NEI (Non Earth Imaging)サービスとは?市場規模、ルール作り、展望など~ISSや軌道上の衛星や宇宙ごみがここまで鮮明に見える!~

この写真は、高度400kmを飛行するISS(国際宇宙ステーション)で、宇宙から撮影されたもの。この写真を撮影したのは、BLACKSKY(写真の左下にあるロゴ)の人工衛星です。
このような写真を撮影することを非地球観測(NEI:Non-Earth Imaging)と言い、衛星に搭載したセンサで、周回する宇宙機やデブリに向けて観測します。
NEIは、かつてはニッチな技術分野でしたが、現在では宇宙ビジネスの拡大や安全保障の観点から、その需要が急速に高まりつつあります。従来より地上からの観測を行うこともありましたが、宇宙から直接かつ確実な監視を行うニーズが顕在化しているのです。
また、NEIは、国家間の安全保障に大きな影響を与える可能性があるため、国際的なルール作りも求められています。
本記事では、このNEIサービスや関係の深いSSAの市場動向、具体的な事例から安全保障での懸念点までを解説します。
1. NEIサービスとは?宇宙に目を向ける新たな視点
NEIとは、衛星に搭載したセンサを地球ではなく宇宙へと向けて観測を行う技術です。主な観測対象は、衛星やスペースデブリなどの人工物ですが、月や小惑星などの天体となることもあります。
特に、NEIの革新的な点は、対象物体の位置(点)を検知するだけでなく、その具体的な形状、損傷の有無、回転運動などの詳細を画像として取得できる点です。
その特徴を示す一例が、豪州スタートアップのHEOが提供したH2Aロケット上段のクリアな画像です。H2Aロケットの上段は、宇宙空間まで行き、搭載した人工衛星を所定の軌道に投入させますが、衛星を分離した後は大気圏に再突入する機能がないため、デブリとなってしまいます(最近はデブリとしてとどまらない機能の進化や技術開発も盛んです)。
同社は、他の目的で運用されている衛星のセンサを活用して撮影する独自の手法で、H2Aロケット上段の撮影を実現しています。これは、地上からの観測では決して得られない、軌道上デブリの”今”を捉えた一場面です。

2. NEIサービスの市場と将来性
では、NEIのサービスはどの程度の市場規模が見込まれているのでしょうか?
現在、「NEI市場」として分類された市場規模に関するデータは乏しいのが現状です。そのため、ここでは、宇宙状況把握(SSA)市場を対象に、NEIの潜在的な規模を考察します。
米国の調査会社であるGrand View Researchのレポートによると、世界のSSA市場は、2024年時点で約16億米ドルであり、年平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)4.9%で成長し、2030年には22億米ドル規模に達すると予測しています 。NEIは、この成長市場の中でも、特に技術革新が著しい主要技術です。

現在、SSA市場では、防衛・安全保障が最大の領域であり、全体の60%以上を占めています。主な用途は以下の通りです。
・敵対国の衛星による活動の監視
・他国の衛星仕様の分析(例:アンテナの大きさや光学センサーの口径など)
・衛星の異常に関する原因特定(例:単体での故障か、外部による影響か など)
また、商用領域の市場も成長しています 。主な用途は以下の通りで、民間による衛星の打ち上げ機会の増加にともなって、需要は更に加速すると考えられます。
・打ち上げ後の衛星の健全性を視覚的に確認
・軌道上で発生した不具合とその原因を特定
・損傷・動作不能となった衛星に対して、保険金請求のためのエビデンスを提供
・軌道上サービスにおける計画支援、対象物体の特性評価、ミッション後の検証
この商業領域での成長を牽引しているのが、メガコンステレーションの拡大です。
SpaceXやAmazon、OneWebなどが数千〜数万機規模の衛星網を構築する中で、その運用の複雑さや衝突リスクは急増しています。このような状況で求められるのは、個々の衛星をモニタするのではなく、コンステレーション全体を効率的に把握し、安定的な運用管理を行うことです。NEIは、この課題に対する費用対効果の高いツールとして期待されています。地上観測では確認できない、個々の衛星の姿勢や異常の有無など健全性確認に必要な情報を、コンステレーション全体に渡って把握でき、安全かつ安定的な運用を実現します。
そして、軌道環境が悪化するにつれて、このような予防のための状況監視サービスのニーズは高まります。長期的には商業需要が防衛需要に匹敵する規模へ成長する可能性があり、これは、デブリ除去などの軌道上サービスや宇宙の持続可能性の向上を目指すプレイヤーにとっても重要な意味を持つでしょう。
宙畑メモ:メガコンステレーションとは?
