宇宙ビジネス企業81社とゆく年くる年、2024年のトピックと2025年の展望
2024年、日本で活動された宇宙関連企業81社のゆく年くる年アンケートをまとめました!各社の2025年の市場予測もまとめています。
はじめに
2024年は、1月1日に発生した能登半島地震により、多くの被害をその地域に住む方々にもたらしました。この度の震災で被害に遭われた方々に、心よりお見舞い申し上げます。
震災後、JAXAが運用するだいち2号(ALOS-2)やその他民間企業が運用する地球観測衛星がその被害状況の把握のためにデータを提供した他、測位衛星を活用した必要な物資を運ぶためのドローン活用、通信衛星を活用したインターネット環境など、宇宙技術の活用も積極的に行われていたように思います。
ただし、地球観測衛星のデータ提供できる速度や一度に観測できる範囲、測位衛星の精度や通信環境の提供などまだまだ技術革新とサービスレベルの向上が望まれていることも多くあります。宇宙技術の発展が今後の自然災害時や平常時の一人ひとりの生活をより良くするための一助となれることを宙畑は願っています。
一方で、日本の宇宙開発に目を向けると、1月にSLIMのピンポイント月面着陸成功、2月にはH3ロケット試験機2号機の打上げ成功と嬉しいニュースも多かった1年でした。また、3月には2024年度からの3年間を、国内スタートアップ等が提供する衛星データを関係府省で積極調達・利用する「民間衛星の活用拡大期間」とする方針が、衛星リモートセンシングデータ利用タスクフォースの大臣会合で決定された他、7月から宇宙戦略基金の技術開発テーマの公募があるなど、日本政府として国内における宇宙技術の獲得や宇宙産業の発展にどのように寄与するのかといった方針がより明確になった1年でもありました。
『宙畑』では2020年より「宇宙ビジネスゆく年くる年」と題して、1年の振り返りと新年の抱負について、様々な宇宙ビジネス企業にアンケートをさせていただき、宇宙ビジネスの盛り上がりを読者の皆様に紹介しています!
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第5回目となる今年は以下3つのメインの質問をお伺いしました。
・2024年のトピック
・顧客と提供価値について、実事例と今後狙っていきたい理想的なユースケース
・2025年の抱負
そのほか、前年に続いて、宇宙ビジネスの市場規模や投資額が2025年はどのように増減すると思うかといった質問にも回答いただきました。
「こんなこともあったな」「この企業はこんなこともやっていたのか」「来年が楽しみだな」と年末年始の隙間時間のおともに記事をご覧いただけますと幸いです。
また、本年のアンケートも昨年同様に、宙畑がご連絡できた宇宙ビジネス企業の皆様に、アンケートの依頼をさせていただきました。今年連絡がきていない企業の方で、来年以降ご協力いただける企業様がいらっしゃいましたら、ご連絡をいただけますと幸いです。
各社の回答詳細はこちらからご覧いただけます。
(1)回答いただいた宇宙ビジネス企業紹介
今回のアンケートでは、年末のお忙しい時期にも関わらず、総勢81社の企業・法人に回答をいただきました。回答いただいた皆様には、あらためて御礼申し上げます。
※回答いただいた企業社数は記事公開後も随時増やしていきます。
以下、今回アンケートに回答いただいた企業・法人を主なサービス分野に分けてまとめました。
(敬称略、五十音順)
◆ロケットや地上局などのインフラ整備
【宇宙に運ぶ】
AstroX株式会社
ASTRO GATE株式会社
インターステラテクノロジズ株式会社
一般社団法人 宇宙旅客輸送推進協議会
清水建設株式会社
将来宇宙輸送システム株式会社
株式会社SPACE WALKER
Space Port Japan Association
【宇宙と地上をつなぐ】
株式会社インフォステラ
株式会社ワープスペース
◆衛星開発・衛星環境試験
【衛星開発】
株式会社アクセルスペース
インターステラテクノロジズ株式会社
株式会社QPS研究所
株式会社Synspective
日本電気株式会社
三菱電機株式会社
【衛星環境試験】
株式会社アクセルスペース
SEESE株式会社
◆部品・コンポーネント・素材(衛星・ロケット・地上システム他)
東レ株式会社
パナソニックグループ 宇宙プロジェクト
株式会社Pale Blue
◆衛星利用・衛星データ提供・プラットフォーム
【データ提供サービス・プラットフォーム】
株式会社Tellus
日本スペースイメージング株式会社
日本地球観測衛星サービス株式会社
株式会社パスコ
【ソリューションサービス】
株式会社Agriee
株式会社アグリライト研究所
Archeda, Inc.
インターステラテクノロジズ株式会社
宇宙サービスイノベーションラボ事業協同組合
UMITRON
衛星データサービス企画株式会社
株式会社オーイーシー
株式会社Organic AI
株式会社Gaia Vision
株式会社GLODAL
KDDI株式会社
サグリ株式会社
清水建設株式会社
スカパーJSAT株式会社
株式会社スペースシフト
株式会社スマートリンク北海道
ソニーグループ株式会社
株式会社天地人
トヨタ自動車株式会社 (TOYOTA MOTOR CORPORATION)
株式会社New Space Intelligence
株式会社Fusic
株式会社Penetrator
Penguin Labs合同会社
松嶋建設株式会社
YuMake株式会社
LAND INSIGHT株式会社
株式会社 Ridge-i
一般財団法人リモート・センシング技術センター
LocationMind株式会社
◆人類の宇宙活動領域拡張
株式会社ispace
株式会社IDDK
栗田工業株式会社
シスルナテクノロジーズ株式会社
株式会社Space Quarters
一般社団法人Space Medical Accelerator
株式会社TOWING
株式会社日本低軌道社中
Fuseki
◆宇宙の持続可能性
株式会社アストロスケール
株式会社Orbital Lasers
Star Signal Solutions株式会社
株式会社BULL
◆その他
【商社・コンサル】
合同会社 Oppofields
Space BD株式会社
株式会社Space Food Lab.
