JAXAが出資するVC「Frontier Innovations」、航空宇宙スタートアップ2社へ連続出資を発表
2025年6月6日、Frontier Innovationsは、Letaraと武蔵スカイプラスへの出資を続けて発表。両社の事業概要と合わせて注目ポイントを簡潔にまとめました。
2025年6月6日、JAXAが出資するベンチャーキャピタルファンドであるFrontier Innovationsは、北海道大学発で固体プラスチックを燃料とするハイブリッド化学推進系を開発するLetaraと、JAXAベンチャー(JAXAの知的財産や業務で得た知見を利用してJAXA職員が創業したベンチャー企業)で小型の無人航空機開発を開発する武蔵スカイプラスへの出資を続けて発表しました。
Frontier Innovationsは、宇宙および非宇宙分野のディープテック・スタートアップに特化して出資を行うベンチャーキャピタルです。その設立にあたってはJAXAがアンカーLPとなっています。単なる資金提供に留まらず、JAXAとの密な連携やハンズオンでの経営支援を通じて、シード・アーリーステージにあるスタートアップの事業化を支援しています。JAXAなど国内研究機関から生まれるスタートアップを成功へと導き、その優れた技術で社会課題を解決するロールモデルを確立することで、日本の新産業創出を目指しています。
今回の連続出資の背景には、将来の成長市場として期待される航空宇宙分野において、国産の先端技術の社会実装を早期に実現させる狙いがあります。
Frontier Innovations CEOである西村さんは、Letaraへの出資について、以下のようにコメントしています。
”Letaraが開発するハイブリッド化学推進機は、安全性・推力・再点火性・経済性を兼ね備えた、次世代の宇宙輸送インフラを支える中核技術であると確信しています。Frontier Innovationsは、その技術的優位性に強く魅力を感じ、今回の出資を決定しました。今後は、Letaraの技術が日本の宇宙産業の競争力強化につながるよう、当社としても積極的に支援していきたいと思います。”
宙畑メモ:ハイブリッド化学推進とは
ハイブリッド推進は、固体燃料と液体(または気体)酸化剤の燃焼を利用して推進力を発生させる化学推進の一つです。化学推進には、ハイブリット推進をはじめ、液体推進、固体推進が含まれます。液体推進は高い推進力が得られますが、複雑な配管設計や燃料の緻密な流量制御などに要する開発コスト、爆発性や有毒性のある燃料を取り扱う際の安全管理などの課題があります。また、燃費(比推力)が非常に良く、衛星用の推進機器として注目される電気推進は、推力が小さく、短期間での軌道遷移などには不向きという課題があります。ハイブリット推進は、上記2つの弱点を補う特徴を持っています。爆発しない安全なプラスチック燃料のため、取り扱い上安全であり、推進機器もシンプルな構造で良いため、製造コストも抑えることができます。(Letaraによると、同社の推進技術では最大60%のコスト削減を実現できるとのこと)また、電気推進に比べ、非常に大きな推力を得ることができ、短期間で軌道遷移が求められるミッションに対応することができ、新たな小型衛星向けの推進技術として期待されます。
また、Frontier Innovations CEOである西村さんは、武蔵スカイプラスへの出資についても、以下のようにコメントしています。
“武蔵スカイプラスは、JAXAベンチャーとして、15年以上にわたる研究開発の成果と知財を基に、国産かつ高信頼性の無人航空機システムの実用化に向けた技術基盤と競争優位な技術力を有しています。また、JAXA内で研究・開発をリードしてきた実績のあるメンバーを中心に構成されており、本領域において国内有数の技術的知見と推進力を兼ね備えたチームであると評価し、出資に至りました。JAXAからアンカーLP出資を受ける当社がリード投資家として、同社の事業成長と国産無人航空機技術の社会実装に向けて支援して参ります。”
今回の資金調達を受けて、北海道大学とJAXAという国内研究機関発の航空宇宙スタートアップである両企業が、そのロールモデルとして活躍し、国内の最先端技術が早期に社会実装されていくことが期待されます。
【参考】
JAXAが出資するFrontier Innovations 1号投資事業有限責任組合によるJAXAベンチャーへの出資実行のお知らせ
宇宙機用ハイブリッド化学推進機を開発する北大発スタートアップ Letaraに出資 | Frontier Innovations株式会社のプレスリリース
宇宙機用エンジン開発のLetara、シードラウンド最終クローズでFrontier Innovationsが参画し、累計18億円を調達