宙畑 Sorabatake

ビジネス事例

儲かる土地が分かる!? 宇宙の目×人のノウハウでポテンシャル名産地を発見!

衛星データを活用して作物の最適な生産地を発見するーー。この発想はどのように生まれたのでしょうか。今回は株式会社天地人の百束さん、繁田さんに直接お話をお伺いしました。

昨年、内閣府主催の宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S-Booster 2018」。そこで「審査員特別賞」と2つのスポンサー賞を受賞したのがチーム天地人です。


S-Booster 2018最終選抜会「宇宙から見つけるポテンシャル名産地」発表動画

『宇宙から見つけるポテンシャル名産地』と銘打ったビジネスアイデアは、「宇宙と農業をつなげる新しい試み」として審査員から高い評価を受けました。

今回宙畑のインタビューに答えていただいた、株式会社天地人の百束 泰俊さん(左)と繁田 亮さん(右)

衛星データを活用して作物の最適な生産地を発見するーー。この発想はどのように生まれたのでしょうか。今回は株式会社天地人の百束さん、繁田さんに直接お話をお伺いしました。

【プロフィール】百束 泰俊(ひゃくそく・やすとし)

株式会社天地人 取締役。JAXA 主任研究開発員。GPM主衛星、いぶき2号(GOSAT-2)衛星を開発した宇宙機エンジニア。「天地人」では、衛星リモートセンシングの知見を活かしつつ課題を発掘し、どのようなデータを組み合わせるかを考える。

【プロフィール】繁田 亮(しげた・りょう)

株式会社天地人 技術アドバイザー。東京大学 特任研究員 兼株式会社SenSprout エンジニア。「天地人」では農業分野の知見を活かしたソリューション開発を担当。東京大学にて農業IoTをテーマに博士号取得。

バックキャスティングで考える地球の課題

ー全く異なる分野を歩んでこられたお二人ですが、どのように出会い「天地人」が結成されたのでしょうか。

百束 私はもともとJAXAで、「衛星データをどう活用するか」という議論をしてきました。その中で課題を設定するために「バックキャスティング」、要は未来はどうなっているのか、そこで困っていることは何かを考えて、今やるべきことを洗い出すということをやっていたのです。

当時、私は土地に対する課題意識があり、将来土地が枯れているのではないかという、SF映画のような世界を想像しました。

衛星から収集できる水や土地のデータとSDGsで挙げられている課題などを照らし合わせて、農業に着目しました。未来の農業はどうなっているかと想像したら、人口は増え、土地は枯れているかもしれない。南極の氷も溶けて、海面も上がっているかもしれない。

そこで衛星データを活用して何かできないか考えていた時に仲介してくれた人がいて、株式会社SenSprout(以下、SenSprout)の桜庭さんと繋がったんです。彼も含めて「3人で会おう」となったことがきっかけでした。最初は御茶ノ水にあるJAXA東京事務所のロビーでしたね。

SenSproutが高機能ビニールハウスソリューションを提供していることもあり、当日その場ですぐに「ビニールハウスを海に浮かべる」というアイデアが出てきました。

これが2017年のS-Boosterでプレゼンを行った「ツナガル次世代農業 Smart Agri Floatプロジェクト」につながります。

2017年度のS-Boosterで応募した「ツナガル次世代農業 Smart Agri Floatプロジェクト」
海上にビニールハウスを浮かべて農業を行うというアイデアだった。

ーなるほど、あの時のアイデアはこうして生まれたわけですね。しかし2017年の結果は落選でした。この結果についてどうお考えですか。

百束 描いた未来像は悪くなかったと思います。ただ最初の段階で盛り上がってしまって…今思えば、このアイデアは本来「作物を生産するのにどこがいいか」という問題を解決するのがポイントです。しかし当時それをいきなり「陸ではなく海だ」と決めつけてしまい、その現実と向き合う意識がすっぽり抜けてしまったなと……。

衛星データから「ポテンシャル名産地」を発見する

ー2017年のS-Boosterの結果を踏まえ、2018年は何からやりましたか?