PwCコンサルティング合同会社
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
株式会社minsora
【保険】
東京海上日動火災保険株式会社
三井住友海上火災保険株式会社
【クラウドサービス】
アマゾン ウェブサービス ジャパン合同会社
【アプリケーション開発】
株式会社Fusic
【人材】
株式会社Prop-UP
【教育】
株式会社GLODAL
株式会社JTB
【コンテンツ・レポート制作】
株式会社sorano me
【コミュニティ・イベント】
一般社団法人ABLab
一般社団法人九州みらい共創
一般社団法人クロスユー
一般社団法人SPACETIDE
【その他】
株式会社レヴィ
(2) ロケットや地上局などのインフラ整備
ロケットや地上局などのインフラ整備部門では、宇宙ビジネスを推し進めるために欠かせない、産業を下支えする役割を担う企業のゆく年くる年を紹介します。
例えば、衛星が宇宙で活動するために、衛星を宇宙まで運ぶロケットが必要であり、衛星が観測したデータが地上で使えるようになるためには、衛星から地上のインターネット回線まで何らかの手段でデータを輸送(通信)する必要があります。
このセクションではこういった企業の2024年を紹介していきます。
世界では、SpaceXのFalcon9が今年も最も打ち上げ回数が多く、120回以上打ち上げを行っています。これは3日に1回以上打ち上げを行っている計算であり、打ち上げ自体が特別なものではなくなってきている段階まで来たともいえるでしょう。技術的には、同じくSpaceXが大型宇宙船「StarShip」の無人飛行試験を実施、射点に戻ってきたロケットの一部を大きなアームで受け止めるという動画が大変話題になりました。
SpaceX一強感が強いロケット打ち上げ市場ではありますが、2024年は日欧の新型基幹ロケットの打ち上げも相次いで成功しています。
欧州では延期していた次期基幹ロケットAriane6の初めての打ち上げに成功(一部動作に課題は残る)、2022年12月に打ち上げを失敗してから打ち上げを止めていた小型ロケットVega Cも、2024年12月に打ち上げを再開、無事成功させました。
ヴェガCロケットが飛行再開。欧州のSAR衛星「Sentinel-1C」の打ち上げ成功【宇宙ビジネスニュース】
日本でも新型基幹ロケットH3ロケットの打ち上げに成功、大手通信事業者Eutelsatとの打ち上げ契約を発表しました。一方の小型ロケットイプシロンSは残念ながら燃焼試験で異常燃焼が確認されており現在原因究明中です。
ロシア・ウクライナ戦争の影響を受け、ロシアのロケットによる打ち上げ手段が取れない状況が続く中、SpaceXが引き続き市場をけん引していくのか、日欧の基幹ロケットやその他のロケットベンチャーにどれほど入り込む余地があるのか、がポイントです。
このような状況の中、日本で宇宙ビジネスを展開する企業にはどのようなことがあったのでしょうか。今回アンケートに回答してくださったのは以下の企業です。
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【宇宙に運ぶ】
AstroX株式会社
ASTRO GATE株式会社
インターステラテクノロジズ株式会社
一般社団法人 宇宙旅客輸送推進協議会
清水建設株式会社
将来宇宙輸送システム株式会社
株式会社SPACE WALKER
Space Port Japan Association
【宇宙と地上をつなぐ】
株式会社インフォステラ
株式会社ワープスペース
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民間・政府マネーの投入と体制の強化
【宇宙に衛星を運ぶ】
いわゆるロケット打ち上げの企業では、官民双方での投資をトピックに上げる企業がありました。
インターステラテクノロジーズはシリーズEラウンドでSBIグループやNTTドコモなどから39億円の資金調達を実施、AstroXはプレシリーズAラウンドとして4億円の資金調達を実施しています。また、将来宇宙輸送システム株式会社はみやこキャピタル、Angel Bridge、SMBC VC、MOL PLUSなどから3.6億円の資金調達を実施しています
さらに、将来宇宙輸送システム、インターステラテクノロジズは文部科学省は中小企業イノベーション創出推進事業(以下、SBIR)のステージゲート審査を通過、それぞれ総額で70億円と66.3億円を交付上限額とする決定が行われました。
また、宇宙戦略基金で採択結果が発表された最初の技術開発テーマは「ロケット用大型構造部品を対象とした金属3D積層に係る基盤技術開発」で清水建設が採択されました。
こういった資金獲得を行いながら、各社では組織拡大・体制強化を行っています。本年度のトピックとして人材に関してあげたのは、AstroX、インターステラテクノロジズ、将来宇宙輸送システム、SPACE WALKERの4社で、積極的な採用を進めているようです。
インターステラテクノロジズがシリーズEラウンドで31億円を調達。ロケットと衛星の両事業を加速【宇宙ビジネスニュース】
民間ロケット支援事業SBIR、IST・将来宇宙輸送システム・スペースワンが次フェーズへ。総額100億円超を追加交付【宇宙ビジネスニュース】
日本で育てるべき宇宙技術の獲得に向けて。文部科学省のSBIRフェーズ3採択企業の事業まとめと今後のスケジュール
ルールメイク・エコシステムの形成
ヒトやカネが集まる中、ビジネスとして必要になってくるのはルールメイクや、業界を動かしていくエコシステムです。株式会社だけでなく、一般社団法人などでもこういった取り組みが進められています。
国内の法改正や海外のルールメイキングの議論等に参加し、参加企業の声を届けたことを今年のトピックにあげたSpace Port Japan Associationのほか、将来宇宙輸送システムは2024年8月に次世代型宇宙港を構想するワーキンググループ(NSP-WG)を設立し、17企業・1大学が参加したとのこと。
宇宙旅客輸送推進協議会では、2024年にシンポジウムを開催、将来は有人宇宙輸送システム(宇宙旅客輸送)が実現できるよう業界内の意見集約、法制度における安全基準、設計基準検討などで貢献していきたいと記載しています。
福島県南相馬市にてロケット打ち上げ環境の整備を進めるASTRO GATEは、今後より多くのロケット会社への提供を目指しています。
清水建設は、スペースワンのカイロスロケット打上げにあたり、射場の所長を同社社員が務め、射場運用に注力したとのこと。
業界自体を大きくしていくためには、複数の事業者の連携が欠かせません。2025年もこういった団体間をつなぐ動きが増えていくものと思われます。
宇宙通信インフラは「光通信」がキーワード
宇宙空間にいる衛星と地上設備の間をつなぐ通信インフラサービスを提供するインフォステラ・ワープスペースが揃って挙げたキーワードは「光通信」です。
インフォステラは、NEDOの「ディープテック・スタートアップ支援基金/国際共同研究開発」に採択され、商用光通信地上局サービスを実現するための技術開発を開始。
ワープスペースは光通信の導入支援として、光通信エミュレータと光モデムの開発を進めており、協業するユードム社(ソフトウェア支援)湖北工業社(光ハードウェア製造)との資本提携を発表しました。
(3) 衛星開発・衛星環境試験
衛星開発部門では、人工衛星のシステム全体を自社で設計・開発している企業のゆく年くる年を紹介します。
日本では2024年、宇宙戦略基金が開始され、衛星開発においては「高分解能・高頻度な光学衛星観測システム」や「商業衛星コンステレーション構築加速化」という技術開発テーマが設定されました。
このような状況の中、日本で宇宙ビジネスを展開する企業にはどのようなことがあったのでしょうか。今回アンケートに回答してくださったのは以下の企業です。
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【衛星開発】
株式会社アクセルスペース
インターステラテクノロジズ株式会社
株式会社QPS研究所
株式会社Synspective
日本電気株式会社
三菱電機株式会社
【衛星環境試験】
株式会社アクセルスペース
SEESE株式会社
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衛星サプライチェーンの強靭化
衛星自体の製造設備の増強を挙げたのは、宇宙戦略基金の「商業衛星コンステレーション構築加速化」にも採択されたQPS研究所とSynspectiveです。
QPS研究所はこれまでの工場の10倍以上の広さとなる設備を設置し、年間10機の生産能力を確保する予定で年明けの本格稼働を予定しています。
Synspectiveは量産工場「ヤマトテクノロジーセンター」を今年9月から本格稼働させ、2020年代後半までに30機の衛星コンステレーションを構築する目標を実現させる予定です。
