衛星データ企業ICEYEとPlanet Labsが黒字化の兆し、受注残高は両社合計で400億円超に。安全保障需要の拡大で収益化の段階へ【宇宙ビジネスニュース】
衛星データ業界に転換点。ICEYEとPlanet Labsが相次いで黒字化の兆しを見せ、先行投資の段階から収益化の段階へ移行しつつあります。
2026年3月12日、ICEYE社が2025年通期の財務実績を発表し、EBITDA黒字 (1億ユーロ超) を達成しました。続いて3月19日、Planet LabsがFY2026(2025年2月〜2026年1月)の決算を発表。初の通期での調整後EBITDA黒字(1,550万ドル)を計上しました。
宙畑メモ:EBITDA/調整後EBITDAとは
利払い前・税引き前・減価償却費等控除前利益の略称。衛星のように設備投資が重く減価償却費が大きい企業で、本業の収益力を測る指標として使われます。調整後EBITDAは、EBITDAからさらに株式報酬費用などの非現金項目や一時的費用を除外した指標です。テック企業では従業員への株式報酬が大きな費用となるため、これを除いた数値で本業の収益力を示すことが一般的です。
地球観測衛星の開発・運営を行う宇宙スタートアップの主要な2社がほぼ同時期に黒字化の兆しを見せたことは、宇宙業界にとって大きな意味を持ちます。
ICEYEは2014年にフィンランドで設立されたSAR衛星の製造・運用企業です。同社は世界最大のSARコンステレーション (衛星群) を保有し、夜間や悪天候でも地表を撮像できます。
宙畑メモ:SAR(合成開口レーダ)とは
電波を照射して地表を撮像する技術。光学衛星と異なり、雲や雨、夜間の影響を受けずに観測できるため、安全保障・災害監視などの用途で重宝されています。
関連記事
SAR(合成開口レーダ)のキホン~事例、分かること、センサ、衛星、波長~
現在60機超のSAR衛星の打ち上げに成功しており、将来的には年間100機の製造体制を目指しています。
一方のPlanet Labsは2010年に米国で設立された光学衛星企業で、2021年にNYSEへ上場しました。同社は約200機の小型衛星で地球全体を毎日数回撮像する能力を持ち、農業、保険、政府機関など幅広い顧客にデータを提供しています。
両社の財務実績で注目すべきは「EBITDA黒字化」「キャッシュフローの改善」「バックログ(受注残高)の急増」の3点です。
ICEYEは売上2.5億ユーロ超(前年比約2倍)、EBITDA 1億ユーロ超、営業キャッシュフロー(本業で得た現金)1.3億ユーロ超を達成。バックログは15億ユーロに達しています。
Planet Labsは売上3億770万ドル(前年比26%増)、Adjusted EBITDA 1,550万ドルで初の通期黒字を達成。営業活動で得た現金から設備投資を差し引いたフリーキャッシュフローも5,290万ドルのプラスとなりました。バックログは9億ドル(前年比79%増)に拡大しています。
Planet Labsは上場しているため、決算発表時の資料から、どの分野の売上が増えているかまで把握することができました。
上部が示すように、Planet Labsの売上成長を牽引しているのは安全保障分野です。民間事業や公共事業が横ばいで推移する中、安全保障分野の売上は急激に伸びています。
具体的な契約を確認するとNATO(7桁ドル規模)、ドイツ政府(2.4億ユーロ)、米海軍(7桁ドル規模)など米欧双方で契約を積み上げており、米NGA(国家地理空間情報局)やDIU(国防イノベーションユニット)との既存契約も拡大しています。
関連記事
【民間企業による安全保障の変革が進む】Planet LabsのAI戦略と国際的な大型契約【宇宙ビジネスニュース】
Planet LabsがNATOと数百万ドル規模の契約、日常監視および早期警戒能力の提供へ【宇宙ビジネスニュース】
宙畑メモ:IDIQ契約とは
「Indefinite Delivery/Indefinite Quantity」の略で、日本語で直訳すると「不確定納入/不確定数量契約」となります。政府が必要に応じて発注できる枠組み契約であり、選定された企業は今後の個別発注(タスクオーダー)に対して受注する資格を得ます。今回の契約獲得は「受注確定」ではなく「受注資格の獲得」を意味します。
宙畑メモ:DIU(国防イノベーションユニット)とは
米国防総省傘下の組織で、民間の先端技術を国防に迅速に導入することを目的としています。Planet LabsはDIUの「HSA(ハイブリッド・スペース・アーキテクチャ)」プログラムに参加しています。
Planet Labsの営業キャッシュフローの変化を下記に示します。
キャッシュフローは大きく営業CF、投資CF、財務CFの3つに分類されます。営業CFは本業で得た現金、投資CFは設備投資に使った現金を指します。
キャッシュフローの組み合わせで企業の状態を分類する「8分類」の考え方があります。Planet LabsはFY2025時点では「危機対応型」(営業CF−、投資CF+、財務CF−)に該当していました。本業の黒字化に向けて投資を調整しながら財務基盤を整えている段階です。
FY2026では営業CFがプラスに転じ、「積極投資型(成長型)」(営業CF+、投資CF−、財務CF+)へ移行しました。本業で現金を生み出しながら、調達した資金で積極的に設備投資を行う成長企業の姿です。これは売上の増加だけでなく、事業が「現金を生み出す構造」に変わったことを意味します。
また、ICEYEもバックログの大半が国家安全保障関連と明言しています。2025年以降だけでもポーランド(約2億ユーロ)、フィンランド(約1.58億ユーロ)、ドイツ(Rheinmetallとの合弁で約17億ユーロ)など、欧州各国の防衛機関と大型契約を相次いで締結しています。
関連記事
ICEYEと独防衛企業のRheinmetall AGが新会社設立、欧州の主権的な防衛能力の確保へ
宙畑メモ:ISR(情報・監視・偵察)とは
「Intelligence, Surveillance and Reconnaissance」の略で、軍事作戦に必要な情報収集活動の総称です。SAR衛星は夜間・悪天候でも撮像できるため、ISR任務に適しています。
宙畑メモ:LOI(意思表明書)とは
「Letter of Intent」の略で、正式契約の前段階として交わされる文書です。契約締結の意思を示すものですが、法的拘束力を持たない場合が多く、正式契約とは区別されます。
両社に共通するのは、安全保障需要を積極的に取り込み、政府との複数年契約で安定した収益基盤を築いている点です。ロシアのウクライナ侵攻以降、欧州を中心に国防費が急増しており、衛星による常時監視能力への需要は構造的に拡大しています。
ICEYEは2027年に売上10億ユーロ超、Planet LabsはFY2027に売上4億1,500万〜4億4,000万ドルを見込んでおり、両社ともさらなる成長を目指しています。
両社はコンステレーションの拡充と撮像頻度の向上を進めており、より多様なソリューションを提供できる基盤が整いつつあります。安全保障で培われた衛星データ技術が、将来どのような形で社会に広がっていくのか注目です。
参考
Fiscal Fourth Quarter 2026 Earnings Presentation | Planet Labs

