宙畑 Sorabatake

宇宙空間

はやぶさ2が持ち帰る小惑星の欠片は売れる? 宇宙資源と国際ルールの動向

小惑星の科学的目的での探査と商業的探査ではどのような差が出てくるのでしょうか。法的観点から宙畑編集部が解説します。

小惑星リュウグウにタッチダウンを行う「はやぶさ2」のイメージ図。 Credit : JAXA デジタルアーカイブス

2014年12月に小惑星探査機はやぶさ2が地球を旅立ってから早4年。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、はやぶさ2の小惑星リュウグウへの1回目のタッチダウンを2019年2月22日に実施する計画を明らかにしました。

今後はやぶさ2は地下物資を採取し、2020年末に地球へ帰還する予定となっています。

世界から科学的成果が期待されるはやぶさ2。実は、小惑星の経済価値のデータベース「Asterank」ではリュウグウの時価総額は830億円として上位にランクインしています。

では、小惑星の科学的目的での探査と商業的探査ではどのような差が出てくるのでしょうか。法的観点から宙畑編集部が解説します。

(1)小惑星の科学的探査と商業的探査の違い

はやぶさ2の主要な目的として、「原始太陽系における鉱物・水・有機物の相互作用を解明することで、地球・海・生命の起源と進化に迫る」「『はやぶさ』で実証した深宇宙往復探査技術を維持・発展させる」の2点が挙げられています。

小惑星の科学的探査と商業的探査の違い Credit : 宙畑

宇宙空間及び天体の探査と利用に関する基本原則を定めた法律、宇宙条約*の第1条では「宇宙空間の探査・利用の自由」が定められています。つまり、はやぶさ2のミッションは合法であると言えます。

*宇宙条約:宇宙空間及び天体の探査と利用に関する基本原則を定めた法律。

一方で、宇宙条約第2条では、天体を含む宇宙空間に対しては、いずれの国家も領有権を主張することはできないことが定められています。

そのためはやぶさ2の商業的利用、例えば、持ち帰ったリュウグウのサンプルを営利目的で販売したり、将来的に水やレアメタル等の資源が採掘された場合に販売したりするというのは、現在の国際宇宙法では、合法とは言い難い行為となってしまうのです。

ところで、天体の領有権の問題といえば、ルナーエンバシー社が販売している「月の土地」を思い浮かべる方もいらっしゃるのではないでしょうか。同製品は、サッカーグラウンド1つ分に当たる月の土地の権利書を、2,700円〜という驚くような価格で販売しているもので、すでに世界で130万人、国内で30万人が購入しています。

ルナエンバシー社が販売している月の土地権利書 Credit : 株式会社 ルナエンバシージャパン

ルナーエンバシー社は、宇宙条約に定められているのは国家による宇宙空間の領有の禁止であって、企業や個人にについては制限されていないとと主張しているのです。ユーモラスなプレゼントとして購入されることも多い同製品。今後月面開発が進んでいく中で、その事情は変わっていくのではないかと考えられます。

また、近年では米国のSpace Resouses社やDeep Space Industry社、日本のispace社など、月や小惑星の資源採掘を実施しようとしているベンチャー企業が出てきています。これらの企業による商業的探査にあたる彼らの活動はどのように捉えられているのでしょうか

(2)世界の先駆けとなった米国およびルクセンブルクの宇宙法

2015年宇宙法(米国)

宇宙条約では宇宙資源の商業的利用は合法とは言い難いと紹介しましたが、2015年に米国 オバマ大統領は著しく発展する宇宙開発ビジネスを背景に、宇宙空間及び天体の商業利用に関する「2015年宇宙法(H.R. 2262, SPACE Act of 2015)」に署名しました。

同法は世界初となる民間企業による宇宙資源の商業利用を認めた法律です。この法律の重要な論点となるのは「領有権」についての問題です。

宇宙の平和的利用と宇宙法の発展を目的に活動しているNGO、国際宇宙法学会(International Institute of Space Law,通称 IISL)は、米国の2015年宇宙法に対して、宇宙条約は宇宙資源採掘を禁止しておらず、現状明確な根拠になる法はないという旨をポジションペーパーで発表しています。

宇宙条約のほかに、天体を探査する際の基本原則として月協定*があります。

この月協定では、月および天体の天然資源の所有権はいかなる国家や組織にも帰属しないことが定められています。

しかしながら、同協定は実際に宇宙開発に取り組んでいる国の参加が極端に少ないことが問題となっており、米国も非締結国のひとつです。そのため、米国において宇宙資源の所有権は制約はありません。

