衛星データプラットフォーム『Tellus』リリース記者発表会レポート
2019年2月21日に行われた『Tellus』リリース記者発表会の内容をまとめました。今後『Tellus』がどのようなわくわくする展開をしていくのか、そのヒントがたくさん詰まった内容でした。
今まで一般に開放されてこなかった人工衛星が撮影した画像などの宇宙データが開放され、誰でも無料で利用できるようになった2月21日──経済産業省からの委託を受け、日本初の衛星データプラットフォーム『Tellus』を開発している『さくらインターネット株式会社』によるイベントが、東京タワーの麓にあるスターライズタワーで行われました。ここでは午前中に開催された記者発表会のレポートをお届けします。
『Tellus』の名の由来は「大地の女神」、その意図と背景
「さぁ、宇宙データビジネスをリ・デザインしよう」とのキャッチコピーが冒頭のテロップに流れ、『Tellus(テルース) SPACE×Data Fes.』と銘打たれたローンチイベントはスタートしました。
まずはじめに、『Tellus』という名は、ローマ神話に登場する「大地の女神」にちなんで命名。衛星データの利用を通じて、「我々が生活する地上により豊かな未来を創り出したい」という願いを込めています。
なぜ今衛星データ利用が盛り上がっているのか。その理由を『Tellus』開発のいきさつとともに語っていただいたのは本事業の管轄省である経済産業省の製造産業局長・井上宏司さん。
地球観測衛星から得られる映像データは、地上の多様な情報を広範囲に取得できるという性質から、災害対策・資源探査・環境管理……ほか、さまざまな分野で活用されてきました。ただ、これまでは限られたユーザーのみしか衛星データを利用できていないのが現状──井上さん曰く、その理由は以下のとおりです。
①衛星データ(の利用)が非常に高額だった
②膨大な衛星データの処理には特別なソフトを必要だった
③したがって知識を持つユーザーしか取り扱うことができなかった
上記の課題に対して、高速データ処理技術や高度なAI技術の急速な進展により、衛星データをまったく新しいかたちで活用しようという動きは、世界的に確実に高まってきています。
こうしたなか、経済産業省は衛星データのさらなる幅広い分野での活用を目指し、日本経済の生産性の向上、競争力の強化につなげる取り組みとして、衛星データのプラットフォーム開発を決断──これが『Tellus』なのです。
「本日公開する『Tellusバージョン1.0』は、衛星データを新たな利活用を促進する、最初の第一歩となるでしょう。宇宙産業を持続的な産業としていくためには、民間の需要を拡大していく必要があります。その起爆剤となるのが『衛星データの利用拡大』であり、経済産業省は『Tellus』を通じて、宇宙から得られるデータが持つ高いポテンシャルを最大限に活用し、宇宙利用の分野を拡大していきたい。
そして、その結果、宇宙利用の拡大が新たなロケットや衛星のニーズを生み、さらに宇宙利用が拡大していく──こういう好循環を生み出していきたい、衛星データの普及による、幅広い利活用によって、日本の産業・生活の発展・向上につなげていきたいと考えております」(井上さん)
〜かもしれない──なにが起こるかわからないのが『Tellus』の面白さ
次に登場したのは、『Tellus』の開発を請け負った『さくらインターネット株式会社』代表取締役社長の田中邦裕さん。「New Business,New Possibility(Tellusがもたらす新しいビジネス、新しい可能性)」「The Newest Trigger of Innovation(衛星データはイノヴェイションの新たなるトリガーだ)」というテロップとともに、『Tellus』への熱い想いを披露しました。
「『イノヴェイション』の意味は『技術革新』と捉えられがちだが、実際には新しく生まれた技術だとか既存の素晴らしいものを組み合わせて、社会に変革を起こすこと」とした上で、「Tellusにとって、今一番重要な“開発”とは、ユーザー開発・顧客開発・開発者開発」だと田中さんとは断言します。
これまでの国家プロジェクトは、システムを開発してそれを納品するといったプロセスで終わるのが大半。なにかをつくって納品した時点で、その商品は完成してしまっていました。
たとえば「スマホ」というプロダクト購入したときからどんどんとバージョンアップが成されています。今の「ものづくり」は実際製造したときに納品完成ではなく、完成したとき、つまり、ユーザーが使い始めたタイミングがスタート地点──『Tellus』も同様で、システムを開発するだけではなく、システムを通して”ユーザーを開発”していくこと、そのようなシステムを創り出すことが大切なのです。
「『宇宙のデータを使える』のではなく『宇宙のデータがあるということが前提になる』という状況をつくりたかった」(田中さん)
さらに、田中さんは「失敗が許されるスピード・コストでチャレンジできること」もポイントだと付け加えます。
「従来の衛星データは、膨大な時間と高額な開発費を投入しなければならなかったため、極力慎重に事を進めていかないとならないのが実態でした。でも、高スピードで使用できて、仮に失敗したとしてもコストがほとんどかからない状態をつくれば、自分の判断で失敗も許されるし、許されるから何度でもチャレンジもできる。技術を持った人がすぐに試してみて、失敗しても何回も何回もやり直して、結果を出す──それが公開されビジネスにつながれば、新たなユーザー開発にもなるはずです」(田中さん)