また、アクセルスペースは7月に宇宙用コンポーネントの軌道上実証に特化したAxelLiner Laboratory(AL Lab)のサービス開始を発表。衛星の打ち上げ機数が増える中で、衛星に搭載する機器を事前に宇宙空間で動作実験する需要に対応しようとしています。
SEESEは部品やコンポーネントが宇宙で使えることを確認するための放射線試験体制の構築を推進、同社は製造業のエコシステムの構築を目指しています。今後のユースケースとしては、環境試験だけでなく、部品選定及び調達プロセスの支援などより幅広いバリューチェーン支援を行なっていきたいとのこと。
Synspective、神奈川県大和市の製造拠点が稼働開始。50名程度を新規採用予定【宇宙ビジネスニュース】
QPS研究所の新研究開発拠点が11月から稼働へ。衛星の量産体制を強化【宇宙ビジネスニュース】
アクセルスペース、衛星部品等の宇宙での実証を支援する新サービスを発表。第一号案件は26年に打ち上げ【宇宙ビジネスニュース】
地球観測衛星利用用途は、安全保障・防災・グリーン領域が多い
地球観測衛星を開発しているスタートアップ3社、アクセルスペース、QPS研究所、Synspectiveが挙げた2024年のユースケースは能登半島地震の緊急撮影でした。
その他の用途では、
・アクセルスペース:農業、国土管理
・QPS研究所:官公庁への提供、防災・減災
・Synspective:持続可能な社会・経済活動を阻害する恐れのある自然災害や紛争、環境破壊などのリスクを特定・評価
・三菱電機:災害時の迅速な情報提供や平時の社会インフラ監視を行う防災分野、広大な海域から船舶や漂流物を抽出する海洋分野、社会活動を支援するESG分野
などが挙げられています。
トラディショナルスペースは、衛星製造に加えて新たな事業を模索
古くから衛星開発を行ってきた日本電気や三菱電機は、これまでの衛星開発に加え新たな価値提供を行おうとしています。
日本電気は、低軌道衛星コンステレーションによりネットワークを構築し、公共機関・民間機関へデジタルインフラの提供や、宇宙業者に対する衛星・コンポーネントの提供を行うとしています。同社は、宇宙戦略基金でも「光通信衛星コンステレーション構築及びシステム実証に係る技術開発」という技術開発課題で、「光通信衛星コンステレーション構築及びシステム実証に係る技術開発」に採択されており、先にも挙げた光通信の領域での衛星コンステレーションの領域へ進出していくものと思われます。
三菱電機は衛星データソリューション事業の展開に注力としており、だいち4号などの複数の観測衛星から得られる画像データを利用したソリューション事業への拡大を進めています。
(4)部品・コンポーネント・素材(衛星・ロケット・地上システム他)
部品・コンポーネント・素材部門では、衛星やロケット、地上システムなどに部品や機器(コンポーネント)を提供している企業のゆく年くる年を紹介します。
先に述べたとおり、衛星全体では「高分解能・高頻度な光学衛星観測システム」や「商業衛星コンステレーション構築加速化」が進められる中で、それらの大量の衛星を製造するための仕組みや部品などの供給網の確保、すなわち「衛星サプライチェーン構築のための衛星部品・コンポーネントの開発・実証」が求められています。
このような状況の中、日本で宇宙ビジネスを展開する企業にはどのようなことがあったのでしょうか。今回アンケートに回答してくださったのは以下の企業です。
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東レ株式会社
パナソニックグループ 宇宙プロジェクト
株式会社Pale Blue
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衛星の量産化に向けて、部品・コンポーネントも準備が進む
Pale Blueは、1月に生産技術開発拠点の立ち上げを発表、最大約40億円の文部科学省のSBIRフェーズ3にも採択され、シリーズBラウンドの資金調達(約25億円)も完了、開発を加速化しています。
宇宙実証を進めたのはパナソニックグループ宇宙プロジェクトでした。同社は2024年3Uキューブサット「CURTIS」を打ち上げ、同社製の車載カメラやリチウムイオン電池などが搭載されました。
材料領域では、東レが炭素繊維の新素材を開発、月面探査や月面開発で使用するモビリティー、建機などで活躍することが期待されます。
(5)衛星利用・衛星データ提供・プラットフォーム
衛星利用部門では、通信衛星、測位衛星、地球観測衛星を活用した地上の生活をより良くするためのサービス提供に関わる企業のゆく年くる年を紹介します。
2024年4月に「Space: The $1.8 Trillion Opportunity for Global Economic Growth」と題された宇宙産業の市場規模とその成長予測に関するレポートが世界経済フォーラムより発表されました。レポートでは、2023年時点で6300億ドル(約100兆円)、今後は2030年に1兆1600億ドル(約185兆円)、2035年には1兆7900億ドル(約286兆円)になると予想されています。
ロケットや宇宙探査といった印象が強い宇宙産業ですが、その実態は現在も未来も、宇宙技術を活用した地上におけるサービス展開とその波及効果が市場規模の多くを占めています。
衛星利用部門の企業のマネタイズが成功し、衛星を利用したいという需要が生まれることによって、最終的にはロケットや衛星開発の需要や宇宙の持続可能性が必要であるという重要性が増します。つまり、衛星利用部門の成功は、宇宙産業全体の行く末を左右すると言っても過言ではありません。
そのようななか、海外の動向に目を向けると、200機の衛星コンステレーションを構築し、2つの新しい衛星コンステレーション構築を進めるPlanet Labsは、2回にわたる大規模なリストラが話題となりました。ただし、最新のIR資料を見ると、売上は順調に伸びており、2025年には黒字化を達成する予測となっています。同社は2023年に衛星データの解析プラットフォーム「Sentinel Hub(センチネル・ハブ)」を運用するSinergiseの買収をするなど、衛星利用の柔軟性と利便性の強化を進めていました。衛星開発を進め、衛星利用にも力を入れる民間企業の黒字化の達成は2025年の宇宙産業における大きな転換点となるでしょう。
では、日本で衛星利用サービスの拡大と発展に関わる企業にとって2024年はどのような1年だったのでしょうか。今回アンケートに回答してくださったのは以下の企業です。
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【ソリューションサービス】
株式会社Agriee
株式会社アグリライト研究所
Archeda, Inc.
インターステラテクノロジズ株式会社
宇宙サービスイノベーションラボ事業協同組合
UMITRON
衛星データサービス企画株式会社
株式会社オーイーシー
株式会社Organic AI
株式会社Gaia Vision
株式会社GLODAL
KDDI株式会社
サグリ株式会社
清水建設株式会社
スカパーJSAT株式会社
株式会社スペースシフト
株式会社スマートリンク北海道
ソニーグループ株式会社
株式会社天地人
トヨタ自動車株式会社 (TOYOTA MOTOR CORPORATION)
株式会社New Space Intelligence
株式会社パスコ
株式会社Penetrator
Penguin Labs合同会社
松嶋建設株式会社
YuMake株式会社
LAND INSIGHT株式会社
株式会社 Ridge-i
一般財団法人リモート・センシング技術センター
LocationMind株式会社
【データ提供サービス・プラットフォーム】
株式会社Tellus
日本スペースイメージング株式会社
日本地球観測衛星サービス株式会社
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ひとつの地方自治体の成功事例が、さらなる地方自治体事例創出に波及
2024年は、地方自治体におけるひとつの成功事例は、他の地方自治体にも波及していくことが目立ちました。
例えば、2023年にも紹介した天地人の「宇宙水道局」は東京都や札幌市といった大規模都市だけでなく、日本全国の様々な規模の自治体に導入が進んでいます。47都道府県それぞれの議会議事録を見ても、水道管の老朽化において、衛星データ含む様々なデータを複合的に分析したリスク優先度の判断は非常に需要があると分かります。
また、LAND INSIGHTは、南相馬市で転作確認の見回り業務について、衛星データ利用の実証を行い、約30%の現地確認作業の削減と15%強のコスト削減を実現したなど、経済合理性が見えてきたとのリリースもありました。その結果、南相馬市のみならず、南相馬市の衛星データ利用時に同時に衛星データに写っている他の21地域にも衛星データ利用実証を拡大しています。
