宙畑 Sorabatake

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Bigelow Aerospaceが社員全員を解雇【週刊宇宙ビジネスニュース 3/23〜3/29】

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3月23日、Bigelow Aerospace(ビゲロー・エアロスペース)が新型コロナウイルス感染症のパンデミックを受けて、およそ80名の全従業員を解雇したことをSpaceNewsが報じました。コロナウイルスの流行が理由だと言われていますが、直近のNASAの契約状況をみると以前から資金繰りに苦労していたのではないかともとれます。

ラスベガスのホテル王が築いたBigelow Aerospace

Bigelow Aerospaceは、独自の宇宙ステーションの打ち上げを目指す米国のベンチャー企業。同社は、ラスベガスのホテルチェーンを経営するロバート・ビゲロー(Robert Bigelow)氏が1991年に設立しました。

2013年1月にBigelow AerospaceはNASAとISSの拡張可能なモジュールの製造開発および実証実験を行う契約を1,780万ドルで締結。2016年には人の滞在が可能なISSの拡張可能なモジュール「Bigelow Expandable Activity Module(BEAM)」を打ち上げ、ISSへの接続に成功。その後、2年間実証実験を行いました。

ISSにドッキングしたBEAMのイメージ Credit : Bigelow Aerospace

さらにBigelow Aerospaceは、2021年にISSの3分の1程度の広さを持つ独立型の宇宙ステーションB330を打ち上げる計画を発表。2018年には、運用を担当する子会社にあたるBigelow Space Operations(ビゲロー・スペース・オペレーションズ)を設立しました。

B330のイメージ図 Credit : Bigelow Aerospace

BEAMの実証実験を経験し宇宙ベンチャーとしての存在感を高めたBigelow Aerospaceでしたが、NASAによる次世代宇宙探査技術パートナーシップ(NASA’s Next Space Technologies for Exploration Partnerships 以下、NextSTEP)の一環であるISSの商用の居住モジュール構築プログラムの提案を価格条件が合わないことを理由に辞退。結果的に、米国のベンチャー企業であるAxiom Space(アクシアム・スペース)が選出されました。

創設者のロバート・ビゲロー氏はインタビューで、引き続きNextSTEPの取り組みを通じて、月軌道ゲートウェーの居住モジュール構築に携わっていく姿勢を示していました。

全従業員解雇は新型肺炎の影響か

Bigelow Aerospaceが拠点を構えていたのは、米国・ネバダ州です。同州では、有名ホテルやカジノを含め営業を中止。さらにネバダ州知事は生活に不可欠ではない企業活動の停止を命じています。

宇宙ステーションのモジュールの製造開発を行うBigelow Aerospaceの場合は、まさに停止しなくてはならない企業活動に該当します。SpaceNewsによると、Bigelow Aerospaceの広報担当者は、企業が営業できる状況下にあると罰金措置を受ける可能性があったことと、コロナウイルスの流行による緊急指令が解除された後は従業員を再度雇用する意向を示しているそうです。

同じくネバダ州に工場を構える電気自動車メーカー・テスラは州知事の命令を受けて14日間の工場の運用停止と従業員数を75%に削減することを発表しましたが、テスラはニューヨーク工場にて、人口呼吸器の生産を行なっています。このように各国では、航空宇宙企業や自動車メーカーが政府の要請を受けて、人工呼吸器などの医療機器の生産支援に乗り出すケースが見受けられます。

しかしながら、Bigelow Aerospaceの場合は、企業の規模や設備からして短期間で人工呼吸器の大量生産に着手するのは考えられにくいのではないでしょうか。そのため今回の全従業員解雇は罰金のリスクを見ても妥当だと言えるかもしれません。

そこで論点となるのは、コロナウイルス終息後に解雇した従業員を再度、雇い直せるのかということです。

宇宙産業経験者の転職がベンチャー企業のブレイクスルーに

このような状況であるにも関わらず、Axiom Spaceは積極的に人材採用を進めている様子が見受けられます。採用募集ページには、ヒューストンとロサンゼルス拠点の両方でマネージャーやエンジニア、マーケターを募集しています。

Axiom Spaceは2016年に設立された、60名規模のベンチャー企業です。同社のリリースによると、前述のISSの商用の居住モジュール構築プログラムでAxiom Spaceが選出される決め手となったのは、経営層が有人宇宙飛行に関する経歴を持っていることや、宇宙工学、運用、微小重力の活用、宇宙ビジネスにおけるファイナンスやマーケティング、法律などの専門知識の高さが評価されたことなのだそうです。

さらに3月初旬には、2021年後半から商用宇宙旅行サービスの提供を開始する計画で、SpaceXと輸送契約を締結したことを発表しました。

やはりNASAから案件を受注していることは、企業として一定の技術力の高さを持っていることを保証するほか、世界初の歴史的なプロジェクトに携われるという面でも、求職者にとっては魅力的なのではないでしょうか。

コロナウイルスの流行による従業員解雇の状態が続けば、Bigelow Aerospaceの元従業員に限らず、他の宇宙産業関係者も転職を検討する可能性があると思いますが、この状況がブレイクスルーとなる企業もあるかもしれません。

なお、SpaceXは3月28日に、アメリカ初の商用プロバイダーとして、アルテミス計画の輸送船の契約をNASAから獲得しています。
2020年は成長する企業と脱落する企業が多く見られる一年となるかもしれません。

今週の週刊宇宙ニュース

参考

Bigelow Aerospace lays off entire workforce

Bigelow Aerospace lays off all employees: Report

Who We Are

NASA to Test Bigelow Expandable Module on Space Station

Bigelow Expandable Activity Module

NASA planning to keep BEAM module on ISS for the long haul

Bigelow Aerospace Announces the Creation of Bigelow Space Operation

NASA Selects First Commercial Destination Module for International Space Station

Tesla’s Nevada Gigafactory to Cut On-Site Staff by 75%