数百〜数万という多数の人工衛星を互いに連携させ、地球全体をカバーする巨大な通信網のことです。SpaceX社のStarlinkに代表されるように、海上や山頂など世界中のどこでも高速インターネットにアクセスできることを目指しています。
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Credit : GRAND VIEW RESEARCH
更に、このSSA市場の動向を地域別に見ることで、NEIサービスの需要がどこにあり、今後どこで伸びるのかが見えてきます。
現在、北米が主要地域であり、市場全体の約40%を占めています。米国を中心とした宇宙探査や防衛領域での多額の投資が行われており、Lockheed MartinやNorthrop Grummanなどの防衛事業を手がける主要なメーカーによって支えられています。
また、アジア太平洋地域は最も成長が期待される市場で、2030年まで約7%と高いCAGRとなると予測されています。この背景には、中国やインドなど宇宙開発の新興国での衛星打ち上げ機会の増加や軍事力の強化があります。次いで、近年、宇宙科学に注力するUAEをはじめ、中東・アフリカ地域もSSA市場の伸びが著しいと期待されています。
3. NEI技術、RPOを補完するパッシブな観測
NEI(Non-Earth Imaging)の基本的なコンセプトは、特定の目標を追跡するために、軌道制御などのアクティブな動作を行うのではなく、既存の地球観測衛星あるいはコンステレーション網を活用することにあります。
つまり、地球観測衛星の撮像リクエストがなかった”待機時間”を有効に活用するのです。つまり、既存のアセットの価値を最大限活用することができます。
この実現のためには、観測衛星と観測対象(他の衛星やデブリ)の軌道データをもとに、接近するタイミングを予測します。その中から、太陽光の当たり方や相対速度・姿勢、カメラの視野範囲などを総合的に満たす最適な撮像タイミングを決定します。そして、そのタイミングで地上から衛星へと撮像コマンドを送信します。このコマンドには、観測対象をクリアに撮像するためのカメラのパラメータ設定、正確な時刻指定での実行指示などが含まれます。あるいは、より積極的に、衛星搭載のカメラを対象へと向ける姿勢制御指示が含まれる場合があります。このように、事前の接近・撮像計画を立て、最適な撮像タイミングで、パッシブに撮像を行います。
この方法により、ランデブー・近傍接近運用(RPO:Rendezvous and Proximity Operations)ミッション向けの衛星を一から開発して運用することに比べ、大幅に低コストで、広範囲を効率的に監視することが可能になります。
NEIの特徴をより明確にするため、主要な物体観測手法について、以下の表で比較します。

上記から分かるように、NEIは地上からの観測では得られない高解像度の画像データが得られます。宇宙空間からの直接的、かつ、(多くの場合は)近距離からの観測であるため、大気の影響を受けず、地上よりも有利な軌道上から対象を捉えることができるのです。
これにより、軌道パラメータ(軌道上の位置・速度情報)に加え、3次元的な物体としての運動状態(姿勢や回転速度)まで把握することができます。さらに、衛星の正確な形状や太陽光パネルやアンテナの展開状況、さらにはデブリ衝突による微細な損傷など、詳細な物理特性を特定することも可能です。
また、NEIとRPOは、共通する点も多いですが、その役割は大きく異なります。
RPOは、追跡する衛星(Chaser)がアクティブに目標物体(Target)に接近し、極近傍での状態監視、あるいは衛星の点検修理や燃料補給など、軌道上サービス全般を行うことができる、高度な技術です。
これには、緻密な軌道計画や安全に接近するための誘導制御技術が求められるため、高い開発・運用コストが求められるとともに、ミッションの頻度はある程度限定されます。
一方で、NEIはRPOに比べて、低コストかつ高頻度で観測できる利点があります。
この特徴を活かし、リスクの高いRPOミッションを実施する前に、まずNEIによって対象の状態を詳細に確認するといった連携が非常に有効です。
例えば、Target衛星のドッキングポートは損傷していないか、Targetデブリは安定して回転しているかなど、現場の情報を事前に得ることで、高リスクなRPOミッションの成功確率を高め、リスクを低減できます。
