解するため、繊維自体も分解され衣類のダメージになります。そのため、バインダーを介して光触媒と繊維が直接接触しないように繊維上に担持させます。また、吸着面積が大きい多孔質繊維が有利になるという触媒の特性もあります。

この点を加味すると繊維材料の制約はありますが、製品化されたレーヨンという繊維は上記を考慮しているため、通常の衣類と扱いは変わりません。一方、ドレスに使用されるシルク・キュプラなどの繊維の例はないため、ここが衣類への適用範囲拡大に対する課題ともいえます。
 
Q.しわのない綺麗な服の存在も精神衛生上必要かと思いますが、洗濯をしても、しわ防止機能などきれいに使い続けられる工夫はあるのでしょうか。
A.一般的にしわは編まれた繊維のずれにより生じます。要因は①洗濯時の繊維の吸水により発生した繊維の膨張や脱水時の外圧によるずれと、そのままの状態で乾燥したことによるずれの固定化、②着用時の外圧や折れ曲がりによる繊維のずれ、に主に分けられます。

しわの要因として前者が大きいと考えられており、水を使わないことでしわの発生を大きくは異常可能と考えます。また、後者は素材の選定や形態安定加工などの工夫により防止可能です。

JAXA賞

受賞チーム:(株)資生堂
タイトル:宇宙美容を実現する Astro-care Material
紹介動画:https://youtu.be/DIVBl9VJbXk
    
▼受賞理由(審査員コメント)
人類の活動が拡大するにあたって健康と美容に着目した点がユニークだった。放射線という大きな壁を逃げずにしっかり受け止めて検討した点、チャレンジする姿勢を評価。

アイデア詳細

宇宙空間での活動にあたって紫外線や放射線の防御を考える必要があります。

特に肌老化の80%を占める紫外線は、肌にあたることで活性酸素を生産し、DNA損傷のリスクを高めます。

宇宙空間ともなるとその影響は地上の数十~数百倍にもなり、対策も限定的なため、本課題への対応が急務です。

この影響を防ぐために、多孔質材に抗酸化物質を吸着させて活性酸素を取り除き、効率的かつ長期間抗酸化成分をとどめる技術を開発したのが、資生堂のAstro-care Materialです。

「とどける&とどめる」をコンセプトに人工皮膚のような素材を利用し、放射線などの対策だけでなく、肌の形状補正も可能にする技術となっており、放射線を扱う事業者や高度な美容を求める方々に提供が想定されています。

皮膚に貼付する形式のため、特定部位への適用や水などの資源の少ない環境でも高度な施術が可能になります。

紫外線対策に古くから最前線で取り組んできた資生堂の強みを生かしたプロダクトになっています。

2030年のリリースを目指して、紫外線と放射線の同時防御の能力を高めながら、化粧品開発で培った臨床試験などのノウハウを活用した研究が進められています。

▼本人にもっと聞いてみた!

Q.使用済みの機能性多孔質材の再利用や逆に老廃物などを吸着するといった二次利用の可能性はあるのでしょうか。
A.素材の開発中ではありますが、吸着物質の交換によって老廃物が吸着できる可能性はあると考えています。
 
Q.本プロダクトの活用により肌に塗るときよりも、どの程度効果が増幅されるのか、施術のコストや期間などの低減につながるのでしょうか。
A.開発中のため詳細はお伝えができませんが、宇宙生活に求められるような一度の使用で効果が持続する技術を目指して開発を進めています。
 
Q.開発した技術やコンセプトから、今後宇宙や美容以外の分野への活用の糸口は掴めそうですか。
A.化粧品に限らず、様々なヘルスケア領域にも活用可能と考えており、協働させていただく機会があれば検討したいと考えています。

惜しくも入賞を逃したファイナリスト

Team No Limits:宇宙活動をupdateする 非接触スイッチAAGI がもたらす巧緻操作の未来

紹介動画:https://youtu.be/1CRIeaoiIRQ
HP:http://gesture-interface.jp/

アイデア詳細

近年、宇宙ホテルや民間宇宙ステーションの建設計画が複数発表されています。

しかし、宇宙飛行士や宇宙旅行者が滞在するだけでなく、その前に建設に関わる作業員といった宇宙専門人材の存在も不可欠になります。

ですが、1週間の滞在で4000-5500万ドル必要で、放射線の影響で500日程度が滞在限界であり、この課題を乗り越え、多くの人材を集めることは非常に難しいです。

これに対し、Team No Limitsは非接触型スイッチ AAGI(Augmentative and Alternative Gesture Interface)や遠隔操作ロボットを活用したリモートロボット×パイロットサービスの提供を行います。