「17時15分に退勤して、家族と幸せな時間をもっと過ごしたい」20年変わらなかった業務改革 – 南相馬市×LAND INSIGHTの挑戦
衛星データを活用した作物の生育評価システム「GrowthWatcher」を開発するAgrieeは本年度、JAや自治体向け「マスターズ」にて横展開を進めるほか、農家ではなくバイヤーを対象にしたバージョン「バイヤーズ」のβ版をリリース。同じデータを扱いながらサプライチェーンに関わる様々な顧客にサービス展開を進めています。
そして、地方自治体において、今後の拡大が期待される実証事例についても、多くの企業から回答がありました。
山口県で小麦の品質向上のため、農家の方に施肥の量を圃場ごとにコントロールする参考データとして、衛星データの解析結果を提供するアグリライト研究所は、次なる新品種小麦導入に備えた診断技術開発や、他の作物への横展開にも着手しています。今後は「農産物を加工し商品とする製粉業者や食品メーカーへの展開、あるいは農業生産から食品加工までを一体で行う冷凍野菜加工業や生薬健康食品メーカーでの生産量予測を活用した加工工場の効率的な運用情報への展開を図っていきたい」と回答されています。
「これ当たるんよ」「次はいつ?」山口県のキーマンに訊く、衛星データで品質向上を実現した小麦農家の生の声と展望
「2024年は成長の年でした」と回答をいただいたのは、パスコ衛星事業部です。宇宙開発利用大賞農林水産大臣賞を受賞したMiteMiru森林を始めとして、提供する様々な衛星商品・サービスの利用が順調に増加し、政府や地方公共団体の進める様々な実証にも参画し、国内外での衛星データ利用の拡大に努め、サービスラインナップの強化や拡大も進んだ1年となったようです。今後も多様な分野の現地パトロールへの衛星適用など個別の衛星では実現できなかったことの実現、地方自治体の持つ業務課題への衛星適用の深堀りなどに取り組むと回答をいただきました。
2024年に地元での広範囲の災害箇所把握を目的として、地元大学と共同研究として衛星画像解析にチャレンジしたという松嶋建設からは「初めて衛星画像に触れてみて現場での活用を考えた際に、とても大きな可能性を感じました」と回答をいただきました。また、それと同時に貴重なデータが多くあるにも関わらず、本来現場で活用できるはずのデータが活用しきれていない「もったいなさ」を感じられたそうです。
また、宙畑が国土交通省さまにお話を伺った際には、不法盛土の監視における「先進的な取り組みを行っていた地方自治体の事例」が、国土交通省様災害を未然に防ぐための盛土を監視する手段として衛星データを利用する際のガイドラインを制作したきっかけになったと、教えていただきました。
不法盛土を宇宙から監視! 国交省が公開した盛土規制法のガイドラインに衛星データが盛り込まれたワケ
このように、衛星データは広範囲の均質なデータを取れるからこそ、地方自治体における成功事例の創出は、その地方自治体のみならず、日本全国に影響を与えるレベルで非常に大きな意味があると考えています。
ただし、地方自治体における新しい技術の浸透には、地方自治体の予算、技術導入を進める担当者のリソース、その他様々なハードルがあります。それを大阪市役所職員として20年間勤務され、現在は新規事業創出支援および関連する人材・組織開発を担うフィラメントを創業された角勝さんへのインタビューを通して宙畑が学ぶことができたのも2024年でした。
その上で、それらのハードルを一つ一つ乗り越えることができている地方自治体の成功事例をうかがい、宙畑の記事として紹介することが、これから衛星データ利用を導入したいと考える地方自治体の方や、衛星利用ソリューションを提供されている企業の方のヒントになれば幸いです。
衛星利用企業各社のパートナー提携拡大
パートナー提携の拡大に関する回答も2024年は多くいただきました。
例えば、衛星データサービス企画は日本版災害チャーターの運用を内閣府のBRIDGEプログラムにおいて、防災科研、三菱電機と共に推進し、顧客からのポジティブな反応を得られたとのこと。また、三菱電機、三菱UFJ銀行、GHGSat Inc.と、衛星データを利用した温室効果ガス排出量の可視化に関するパートナーシップ契約を締結しています。
他にも、New Space Intelligence(以下、NSI)がMRI(三菱総合研究所)、アークエッジ・スペースなど、多様なパートナーと連携を実現し、いすみ鉄道とはネーミングライツ契約を締結し「NSI国吉駅」が誕生するなど、ユニークな提携があったことも印象的でした。NSIは2022年度のSBIRの応募テーマ「衛星リモートセンシングビジネス高度化実証」において、TellusとSIGNATEともパートナーを組んでいます。
ニーズとシーズの距離が限りなく0に近づく、生成AI×Tellusが実現する衛星データの未来
また、宇宙サービスイノベーションラボ事業協同組合は、国内8大学法人およびその研究室から誕生した13の研究室発スタートアップが連携するコンソーシアムです。2024年度は、METI-SBIRで組合員3社、JAXA基金で2社が採択されるなど、宇宙分野でのプレゼンスが高まっているとの回答がありました。今後も国内外の産業界やアカデミアとの連携を深化させ、新たなパートナーシップを築くことで、次世代の宇宙データ活用モデルを創造していくと力強い言葉をいただいています。
2025年に創立50周年となるRESTECも「国内外の民間企業や宇宙関係機関等と連携し、新技術を活用してリモートセンシング技術の可能性を広げ、農業、インフラ・土木、安全保障等の分野に向けたソリューション創出に取り組みます」とのこと。加えて「宇宙技術戦略等を踏まえた、提案活動や社会実装を推進し、社会経済の発展及び人々の生活向上に寄与します。加えて、人材育成やコミュニティ活性化など公益性の高い事業にも注力し、持続可能な未来を目指して取り組む」と2025年の抱負を回答いただきました。
このように、様々な企業が自社の強みにこだわった1社単独での動きを進めるだけでなく、営業機能や資金供給機能、衛星開発機能など、さらにサービスを拡大するためのパートナーシップを提携することによって、世界のスピードに負けない事業推進力を獲得しています。
今年の宙畑の年末特集「ゆく年くる年」では81社を超える企業の皆様に回答をいただきました。本記事をきっかけに新しいパートナーシップの可能性を読者の皆様に見出していただき、より良いつながりが生まれましたら、宙畑としては嬉しいことこの上ありません。
地球温暖化という地球規模課題における衛星データ利用の拡大
2022年、2023年と2年連続で環境モニタリングへの衛星データ利用が注目されていることをトピックに挙げていましたが、2024年もその傾向が一層強まっているようです。
地球温暖化の原因となる温室効果ガスの削減は、世界中で歩調を合わせて努力することが求められています。その一環で、カーボンや炭素という言葉が頻繁に飛び交っています。ここでいうカーボンや炭素とは、主に温室効果ガスのひとつである二酸化炭素の抑制に関わるものです。
では、衛星データがどのように温室効果ガスの抑制に関わるのでしょうか。大きく分けると、カーボンクレジットの創出と温室効果ガスのモニタリングの2つに分けられます。
カーボンクレジットとは、企業間で温室効果ガスの排出削減量を売買できる仕組みのことで、カーボンクレジットの創出において、衛星データはその算出や、申請されたクレジットの信頼性を評価する役割として期待されています。具体的には、森林、湿地、農地、そして近年注目されている海洋生態系(ブルーカーボン)が吸収する二酸化炭素量の測定です。
例えば、ウミトロンは「2024年はブルーカーボンをテーマにした衛星データ利用が進む年になった」とのこと。海藻や海草のモニタリングからブルーカーボンクレジットの申請支援まで幅広く進め、衛星によるモニタリングに加えて現地観測や養殖技術も重なる領域で、技術的にもチャレンジングだったそう。2025年はブルーカーボン分野での技術開発をしっかりと進め、養殖業における新たな付加価値作りに貢献して行きたいと回答がありました。
スマートリンク北海道は、国が進める地球温暖化対策に向けて農業分野では炭素固定に対する支援に対して、農業者がこれに対応するための現状把握資料と対応に向けた処方箋を提供すると回答されています。それにより、農業者は新たな収入を得ることが可能となり、同社もその対価を得ることが可能となると、衛星データ利用企業にとっても新しいビジネスモデルの構築が可能となります。
Archedaも、衛星データを利用した森林のモニタリングと、透明性の高い自然由来のカーボンクレジットの創出支援を行なっていきたいと回答。同社は東洋経済が毎年行う企画「すごいベンチャー100」の1社にも選ばれています。
