ニーズとシーズの距離が限りなく0に近づく、生成AI×Tellusが実現する衛星データの未来
本事業が必要な宇宙産業の未来と課題について紹介したうえで、本事業に関わる株式会社TellusのCOO牟田梓さん、株式会社New Space Intelligence(NSI)のCEO長井裕美子さん、また、生成AIによる検索機能などの実装に関わる株式会社SIGNATEのCEO齊藤秀さんに伺った本事業の詳細と今後の展望をまとめました。
2024年5月27日、Tellusは衛星データの社会実装の加速を目指し、基盤強化のための研究開発事業を本格始動したことを発表しました。本事業は令和4年度第2次補正予算「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIR)」の応募テーマ「衛星リモートセンシングビジネス高度化実証」においてNew Space Intelligence(以下、NSI)とともに採択されたもので、衛星データ利活用の促進における様々な課題を解決するものとして期待されています。
本記事では、本事業が必要な宇宙産業の未来と課題について紹介したうえで、株式会社New Space Intelligence(NSI)のCEO長井裕美子さん、株式会社TellusのCOO牟田梓さん、また、生成AIによる検索機能などの実装に関わる株式会社SIGNATEのCEO齊藤秀さんに伺った本事業の詳細と今後の展望をまとめました。
(1)衛星データの量はますます増え、人間では処理できない時代へ
3社のインタビューの内容を紹介する前に、衛星リモートセンシングの高度化実証が求められる背景について紹介します。
現在、国が主導する地球観測衛星のプログラムに加えて、Planet LabsやICEYE、日本でもアクセルスペースやQPS研究所やシンスペクティブといった民間の地球観測衛星コンステレーションの構築がどんどん進んでいます。
その結果、以下に示す通り、2013年から2023年までの小型の地球観測衛星の打上げ機数は右肩上がりで増加しています。
加えて日本においても宇宙戦略基金のテーマでは「商業衛星コンステレーション構築加速化」で950億円、「高分解能・高頻度な光学衛星観測システム」で280億円という予算がついており、ますます地球観測衛星のコンステレーション構築が進む予定となっています。
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衛星の機数が増えれば、それに伴い、データ量が増えます。例えば、商用最高級の高解像度の衛星データプロバイダーであるMAXARは年間30PB、200機以上の衛星コンステレーションを開発・運用するPlanetでは年間15PBというデータが毎年蓄積されており、2社に限らず毎年の衛星データの蓄積量はとてつもない規模となっています。想像もできない規模のデータ量ですね。
また、衛星データの量に加えて、コンステレーション1機1機の微妙な画像の差や、そもそもの衛星の種類が増えていくことにより、衛星機数が増えて観測頻度が上がったといってもその処理が煩雑になっていく未来が容易に想定できます。
このトレンドが変わらない場合、衛星データを利用した新規事業を考案したとしても、衛星データの購入費用は高い上に、解析にはどの衛星データをどのように扱えばよいかといった一定のスキルと知見を必要とするために、新規事業の推進を諦めざるを得ないというケースも増えるでしょう。
以前取材したPlanetも「衛星を使って地球全体を収集し始めたときから、人間が衛星データを分析するには多すぎるデータ量だと感じていました。人間が衛星画像を調べるには、数百人もの人が必要になるでしょう。膨大な衛星データから迅速なデータ処理と、意思決定を行える体制を構築する必要があると考えておりました。」とコメントしています。
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実際にPlanetは自社の衛星データ解析において、AIの利用を積極的に推進している他、200機以上もの同じシリーズの衛星におけるどうしても発生してしまう機体ごとの微妙に異なる衛星データの差をうまく統合して処理できるようなハーモナイゼーション技術を取り入れ、ユーザーが使いやすいような状態でサービス提供をしています。
(2)衛星データ利用を阻む、ニーズ発見の難易度とニーズ・シーズ間の距離
現在、衛星データの利用事例は少しずつ増えていますが、安全保障用途のデータ購入が民間の衛星開発会社の売上のシェアを大きく占めています。例えば、最新のPlanetの決算資料を見ると、購入された衛星データのうち、安全保障用途が48%、行政が30%、商用利用は22%です。