衛星データを解析するためのコンピューティング環境も『Tellus』は提供します。膨大なデータをコンピューティングできる環境、GPUもすでに用意しています。
これらを活用し、さまざまな衛星から得たデータを一つの画面の中で組み合わせることができるのも『Tellus』の魅力だと田中さんは強調します。今後は、それらを複数の人たちで開発したり、開発したものを実際にマーケットプレイスで売ったりもできる商業ベースにも対応できる場もTellus上に盛り込む予定です。
また、『Tellus』に載っているデータは非常に高分解能。画期的なことに、世界で初めて0.5メートルの高性能光学衛星から撮られた情報を無料で使うことができます。
これまでだと「道路が渋滞しているっぽい」くらいしか判別できなかった画像が、近い将来には台数までわかるようになったり、車種まである程度推測できるようになるかもしれません。
他にも、植生データや標高データなど、様々なデータがすでにTellus上に取り込まれています。これらのデータの組み合わせは無限大。こういった組み合わせを一つのプラットホーム上において、無償で使うことができるのです。
「いずれは、人流データと降雨情報とSARデータを組み合わせて、新たな気づき、ビジネスを考える人も出てくるかもしれない。それが『週末の混雑情報を予測する観光情報』につながるかもしれない、これまで目をつけられていない観光地の発見にも役立つかもしれない……。
さっきから私は「〜かもしれない」という言葉を連発していますが、『なにが起こるかわからない』、これこそがTellusの面白さ。日本が誇る高性能な情報を、もしかしたら小学生が使って近所の公園の情報を可視化してしまうかもしれない。どんな人がどんなことをするか予想もつかない……そんなチャンスを我々は提供していきたいのです」(田中さん)。
ユーザーの開拓のため、システム開発以外にもいろんなことを行っています。その一つが、今、皆さんがご覧になっているオウンドメディア「宙畑(そらばたけ)」。田中さん本人ですら難しいと思い込んでいた宇宙データが「防衛・防災といったもののためだけでなく、旅行先探しや花粉を避けるルート検索といったもっと身近で、誰でも自分のためだけにも使えるものだと一人でも多くの人に知ってもらいたい」とのコンセプトで「Tellus」とともに育てていった結果、立ち上げ当初の8月時点では7,400人だったユニークユーザー数が、現在では2万を超えました。
※2月の速報値で3万を超えました
また、衛星データを使ってなにができるのかを模索するため、衛星データをもと船舶を識別するコンテストなども開催しています。
まさしく「システムを開発した」のではなく、実際に衛星を活用する人の数を、衛星を使ってビジネスを生み出す人を『Tellus』は創っている最中なのです。
プレイヤーがいないケースで失敗に終わるプラットホームは多い
続いては、『さくらインターネット株式会社』フェローの役職に就く京都造形芸術大学教授・小笠原治さんによる、『Tellus』を支える「ユーザー開発」のコアとなるクロスデータアライアンスについての紹介。
『Tellus』は、システム開発や利用促進への協力に手を挙げた企業が集まり、昨年21社のアライアンスでスタートしました。加えて、今年には『シスコ』『シャープ』の参画も決定し、現在は合計23社に。では、これらの企業は『Tellus』で、具体的にどういった取り組みをしているのでしょうか?
たとえば『メルカリ』。農業分野で、衛星データを利用して植生や土壌などの地表面を検証することで、営農による変化量や効果量を数値化する技術を研究中。これまで衛星データにはなかった物理量を見える化し、独自の営農指標、データシェアリング、信用スコアリングに活かす予定とのこと。
たとえば『メタップス』の佐藤航陽CEOが提唱・企画中の『EXA(エクサ)』という仮装地球プロジェクト。衛星データを用いて、仮想の地球を創り出し、GPSの位置情報に紐付いてトークンを獲得できる仕組みを築き、トークンを特定の地域に埋蔵することにより人を呼び込み、地域経済活性化への活用も検討しています。
たとえば『シャープ』。「SHARP 8K Lab」で培った超解像デジタル画像のアップコンバージョン技術とAIを活用し、TellusOSをよりいっそう見やすくするため、衛星画像データを高解像度な画像に変換する研究を進めているそう。8Kの先駆的な役割を果たしてきたシャープならではの技術ですね。
「プラットホームを名乗っているだけでプレイヤーがいないというケースで失敗に終わるプロジェクトは多い。我々はそうならないよう、アライアンスパートナーの皆さまと事業を見据えた取り組みをし、また、オープンなプラットホームとして、さまざまな開発者の方々にコンピューティングパワーを提供していきたいと考えています」(小笠原さん)
日本には“宝の山”と呼ぶべき貴重な衛星データが大量に存在する
当日、取材に訪れた記者団からも、多くの質問が飛び交いました。質疑応答に応じたのは、前出の田中邦裕さん、小笠原治さん、それに経済産業省の製造産業局宇宙産業室室長である浅井洋介さん、『さくらインターネットxData Alliance project』のシニアプロデューサーを務める山崎秀人さんの4人です。そのやりとりの一部を抜粋します。
【質問1】
──サービスを使える人は文字どおり、「誰でも」ということでいいのか?
