宙畑 Sorabatake

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【宇宙政策を学ぶ】政策の効果はどのように計測・評価する? 欧米の宇宙政策と成果の計測方法

宇宙政策の重要性や最新トピック、政策策定時に必要な視点についてまとめました。10年1兆円の宇宙戦略基金に注目が集まっている今こそ、政策の評価について考えてみませんか?

本記事では、宇宙政策の重要性や最新トピック、政策策定時に必要な視点について紹介します。ここ数年で、日本で宇宙開発技術の利活用に関する社会的認識が急速に高まり、官民一体となって更に国内の宇宙産業拡大を目指す中、宇宙政策の本質について知ることや考えることは、長期的なビジョンを実現する上で非常に大きな意義があります。

例えば、4月8日から11日にかけてコロラドスプリングスで開催された39th Space Symposiumでの米国国家宇宙会議(NSpC)事務局長Chirag Parikh氏によるキーノートスピーチにて、米国の輸出管理リスト見直しにおける一部宇宙開発技術に対する規制緩和について触れた上で、国際パートナーシップ構築の重要性が語られたことが国際的に話題になりました。

スピーチでは、アルテミス協定の枠組みを例とし、米国がNASA、国務省、米国国際開発庁(USAID)等を中心に、宇宙新興国の宇宙政策の基盤構築を支援する積極的な意向が示されました。

Parikh氏は、2021年の同シンポジウムでも、現米国政権が宇宙を重要視していること、また宇宙政策策定の目的について以下のように述べています。

“The fact that we have civil, national security, and commercial and those elements of it internationally as well are all intermixed here. It is because any part of space any of those sectors that you pull has both an opportunity and an impact on those other sectors of space and so that’s why I think particularly having a National Space Council is critical (…) to develop and implement our nationals space policies and our strategies and to be able to (…) integrate in synchronise our national space activities within the country and around the world.”by Chirag Parikh on March 25, 2021

米国が冷戦期より長年築いてきた宇宙での優位性を維持・向上したいこと、そのために他国の宇宙政策にも影響力を行使し国際ルールメーキングプロセスを主導したい自国の政策意図が反映されています。

また、同じく2024年1月24日、25日にブリュッセルで開催された16th European Space Conferenceでは、欧州委員会(EC)域内市場委員Thierry Breton氏による開会スピーチで宇宙政策・産業における欧州の「自律性(independency)」が強調されました。会議冒頭のこの発言には、欧州の宇宙開発の歴史や宇宙領域を含むウクライナ戦争を目の当たりにしている現状からも、国際的影響力の強い米国からの自立が主要因になっていると考えられます。

“We are facing an unprecedented acute crisis: Europe has lost its independent access to space, putting at risk the sovereign deployment of the Union’s flagships” by Thierry Breton on January 23, 2024

2人の発言力ある宇宙政策策定者による近年の代表的スピーチからも、宇宙開発計画及びその国際政治との関係性における強い力学が見えてきます。

では、本題に入っていきましょう。

(1)なぜ欧米は宇宙開発を重要視するのか

国家が宇宙開発に取り組む、つまり宇宙技術開発や産業育成に大規模な資金を投入する理由は「宇宙開発計画がもたらす国益がどこにあるのか」に尽きます。

無限大に広がる夢への挑戦(政治スピーチで大衆を巻き込むために主張されることが度々ありますが)ではなく、自国パワーの他国への反映といった計画そのものよりも比較的短期的な根拠や宇宙開発がもたらす我々の生活への社会経済価値などがプロジェクトの本質的な価値となっています。

政権によって宇宙開発に対する政策の優先順位や重視する計画の中身は変化するものの、特に欧米では長年に渡り、持続的に宇宙開発が重要視されてきました。
宇宙政策の第一人者である鈴木一人教授の著書「宇宙開発と国際政治」で詳細に分かりやすく説明されていますが、米国では、冷戦期より長年築き上げてきた宇宙開発技術における優位性の維持、それによる国際外交への影響力の保持が、宇宙開発計画への政策を後押ししています。