百束 持っていた課題意識はそのままに、現実を捉え直して、再チャレンジしたのが2018年です。

通常の農業って土地は選べない前提で「何を育てるのか」を考えますよね。でも、衛星を使えば、「世界中のあらゆる場所で、あの作物を作るのに適した場所はここ」と作物に応じて土地を選ぶことができる。そこが我々のアイデアのミソだったのです。

第25回宇宙民生利用部会 資料
https://www8.cao.go.jp/space/comittee/27-minsei/minsei-dai25/siryou2-3-2.pdf

具体的には、あらためて、地に足を付けて陸上に目を向けつつ、最適な生産地を見つけようと。この時に「ポテンシャル名産地」というキーワードも生まれました。このキーワードを生み出したのは繁田さんです。

繁田 あとSenSproutが農家さんとつながりがあって、そこに現場の課題をヒアリングしました。自分は土地センサーなどを作って研究していたので、日ごろから土地に対する理解が大事だなと感じていました。

第25回宇宙民生利用部会 資料
https://www8.cao.go.jp/space/comittee/27-minsei/minsei-dai25/siryou2-3-2.pdf

ー現場で見つかった課題は何だったのでしょうか。

繁田 農業ってまだまだ効率化されていなくて、経験と勘で何とかしてる部分がかなりあるんです。例えば、あの土地は昔からジャガイモを作っているからジャガイモを作るのがいいとか。

しかし、そこでジャガイモを作るのが本当に良いのかどうかは、論理的に証明されていません。そこでポイントになるのが「データ」の活用です。衛星から得られる気象や土地のデータを使って分析すると、この問題がクリアになる。

データを使って定量的に生産に適した作物を判断できるというのは大きいですよね。農業のど真ん中にある課題を切り崩せるんです。

百束 特に土地勘がない国や地域の場合、季節風土がわからない場所で新しい作物にチャレンジしないといけない。これはリスクですよね。

実際、外資系の農業法人にヒアリングに行ったのですが、現地の生産地選定に苦労するそうです。本社にジャッジする人がいたら、どうやってその土地で作物を生産するメリットを伝えれば良いのかわからない。

繁田 さらに人手不足なので、日本支社の少ない人数で現地調査するのは大変だと。一方で、日本でも増産の目標はあってそれに追いつかないといけない。そういう課題があるとお話しされてましたね。

ー実際に「ポテンシャル名産地」を探す時はどのようにデータ解析を行うのでしょうか。

百束 これは品種によって異なります。生産地を決める時は、このような場所にしようと一定の決め事はある訳です。それが最初のインプットで、具体的には温度であったり、斜度であったり、そういう条件を入れます。

ーその前提になる条件は、勘や実績などで導き出すのですか。

繁田 それもありますし、会社によっては土地評価のガイドラインを持っている場合もあります。ない場合は前提条件のヒアリングから始めます。

ー前提条件を洗い出して、次にやることは何でしょうか。

百束 当社の中でどのようなデータをアウトプットできるか検討します。斜面の形だったら3次元の地表面データ(※1)があればわかる、温度だったら衛星で撮影した過去の地表面温度データ(※2)を見れば出せるとか。お題をいただいて、その条件にマッチする土地を探すことになります。

宙畑メモ
※1:3次元の地表面データ
衛星である地点を2方向から撮影することでステレオ視を行うことができ、3次元の地表面データが生成できます。JAXAではだいちという衛星のPRISMというセンサにより、全世界の地表面を撮影、3次元マップ「AW3D」を作成、一般に公開しています。
※2:地表面温度データ
ヒトが目で見える領域(可視領域)の外側、赤外線の領域でも衛星は撮影を行っています。赤外線の中でも特に熱赤外と呼ばれる領域で撮影すると、地表面の温度を撮影することができます。空港などでみかける「サーモグラフィ」と同じ原理です。

