ボーイングの苦難とSpaceXの前進、アメリカの有人飛行に明暗【週刊宇宙ビジネスニュース 1/20〜1/26】
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ボーイングが、超音速スペースプレーン事業から撤退
ボーイングは、米国国防高等研究計画局(DARPA)と契約していた実験スペースプレーンプログラム(XS-1)から撤退したことを発表しました。XS-1は、第1フェーズから第3フェーズまで予定されていましたが、今回の件を受けて第2フェーズでプログラム終了となった形となります。
ボーイングが”ファントムエクスプレス”と愛称をつけていたXS-1プログラムとは、2013年にDARPAが開始した再使用可能なスペースプレーンの開発事業であり、低コストで人工衛星を軌道投入させることを目標としていました。具体的には、3000ポンド(約1360kg)の人工衛星を10日で10回打ち上げる目標でした。
宙畑メモ:スペースプレーン
スペースシャトルのような2段式の宇宙機。1段目でジェットエンジンで飛行機のように離陸し、2段目でロケットエンジンでペイロードを軌道投入させる輸送システムのことを指します。
ボーイングは、ファントムエクスプレスのエンジン開発はAerojet Rocketdyne社のAR-22エンジンを採用しており、2018年7月には、240時間で同じエンジンの燃焼試験を10回行うことに成功しており、順調に開発が進めば2021年には試験機による飛行実験を実施する予定でした。
ボーイングの広報担当であるJerry Drelling氏は「今後はXS-1から、海洋・航空・宇宙の領域にまたがる他のボーイング事業に投資の舵を向ける予定です。」と語っています。今回のXS-1はDARPAの取り組みではありましたが、官民共同出資プログラムであったためボーイング側の資金投下も必要なプログラムでした。
小型ロケットの商用打ち上げや大型ロケットの相乗り計画が増加しているため、小型人工衛星の高頻度の打ち上げという領域で、ボーイングが投資に見合う商機を見いだせなかったということかもしれません。
また、ボーイングに関するニュースは相続いており、昨年12月のスターライナーの最初の軌道飛行実験において、NASAが新たな調査を開始したと報告しました。
昨年12月の飛行実験において、ISSにドッキング出来なかったのは時間経過タイマーの異常が原因と見られています。しかしタイマーの異常が発生した際に、サービスモジュールのスラスタにも問題があったとNASAは報告しています。
具体的には、スラスタの燃焼回数が予定回数を超えていたことで負荷がかかり、合計28個のスラスタのうち8個で何らかの不具合が発生し、1個のスラスタは全く機能していなかったと言われています。
今後、
・ミッション経過タイマーの異常の根本原因を見つける
・有人飛行の前に、スターライナーの新たな無人試験飛行が必要かどうか
の2点について約2か月の調査が実施される予定です。
多くの航空宇宙事業を手がけているボーイング、ここを乗り越えることが出来るか楽しみです。
SpaceXがクルードラゴンの脱出テストを実施
引き続き、有人飛行のニュースです。
SpaceXが1月19日に、宇宙飛行士が搭乗予定のクルードラゴンの脱出テストに挑戦し、無事成功しました。この脱出テストは、万が一ロケットに異常が発生した際でも、宇宙飛行士が搭乗するカプセルが安全にロケットから離れて地上に再着陸することができるかを検証することが目的です。
打ち上げの約1分24秒後に、クルードラゴンに搭載されたSuperDraco スラスタに点火し、ファルコン9からクルードラゴンは分離されました。
その約10秒後に、本当にファルコン9は爆破されました。
SpaceXがNASAとの契約のもと開発しているクルードラゴンにおいて、宇宙飛行士の安全を本気で考えている姿勢が感じられます。
(しかし、本当にロケットを爆破させるとは。。。)
脱出テストからのデータの詳細な解析には数週間かかる可能性がありますが、NASAとSpaceX双方から、テストは期待どおりに実施されたようだと発表がありました。
NASA長官のJim Bridenstine氏は、「アメリカの大地からアメリカ人宇宙飛行士をアメリカのロケットで打ち上げるのにまた一歩近づいた。」と述べる一方、
「今回の脱出テストは最終的な主要な飛行マイルストーンであるが、パラシュートのテストなど、さらに多くの作業がまだ残っている。」と、NASAとSpaecXで協力して引き続き開発に愚直に取り組んでいく姿勢を見せました。
まだ未定ではありますが、SpaceXのクルードラゴンには日本人宇宙飛行士の野口聡一さんが搭乗する可能性があります。JAXAの発表では米国有人宇宙船(USCV)に搭乗してISSへ向かうための訓練を2019年7月から開始しているとのことです。
ボーイングと対照的に、着実とマイルストーンをクリアしていくSpaceXのクルードラゴン。予定では、今年の4月から6月の間に実際にクルードラゴンに宇宙飛行士が搭乗することになっています。スペースシャトルが勇退して9年。アメリカのロケットでアメリカ人宇宙飛行士が宇宙に行く日はもうすぐそこまで来ているようです。
Fireflyが燃焼実験中に火災発生
小型ロケットベンチャーのFireflyが1月22日に実施したAlphaロケット第1段の燃焼実験において、火災が発生し実験は中止となりました。
同社の試験場はテキサス州オースティン北部バーネット郡のBriggsという町に位置しています。同社の試験場を管轄しているテキサス州バーネット郡保安官事務所は、午後7時24分に「爆発の可能性」が通知されたと声明を発表しました。
当局は試験場の近くの道路を閉鎖し、試験場から1マイル(1.6km)以内に住んでいる人々の避難を開始しました。3時間後には安全が確認され、道路が再開し避難も終了したと、当局は報告しました。
Fireflyは、試験場で火災が発生したが爆発はなかったと述べました。小さな火災が発生したが、試験スタンドとロケットの両方に損傷がないことを発表し、同社は近い将来に地元住民と、今後の燃焼試験について議論する「コミュニティデー」を開催すると付け加えました。
Fireflyが開発中のAlphaロケットは、燃料にケロシン(RP-1)を使用する2段式液体燃料ロケットです。打ち上げ能力は、LEOに1t、SSOに630kgのペイロードを軌道投入可能となっています。また、第1段には、Reaver 1という名称のエンジンを4機クラスター化させる設計となっています。今回の試験は、Reaver 1を4つ結合した状態での初めての燃焼試験でした。
同試験は、4月にカリフォルニアのヴァンデンバーグ空軍基地にて実施予定の最初の打ち上げ試験前の最後の主要な試験の1つでした。今回の火災で怪我をした社員は一人もいないとのことですが、飛行試験の日程の遅延は考えられることでしょう。
今回の火災は、同社がオランダの小型衛星企業Innovative Solutions in Spaceの子会社であるISILAUNCHと、打ち上げサービス契約を発表した1日後に発生しました。Rocket Labの次に小型ロケットによる商業打ち上げを達成するベンチャー企業として、Fireflyが実績をあげることができるか、今が踏ん張り時のようです。
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