宇宙開発において世界をリードし続ける米国の本格的な宇宙開発の幕開けは、1957年のスプートニク・ショックと1961年のガガーリン・ショックという立て続けのソ連に対する大敗北でした。その後、冷戦での勝利という国民一体となった大きな目標に向かって、大規模な宇宙計画が始動し、有人飛行成功によるソフトパワー及び(特に軍事用の)衛星開発によるハードパワーを獲得していきました。結果として、数十年にわたり国家のリソースが大規模に投入されたその技術産業は国家戦略の重要要素となり、言うまでも無くグローバルに軍隊を展開する同国の安全保障戦略でも不可欠なものとなったのです。

しかし、冒頭に述べたように宇宙政策は他の国内政策とのバランス関係の上に成り立ちます。現在、SpaceXを始めとして(国の援助を受け取りながらも)民間宇宙市場が急速に発展する中で、新時代に合わせたNASAの役割の変化が求められており、それに伴い予算割当も変化しています。中国やインドの宇宙開発が著しい発展を遂げており、宇宙分野の全ての分野において、国家単独で世界を主導するということには限界も見えてきているのではないでしょうか。それでも長年培っていた優位性を奪われたくはない、という意図は、近年発表された「A Strategic Framework for Space Diplomacy」からも明確で、米国にとって重要なものであると分かります。

一方の欧州は、自国の宇宙開発計画を有さない国を含むEU圏内における宇宙開発技術の広範な社会的価値が様々な関連プロジェクトの戦略意図にあります。地球観測プログラムCopernicusがその代表例であり、公共財として衛星データが農業や漁業、自然環境、災害、安全保障等、多様な産業で活用されています。技術開発と同時に、宇宙開発は著しい商業的展開を伴い、産業として確固たる価値が域内で構築されてきました。

そもそもESAは、NASAやJAXAのように単独国家ではなく、22カ国の国家間組織であることに大きな特徴があります。1960年代に米ソが宇宙開発を加速させる中、一国ではリソース不足の欧州各国間で協力体制が整い、宇宙事業が推進されました。超国家組織のEUとの異なる性質を上手く活用し、政策部門はEU、研究開発等の技術部門はESA、そして加盟各国の宇宙機関がそれを補完する、現在の多層的な構造が出来上がりました。プロジェクトにおいても、EU中心の計画、ESA主導の政府間協力プログラムに加え、CNES(フランス国立宇宙研究センター)やDLR(ドイツ航空宇宙センター)、ASI(イタリア宇宙機関)などが率いる国家独自事業があります。

2010年代初期までは、欧州を代表する基幹ロケットArianeが世界の商業打上げ市場の半分以上のシェアを獲得しており、宇宙開発技術のグローバルな商業化、及び事業展開に多くの成功例を挙げていました。しかし、先日欧州の最重要測位衛星Galileoが米国SpaceXにより打ち上げられたことからも、同地域の宇宙へのアクセスの自立性はロケット開発の滞りにより失われています。現在、その回復を第一優先としながらも、今後どこに宇宙産業における欧州の国際競争力を求めるのかは明らかではありません。

現在欧州では、従来、重要視してきた宇宙開発技術がもたらす社会的価値に加え、安全保障のための宇宙利用が優先的な議論のアジェンダになっています。ウクライナ戦争を目の当たりにする中で、既存の宇宙開発システムやプロジェクトを軍民両用に活用しようとする動き、またそれらの保護を強化しようとする取組みが活発化しています。近年、注目が集まる低軌道を含めた多軌道通信ネットワーク構築を目指したプログラム(IRIS2)もその代表例です。

(2)宇宙政策とは~その意義と重要度~

宇宙政策とは、宇宙の利活用における国家の戦略策定プロセスであり、宇宙開発に対するその国の姿勢を示しています。宇宙政策の中身を簡単に分類すると、日本ではJAXAの管轄である文部科学省が宇宙技術R&Dの政策を、経済産業省が宇宙産業政策を、防衛省が宇宙安全保障政策を、その他関連機関の総務省、国土交通省、外務省などを含む全体の統括を内閣府が担当しています。

内閣府の政策一覧において、「宇宙」と「健康・医療」の項目が「総合科学技術・イノベーション」とは別で戦略が策定されています。

なぜ宇宙は特別なカテゴリとして戦略が策定されているのでしょうか?

