Rocket LabとSpire Globalが、SPACを活用して上場企業へ【週刊宇宙ビジネスニュース 2021/03/01〜03/07】
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Rocket LabがSPACによる上場と中型ロケット開発を発表
SPACを活用して上場企業へ
小型ロケット界をけん引するRocket Labが3月1日に、Vector Acquisition Corporationによる買収及び経営統合契約に締結したことを発表しました。既にNASDAQ市場に上場しているVector Acquisition CorporationがRocket Labを買収したのち2社は合併し、Rocket Labは2021年度第二四半期までにRKLBのティッカーシンボルでNASDAQ市場に上場する予定です。
合併が完了するとRocket Labは7億4500万ドル(約807億円)を獲得し、企業価値は約41億ドル(約4445億円)となるようです。
Vector Acquisition Corporationは特別買収目的会社(SPAC)と呼ばれる、自社では事業を持たずに未上場ベンチャーの買収を目的につくられた企業です。近年、SPACを活用した宇宙ベンチャーの上場が相次いでおり、Rocket Labで6社目です。
宙畑メモ
SPAC(特別買収目的会社)とは、その企業自体は特定の事業を持たずに、一定期間内に未公開会社・事業を買収することのみを目的として株式市場に上場する企業のことです。SPACを活用すると、資金調達を行いながら上場が果たせるほか、従来の新規株式公開(IPO)よりも簡素なプロセスで上場を果たせるため、近年この方式の上場を採用するベンチャー企業が増加しています。
ニューヨーク証券取引所に2019年に上場したVirgin Galactic・2021年中に上場予定のBlackskyや、NASDAQに2021年中に上場予定のMomentus・AST & Science LLC・AstraもSPACを活用しました。
今回の上場に関して、Rocket LabのCEOであるPeter Beck氏が以下のコメントを出しています。
“In the history of spaceflight, Rocket Lab is one of only two private companies that has delivered regular and reliable access to orbit. Not only are we the leader in small launches, we are the second most frequently launched rocket in the U.S. annually and the fourth most frequent launcher globally. Now, we are thrilled to build upon this momentum and welcome Alex Slusky, a seasoned technology investor and public company director, to our Board as we come together with Vector to become a publicly traded pure-play end-to-end space company.
(訳:宇宙輸送の歴史の中で、Rocket Labは軌道への信頼性の高い輸送を提供してきた2つの民間企業のうちの1つです。私たちは小型ロケット界のリーダーであるだけでなく、年間打ち上げ回数は米国で2番目、世界では4番目に多い企業となっています。そして今、ベテランのテクノロジー領域の投資家であり上場企業の取締役でもあるAlex Slusky氏を当社の取締役会に迎え、Vectorと協力しエンドツーエンドの宇宙サービスを提供する上場企業となります。)
新型ロケットNeutronを発表
今回のSPACによる上場とともに、Rocket Labは新型ロケットのNeutronを発表しました。Neutronは、Rocket Labの小型ロケットElectronより大きく、SpaceXのFalcon 9より小さな、中型サイズの液体燃料ロケットです。
Rocket Labは、これまでElectronと呼ばれる小型ロケットを打ち上げてきましたが、Neutronは8000kgのペイロードを地球低軌道に打ち上げることができる中型サイズのロケットであり、2024年の打ち上げを目指しています。
Neutronは、現在Northrop Grumman CorporationのAntaresが使用している、バージニア州のMid-Atlantic Regional宇宙港のパッド0-Aを借りる予定となっています。既存の射場を使用することで、新たな発射施設を建設する費用の削減に繋がります。
様々な宇宙企業へのインタビューをpodcastとして公開しているMain Engine Cut Offに、Beck氏へのインタビュー音声が公開されています。
上記インタビューの中でBeck氏は、もともとはSPACではなく通常の手法での上場(IPO)をする計画を立てていたと語っています。しかしここ数年、顧客である小型衛星企業からElectronでは打ち上げが困難な数百kg相当の小型衛星の打ち上げ依頼が増加し、Electronより大きな新型ロケットの開発に踏み切ったとのことです。
新型ロケットの開発に着手することは、新型のロケットエンジンの開発のために大型の資金を調達する必要があることを意味します。迅速に多額の資金を調達する必要が発生したことが、SPACを活用した上場を選択した理由のようです。
一般的に企業が上場する際には、デューデリジェンスと呼ばれる組織の調査や財務内容のリスクチェック・法的な調査を行う審査が必要で、上場まで2~3年の年月を要しますが、SPACを利用することで数か月で上場することが可能です。実際、Vector Acquisition CorporationがRocket Labのデューデリジェンスに要したのは、Space Newsのインタビューによるとわずか3か月程度だったとのことです。