小笠原:基本的には、アカウントをつくりさえすれば、小学生であろうが日本の法人の方であろうが、どなたでも使っていただけます。
──無料と聞きましたが、有償・無償のコンビネーションは?
小笠原:今回用意しているデータはすべて無償になります。今後、「マーケット」と我々が呼んでいる部分に有償提供したいデータをお持ちの方が有償で提供する、そういったことは起こりうるのではないか、とは予測しております。
──ユーザー側はGPUを使用する際に、その上限を意識せずに使えるのか?それとも、ある程度、先方が「どれくらい使いたいのか?」を、さくらインターネットさん側は指定するのか?
小笠原:本日時点では、まずその相談をいただいて、ご提供するかたちを取らせていただいていますが、来期以降は、ほぼ意識しなくても使えるように開発を進めていく予定です。
【質問2】
──『Tellus』がスタートしたことによって、海外との差は「ようやく追いついた」感じなのか、そのへんの認識をお聞かせください。
浅井:海外に関しては、すでにEUやアメリカなどでは、似たような衛星データプラットホームのサービスが始まっています。しかし、今回の『Tellus』の強みは、やはり日本が持っている優れた衛星データ、これをおもに日本の地域を対象として、解析ツールも合わせてユーザーに提供できること。今後は、諸外国とも議論を交わしながら、EUやアメリカなどとプラットホームの連携を図っていきたいと考えております。
小笠原:開発環境までクラウド側で提供している衛星データのプラットホームはほぼありません。なので、今まで衛星だとか宇宙に興味がなかった開発者の方々の参入も促せるのではないかと期待しております。
──今後『Tellus』で使えるデータの量や範囲、即時性などはどういう風に進化していくとお考えでしょうか?
浅井:即時性に関しては、正直なところ衛星データはまだまだ足りない部分もございます。たとえば、特定の位置地点を撮影するのに数日、場合によっては1ヶ月に一回といったケースも出てきます。
ただ、地上で得られるデータと衛星データを組み合わせることによって、いろんな可能性も生まれてきます。
最近の宇宙産業の潮流として、小型の衛星を多数打ち上げ、そこで得られた衛星画像データを活用するといった動きがあります。衛星の数が増えると、撮影の頻度も上がってくることも期待できるので、そういった動きも捉えながら、極力即時性の高いサービスを提供できるように務めていきたいと思っております。
【質問3】
──これまでの衛星データは範囲でいうと10メートル単位であったのが、今回は50センチ単位の光学データの詳細が見られると聞きましたが?
山崎:技術的には、商業ベースでも30センチの分解能データも、すでに海外では存在しますが、50センチにはなりますけど、このレベルをクラウド上で無償で公開したのは世界初になります。
──今見ることができるデータと、今後見ることができるようになるデータを教えてください。
山崎:今、現時点でご利用いただけるのが、JAXAが持っていた「エーロス(ALOS)」といった陸域観測衛星データと経済産業省が開発した「ASNARO」シリーズ(※現在は民間が運営)。あと、気象庁の協力も得て、「アメダス」による地上のデータも、バージョン1.0ではまだわずかですけど利用できます。今度どんどん搭載を増やしていく予定です。
田中:実際、相当に広範囲な事業者の方々にお声がけをしております。とは言え、すでにビジネスをなされていて、すでに衛星データを高く売られている方が、このプラットホームに載ってしまうと価格が安くなってしまう、もしくは無償になってしまう可能性もあります。
ただ、少数の人たちが高額で買うのではなく、多数の人が安価で買っていく状況になれば、おのずとマーケットも広がっていくと考えています。とにかく、使っていただくユーザー、開発していくユーザーを増やすことによって、データ数も増えていく──これこそがプラットホームの一番の本質だと考えています。
質疑応答の後、壇上に上がったJAXA副理事長の山本静夫さんは、「なによりも重要なのは、衛星から膨大なデータを集めることだけではなく、その膨大なデータのなかから今までは気づけなかった、見つけられなかったものをどうやって抽出していくか……といった解析のアルゴリズム、それから判読のソフトなどをどのように開発していくか……。そしてその解決が『Tellus』にあるのではないか」と期待を寄せました。
閉会の挨拶を行った経済産業大臣政務官の石川昭政さんは、「日本にはJAXAなどが中心になって蓄積してきた“宝の山”と呼ぶべき貴重な衛星データが大量に存在します。『Tellus』では、そうした衛星データに加え、膨大なデータを解析して、その解析結果をさまざまな分野に役立てるための、いわば“宝探し”の場・道具を提供したい」と語気を強めます。
今回リリースされた『Tellus』は2月21日がスタート地点のまさに発展途上のプラットホーム──積極的に使ってもらい、多くのフィードバックをいただくことで、どんどん理想のかたちへと近づきます。
生活を豊かにする無限の可能性を秘めた衛星データプラットフォーム「Tellus」をぜひお試しください。
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