もちろん、衛星データプロバイダーにとって安全保障用途のデータ購入は非常に重要な売上基盤のひとつですが、衛星データの利用拡大においてその鍵を握っているのは安全保障用途以外の行政利用と商用利用であると宙畑では考えています。
例えば、経済産業省の事業として衛星データプラットフォームTellusが始まる前に試算された経済効果でも、安全保障用途以外での経済効果に期待がありました。
上記は2030年時点の市場規模推定であるため、現時点でどの程度の経済効果をもたらすポテンシャルの芽が出ているのかを正確に推測することは難しいのですが、当初予測されていた経済効果を達成するためには、衛星データの利用推進状況には課題があるかもしれません。
その背景にあるものとして、もちろん地球観測衛星のスペックやそれを扱える人材の不足といったシーズ側の課題もありますが、衛星データ利用の促進を考えるうえでニーズ側にも課題が存在すると考えます。
まず、衛星データが解決する課題は、農地やインフラの見回りの効率化や漁場推定の高度化など、既存で存在する業務の代替となるものが多く存在します。そのため、既存業務に携わる方にとって、やり方が変わることはハードルとなる可能性がある他、そもそもその業務に課題があると思っていない可能性もあるでしょう。その課題を解決したいと思う方がいなければ、いかに良いシーズを持っていてもその方と出会えることはありません。
また、衛星データ利用の特徴として、ニーズとシーズの距離が遠いということが少なくありません。ニーズを持っている方がいたとしても、それを衛星データで解決できると考えるに至るまでにはタイミングよくニーズを持っている人と衛星データを理解している人がうまくマッチングしなければならないというのも大きな課題です。
例えば、衛星データから分かる「石油タンクの屋根の影の面積」(シーズ)から、投資家は「石油価格の予測」(ニーズ)ができるという事例がありますが、「石油タンクの屋根の影の面積」から「石油価格を予測する」には、図のようにいくつかのステップを踏む必要があります。
このようにニーズとシーズの距離が遠い場合、ニーズを持つ人が課題を解決したいと考えてGoogleやBingなどの検索エンジンで解決手段を探したとしても衛星データというシーズに出会うことは困難でしょう。
また、シーズ側もニーズを持つ顧客に出会うために全業種、全企業を回るというのは困難であるため、ある程度こういうニーズを持っているのではないか?という推測で営業を行う必要があるのですが、ニーズが顕在化していない顧客と会話してもおせっかいなドラえもんのように思われてしまうことも少なくないでしょう。
(3)3社が進める衛星データ提供・解析基盤技術の高度化実証の概要
ここまで、衛星データ利用による宇宙産業の市場規模拡大におけるシーズ側とニーズ側のそれぞれの課題を述べましたが、この2つを同時に解消する可能性を秘めているのが、SBIRの公募テーマ「衛星リモートセンシングビジネス高度化実証」の中の取り組みのひとつである「衛星データ提供・解析基盤技術の高度化実証」で、NSI社が採択されています。
本事業では以下3つの大きな研究開発が行われます。
1.衛星データのハーモナイズ化推進
様々な衛星画像を、時系列に補完し合うため、センサーごとの特徴、衛星ごとに違うバンドの波長域、大気の状態による見え方の違いを考慮し、複数の衛星データを、あたかも1つの衛星データであるかのように連携させるハーモナイズ化。
2.グローバルインデックスの構築
ハーモナイゼーションされた衛星データと信頼性評価・検証を踏まえた構築手法により、衛星データを利用した信頼性の高いグローバルインデックスを構築。
宙畑メモ:グローバルインデックス
高い信頼性を持ち、頻繁に更新される土地被覆データなどの情報を指す。このインデックスは、経営戦略や課題、また企業のESG取り組みなど、財務的な数値以外で表現される空間情報を示すもの
3.生成AIによる検索機能などの実装
生成AIと大規模言語モデルとの組み合わせにより、必要な衛星データを自然言語で検索できるようなモデルの研究開発。
この3つの研究開発が社会実装されたのちに、ニーズとシーズの距離が限りなく0に近づき、衛星データの社会実装が加速するでしょう。
Tellus、NSI、SIGNATEの3社の強みと各社の取り組みによりどのようにそれが実現するのか、以下のインタビューの内容から期待していただけますと幸いです。
(4)衛星データの量が増え続ける時代、NSIが持つ技術が利用促進の鍵となる
宙畑:まずは、New Space Intelligenceの事業概要を教えていただけますか?