実際に、サグリは、キリンホールディングスと大麦のサプライヤーと協業し、ビールの原料である大麦を栽培する農地における炭素貯留量の予測サービスを提供すること、また、出光興産とも連携してベトナム農業の脱炭素化に貢献するプロジェクトを行うことをいずれも2024年12月に発表しました。大企業における衛星データ利用の事例創出は、その他の企業の利用にもつながることが期待されるため、非常に大きなニュースだったように思います。
温室効果ガスのモニタリングについては、その名の通り、全球を観測できる地球観測衛星が、各地の温室効果ガスの排出状況を観測するという利用方法です。これにはどこで温室効果ガスが排出されているのかという監視という役割と、過去と比較して温室効果ガスがどのように増えているのかを理解するという役割があります。
事例としては、繰り返しの紹介になってしまいますが、衛星データサービス企画が三菱電機、三菱UFJ銀行、GHGSat Inc.と、衛星データを利用した温室効果ガス排出量の可視化に関するパートナーシップ契約を締結しています。
また、Tellus、バスキュール、環境省の3者で温室効果ガスをモニタリングするGOSAT(いぶき)シリーズのデータを3Dで可視化するプロジェクトをCOP29で発表するなど、日本における環境問題の重要性について一般の方にも分かりやすく伝わるような事例が生まれた1年だったように思います。
環境問題にデザインからアプローチ! COP29で展示される「GOSAT(いぶき)」の温室効果ガス濃度3D可視化プロジェクトはなぜ立ち上がったか【環境省×バスキュール×Tellusの3者インタビュー】
異常気象リスクの理解と災害発生時の対応に衛星データ利用も進む
その上で、自然災害発生時の状況把握や異常気象リスクの把握のための衛星利用についての回答を2024年は複数の企業からいただきました。
例えば、トヨタ自動車は SAR衛星データと地上データを使った浸水域の解析を行うことで、通れない可能性がある道路に関する情報提供、災害時の安全な避難経路の提示、災害復旧支援にあたる際の計画への活用、都市のレジリエンス強化に貢献することを目指しています。トヨタ自動車はコネクティッドサービスを利用している車から走行データやその周辺データも収集しており、衛星データとの補完を行うことで広範囲、かつ、正確でリアルタイムの情報サービスを提供することができると期待されています。
また、Gaia Visionは、2024年に気候リスク評価と洪水予測アプリケーションを新たに開発してローンチし、利用実績を増やすことができたとのこと。具体的には、製造業の顧客には、顧客企業の主要拠点における気候リスクを分析し、情報開示や社内でのリスク対策に活かしていただいた他、金融機関に対してもグローバルな情報を提供することでリスク分析の高度化のための連携研究を進めたそうです。今後は、短期間の洪水予測や土砂災害予測情報の精度を高め、その情報を用いて実際の災害の被害を減らした事例を生み出したいと回答されていました。
さらに、農水省主導のBRIDGEプログラムである「令和6年度AI農業社会実装プロジェクト」に衛星データ・気象データ活用という観点で参画しているPenguin Labsも、気候変動は今後避けては通れないかつ壮大なテーマと考え、衛星データや気象データを活用したソリューションを確立してマネタイズを行っていく構想を進めていると回答がありました。
地球温暖化の進行は、温室効果ガスの削減努力により遅らせることはできるものの、現代を生きる人類にとって、自然災害の激甚化は避けては通れない未来でしょう。今から異常気象が発生した際のより良い対応ができる準備や、そのリスクを正確に把握することに衛星データが利用されることが期待されます。
気象予報士、斉田季実治さんに訊く、異常気象の原因と今後、衛星データ活用の可能性
こんなところで!?な衛星利用の実証と実用化
2024年の各社の回答や話題になったニュースのなかで「こんなところで衛星データが活用される可能性があるのか!?」も多くありました。
例えば、YuMakeは、佐賀市で体感温度をセンシングする取り組みを開始し、人の体感に合わせた広告表示を実践しているそう。そこで、センシングするための機器がなく、体感温度が分からない領域・エリアについては、衛星データも活用できる可能性があるとして、活用余地を探っているとの回答がありました。
また、Penetratorは、衛星データから空き地や駐車場、空き家候補となる古屋などの不動産を瞬時にピックアップ。その上で、法務局の登記データとシステム連携し、その不動産の所有者を瞬時に特定することが可能なSaaSを開発しています。顧客には不動産会社やディベロッパー、土地活用提案企業が多く、最近では、小売や医療関係の企業も出店用地探し、リフォームや解体などの建築会社が営業先探し、太陽光などの設置場所探しなど、不動産で業績が左右される非不動産系企業も増えているそうです。
不動産業界での利用については、衛星データプラットフォームの開発・運用をするTellusからも、顧客であるウィル社が家探しの指標の一つとして衛星データを使った植生指数を取り入れたサービスを開始したとの回答がありました。成人年齢になるまでに住んだ地域の植生がうつ病になるリスクに関わるといった研究や、住んでいる地域の植生が認知症リスクにも関わるといった研究があります。今後、衛星データから分かる新しい指標が不動産価値につながる時代が来るかもしれません。
さらに、Ridge-iが2024年に発表した衛星データ事例も、非常に興味深いものでした。同社はEY 新日本有限監査法人(以下、「EY 新日本」)に衛星データ活用アドバイザリーサービスを提供し、監査・保証業務への衛星データ活用にむけたサービス化の検討を開始したことを発表しました。具体的には、世界中に点在するクライアントの資産等の現場視察の補完手続きや状況変化の確認のために人工衛星が取得した衛星データを利用するとのこと。海外や山地などの遠隔地や広範囲に存在している場合など、現地の往査や全体の状況把握が難しいケースがあり、資産の実在性や稼働を効率的かつ効果的に確認ができると期待されています。
地球観測衛星の撮影サービスを一般に開放したソニーグループの「宇宙撮影体験」がスタートしたのも2024年でした。累計で約500名の方が人工衛星を使った宇宙からの撮影を体験したとのこと。現在、日本科学未来館でテーマ展示「STAR SPHERE~ あなたと宇宙がつながる未来へ」を4月中旬まで開催中で、年明けからは宇宙から生中継する「ライブストリーミング」コラボイベントをはじめ、運用終了に向けたイベント等多くの企画を実施していくとのこと。宇宙技術の利用がより一般的なものとなる予兆を感じさせました。
このように、様々な業界で衛星データの利用が進んでいることが分かります。その状況をまさに言い表していたのが衛星データプロバイダーである日本地球観測衛星サービスの「地球観測データの活用領域(業界、業務)が拡大している事を実感できる1年でもありました。特に、以前から活用が期待される領域において、本格的な利用が活性化し、そこから派生した活用事例が目立ったように感じています」というコメントでした。
また、地球観測衛星の利用に限らず、通信衛星の利用可能性に気づく機会も多かった1年でした。
KDDIは「『つなぐチカラ』が、Starlinkにより大きく前進した1年になった」とのこと。具体的には、光ファイバー回線の敷設や通信環境の整備が困難とされてきた山岳地域で、2024年には、日本百名山を中心とした100カ所を超える山小屋で「山小屋Wi-Fi」が利用可能になったとのこと。電波の届きにくい山小屋において、防災/天候情報の収集、家族/友人との連絡、SNS投稿、キャッシュレス決済、ネット予約などを可能にするなど、山小屋の利用者/オーナーともに好評いただいているそうです。さらに、同社は「つながらないがなくなるように、”山”の次の領域を今後探索していきます。」と回答しています。
また、2024年に100億円の投資枠を設定し、様々な企業との提携を進めるスカパーJSATは、静止衛星・非静止衛星・HAPSなど非地上系通信インフラの融合、地上系ネットワークとの連携を通じ、お客様が意識することなく、いつでも、どこでも最適な通信経路に自動接続できる、革新的な通信ネットワーク「Universal NTN」の構築を目指しています。それにより、多様化するニーズや、空飛ぶクルマなどの新たなユースケースに対応するとの回答がありました。今はない、未来の産業にも宇宙技術の活用が期待されています。
さらに、測位衛星も今後ますます地上で利用事例が増えることが予想されます。例えば、清水建設はGNSSを用いた動態観測サービス「QuartetS®」を開発。上空視野がある程度制限される環境でも、高精度で安定した計測ができるのが特長で、土木現場の土地造成の現場や高層ビルの建築現場など、社内の建設現場での実証を行ってきたそう。2025年は「不法投棄・不適正盛土の監視、鉄塔・ガスタンクの変位計測等、インフラ業界や行政を顧客として販路拡大を目指したい」と抱負を回答いただきました。
人工衛星から国境は見えない、国の後押しも受けて海外展開を各社が加速!