どちらのデータも衛星データプラットフォーム「Tellus」で公開されています。

ー答えを出すのが難しいというケースもあるのでしょうか。

百束 それはあまりないですね。というのも、我々の発想は最適な土地を一か所に決めるというわけではなく、生産できないことが明らかな土地を排除しつつ、可能性の高い土地をいくつかピックアップするという相対的な土地評価を想定しています。

第25回宇宙民生利用部会 資料
https://www8.cao.go.jp/space/comittee/27-minsei/minsei-dai25/siryou2-3-2.pdf

繁田 ピンポイントで最適な土地を見つけるのは難しいですが、明らかに不適な土地を落としつつ、広範囲にわたる土地を定量的に評価できるという価値を提供できます。

農業以外にも広がる、衛星データを土地評価に活用するメリット

ー衛星データの活用はまだまだ参入する人が少ないという現状があります。

百束 はい。一般的に地球観測衛星は1機製造して打ち上げるのに何百億もしますが、そのデータは無料で使えるものがある。もっとビジネスで活用しないと勿体ないですよね。

これらのデータは公開されていますが、解釈や加工が難しいという印象があり、実際に使う人は限られている。これはチャンスですよね。誰でも手に入る状態であるにもかかわらず、サイエンティストだけが使っていてビジネスパーソンはほとんど使っていない。

ー衛星データだとビジネスに求められる精度が出せないのではという話も聞きます。

百束 そうですね。光学衛星のデータだと目で見る感覚と近いので、もっと小さなものが見えればこういうことができるという意見も出るのですが、私たちの得意とする気象や地形のデータ利用ではそのような文脈で議論が交わされません。

衛星による斜度や温度の情報の強み、それは精度ではなく、広域性があり同じセンサで観測するためそれぞれの場所を比較しやすいということなんです。

エンジニア同士だとよく精度の話が出てきますが、ビジネスシーンではメリットをどう生かすかが大切ですよね。

繁田 データに基づいて広域の土地を評価して、いくつかの生産地候補を絞り込む。そして、実際にその土地に赴いて草木の状態や地質などを調査する。そのような使われ方になるでしょうね。

ー最後になりますが、今後の展望についてはどうお考えですか。

繁田 衛星と土地評価というところは変わらないですね。その上で、農業だけではなく他の分野にも広げていく予定です。

百束 例えば太陽光パネルや風力発電施設を設置する時に、どこがいいのかというのを衛星データから導き出せるかもしれない。

新しく建物を建てる時、ロケーションの良さも大事ですが、気候条件、環境条件、災害リスクなども考える必要がある訳です。

衛星データを使うことで、そういった条件に対して土地の評価を定量的に導き出せます。農業以外の業態でも、立地の条件など気になることはあるので、農業だけにこだわらずに幅広い分野でビジネスを行うことを狙っています。

インタビューを追えて

私たち宙畑編集部はお話を伺う前は「天地人」は農業に特化した宇宙ビジネスを目指す会社なのだと思っていました。

しかし、課題に取り組まれるアプローチを伺っていくと、「課題に対して入力データを設定し、定量的に土地を評価する」という切り口は様々な分野に適用可能であることが見えてきました。

入力データは衛星データに限った話ではありませんが、衛星データを取り入れると①広い範囲を一度に②過去データに遡って評価をすることができるというわけです。

お話を伺った「天地人」の皆さんは、ビジネスアイディアコンテストS-Boosterの受賞を経て、現在は会社を登記し、実ビジネスに向けて行動を開始されているとのこと。これからのご活躍がとても楽しみです!

【天地人企業HP】
http://www.tenchijin.co.jp/
読者の皆さまも身近なご自身の課題に対して、衛星データを始めとする様々なデータを駆使したソリューションを検討してみませんか。

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