長井:私達は2021年11月に山口県宇部市で、山口大学とタイのアジア工科大学院の長井正彦研究室発スタートアップとして始まりました。元々は防災を非常に得意とし、衛星データ利用やその他データ分析、また、AIアルゴリズムの開発を非常に得意としているメンバーが集まっています。
サービスとしては衛星データを使ってお客様が意思決定できるようなインテリジェンスの提供をしています。例えば、インフラ監視です。衛星データで定常的に地表面の変化をモニタリングし、変化が起きたらお客様の判断で現地にパトロールに行っていただいたり、ドローンを飛ばしていただいたり、監視カメラを置いていただくなどの事例に使っていただけます。
宙畑:現在、多くの地球観測衛星が打ち上がり、衛星データの量が増えていると思いますが、お客様にとって衛星データはより便利なツールになっているのでしょうか?
長井:そうですね。衛星データの利用において、もともと信頼性に懸念があると言われていたことの大きな要因の一つに、欲しい時に欲しいデータがないということが挙げられていました。ただ、現在は地球観測衛星の数が増えたことで災害が発生したときに欲しいデータを取得できるようになっています。
ただ、衛星データの量が増えているからこその問題も徐々に見えてきています。Google Earthのように、衛星データを背景画像として利用するのであれば問題はないのですが、インテリジェンスとしてお客様に情報を提供する場合、衛星のセンサーや種類によって大気の影響や衛星独自の微細な差も考慮して物理量を推定し、データを揃えたうえで時系列の解析を行わなければなりません。
宙畑:衛星データの種類も量も増えたから時間分解能が嬉しいと喜ぶためには、利用したい衛星データすべてを同時に解析できるように衛星の機体それぞれの特徴(ノイズやエラー)をそれぞれ除去しなければいけないということですね。
衛星データの前処理だけでも大変な工程だと思っていましたが、そこからさらに種類の違う衛星や同じ種類の衛星データであっても機体固有の特徴まで揃える必要があるとなると気が遠くなりそうです。
長井:そうですね。そこで、私たちが開発したキャリブレーション技術を応用してTellusに実装することで、複数の衛星データを、あたかも1つの衛星データであるかのように連携させるハーモナイズ化がTellus上でも実現できると考えています。
宙畑:それは衛星データを利用したいと考える人にとっては衛星固有の知識をひとつひとつ理解せずに使えるという点で解析がかなり楽になりそうですね。複数の衛星データを時系列で同様に扱えるようにするだけでなく、グローバルインデックスの構築により、複数の衛星データの解析結果がある程度の指標となった状態でTellusで確認できるということにも期待しています。
(5)SIGNATEが考える生成AIによるニーズ蓄積と最適なソリューションマッチング
宙畑:齊藤さんは2019年に「加速する『オープン化』と『実用化』の波、衛星データ×機械学習でできること」の取材でお話を伺って以来、2回目のインタビューですね。本日もよろしくお願いします。SIGNATEでは、機械学習のコンペティションを定期的に開催されており、当時の会員数は1万6千人と伺っていましたが、現在の会員数はどれほどになったのでしょうか?
齊藤:今は11万人くらいまで増えていて、いわゆる機械学習エンジニアを中心にデジタル人材基盤がさらに強固になっています。私たちのモチベーションは先進国で人口減少問題が課題となっている中で、日本は特に少子高齢化で生産に携わる労働人口が減っています。このような状況をAIで解決するという基本的なスタンスは変わっていません。
宙畑:取材当時の状況から変わったことはありますか?
齊藤:業務効率化や付加価値の高いビジネスを推進していくために、国内外の人材をオープンイノベーションで組成して、問題解決するというアプローチを続けてきましたが、外部人材の活用だけではなく、企業側の人材も不足しており、その育成にもニーズがあると分かりました。社内でデジタル活用を推進できる人材の育成事業も大きくなっています。
もうひとつ、やはり生成AIの登場は大きいですね。今回の取材にも大きく関わる部分ですが、SIGNATEも様々な技術開発にチャレンジをしています。生成AI活用をテーマとしたコンペティションの開催などにも注力しています。
個人的には生成AIが経済や労働に与える影響について興味があり、社会科学領域の関連する論文を読んでそのアルゴリズムを実装し実験するということを趣味的に休日にやっていたりもしました。論文ではマクロ経済や労働市場全体への影響度を診断するのですが、いろいろ工夫すると、企業や組織単位、職種単位でも診断可能ということがわかってきました。
宙畑:それを趣味でされていたんですか?