人工衛星は宇宙に配備されているため、測位衛星、通信衛星、地球観測衛星それぞれが基本的には均質なサービスを地球全球に提供することができます。そのため、国境関係なく、あらゆる国にサービスを提供できる可能性を大いに秘めています。
宇宙戦略基金の技術開発テーマとして「衛星データ利用システム海外実証」が公募されていることからも分かるように、国内の衛星データ利用事業を海外市場にまで拡大することは日本政府としても実現したいことのひとつです。
2023年の「ゆく年くる年」でも「海外展開が加速」をトピックとしてあげていましたが、2024年も昨年に続き、各社が海外展開について回答がありました。
例えば、静止軌道に通信衛星を配備するスカパーJSATは、既存衛星に新衛星(打上げ後も顧客の需要に柔軟に応じることができるフルデジタル衛星)を加えた100Gbps超の衛星群により、航空機向けやアジア・太平洋・オセアニア地域など成長市場の通信需要に対応していくと回答がありました。
また、お米の収穫適期予測に取り組むオーイーシーは、お米の収穫適期予測のノウハウを海外展開に利用できないか考えているとの回答がありました。
さらに、位置情報を中心とするマルチモーダルな空間情報分析技術と、GNSS Spoofing(位置偽装)対策技術を武器に、国内及び海外の政府系、及び安全保障向けのプロダクト/ソリューションを展開中と話すのは、LocationMindです。同社は、宇宙戦略基金はこれまでの国の基金や公募と比較して政府としての強い意志が感じられ、会社としてもモチベーションが上がったとの回答もありました。
スペースシフトは「2025年は2024年に生み出したシーズを育てていく年と位置づけています。PoCから継続ビジネス化の展開、パートナーを通じたサービス展開など、これまで開発してきた要素技術を一気にビジネス化していきます。また海外展開も並行して強め、国内外でのビジネス規模拡大を推進していきます」と回答。同社は、SAR衛星データの変化検知による、地図の更新の効率化であったり、農地管理の効率化は継続的にご利用いただけるような形になってきたことや、衛星データを活用したビジネス共創プログラム「サテラボ」を5月に立ち上げたことで、一般企業の方の衛星データに対するリテラシーも大幅に向上してきたことも2024年のトピックとして挙げていました。
ちなみに、2025年1月17日まで、「日本の宇宙ビジネスの海外展開支援に係る企業様へのアンケート(2024年度)」が実施されています。衛星利用ソリューションのみではありませんが、宇宙輸送システム(ロケット等)や衛星システム(通信、観測、測位、軌道上サービス 等)の開発に限らず、宇宙機部品・コンポーネントまで、宇宙技術の海外展開を行われている企業の声を集めているようです。今後、海外展開をもくろむ中で、課題や政府支援の要望がある方は、回答されてみてはいかがでしょうか。
(6)人類の宇宙活動領域拡張
人類の宇宙活動領域拡張部門では、月面や宇宙空間で人類が暮らしていくための技術・サービスについて提供している企業のゆく年くる年を紹介します。
今回アンケートに回答してくださったのは以下の企業です。
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株式会社ispace
株式会社IDDK
栗田工業株式会社
シスルナテクノロジーズ株式会社
株式会社Space Quarters
一般社団法人Space Medical Accelerator
株式会社TOWING
株式会社日本低軌道社中
Fuseki
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各社・各機関で連携が進む
本領域に参画する企業が増えていく中で、複数社で連携するケースも数多くみられるようになってきています。
ispaceでは、HAKUTO-Rのオフィシャルパートナーに三井住友銀行、コーポレートパートナーに栗田工業、ジンズが新たに参画、着々と経済圏の構築を進めている印象です。
ispaceとの連携の発表もあった栗田工業は他にも高砂熱工業とも月面での水素生成ミッションに超純水を提供するなど、複数の連携を進めています。
また、月面の水という観点では、総務省の主導するテラヘルツ波によるリモートセンシングで月面の水資源マップをつくるTSUKIMIプロジェクトにおいて、衛星バス開発をSpace BDがシスルナテクノロジーズと共に担当。
TOWINGは、昨年に続き、SPACE FOODSPHEREやStardust Programの中で、宇宙農業システムの開発を行っています。
Space Medical Acceleratorでは、先進的な技術を持つ海外企業からの問い合わせや協力依頼も増えてきているため、医療ヘルスケア分野での宇宙事業に際してパートナー企業を求めている顧客に対するマッチングや共創事業のマネジメントも手掛けていくことを目指しています。
Space Quartersでは、宇宙ステーションホルダーにモジュールを、通信衛星事業者にアンテナを、宇宙機関に月面基地を提供するビジネスモデルを構築し、実際2024年6月には大林組より月面基地構築プロジェクトを受注しています。
宇宙でのバイオ実験の準備が進む
「バイオ」をキーワードに事業を進めるのは日本低軌道社中とIDDKの2社です。日本低軌道社中は、宇宙戦略基金の「低軌道自律飛行型モジュールシステム技術」「国際競争力と自立・自在性を有する物資補給システムに係る技術」に採択、データセンタ・半導体・バイオメディカル・エンターテインメントの4つを注力領域として、事業を進めています。
IDDKでは、台湾の大学2校とのMOU締結、MBRSCとのMOU締結を実現し、新薬の開発や病気の解明などに貢献するプラットフォームの開発を進めています。また、同社は、日本で民間初となる人工衛星による宇宙バイオ実験プラットフォームの実証機を2025年に打ち上げ予定です。
内閣府主催の宇宙分野のビジネスアイデアコンテスト「S-Booster 2023」にて最優秀賞に輝いたチームが起業したFusekiは、2024年の助走期間を経て、2025年には本格始動予定とのこと。小惑星フライバイ探査で得た情報を元にしたBtoBのコンサルティング事業の展開を計画しています。
(7)宇宙の持続可能性
宇宙ビジネスが盛り上がりを見せる中、衛星やロケットの機数が増えていく中で、宇宙の持続可能性を考える必要が出てきています。
2024年は7月に日本で、第6回「宇宙の持続可能性」サミットが開催されるなど、注目度は年々上がっています。
日本でも取り組む企業が増えてきています。
今回アンケートに回答してくださったのは以下の企業です。
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株式会社アストロスケール
株式会社Orbital Lasers
Star Signal Solutions株式会社
株式会社BULL
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政府と連携しながら技術実証を進める
宇宙の持続可能性を高めていく事業は、その公共性や技術的な難易度から、政府との連携が不可欠です。
アストロスケールはJAXAの大型デブリ除去等の技術実証を目指し実施する商業デブリ除去実証(CRD2)のフェーズIIの契約相手方として選定され、ADRAS-J(アドラスジェイ、Active Debris Removal by Astroscale-Japan の略)のミッションを実施、実際のデブリへの安全な接近や調査を実施する世界初の試みで大きな成果を挙げました。
Orbital Lasersは、2024年8月に高度計ライダー衛星の概念設計をJAXAから受注、技術開発を進めています。
Star Signal Solutionsは、JAXAベンチャーとして発足、日本初となる人工衛星向けの衝突回避ナビゲーションサービス「S-CAN」をローンチし、実際の衛星運用ユーザー様にモニター頂き、商用契約を受注するに至りました。
BULLは、昨年採択された「文部科学省 中小企業イノベーション創出事業(SBIRフェーズ3)」のもとで、社会実装に向けた取り組みを加速させたほか、「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」の枠組みでイプシロンSロケットへの搭載に向けた共創活動を開始しました。また、日本のみならず、欧州のAriane6ロケットへの搭載の実現可能性の検討も開始しています。
(8)宇宙産業時代に不可欠な企業が集うその他部門
ありがたいことに宙畑の年末特集「ゆく年くる年」に回答いただいた企業・法人の数が70を超え、本年から部門の分類をより詳細にしました。しかし、それでもそれらのカテゴリでは収まりきらない、様々なサービスを提供する企業が宇宙ビジネスに参入しています。
そして、本章で紹介する企業の多くは、宇宙業界が必ずしも宇宙産業にもともと関わっていた企業ではありません。ただし、紹介するどの企業も、宇宙業界が研究開発が主な目的だった宇宙開発時代から、ビジネスとして経済的に持続可能な自立性も必要とされる宇宙産業時代に欠かせない企業ばかりです。
これまで宇宙ビジネスと無縁と思っていた方々こそ、どのようなニーズが宇宙産業時代に必要とされているのかの参考として、ご覧いただけますと幸いです。
本部門で回答いただいたのは以下の企業の皆様です。
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【商社・コンサル】
合同会社Oppofields
Space BD株式会社
株式会社Space Food Lab.