宇宙開発事業は大規模な国家資金が費やされていること、またそのシステムやサービスが一部公共財としての役割を担うことが特別分類の主な理由として挙げられます。今後、宇宙商業市場が発展し、民間市場が拡大し政府資金への依存が減少しても、衛星データや測位や通信機能など政府が必要なものであるという点において、宇宙政策の重要性は変わらないでしょう。

そのうえで、宇宙技術はデュアル・ユース技術(安全保障と産業の両方に活用できる技術)であることもポイントです。宇宙政策は、多様なステークホルダーを巻き込み、複数の省庁をブリッジする必要があります。今も昔も、宇宙開発は確固たる技術基盤の上に成り立つ産業であるものの、開発技術をどのように国内外で活かすのか、経営やセールス戦略だけでなく、国内の経済発展や外交戦略も踏まえた将来の見通し作りには、ポリシーメーカーの役割が欠かせません。それは、政府だけが担うものではなく、技術開発の課題や国際競争力強化への挑戦を日々最前線で味わっている産業界の声にも大きな価値があります。

宇宙政策の意義を上述した上で、宇宙産業の将来性が評価され予算が増加している今こそ、その政策策定に費やすリソースも十分であるかは注視すべきポイントと考えられます。政策・戦略策定にかかる予算は、一般的に人件費やその他の管理費などの経費として計上されるため、具体的な金額を国際比較することは難しいですが、日本は欧米と比較して非常に限定的です。宇宙政策の策定、更にその評価において、どれだけの人、知識、アイディアが投入されているかによって、その国の将来の国際的な立ち位置が決まると言っても過言ではありません。

(3)宇宙政策策定のポイント

では、宇宙政策を策定にするにあたって、どのような考えるべきポイントがあるのでしょうか?

宇宙政策策定のポイントは、社会経済に対してでも、安全保障向けでも同様に「何が真のニーズかを見極めること」にあります。宇宙産業の裾野を広げることに注目してしまうあまり、「宇宙開発技術をどのように新たな分野で使えるのか」を一方的に主張する、おせっかいなドラえもんになってしまっては意味がなく、筋が通った需要がないところに無理矢理ニーズを生み出しても、ビジネスは持続できません。

それよりも、他産業から宇宙業界に向けられる真のニーズを最大限に拾うべきです。宇宙システムやサービスの有用性にも他産業と同様に限界があるため、「宇宙技術でしか出来ないこと」を見つけ、それを高品質、高頻度、低コストで提供することが非常に重要です。

その点において、1/29に東京で開催された「衛星による防災シンポジウム ~特に衛星測位システムを活用した防災の現状と今後の可能性~」での茨城大学教育学部附属中学校  鈴木泉輝さんの発表は非常に印象的でした。「準天頂衛星の高精度測位を用いたハザードマップ作成」をテーマにした研究の取り組みにおいて、測定精度と更新頻度の観点より、なぜ衛星データでなければならないのかを以下のように明確に論じていました。

『初めにひたちなか市内の各所において水準測量により高低差を調べたところ、精度が高いものの、測定に非常に時間がかかるため、高い頻度で更新するのは難しいことが分かりました。そこで、より簡便にセンチメータ精度での高度分析を調べるためにCLASに注目しました。CLASであれば垂直方向の誤差は、静止物体の場合で12cm程度のため、ハザードマップ作成には十分であると考えました。』 鈴木泉輝、2024年1月29日より

真のニーズを見極めるための、商業宇宙市場において中長期的な需要と供給(または投資と収益)の均衡、及び宇宙領域を含む安全保障分野における現状リスクとその将来予測を図る指標として、定量データの活用が期待されます。

宇宙政策に限らない話ではありますが、何の政策を決めるにあたっても政策目的を明確化したうえで合理的根拠に基づいた政策策定(EBPM)が求められており、政治的な取り決めや声が強い企業や個人に依存する形でして決定がなされてしまうことは避けるべきです。

しかしながら、宇宙産業の発展と宇宙環境の持続可能性、責任ある宇宙活動に向けた宇宙先進技術国と宇宙新興国の協力等に対して、最適なバランス関係を考察する定量的研究は、現在の宇宙政策策定及び評価過程において十分にはなく、近年になって後述するような定量データの活用に関する取り組みが検討されている段階です。

もちろん、宇宙政策は国内外政治と密接に結びつくものであるため、政治的意図や外交関係に注目した定性的分析も大きな役割を果たしています。そのうえで定量的根拠との組み合わせがあればさらに効果的な政策策定が可能となるでしょう。