*月協定:月やその他の天体を探査する際の基本原則を定めた協定。

宇宙資源の探査と利用に関する法律(ルクセンブルク)

米国に次いで、翌年2016年にはルクセンブルクで政府が宇宙で採掘した資源の所有権を民間企業に保証する「宇宙資源の探査と利用に関する法律」を制定しました。

ルクセンブルクは情報通信産業の振興にもいち早く取り組み、現在ではヨーロッパの中核を担っています。そういった背景から、同国は宇宙資源の価値の高さを感じていて、いち早くその地位を確立しようとする姿勢が伺えます。

宇宙資源の探査と利用に関する法律の制定は小惑星の資源探査と商業利用を目的とした”Space Resources.lu(計画)”の一環であり、宇宙資源採掘を目指す、Planetary Resources社やDeep Space Industries社、ispace社を誘致しました。

米国同様、月協定を締結していないルクセンブルク。宇宙資源の探査と利用に関する法律の第一条には同法が国際法に準拠している旨が記載されています。

(3)宇宙資源と国際ルール

米国とルクセンブルクの動きから、2017年には国連が宇宙資源のあり方を重要議題のひとつとして設定し、国際的な議論も行われるようになりました。ここでは、宇宙資源の利用に関する「ハーグ宇宙資源ガバナンスワーキンググループ」を取り上げます。

ハーグ宇宙資源GWとは?

米国が2015年宇宙法を制定した翌年2016年、宇宙資源開発の国際ルールのあり方を検討していく、ハーグ宇宙資源ガバナンスワーキンググループ(The Hague International Space Resources Governance Working Group
,以下ハーグGW)が発足しました。

GWの名称にも入っている「ハーグ」とは、オランダの北海沿岸部に位置する、デン・ハーグという国際司法裁判所をはじめ国際刑事裁判所や化学兵器禁止機関などの国際機関が多数置かれる都市で、「平和と司法の街」と呼ばれています。また、会合はオランダのライデン大学で開催されました。国際宇宙法において世界的に権威のある大学です。

このハーグGWには、オランダ王国外務省を議長に、研究機関や宇宙機関、関連企業など17ヶ国29組織が参加しています。日本からは月面資源探査を目指しているispace社がメンバーとして、オブザーバーとして宇宙法の研究を行なっている、西村あさひ法律事務所が参加しています。

2016年4月の1回目に始まり、2017年9月に4回目の会合を終え、宇宙資源開発を促進するための国際ルールの草案に合意するとともにこれを公表しました。

草案では「民間企業を含めた宇宙資源の開発者に宇宙資源に対する権利が確保されること」「宇宙資源開発に関するビジネスの発展を妨げることがないよう柔軟に設計すべきであること」といった内容を含んでいます。

また宇宙資源開発関係者間の利害関係の調整を図る観点から、各国が現場におけるセーフティーゾーンの設定や開発における優先権の登録を可能にするべきであるという画期的な内容も記載されています。

宇宙資源と探査のこれから

ハーグGWは草案を作成・公開した2016〜2017年を第一フェーズとし、現在は第二フェーズとして、草案に対して寄せられたパブリックコメントに対する審議が行われています。2019年も引き続き会合が開催されるとみられており、今後の動向も注目されています。

また、はやぶさ2に続いて、NASAの探査機OSIRIS-RExはすでに小惑星ベンヌに到着していて、サンプルリターンは2023年の予定です。

さらに、JAXAは昨年2018年に、フランス国立宇宙研究センターとドイツ航空宇宙センターとともに、火星衛星フォボスおよびダイモスのサンプルリターンを目指す計画に参画することを発表しました。

同プロジェクトの目的は科学的利用ですが、技術が確立されることによって、今後宇宙ベンチャー企業による採掘や商業利用も勢いを増すのではないでしょうか。
日本でも昨年から宇宙資源に関する法整備について有識者会議が行われています。
小惑星探査を引率する国としての姿勢が、今後問われるのではないかと考えられます。

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参考

「小惑星探査機『はやぶさ2』記者説明会」資料、JAXAはやぶさ2プロジェクト、2019年1月8日
ルナーエンバシー社
House Republicans H.R.2262,SPACE Act of 2015
Space Resources.lu
The Hague International Space Resources Governance Working Group
「ハーグ宇宙資源ガバナンスワーキンググループ、宇宙資源開発に関する国際ルールの草案を発表」株式会社ispace、2017年9月25日
「火星衛星探査計画搭載小型ローバーの共同研究に関する共同声明」
「月資源開発へ新法視野、政府」共同通信社、2018年5月21日