衛星データ利用における 「Tip & Cue」とは? 自動・自律的な観測のメリットとその実用への期待
衛星データに関する文献やイベントの中で見かける「Tip & Cue」という言葉について、その意味と実例を紹介します。
衛星データに関する文献や、イベントの中で「Tip & Cue」という言葉を見かけることが増えています。内閣府が公開している文献には「自動・自律的な観測(Tip & Cue)」といった記載がなされていますが、具体的にはどのような意味を持つのでしょうか?
本記事では「Tip & Cue」の意味と、その実例を紹介します。
はじめに
「Tip & Cue」を日本語でそのまま翻訳すると、Tipはヒント、Cueは合図という意味になります。日本では、TipはTipsという記載でちょっとした情報のような意味を持つ言葉として、Cueは、ラジオや撮影の合図として使われる言葉としてご存じの方も多いのではないでしょうか?
衛星データ利用において「Tip & Cue」がどのような意味を持つかというと、ある観測やセンサのデータによって得られた検知結果のヒント情報(Tip)などを引き金にして、別の衛星に合図(Cue)を出して、詳細を観測する仕組みです。
具体的には、広域で観測されたデータから気になる場所のヒントを見つけ、他の衛星の撮像タスキング(あるエリアを撮るように設定されること)の合図が出るようなシーンを想定しています。
なぜこのような考え方が広まっているのか
では、なぜ近年になって「Tip &Cue」が注目されるかというと、その背景には「タスキングの最適化」と「衛星機数の増加と種類,、また、利用方法の多様化」の2つがあります。
1.タスキングの最適化
人工衛星は地球上空を周回している間、常に地上を観測できているわけではありません。人工衛星は、撮像していない時は次の撮像に向けて、充電や軌道修正、姿勢制御を行う必要があります。
そのため、どの場所を撮影して、どの場所を撮影しないかを取捨選択することはとても重要です。よりよいTipを得ることで、私たちにとって重要な情報を漏れなく撮影することができるようになります。
さらに、近い将来は深夜などにも自動的にタスキングができるようになることで、人工衛星の効果的な利用につながっていくと期待されています。
2.衛星機数の増加と種類の多様性による利用方法の多角化
衛星データのキホン~分かること、種類、頻度、解像度、活用事例~
現在、人工衛星の機数はどんどん増えており、地球観測センサーも多種多様になってきています。
そのため、狭いエリアを高解像度に、広域をざっくりと、特定のバンド帯を使う、ハイパースペクトルで緻密な情報を……など、撮像の方法の高度化を求められるケースも増えています。
観測対象物の状態(移動、問題)に合わせて多種多様な衛星を上手に組み合わせる上で、いかにより良いTipを得て、適切なCueを行うかの重要性はさらに高まっています。
ちなみに本記事の趣旨からは若干ずれますが、現在は多種多様な衛星をいかにうまく組み合わせて解析するかについても技術的進化が求められており、多種多様なセンサーを統合して管理するシステムの需要も高まっています。
「Tip & Cue」の実用例
では、「Tip & Cue」が求められる用途として実際にどのようなものがあるかというと、もっとも分かりやすい例としては、海上の船舶監視です。
実例として、広域の低解像度の衛星で観測をして、海上の AIS (船舶情報の発信機)を参照することで怪しい船舶を炙り出します。
その後、詳細を把握するために高解像度の衛星で追跡して狙い撃ちのように撮像をします。
広域の衛星データで見つけたヒントが流氷や小島などであれば問題ないですが、密輸や規制のある漁、海上侵犯でないかを確かめることができます。
他にも、広域の衛星データで変化がありそうな場所を見つけた際に、詳細な衛星データでそのピンポイントの場所を見て、その変化がなぜ起きているのかを把握することもできます。
例えば、以下の画像は、商用最高レベルの分解能の人工衛星のデータと、無料で利用できる人工衛星のデータで比較する新宿御苑周辺です。詳細な衛星データを見れば、撮影したタイミングで車の渋滞が起きているか否か、工事が起きているかなども理解できそうだと分かります(宙畑は、桜の開花状況がどのように見えるかを理解するために購入しました)。
出典:[2022] Maxar Technologies、European Space Agency
また、「Tip」として利用されるセンサーは衛星の観測でない場合もあります。港湾などで不審船や認可されていない船舶の着港や船舶の救難信号や災害情報をトリガーにして、撮像するための「Cue」を発する仕組みもあります。
これらの方法は大手の企業や安全保障にも取り入れられています。
海上の事例以外にも、地上での例としては、石油などの資源セクターでの IoT デバイスや火山の現地センサーから異常を察知して広域の建築物や山岳地帯の観測をする仕組みがあります。
これらは、船舶の時とは逆に、詳細情報から広域観測へ繋げる方法となっています。
まとめ
本記事では、「Tip & Cue」についての紹介と事例を紹介しました。
衛星データでは、新しい技術や新しい革新が常に起きていて、それに伴って新しい考え方も生まれてくるのでお勉強していきたいですね。
今後も衛星データの活用方法について、より詳しくお届けしてまいります。解説してほしい言葉や表現があればお問い合わせください。