このように、NEIとRPOは競合するのではなく、むしろ互いに補完し合う関係にあります。
NEIが全体を網羅的に監視し、RPOで高リスクの対象を詳細に観測・処置することで、軌道上の安全を保つことができます。
4. NEIの多様なアプローチ、ビジネスモデルの具体例
本章では、NEIにおける2つのアプローチを紹介します。他社の衛星や光学カメラなどの衛星搭載機器(ペイロード)を活用する「アセットライト型」と自社の商業衛星を活用する「商業アセットヘビー型」です。
以下、具体的な企業名を挙げて解説します。
(1) アセットライト型:HEO
特定の衛星やカメラを持たない、いわゆるアセットライト型の代表例が、HEOです。
自社で撮像する衛星を保有せず、アクセルスペースやBlackSkyといった地球観測衛星を開発・運用するメーカーと連携し、衛星の待機時間を活用して、対象物体の画像を取得します 。
HEOの強みは、独自のソフトウェアプラットフォーム「HEO Inspect」にあります。このプラットフォームは、連携先の衛星の撮像指示(タスキング)から画像の解析、物体の識別・状態把握までを自動化します 。同社の戦略は、世界中の地球観測衛星メーカーと提携することで、仮想的に、大規模な衛星コンステレーション網を構築することです 。2023年8月には、シリーズAとして約11億円の資金調達を行っており、このソフトウェアプラットフォームの開発を加速させるために活用されています 。
また、NEI専用の小型カメラを内製し、連携先の衛星ペイロードとして提供することも進めています。パートナー企業の衛星が、高分解能の画像を取得することで、HEO Inspectに質の良いデータを提供し、軌道上の観測網羅性を高めることを目指しています。
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(2) 商業アセットヘビー型:Maxar
対照的に、アセットヘビー型の代表的な事例が、世界有数の解像度を持つ地球観測衛星のコンステレーションを保有・運用するMaxarです。
同社のNEIにおける特筆すべき動向が、2022年に米国の防衛機関であるNROと締結したEOCLプログラムです。これは、NROが商用衛星画像を積極活用する過去最大規模の契約で、Maxarは、2032年までの10年に渡り、NEIデータを含むサービス提供を行います。
地球観測衛星コンステレーションという既存の資産をNEIサービスに適用することで、新たな事業として生み出そうとしています。このプログラムにはBlackSkyやPlanetなど同様の衛星コンステレーション企業も参画しており、NEIサービスへの参入がなされようとしています。
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Credit : Maxar
ここまで見てきたように、NEIのビジネスモデルは、自社の資産の保有形態によって大きく異なります。
HEOのようなアセットライト型は、多額の初期投資を避け、自社のプラットフォームと衛星メーカーとの提携戦略で高速でスケールできる点が強みです。
一方で、Maxarのようなアセットヘビー型は、既存の衛星コンスレーションを転用することで、新たな収益を生み出し、資産価値の最大化を図ります。これらの商業NEIサービスは、第3章で見たRPOミッションとは補完する関係にあり、第2章で見たSSA市場、特に急成長する商業サービスを拡大させることが期待されています。
5. NEIを巡る課題と求められるボトムアップでのルール作り
NEI技術の進歩に、現時点で政策や法は十分に整備されていないという状況です。例えば、現時点で、衛星点検などの軌道上観測サービスに対して法的拘束力のある国際法は存在しません 。
また、宇宙条約のような既存の枠組みは、あくまで一般的な内容のため、NEIの技術に対応できていません。このルールがない状況は、NEIが持つリスクを増長させてしまいます。
最大の課題は、そのデュアルユース性です。すでに本記事でも紹介した通り、NEIは、商業サービスの事業者が対象となる衛星の状態を確認できるという民間プレイヤーにとってのサービスだけでなく、政府が敵対国の衛星の性能や状態を詳細に監視する目的にも使用されています。
