「今がまさに正念場」「宇宙分野は自動車産業に次いで我が国の基幹産業となりうる」第118回宇宙政策委員会で語られた城内内閣府特命担当大臣の言葉
2025年5月21日に開催された第118回宇宙政策委員会における城内内閣府特命担当大臣(宇宙政策担当)の言葉について、その内容と関係する宇宙産業の動向について紹介します。
2025年5月21日、第118回宇宙政策委員会が開催されました。主な議題は「宇宙基本計画工程表改訂に向けた重点事項(案)について」「宇宙戦略基金の進捗状況について」「衛星測位に関する取組方針の見直しについて」の3点。
本会の締めくくりには、城内内閣府特命担当大臣(宇宙政策担当)から「宇宙分野は自動車産業に次いで我が国の基幹産業となりうる大変重要な分野であると考えております」という宇宙産業への期待が大きいとする明確な言葉があった一方で「長年の技術の蓄積や人材を活用しながら、官民一丸となった挑戦により、我が国経済社会全体の成長に繋げていくためには、今がまさに正念場と考えております」といった緊迫感のある言葉も投げかけられました。

今が正念場という言葉の背景にある、日本を取り巻く国際的な技術動向や日本における宇宙産業の重要度は具体的にどうなっているのでしょうか。
城内大臣の言葉やその他日本の政策について本記事でまとめてみました。
(1)大阪・関西万博で各国がアピールする宇宙関連の展示
まず、城内大臣は5月2日に大阪・関西万博を視察した際に、宇宙開発競争の激化を感じられたとのこと。具体的には以下のような言葉が語られました。
「日本館で展示されておりました世界最大級の火星の石や「はやぶさ」と「はやぶさ2」が小惑星イトカワとリュウグウから採取したサンプル、世界初のピンポイント月面着陸に成功した SLIM の着陸脚などを見てまいりました。我が国が長い宇宙開発史の中で培ってきた確かな技術力を改めて強く実感した次第であります。
一方、米国が持ち帰った月の石や中国が月面で採取したサンプル、この他インドや UAE など世界各国も宇宙関連の展示を行っており、フロンティアとしての宇宙への国際的な関心の高さ、あるいは宇宙開発競争の激化も感じているところでございます。
長年技術を蓄積してきた我が国としても、これらの国に遅れをとることがないよう、宇宙基本計画に定められました事項を着実に実行していくことが重要であると考えております。」
実際に、大阪・関西万博では、様々なパビリオンで宇宙に関する展示があり、各国が我が国の技術力をアピールする機会と万博を活用しているようです。
(2)安全保障における宇宙技術の必要性の高まり
また、城内大臣からは「安全保障や防災減災、経済社会活動といったあらゆる場面におきまして、宇宙の重要性はますます高まっております」とのコメントがありました。
実際に、直近で宙畑が公開したニュースを鑑みても、安全保障における宇宙開発の動きが加速しているように思います。
宙畑で公開した直近の安全保障関連の記事
量子鍵配送ネットワークの構築に向け加速、量子コンピューティング企業IonQがCapella Spaceを買収する意図
IHIとICEYEが地球観測衛星コンステレーション整備事業で提携、IHIは地球観測衛星網の構想にも言及
ICEYEと独防衛企業のRheinmetall AGが新会社設立、欧州の主権的な防衛能力の確保へ
全省庁で初の事例。インフォステラ、防衛省とSDA技術強化で「スタートアップ技術提案評価方式」に基づく契約を締結
さらに、アメリカのトランプ大統領は、アメリカ本土を守るための領域横断的な次世代型ミサイル防衛構想「ゴールデン・ドーム構想」を発表するなど、安全保障における宇宙の重要性は非常に高まっています。
このような世界情勢のなかで、日本としても自立して持つべき宇宙技術は何かを見極め技術開発を進めることがより重要になっています。
(3)宇宙基本計画工程表改訂に向けた重点事項(案)のポイント、みちびきはセンター化も見据えた組織体制の強化を
では、ここまでで紹介した内容を踏まえ、宇宙基本計画工程表改訂に向けた重点事項(案)ではどのようなポイントに焦点が当てられたのでしょうか。