齊藤:もともと社会科学に興味があったので(笑)。ただ、趣味で終わらせず、今はSIGNATEでサービス化しています。大企業の組織・職種を私が開発したAIで診断し、生成AIによりどのくらい業務効率化できるのかのポテンシャルを試算し、実際に生成AI導入、業務効率化の支援をしています。
宙畑:会社の情報をスキャンすることで効率化できるポイントを発見できる生成AI、とても面白いですね。各企業が自社で課題と思ってもいなかったことが効率化できるかもしれないと発見できるという意味では、知られざるニーズの発見ができるとも言えそうです。
(6)NSIとSIGNATEの技術がTellusに搭載されると何が起きる?
宙畑:NSIは衛星データ利用拡大におけるシーズ側の課題を解決し、SIGNATEは衛星データ利用拡大におけるニーズ側の課題を解決する可能性を秘めた生成AIの扱いに長けていると分かりました。両社の技術が組み合わさり、衛星データプラットフォームTellusが強化されるという意味で「衛星データ提供・解析基盤技術の高度化実証」なのですね。
牟田:そうですね。Tellusでは2018年から衛星データプラットフォームをオープンし、衛星データの提供や解析基盤の提供を進めて来ました。結果として、3万8千人を超える利用者の方に登録いただき、衛星データに触れていただくきっかけにはなったと考えていますが、衛星データを使った実利用がたくさん生まれる状況にはまだなっておらず、さらなる高度化が必要と考えています。
宙畑:NSIにとって、今回のSBIRの採択事業はどのようなメリットがあるのでしょうか?
長井:衛星データがどんどんと打ち上がる未来に、ユーザーはストレージに膨大な量の衛星データを抱える必要があるわけですが、ユーザーがより低コストで衛星データを解析できるような環境が整えられたらいいなということは常々思っていました。そのタイミングで今回のSBIRの座組みでTellusのクラウド環境を使えるようになり、私たちの開発スピードをあげることができています。
また、私達はスタートアップなので新規顧客の開拓は非常に大きな課題でした。その点、Tellusは既に38,000人を超える多くのユーザーが登録しており、今まで私達がたどり着けなかったようなお客様にたどり着くことが可能になると期待しています。
私たちは衛星データの処理については世界に負けない技術を持っている自信があるのですが、SIGNATEさんのような利用者が探索をするLLMを開発できるような技術を持っているわけではありません。
今回の取り組みでTellusを通して多くのユーザーに私たちの技術が、生成AIも用いることでより適切に届けられると嬉しいですね。
宙畑:ありがとうございます。宙畑としても毎月10万人前後のユーザーが訪れるメディアとなっているのですが、ひとりでも多くの方がTellusを通してNSIのデータ処理技術を利用いただけるようこれからも尽力したいと思います。続いて齊藤さんにお話を伺いたいと思います。衛星データ利用はニーズを発見することも難しいと考えているのですが、その点生成AIが解決できる可能性はあるのでしょうか?