例えば、とある政府向けに提供する衛星の点検サービスが、他国によっては、敵対的な監視活動や、衛星破壊兵器による予兆と見なされるかもしれません。これは、各国の宇宙活動において意図しないエスカレーションを引き起こす危険な火種となり得ます。
この宇宙開発に関わる法整備の課題へのアプローチにも変化が見られています。例えば、宇宙サステナビリティの分野では、歴史的にトップダウンのガイドライン策定が先行しました。2002年にIADC(国際スペースデブリ調整委員会)がデブリ低減のための最初のガイドラインを策定し、各国の宇宙機関がトップダウン的に遵守を目指す形から始まりました。その後、2010年代にはISO(国際標準化機構)で国際標準が策定されるなど、ガイドライン作りが進められてきました。
しかし、近年の宇宙開発の主役が民間、特にスタートアップへと移る中で、アプローチはボトムアップへとシフトしています。その代表例が、世界経済フォーラムが主導し、官民学の連携で設立された宇宙サステナビリティ評価(Space Sustainability Rating: SSR)です。これは、民間事業者のデブリ発生防止策や情報共有への貢献度などを格付けし、その評価を保険料率やESG投資に結びつけることで、市場原理を通じて自主的なルール遵守を促す仕組みです。
このように、トップダウン的な国際的なルール作りを待つだけでなく、民間が主体となった実効的なルール作りが広がっており、政府には過剰な規制でスタートアップの活力を削ぐのではなく、むしろベストプラクティスを奨励し、横断的なデータ共有を促す役割が求められています。
成長著しいNEIにおいても、こうした官民双方の取り組みを通じて曖昧な状況を改善し、サービス実施に関する事前通達やデータを共有する協定など、取り組みの透明性や各国間での信頼関係の構築が求められています。
他にも、撮像された衛星画像の所有権がどこに帰属するのか、その衛星の所有者は何らかの権利を持つのかなど、データの所有権に関する課題もあります。また、このデータが悪意を持って利用されることをいかに防ぐべきか、これらに対する対策も考える必要があります。

NEIのもたらす軌道上における透明性が、同時に、安全保障上のリスクも増長するという点が、大きな課題です。安全保障上の観点からは、各国の宇宙活動の状況の全てをクリアすることが必ずしも最善策とは限りません。したがって、商業分野の成長が著しいNEI市場の長期的な成功は、国際的な政策・法・行動規範の整備の進捗と密接に紐づいています。ビジネスの成長と安全保障上のリスク管理をうまく両立させていく必要があります。
6. NEIサービスの将来像と求められるアクション
ここまでNEIについて、様々な視点から紹介しました。ここまでの内容を踏まえ、NEIサービスの将来像と今後求められるアクションについて整理しました。
(1)技術的な将来予測:AIや宇宙天気予報との連携
NEIにおいてもAIの活用が注目されています。
例えば、膨大な画像データを統合して高解像度の衛星画像を出力したり、衛星の異常を自動で検知して、故障や不測の事態を予測したりするなど、より高度なインテリジェンス機能を有するようになるかもしれません。
最終的な理想像としては、軌道環境をリアルタイムで自動監視する、軌道環境予報サービスの実現です。
他にも、太陽フレアによる大気抵抗の変化などを予測する宇宙天気予報などと組み合わせることで、現在の運動状態から今後衛星がどのような挙動を示すのか、より正確に予想できるようになるかもしれません。
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(2)各プレイヤーの連携による包括的なサービス提供と法整備
今後、NEIサービスを提供するプレイヤーには、単独での事業展開に固執せず、多数の衛星を保有する衛星メーカーやデータ解析を得意とするソフトウェアプラットフォーマーと積極的に連携し、より包括的なサービスを目指していくことが望まれます。
同時に、NEIの持つデュアルユース性への懸念を和らげるため、プレイヤー自身が信頼性のあるサービスを提供するとともに、ガイドラインの策定に積極的に関わっていくことも、持続的な事業拡大には不可欠です。
また、政府側としてもNEIサービスの積極的な活用、得られるデータ共有や行動規範の策定を主導していくことで、他国との信頼関係や安全保障上のリスクを減らしていく努力が求められます。今後のNEIサービスの拡大と様々な環境の整備に注目です。