また、数値的根拠の活用は、その政策実施による社会経済的影響の評価もより具体的になります。宇宙インフラがもたらす効果の計測方法としては主に、一般的なマクロ指標からそのシステムがもたらした効果を抽出する影響評価、又はそのシステムが存在する場合としない場合の結果を比較する比較分析があります。

しかしながら、直接的な効果と間接的な効果の区別の難しさにモデル化の課題があり、宇宙領域におけるリスクに関しては単純にデータが不足していることが多いのです。

現在、日本の宇宙政策・戦略における定量データの活用に関しては以下の2つの取り組みが挙げられます。

具体的な内容はまだ公表されていないものの、「令和5年度実施施策に係る政策評価の事前分析表」において、令和4年令和3年同様、主に準天頂衛星システムの「災害対策・国土強靱化や地球規模課題の解決への貢献」に対して「※定量的な参考指標の設定等について検討中」という文言が含まれています。

我が国の自然災害に対する宇宙開発技術活用の取組みは世界で特に注目される分野であり、東日本大震災を始め、これまでの震災経験から多くの学びを収集できるはずです。津波で地上ネットワークが機能しなくなった際、避難情報の獲得や安否確認の利用に衛星通信ネットワークは不可欠です。2011年には衛星携帯電話約340台(153台はITUからの無償供与)が震災被害を受けた地方公共団体などに貸し出しされました。自然災害は予測が困難であるからこそ、経験に基づく備えが重要であり、これまでの学びを数値的根拠で「衛星データやネットワークにどれだけの価値があったか」を残し、今後に活かすことが大切です。

2024年4月23日に開催された宇宙開発利用部会(第86回)において発表された「マネジメント改革検討委員会報告書」では、41件のアクションプランに「定量データに基づく経営判断のため、経営指標を導入する(1.マネジメント・ガバナンスに関する課題への対応③)」ことが含まれました。今年度中にどのように体制を整えていくのか気になるところですが、政策だけでなく、国立法人の組織運営においても数値データが重視されるのは非常に前向きな動きでしょう。

(4)各国の宇宙政策策定手法

日本でも少しずつ注目を集めている、合理的根拠を基盤とした宇宙政策の策定及び評価手法について、諸外国の事例をいくつか紹介します。

まず、政府関係機関が主導している宇宙産業における代表的な定量分析のレポートを以下に並べました。

主導 レポート名 調査機関 内容
NASA Economic Impact Study (summary) Nathalie P. Voorhees Center for Neighborhood and Community Improvement NASAの宇宙開発事業に対する経済効果分析。プロジェクトに対する社会経済的収益や労働市場を州ごとにマクロ評価しています。

大規模な予算が割り当てられている宇宙開発計画がどのように国民の身近な生活に貢献しているのかを示しており、更なる発展を後押しします。

EU Study to examine the socio-economic impact of Copernicus in the EU PwC CopernicusのEU圏における社会経済価値分析。Copernicusが提供する地球観測データの市場価値を貢献する分野ごとのバリューチェーンに基づいてマクロ分析しています。

公共財の市場価値を測ることで、国家の投資対効果が算出でき、適切な予算割当に役立ちます。更に、プロジェクトが有する将来の潜在的価値も明らかになります。

UKSA & DSIT (科学・イノベーション・技術省) The economic impact on the UK of a disruption to GNSS London Economics GNSSの英国における経済価値分析。GNSS機能障害が短期的または長期的に発生した場合の海運や道路インフラ、緊急サービス等7つの主要分野における損失評価を行っています。

昨今の国家経済システムにおけるGNSSシステムへの依存度を定量的に示すことで、その適切な保護対策に繋がります。

これらのレポートは、他産業の調査より確立した産業分析手法と宇宙産業に対する知見を併せ持つシンクタンクにより発行されており、正確なデータを基に的確なアドバイスをポリシーメーカーに提供しています。特に欧米では、国家とは独立した調査機関が、政策策定・評価のブレインとしての役割を持っていることが顕著です。

国際機関でも定量分析アプローチが宇宙政策研究に取り入れられ始めており、経済協力開発機構(OECD)は2012年よりSpace Economyに関するレポートを発行しています。