PwCコンサルティング合同会社
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
株式会社minsora
【保険】
東京海上日動火災保険株式会社
三井住友海上火災保険株式会社
【クラウドサービス】
アマゾン ウェブサービス ジャパン合同会社
【アプリケーション開発】
株式会社Fusic
【人材】
株式会社Prop-UP
【教育】
株式会社GLODAL
株式会社JTB
【コンテンツ・レポート制作】
株式会社sorano me
【コミュニティ・イベント】
一般社団法人ABLab
一般社団法人九州みらい共創
一般社団法人クロスユー
一般社団法人SPACETIDE
【その他】
株式会社レヴィ
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様々な切り口で宇宙産業時代の活性化をデザインし、加速する商社・コンサル企業
宇宙産業の活性化において、商社・コンサル企業の支援は欠かせないものとなっています。また、その支援の形は、事業開発のプロフェッショナルとして宇宙ビジネス企業の戦略策定を行う形、地方自治体の宇宙ビジネス参入を支援する形、また、宇宙ビジネスにおける深い知識と専門的なキャリアを経て、宇宙ビジネス企業に必要な知識を提供すると言う形まで様々です。
例えば、三菱UFJリサーチ&コンサルティングは2024年の取り組みとして「民間射場が存在する北海道・和歌山県におけるロケット打上や宇宙港を起点とした経済波及効果の試算を実施」「地方自治体における宇宙ビジネスの参入可能性調査や県内事業者の宇宙産業参入促進に向けた講座運営」「衛星データによる森林カーボンクレジット算定に関する実証業務」の3つを行ったと回答。「近年活発化している国による産業投資の経済効果を持続化・最大化する為に、宇宙産業における産官学+「金」連携の事例創出・推進をすることで、国内宇宙産業の発展に貢献していきたい」とコメントしています。
2018年から宇宙コンサルティングサービスを提供してきたところから、規模拡大に伴い2024年2月に新たに「宇宙・空間産業推進室」として組織を拡大したと回答いただいたのが、PwCコンサルティングです。同社は5つの地域・14ヶ国の宇宙チームとの連携を強化しており、具体的に産官それぞれの分野で協力して案件を推進しています。2025年の抱負について、個別のテーマとしては気候変動、エンジニアリング・ものづくり革新、地球・宇宙・月面等におけるインフラ・アーキテクチャ構想など幅広いテーマに関して、産官学でパートナリングを行いながら宇宙ビジネスの支援を推進すると回答いただきました。実際に同社も関わる衛星データ利用懸賞金活用型プログラム「NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth」では、衛星データの利活用推進を進めるうえで、非常に理想的なパートナーシップが組まれていました。
【衛星データ利用懸賞金活用型プログラムの理想形を見た】NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth イベントレポート_PR
また、minsoraは2024年6月に天草市との企業進出協定を結び、天草市において、宇宙データによる地域の宝の掘り起こしと宇宙コミュニティつくりを開始。同社は、“宇宙”をキーワードに、支援地域が主役となる事業創出の伴走支援と宇宙講座等企画運営に取り組んでおり、2025年には、活動拠点である福岡市・大分市・天草市において、宇宙関連事業の拡大と新事業を立ち上げるようです。
「2024年は、宇宙ビジネスが地域経済にもたらす可能性への期待感が、多くの地方で高まりを見せた一年だった」と話すのはSpace Food Lab.です。同社は、宇宙生活の「ゼロイチ」を実現する挑戦は、地域の循環型経済やリサイクル技術の強化といった課題解決の糸口を示し、未来志向の議論を活性化しました。特に地球と宇宙双方で活用可能な取り組みが、地域資源の新たな活用法を提案。具体的には、「ゴミを出さないポータブルフード」や「食品残渣のホールユース」をテーマに、宇宙生活と地域生活・地域資源を結びつけた共創型ビジネス構築に関する協議を進めてきたとのこと。これからは、宇宙環境を模した課題解決型の商品開発を通じ、地球上でのエコでスタイリッシュな消費体験を提案し、単なる宇宙イメージにとどまらない精緻なブランディングを構築するなど、環境意識の高い消費者層から共感を得ると同時に、地域資源の新しい活用法を提案し事業化し、生活の質を向上させる「宇宙発×地域発」の価値提供を目指すと回答いただきました。
専門的な知見と経験を活かし、宇宙ベンチャーの支援を行っているのがOppofieldsです。同社は主に民間小型衛星事業者に対して、データ利活用に関するコンサルティングを提供しています。ニーズに応じて、ステークホルダーとのマッチング、データ処理や現地観測などのサポートやリモートセンシングの入門レベルの研修を実施することもあると回答いただきました。
そして、宇宙商社と銘打たれ、宇宙ビジネスのバリューチェーンに欠かせない企業として、様々な事業を提供しているのがSpaceBDです。SpaceBDは、2024年にISS「きぼう」からの超小型衛星放出事業および船外施設利用サービスが2030年までの継続選定となり、JAXAの宇宙戦略基金事業支援業務の受託や日本人宇宙飛行士候補者の訓練支援を行いました。日本における宇宙ビジネスの潤滑油的な存在として、存在感を増しており、2024年は創業以来初の黒字化というマイルストーンを達成したとのこと。
宇宙ビジネス企業を支えるクラウドサービスとアプリケーション開発支援も躍進
宇宙ビジネスに携わる企業にとって、クラウドサービスや必要なアプリケーション開発を担う企業の存在は、顧客のニーズ深堀や事業構想の検討といった事業における時間を投下したい業務に集中するうえで欠かせないものとなっています。
例えば、クラウドサービスを提供するアマゾンウェブサービスジャパン(以下、AWS)は、2024年6月のAWS Summit Japanの基調講演ではispaceの月面探査プロジェクトにおけるAWS活用について、2024年7月に行われたSPACETIDEでは「日本宇宙産業の国際展開を支援するクラウドとAI」と題し、パスコ、有人宇宙システム、Degasと共に事例発表を行ったそうです。月面探査から衛星データ利用サービス、有人宇宙分野にまで、様々な宇宙ビジネスを支える事業になっていることがうかがえます。2025年の豊富としては、「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」を使命として、「宇宙を利用する・宇宙を目指す」お客様へクラウドとAIの提供を通じたご支援を行っていきたいと力強い言葉をいただきました。
また、クラウド上に蓄積したデータ(衛星画像や研究データ、衛星ログや業務データ)を事業に活用したいと考えている宇宙関連企業を顧客として、クラウド構築・運用支援、Webアプリケーション構築・運用支援、セキュリティ支援を行うFusicは「特にクラウド構築・運用については、オンプレミスからクラウドにデータ管理を移行する宇宙関連企業の増加を感じている」と回答。2025年は、より規模の大きなデータ基盤の構築、データ基盤を活用した顧客の事業価値の向上に対して力を入れていき、宇宙業界における存在感を増していきたいとのことです。
保険企業が支える宇宙ビジネス、技術革新とともに多様化するリスク
宇宙ビジネスが産業として成長し、技術革新が進む裏側では、リスクの増加と多様化にも注意しなければなりません。分かりやすいのはロケットの打上げ失敗や、運用中の衛星の意図せぬ故障などが挙げられます。そのようなリスクを放置したまま事業をスピード感を持って進めることは難しく、そこで必要になるのが保険です。
2024年を「宇宙企業の上場数の増加や宇宙戦略基金の開始により、宇宙への期待や注目が一層高まる一方で、技術的失敗が続いたことや有望なユースケースの少なさから疑念や失望も見られた、激動の年であった」と話すのは三井住友海上火災保険です。保険業界にとっては、海外における幾つかのGEO衛星の不具合で損害規模が数百億円に上る大きな事故が連続したことで、収支を圧迫する難しい環境だったとのこと。そのような状況下で、三井住友海上火災保険は、新しい挑戦を支える保険の提供や、包括連携協定を締結して新しいリスクの評価・検討を進め、さらに金融事業者様と経済的支援体制を構築するなど、未来を見据え多岐に渡る活動に取り組んだと回答をいただきました。2025年の抱負としても、宇宙の産業化に向けて、来年以降も激動期が続くと予想される中、大航海時代に貿易の発展に寄与した保険の提供を手掛けつつ、保険を組み込むことで成立する新ビジネスモデルの構築など保険を利用した新しい領域開拓の可能性についても検討すると力強い言葉をいただいています。
また、東京海上日動火災保険は、約50年にわたって人工衛星の運用やロケットの打上げ等に関する保険商品、リスクコンサルティングサービスを提供し続けているほか、2024年は軌道上サービスや月面ビジネスに加え、民間宇宙ステーションや宇宙旅行等の新たな領域にも事業を広げ、衛星データを活用したソリューションの開発も行っていると回答をいただきました。また、2024年3月末には、オウンドメディア「SpaceMate」をオープンし、様々な宇宙関連企業への取材を行い、宇宙の取り組みや情報の発信にも力をいれています。2025年の抱負としては、光学衛星画像・航空写真を含む各種データを活用することで、これまでの水災発生時の早期の保険金支払いへの活用にとどまらず、地震や津波における被害を早期に検知するソリューションなど、25年度から当社が提供するサービスのラインナップに追加をしていく予定と回答がありました。
宇宙ビジネスの今と未来を担う人材・教育事業の需要も拡大!?