齊藤:実は今、衛星データに対して生成AIによる分析などをいろいろ試してますが、もう既にいろいろできるなというのが正直なところです。というのもタイミングよくGPT-4などマルチモーダル機能を持つ生成AIや、オープンソースのファウンデーションモデルにアクセスできる環境が揃ってきているので、いろいろな実証実験ができています。
生成AIは、今はトップレベルの大学に入れる賢い高校生ぐらいの実力ですが、3年後にはあらゆる専門領域の博士レベルになり、AI同士が連携して自律的に問題解決ができるようになるという予測もあります。そうなると、言語ベースで衛星データについてインタラクティブに会話をしたり質問したり情報を抽出できたり、分析できるのはほぼ確定かなと思います。
さらに、Tellusのようなプラットフォームにおいては、今までにはない生成AI活用があり得ると考えています。例えば、Googleがなぜ企業として強いのかを考えると検索ワードをたくさん集められていることにあると考えています。検索という言葉の中にユーザーの意思がたくさん入っていますよね。長井さんも話されていましたが、ユーザーと繋がり、声を聞くことはビジネス上とても大事なことで、Tellusに生成AIと会話できる機能があれば、ユーザーの声が蓄積され、サービスの改善につながるヒントがたくさん見つかるでしょう。生成AIはプロンプトと呼ばれる指示文に対応できるので、ユーザーが衛星データに何を期待しているかが、より明確に理解することができます。
その先には衛星データがよりカジュアルに使われていて、様々なデータとの掛け合わせなど活用が広がると考えています。AIの技術進展は非常に早いため、産業的に競争力につなげるためにいち早く研究開発を始めることがこのプロジェクトの最大の意義だと思っています。
宙畑:SIGNATEの直近の取り組みで教えていただいた会社の診断での利用も考えると、検索をせずとも会社の状況から衛星データ利用による解決できるニーズを教えてくれるようになるかもしれませんね。それらのニーズの蓄積はすでに衛星データソリューションを生み出している企業にとっても有益な財産になりそうです。
齊藤:そうですね。実際に、ビジネスの現場で何が課題かを明確に定義できる人はそう多くはいません。課題が見つかったとしてもどういう手段で解決できるかを着想することも簡単ではないと思います。
この点でも生成AIが人間の限界を超えて解決してくれる可能性がありますね。実は、生成AIの活用で一番期待されているのはサイエンスの領域で、過去の研究論文を分析し新たな発見のヒントを得るなど科学者の生産性を飛躍的に高めるツールとして活用がはじまっています。さらにシンギュラリティの世界観でいえば、遅くとも10年後にはAI自体がAIを開発したり、AIが自律的に研究開発を推進していく可能性があり、ソニーの北野先生がお話しされていた「ノーベル賞クラスかそれ以上の科学的発見をAIシステムが自律的にできるようにする」というチャレンジも現実のものになるかもしれません。
宙畑:そう考えると衛星データのニーズとシーズの距離が遠いというのは、些細な課題になってしまっている気がしますね。そのうえで衛星データの処理についてもNSIの技術で誰もが信頼できる衛星データの解析結果としてインテリジェンスをユーザーにも提供ができているというのはとても素晴らしい状態ですね。
(7)ニーズとシーズの距離が限りなく0に近づく未来、衛星データ利用は急速に進む
以上、地球観測衛星の今後のトレンドと衛星データ利用の拡大を阻む課題、そしてその課題解決が期待される「衛星データ提供・解析基盤技術の高度化実証」に取り組むNSI、Tellus、SIGNATEの3社にお話を伺ったインタビューを紹介しました。
まず、衛星データの取り扱いがより難しくなるというシーズ側の課題に対しては、NSIのデータ処理技術の向上とそのTellusへの搭載が衛星データ利用のハードルを大きく下げてくれることに期待が高まります。
以前、宙畑では衛星データを解析できる状態にするまでの前処理を牛の解体に例えたことがあります。
このイラストの流れは衛星データのひとつのシーンについて行う作業であり、今回紹介した事業を抽象化したイラストは以下のようになります。
NSIは、独自の技術によりTellus上にある様々な衛星データをひとつの衛星データであるかのようにハーモナイズ化してくれます。料理の素材の例に例えるならば、すべての食材をいつでも、どのような料理にしても美味しくいただける状態になっているということです。つまり、米国産の肉でも、オージービーフでも、国産牛でも同じ様に料理ができ、同じ味のカレーを食べることができると言うことです。
そして、SIGNATEの生成AI技術がTellusに実装されることは、ユーザーが気付いていないニーズに対して、衛星データが利用できる余地があるならば自然と必要な解析結果が届き経済効果を生み出すことに寄与する可能性を秘めています。これは料理に例えるならば、キッチンに来た人が食べたいものを推測して美味しい料理を提供できる機能であるとも言えるでしょう。料理の方法についても、すでに衛星データソリューションを提供している企業のアルゴリズムを学び、そのなかから生成AIが最適な方法を教えてくれるようになると、よりよい解析結果をユーザーは得られるようになります。
つまり、TellusにNSIの技術とSIGNATEの技術が搭載される「衛星データ提供・解析基盤技術の高度化実証」は、ニーズとシーズの距離が限りなく0に近づけ、衛星データ利用の社会実装を加速させる基盤となるのかもしれません。
これからの地球観測衛星の増加に伴い、衛星データ利用の社会実装がより進むことで、その恩恵を得られる人が増え、より大きな経済効果が生まれることに期待が高まります。