特に、最新版のSPACE ECONOMY INVESTMENT TRENDSでは、宇宙経済において質の高い民間投資サイクルを促進するための政策策定について議論しています。興味深いのは、宇宙産業への投資障壁についてまとめるなかで、民間投資額は増加しているものの限定的であり、純粋な市場力だけでその経済エコシステムを維持するのには不十分であることを指摘していること。客観的な根拠により宇宙産業を広い視野で見つめることで全体像を把握することは、長期的にも効果の高い政策作りに繋がります。
また、産業分析に限らず、宇宙安全保障分野においても、オープンデータに基づく議論が進んでいます。機密情報が多く、情報漏洩に極めて敏感な防衛分野でも、公開情報より掴み取れる知見は多くあります。これから紹介するレポートは、地道な情報収集作業によりそれらを可能な限り統一した基準で整理・評価することで、安全で持続的な宇宙空間を実現する平和的解決を見出す手助けをしています。

調査機関 レポート名 内容
CSIS SPACE THREAT ASSESSMENT 宇宙領域における米国の安全保障への脅威に関するケーススタディ。対宇宙空間能力とは何かについて必要とされるサブシステム、技術能力、またその攻撃による社会経済的影響について細かく整理しています。どんな条件が揃えば脅威になるのかのリスク分析を基に、打上げ能力を有さない国家であっても宇宙領域で他主体へ攻撃可能であることを警告しています。

国際的な動向に関して分かりやすく、誰でもアクセス可能な考察を提供することは、対宇宙空間能力への認識向上、及びオープンな議論を促進します。

Secure World Foundation Global Counterspace Capabilities Report C対宇宙空間能力を有する国家の技術・戦略評価。技術分野5項目における各国の能力や開発計画について、公開情報に基づき評価している。安全保障分野において、各国が宇宙領域をどのように捉えているのか、また今後どのような衝突リスクを想定し、それに備えているのかを合理的根拠を基に議論しています。技術開発段階・開発意図への洞察は、紛争をエスカレートさせない、軍事衝突リスクを最小限に抑える、また未然に防ぐための国家間コミュニケーションの円滑化に大きな役割を果たします。

定量メソッドを活用した調査で重要なことは、その合理的根拠が追跡可能である、ということです。数値結果のみが強調されることなく、そのデータの出所が明確であり、確立した分析・評価モデルの上に成り立っていることが必要です。それらの質の高いレポートは、関連事業や他年度にも応用可能であり、長期的な政策策定・評価に大きく貢献します。

また、合理的根拠が追跡可能なものが公開されることで、シンクタンクやコンサル企業、また、宙畑のようなメディアがより高い頻度で現状の推定値を出せるようにもなり、政策の素早いアップデートに寄与し長期的な目標の達成により近づくことができるかもしれません。

(5)日本の可能性と今後の注目ポイント

最後に、日本の宇宙政策における今後の注目はなんといっても10年で1兆円が投下される「宇宙戦略基金の使い道」でしょう。加速度的に世界の宇宙産業が変化していくなか、その流れに乗って、またさらに未来を先取りして、日本の自立性及び国際競争力を獲得できる技術分野を見極めることが鍵になります。

そのためには、基金が終了する10年後、2034年の宇宙エコシステムを見据えることが必要です。その時、日本の宇宙産業は政府資金に過度に依存しない、民間の需要を最大限に惹きつける体制になっているのかは重要なポイントでしょう。

国家として目指すべき方向と、企業の将来性を照らし合わせ、最適な予算を最適な方向へ投資がなされるのか。その際、既存の枠に捕らわれず、将来の日本のビックピクチャーを補完する分野、もしくは独自の核心技術を活かした新しい産業を創造することも、10年後の宇宙経済への大きな価値となります。

宇宙基本計画では「2030年早期に8兆円の市場規模に」を大きな目標として掲げており、宇宙戦略基金の概要をまとめた資料には技術開発の方向性をまとめた資料の中で、ロケットの打上げを「年間30件程度」、衛星システムを10年以内に「5件以上構築」といった目標を定めています。

それらに加えて、様々な宇宙関連予算が日本では動き始めています。

これらの施策の結果として、政策が目指す「2倍、3倍、10倍の投資効果」があったのかを明らかにするために、本記事で紹介したような産業全体、そしてミッションごとの社会経済価値を測ることがとても重要です。

日本においても、イノベーション政策の意義を合理的根拠で示されることで、ミッションの成功や失敗といった単純な結果に捕らわれることなく、長期的な産業育成の活発化につながることが期待されます。