宇宙戦略基金やSBIR、スターダストプログラムなど、日本政府による宇宙産業への積極的な資金の投入により、宇宙ビジネスの課題は「お金」から今と未来を担う「人」に移ったのが2024年だったように思います。
そのような需要に応えるように2024年10月から宇宙ビジネスに特化した転職エージェントをスタートしたのがProp-UPです。立ち上げからまだ3か月も経過していない状態にも関わらず『宇宙ビジネスのスタートアップ、ベンチャー企業×エンジニア』という最もコアな部分にこだわり、支援実績が生まれ出しているそうです。
宙畑でも、他の業界から宇宙業界に転職された方に焦点を当てた新連載「Why Space」を始めました。すでに3名の方のインタビューを掲載しておりますので、ぜひご覧いただけますと幸いです。
「そこまで構えなくてよかった」人事のプロが宇宙ベンチャーのCHROになって変えた3つのこと【Why Space】
「個人の成長×社会を前進させる使命感」通信大手企業の新規事業コンペ最優秀賞を経てインフォステラを選んだ理由
「『技術』と『ソリューション』は別物」日立システムズの営業から宇宙業界に入って最初に感じた違和感と伸びしろ
また、未来を担う人材を育てるという需要も拡大しています。そのような需要への対応に率先して取り組むのが、GLODALです。同社は、CONSEOもくもくスクールにて実施した「実例で学ぶSAR衛星データ利活用講座(インフラ管理、流通、農業)」は好評だったそう。また、生成AIによる教材作成を弊社の研修プログラム開発だけでなく、エンドユーザーの自習・独習を支援すべく、個人や教育研究機関に向けたサービスとして提供する仕組みを見出せるよう実験と実証を重ねることで、誰もが漏れや無駄がなく学習し、衛星データ利活用の業務や事業に参画できるようになる将来の実現に近づくことができるようになると回答がありました。
さらに、「2024年は『宇宙×教育』と『宇宙×地域』というテーマで新たなビジネスの地平を拓きました」と回答いただいたのは旅行業を中心に、全国に営業拠点を展開して様々な事業を営むJTBです。同社は、新たな宇宙人材を育てるため、教育機関や自治体と連携して実施する「宇宙教育コンテンツ」の提供や宇宙関連イベントの企画を行っています。今後は宇宙ビジネス領域での「教育プラットフォーム」をさらに推進し、宇宙産業への人材供給という価値を拡大することを目標としているとのこと。
宇宙ビジネスの事業拡大を加速させるイベントやコミュニティ、コンテンツも目立った2024年
教育事業が必要な理由のひとつでもありますが、様々な産業において、業務にあたる際の一定の知識が必要なことは言わずもがなですが、宇宙ビジネスは求められる知識の幅が広く、深さも一定以上必要です。そのため、最新情報が常にアップデートできるイベントやセミナー、初心者にとって分かりやすいコンテンツの需要も増すことが予想されます。
アジア最大級の宇宙ビジネスイベントを開催するSPACETIDEは、2015年の設立から続く第9回目のカンファレンス『SPACETIDE 2024』で過去最多の1,500名が参加し、35の国と地域、25以上の業界からの来場があったとのこと。国内の動向のみならず、世界の最新事情を知ることが日本にいながら可能となるカンファレンスにまで規模が拡大しています。
加えて、SPACETIDEは2024年12月にキャリアイベント「SPACETIDE Career Connect」第3回を開催。「宇宙関連企業20社がブースを構え、約600名が参加したことで、宇宙でのキャリアについての注目を集め、産業の人財課題解決に向けて大きな一歩となった」と回答がありました。国内の宇宙産業の拡大に必要な企業と企業、人と人とのつながりを生み出す動きがSPACETIDEからどんどん生まれています。
他にも、国内外の・産官学の宇宙関連プレイヤーと最新の知・情報が集まる宇宙ビジネスのエコシステムを構築し、ビジネスの拡大をサポートする母体となることを目指して設立されたクロスユーは、会員数が300に達し、宇宙ビジネスコミュニティの輪が一層広がっているとのこと。また、クロスユーの持つ2つの拠点では、中高生向けのジュニアアカデミーや、トピックを絞った勉強会、会員主催の多種多様なイベントが開催され、計311回ものイベントが開催されたそうです。さらには、欧州宇宙機関ESA、フランス宇宙機関CNES、イギリスの研究機関Harwellとの覚書を締結し、海外パートナーとの協力関係を具体化したことも2024年のトピックとして回答いただきました。
また、本メディア『宙畑』のコンテンツ制作と企画運営をTellusからの委託を受けて行うsorano meからは、宇宙ビジネスの複業コミュニティ「ソラノメイト」の人数が80名を超えたと回答がありました。また、衛星利用部門でも紹介したような環境や気候変動などを含むサステナビリティ領域での衛星データ活用に注目し、自社メディアとして「Sustainability Leaders Journal」をリリースし試験運用を開始しています。同社は衛星データ技術・事業実証「インドネシアの大気汚染可視化」「土壌の豊かさの定量化」「気候と珈琲の味の関係可視化」「SARを用いた浸水域の可視化」なども実施しており、事業経験やその分野に携わる様々な関係者のリアルな声をもとにしたコンテンツ制作を行っています。
さらに、「宇宙ビジネスを検討したいが何から始めれば良いかわからないという、人や企業に対し、コミュニティによって最初の一歩を後押しする組織です」と回答いただいたのはABLabです。ABLabにとって2024年は、宇宙ビジネスに挑戦する個人だけでなく、企業や自治体の取り組み支援において数々の成果を上げられた1年だったそうです。「産業領域としても、ITや製造業からファッション、教育と、より幅広い分野に関わることができました。また、ABLab会員個々人の取り組みとしても、様々なアワードや実績、事業創出など、多くの活躍を後押しできた一年だった」と回答をいただきました。
VUCAの社会において宇宙開発利用の知見は、宇宙開発外の価値創出に応用できる?
宇宙開発では、常に新しい挑戦をし続けており、システムズエンジニアリングはじめ体系化された手法が発展してきました。そのような宇宙開発利用の知見を発展させ、顧客の創造性と生産性を高めることに貢献することに取り組むのがレヴィです。
VUCAな社会において成果を生み出すためには、複雑さを扱うこと、不確実性を扱うこと、みんなで向き合うこと、成功に導くことが必要であり、そのための手法(「構造化思考」と呼んでいる)を形式知化し、社会に広めることがミッションであると回答いただきました。
宇宙技術を活用したサービス提供ではなく、宇宙開発のプロジェクトマネジメントなどのプロセスを地上のプロジェクトにも反映することがサービスになるという非常に興味深い内容です。
(9)2025年の宇宙ビジネス予想(投資額、市場規模、企業数)とまとめ
宇宙開発では、常に新しい挑戦をし続けており、システムズエンジニアリングをはじめ体系化された手法が発展してきました。そのような宇宙開発利用の知見を発展させ、顧客の創造性と生産性を高めることに貢献することに取り組むのがレヴィです。
VUCAな社会において成果を生み出すためには、複雑さを扱うこと、不確実性を扱うこと、みんなで向き合うこと、成功に導くことが必要であり、そのための手法(「構造化思考」と呼んでいる)を形式知化し、社会に広めることがミッションであると回答いただきました。
宇宙技術を活用したサービス提供ではなく、宇宙開発のプロジェクトマネジメントなどのプロセスを地上のプロジェクトにも反映することがサービスになるという非常に興味深い内容です。
最後に、今回アンケートに協力いただいた企業(1社非回答)に、2025年の世界の宇宙ビジネス予測を、投資額・市場規模・新規参入企業数の3つの観点で伺った結果を紹介します。
いずれも増加すると回答した企業の割合が多い傾向は例年通りで、特に興味深いのは減少を予測した企業が0だったことです。
2024年の各社の振り返りは、非常にポジティブな内容が多く、2025年以降の大きな弾みとなるものばかりでした。その結果が今回の回答にも表れているのでしょう。
2024年に公募が開始された宇宙戦略基金第一期の技術開発テーマの採択結果が現在発表され始めています。また、2025年には宇宙戦略基金の新しい技術開発テーマが発表されるでしょう。どのような企業が、どのような技術開発を行い、未来の宇宙開発を次のステージに押し上げるのか、2025年も非常に楽しみですね。
以上、2024年の宇宙ビジネス企業のゆく年くる年をご紹介しました。
宙畑は、2017年2月のサイトオープンから2025年2月で8周年を迎えます。宇宙ビジネスのど真ん中で事業化に向けて頑張っている皆様や、これから宇宙ビジネスを立ち上げようとされる方、宇宙業界に飛び込んでみようと思われる皆様を後押しできる記事をこれからも作成していきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。