ビジョンは「障がいがあってもなくても宇宙で活躍できる場を提供すること」。日本に100万人、世界に5億人いる運動障がい者をAAGIを用いることで宇宙専門人材に育成することを目指します。

表情を読み取り操作を行う技術は、手がむくみやすい宇宙空間で宇宙服のグローブや道具類への活用やヘルメット内に搭載することで作業マニュアルの操作も検討しています。

通信速度のレイテンシは大きな課題ですが、システム自体のレイテンシはほとんどなく、マリオカートやFIFAがプレイ可能という検証結果が出ています。

ビジネスモデルとして、建設業界や宿泊業界にパイロットやOriHimeなどの遠隔操作型ロボットをレンタルする方式を取ります。

▼本人にもっと聞いてみた!

Q.顔の動きなど動作をカメラで判定すると無意識な癖などによる誤動作の可能性があります。その対策はどうするのでしょうか?
A.小さい動きはチューニングで対応可能です。事前に40分程のヒアリングを通じて判定の閾値を個人に合わせて調整します。具体的には3Dカメラの差分、赤外線、RGBカメラ、LiDARなどの活用を想定しています。
 
Q.運用サイクルや持続可能性という観点での取り組みはどう考えていますか?
A.ロボットの交換は数年単位で行います。放射線対策や寿命などは今後の実証で確認していく予定です。

KIKY:無重力空間における洗濯機

紹介動画:https://youtu.be/u7z5rqs_v6s
参考資料:
Ken Bowersox宇宙飛行士のISSでの洗濯事例
https://www.universetoday.com/157375/socks-the-final-frontier/
プラズマによる排水処理の技術
https://kyoju.net/2019/03/25/2019-03-25-3/
アルカリイオン電解水による洗濯
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784478311943

アイデア詳細

宇宙ホテルの建設が計画される中、民間人向けの衣食住環境の整備が重要になります。

特に衣類について、現在ISSで宇宙飛行士が着用するものは同じ服を1週間着用、下着は3日に1度交換、しかも使用後は大気圏で燃やすため、持続可能性がありません。

また、今後の高所得層の宇宙旅行に向けて清潔かつホスピタリティのある不自由のない環境整備が求められます。

そこで、KIKYは衣類の再利用によるエコシステム構築を目指すために、無重力空間で利用可能な洗濯機の開発に取り組んでいます。

このスタンドアローン型の無重力洗濯機は①圧洗い機②水循環器で構成され、各要素技術は確立しており、その組み合わせの検証中とのこと。

①圧洗い機は、空気を利用した押し洗い形式です。サイズは25×25×20cmで1㎏まで洗濯可能です。また、50Lの水を貯蔵可能であり、99%の水の再利用(1%は糸くずへの吸収分)を目指しているそうです。

この技術は既に中国で製品として販売しているとのこと。

続いて、②水循環器は「洗い・すすぎ・排水」を担う部分で、アルカリイオン電解水による汚れ分解、オゾン水によるすすぎで除菌などのメンテナンス、プラズマを活用した排水過程の有機物除去を行います。

こちらも要素技術は確立しており、①圧洗い機との組み合わせの検証が待たれます。

他の領域への活用として、水不足の地域やキャンピングカーへの搭載が想定していました。

今後の展望として、乾燥機能も組み込んだマイナーチェンジ版の製作、肌着や靴下などの小さな衣類の地上検証から始め、宇宙における服の民主化を目指します。

▼本人にもっと聞いてみた!

Q.宇宙(特に微小重力状態)では水の振る舞いが地上と異なります。洗濯における影響はあるのでしょうか。それでいて、汚れは地上に比べて十分落ちるのでしょうか。
A.マランゴニ効果のような表面張力が強く影響する環境下では、地上と異なる挙動を示すと考えており、ぜひ宇宙での実験をしてみたいと次第です。また、地上と比較しても十分汚れは落ちると考えています。

というのも、地上に比べて汚れの種類(汗・皮脂・食べこぼしなど)が限定しやすく、汚れに沿った洗浄方法の開発も可能だと考えるためです。Ken Bowersox宇宙飛行士が本提案の圧洗いに近い手法で洗濯をした事例もあり有効ではないかと思っています。
 