城内大臣からは「民間企業による新たな宇宙輸送形態を可能とするべく、宇宙活動法改正案の次期通常国会への提出を目指すこと、そして引き続き宇宙戦略基金を活用し、民間企業や大学等による技術開発・実証を支援していくこと。準天頂衛星システムについては、他国のGPSに頼らず精緻な測位を可能とする7機体制を構築すること、日本人宇宙飛行士の月面着陸に向けて有人与圧ローバーの開発を着実に進めること、また JAXA の技術基盤や人的資源の強化を進めること。これらの段取りについては、いずれも今年度中に早急に進めるべき重要な事項であると認識しております」と語られました。
準天頂衛星みちびきについては、あるべき将来体制として内閣衛星情報センターのようなセンター化も見据えた組織体制の強化についても議論がなされたようです。
他にも「温室効果ガス排出量推計技術の中央アジア、インドなどへの普及の取り組みを推進することにより国際標準化を目指していく」「宇宙交通管理に資する実践的な取り組みを推進し、更に国連宇宙部と連携し、国際的な規範・ルール作りに率先して取り組む」など全27の重点事項のポイントがあげられていました。実際の宇宙基本計画工程表改訂は2025年末となるようです。
(4)自動車産業に次ぐ日本の基幹産業を目指す宇宙産業の今
城内大臣は今回の宇宙政策委員会に限らず「宇宙分野は自動車産業に次いで我が国の基幹産業となりうる大変重要な分野であると考えております」と語られています。
では、日本の全体的な経済政策において、宇宙産業はどれほど重要なものと考えられているのでしょうか。
平成25年度から公表される「経済財政運営と改革の基本方針(政府の経済財政政策に関する基本的な方針を示すとともに、経済、財政、行政、社会などの分野における改革の重要性とその方向性を示すもの)」を遡ると、最新の「経済財政運営と改革の基本方針2024」には投資の拡大及び革新技術の社会実装による社会課題への対応の一環で明確に「宇宙技術戦略に基づく取組の推進、宇宙戦略基金による支援、宇宙活動法の改正に向けた検討等」と記されているほか、本文中に15回も「宇宙」という言葉がでてきてます。


2023年以前のものを見ると、宇宙という言葉が2024年版ほど入っているものはなく、実際に宇宙産業への期待が日本の政策全体として高まっていることがうかがえます。
(5)宇宙戦略基金第2期の狙いは「ボトルネックの解消」と「サービス利用の拡大」、他産業からの応募も大歓迎
そして、城内大臣からは宇宙戦略基金の第2期の最初の3つのテーマが5月16日から公募開始となったことについても言及がありました。
先日、宙畑が内閣府・宇宙開発戦略推進事務局に伺った第2期の技術開発テーマの狙いは「ボトルネックの解消」と「サービス利用の拡大」でした。
内閣府・宇宙開発戦略推進事務局に聞く―宇宙戦略基金 第1期の総括と第2期の狙い【政策からひも解く宇宙産業の未来#1】
今が正念場である宇宙産業において、部品やコンポーネントが他国依存になってしまっているものがあることや、実験設備の老朽化などの課題を解決し、日本の宇宙産業の自律性と自立性を確保すること。また、技術開発だけに終わらずにしっかりと成長産業として持続的に需要を満たし続けるサービスが生まれ、日本全体の生産性をあげることが期待されます。
そして、宇宙戦略基金の第2期については、これまで宇宙産業に関わっていなかった企業からの参入が望まれる技術開発テーマも存在します。
例えば、「高頻度打上げに資するロケット部品・コンポーネント等の開発(2025/5/16より公募開始)」はモノづくりに関わる企業にはぜひ一度確認いただきたい技術開発テーマです。
他にも、「衛星データ利用システム実装加速化(7月中旬公募開始予定)」については、地球観測衛星から取得できるデータが様々な産業で活用される可能性を秘めているため、ぜひとも本記事を読んでいただいた全産業の方に一度確認いただきたい技術開発テーマです。実際にどのような利活用が現在進んでいるかについては、以下の情報を参考にしていただければと思います。
また、ここであげた2つのテーマはあくまで一例です。宇宙産業が自動車産業に次ぐ日本の基幹産業となるため、様々な企業の応募が期待されます。
もしも、興味はあるが何から考えればよいか分からないという方がいらっしゃいましたら宙畑までお問い合わせください。