Q.最初は下着など小さい衣類の検証を想定していますが、ドレスなど大きな衣類の場合、しわ防止など美しく衣類を保つ工夫は出来るのでしょうか。あるいは、衣類に対する素材や大きさなどの制約が生まれるのでしょうか。
A.従来の縦型洗やドラム洗のような水の力で衣類を揉んだり、重力によるたたき洗いに比べて衣類を圧して汚れを吐き出す圧洗いなら、しわを抑えられると考えています。

衣類の大きさについてはJAXAさんへのヒアリング時に下着だけでもキレイになるとQOL(Quality of Life:生活の質)が向上するという意見を頂いたため、今回は下着に焦点を当てました。また、衣類の素材や大きさによる制約は考えていません。

Space Wolffia Mars Vegetable Production System

紹介動画:https://www.youtube.com/watch?v=eFtP19QgAiA
関連資料:https://www.unoosa.org/documents/pdf/psa/hsti/AskaWinner/
ThailandHyperGES_Ask_a_winner.pdf

タイのMahidol大学の研究チームは火星環境に適した宇宙農業システムの開発、食料安全保障のバックアップとして食料危機の際に地球で対応可能なシステムの構築を目指しています。

そこで新たな食品として期待されるのがミジンコウキクサ (学名:Wolffia globosa) (以下Wolffia)です。タイでは食用とされる植物で、日本でも味の素が次世代ベジタブルドリンク「Mankai®」の販売実績があります。

Wolffiaはもっとも小さな被子植物で非常に成長が早くMahidol大学の研究チームでは5日(他研究チームでは3日のケースも)で2倍に増えることが分かっています。

また、45%がたんぱく質とビタミンで構成されているため栄養価にも優れており、100%食せる美味しい知られる植物です。

Mahidol大学の研究チームでは基礎研究を行い、ESA施設を活用した微小重力やHypergravityの実験などから宇宙環境に代表される重力の影響に対する知見も持ち合わせているのが強みです。

そして、Wolffiaは浮草であるため、酸素を生産し二酸化炭素を吸収し、さらには水の浄化機能も備えていることから持続可能性のある機能を備えています。

その他の特徴として、拡張性の高さ、植物自体の適応力、低メンテナンス性もあり、扱いやすいことも宇宙利用としてのポテンシャルの高さを示しています。

現在は地上で生育するモックアップを制作中で、今後宇宙利用に向けた開発が期待されます。想定される顧客はGISTDA、NASAといった各国宇宙機関の宇宙機関であり、火星での地産地消に向けた研究を続けています。

▼本人にもっと聞いてみた!

Q.栄養価を維持しつつ量を増やすために必要な水・肥料・電力はどの程度でしょうか。特に室温管理や重力はどう影響するのでしょうか。
A.屋外栽培なら通常の肥料を用います。また、屋内栽培だと 1/4MS(ムラシゲ・スクーグ)培地 マイナス糖(一般的な植物の組織培養用培地のこと)が必要です。光についても、より栽培に適したフルスペクトルLEDを活用した実験はまだですが。既製品のLEDでも十分です。少ない光量だと他の藻類による汚染や水虫による影響を抑えることもわかっています。
 
Q.製造にあたり衛生面や宇宙環境での取り扱いなどで想定される注意点はありますか。
A.Wolffia globosa自体は安全で侵襲性もありませんが、大腸菌(E. coli)による水の汚染が一番の懸念であり、清潔な水での培養を維持するのは非常に大変だと考えています。
 
Q.おすすめの食べ方は何ですか。
A.Wolffiaは味噌汁に混ぜてみたり、寿司に入れてみたり、どうやっても美味しく食べられます!ただ、生食だと栄養吸収が阻害されるのでおすすめはしません。また、通常は主食ではなく補助的なものとして消費されます。

まとめ

以上、全14チームのビジネスアイデアを出来るだけ詳細にまとめてみました。

今年は衛星データや宇宙機周辺の開発技術だけにとどまらず、宇宙での生活を見据えたアイデアが多かった印象です。

たった数分で全てを知ることはできません。気になったチームがあれば是非連絡をして熱い議論や協業の提案をしてみてください。

また、S-Boosterは2024年も開催されるでしょう。すでに宇宙業界に身を置いている方も、そうでない方も、これはというアイデアがあれば応募してみてはいかがでしょうか?