また、以下の2つのグラフは、宇宙ビジネス業界のレポートを多数公開しているBryce Space and Technologyが2020年2月に公開したSmallsats by the Numbers 2020より引用したものです。
上記のグラフのように、600kg以下の小型衛星のうち201~600kgの重量の衛星打ち上げについて、2017年以降で実数と割合双方で増加しています。
Rocket Labが展開する小型ロケットElectronの打ち上げ能力は、地球低軌道に300kgです。したがって、小型衛星市場が中型クラスのロケット打ち上げ需要を求めているというBeck氏の言及と合致します。
小型ロケット業界をリードするRocket Labが、今回の中型ロケットの開発によって、さらなる市場を開拓していけるのか、引き続き注目です。
Spire GlobalがSPACによる上場を発表
もう一つSPACを活用した上場のニュースです。
超小型衛星コンステレーションを用いたデータ分析企業であるSpire Global, Inc.が3月1日に、NavSight Holdings Inc.による買収及び経営統合契約に締結したことを発表しました。既にニューヨーク証券取引所に上場しているNavSightがSpireを買収したのち2社は合併し、Spireは2021年夏頃までに、SPIRのティッカーシンボルでニューヨーク証券取引所に上場する予定です。
合併が完了するとSpireは4億7500万ドル(約515億円)の現金を手にし、企業価値は約16億ドル(約1734億円)となるようです。
NavSightも自社では事業を持たずに未上場ベンチャーの買収を目的につくられた企業であり、SPACを利用した上場はSpireで7社目になります。
詳細はこちら
(Virgin Galacticがついに上場!【週刊宇宙ビジネスニュース 10/28〜11/3】)
(小型衛星向けの推進機器を手掛けるMomentusが、特別買収目的会社を活用して来年初頭にNASDAQに上場へ【週刊宇宙ビジネスニュース 2020/10/05〜10/11】)
(ロケットベンチャーのAstraがSPACを活用して2021年中にNASDAQ市場に上場 【週刊宇宙ビジネスニュース 2021/02/01〜02/07】)
(衛星ベンチャーのBlackSkyがSPACによる上場の計画を発表【週刊宇宙ビジネスニュース 2021/2/15〜2/21】)
Spireには、三井物産株式会社の連結子会社であるMitsui Global Investmentや、伊藤忠商事株式会社も過去に出資をしています。伊藤忠商事とは、2019年9月に日本及び東南アジアにおける衛星取得データおよび関連サービスの販売代理店契約も締結しています。
Spireは独自の小型地球観測衛星コンステレーションを構築し、気象・航空・海洋などの幅広い業界へ衛星データを提供しています。また、2020年9月には衛星間通信を備えた衛星の打ち上げ計画も発表しています。詳細はこちら。(Spire 衛星間通信機能を搭載。データ配信までの時間短縮を目指す【週刊宇宙ビジネスニュース 9/21〜9/27】)
Spireの投資家向けプレゼンテーションによると、売上総利益(non-GAAP:通常発生しない特殊な損益を除いた金額)は、2020年で約1800万ドル(約19億円)を計上しており、2025年には約8億3,000万ドル(約900億円)に達すると予想されています。
また、2020年の経常収益は約3600万ドル(約39億円)を記録しており、2021年は約7000万ドル(約75億円)、2025年には約12億ドル(約1300億円)の経常収益に達すると予測されています。
SpireのCEOであるPeter Platzer氏は、今回の買収について以下のコメントを出しています。
Spire was founded nearly a decade ago to help lead, inspire, and create the business of space-based data. Today, our proprietary data and solutions help customers solve some of earth’s greatest challenges, including Net Zero and Climate Change adaptation. This transaction funds these growth plans and allows us to pursue, on a more aggressive timetable, this massive and growing long-term opportunity ahead of us.
(訳:Spireは宇宙データビジネスをリードし、刺激し、創出していくために約10年前に設立されました。今日、当社独自のデータとソリューションは、Net Zero(二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること)や気候変動への適応など、顧客が地球上の課題解決をするのに役立ちます。今回の取引は、我々の成長計画に資金を提供し、我々が大規模で長期的に成長していけるチャンスに対し、積極的なスケジュールで、目的を追求していくことを可能にします。)
2020年の後半から毎月程度のペースでSPACを利用した宇宙ベンチャー企業の上場が発表されています。今後もSPACを活用した上場を選択する企業が増えていくかもしれません。
SpaceXがStarshipの垂直着陸に成功
SpaceXが、新規開発中の宇宙船StarshipのプロトタイプStarshiup SN10の高高度試験飛行を実施し、高度約10kmまでの飛行及び垂直着陸に成功しました。
Starship SN8・Starship SN9と連続で着陸に失敗していましたが、今回のStarshiup SN10は着陸の際に上手くエンジン制御を行い、垂直着陸を成功させました。しかし、着陸には成功しましたが着陸の約8分後に爆発してしまいました。爆発の原因は明らかにされていません。
今回の試験飛行の様子は、こちらから視聴可能です。
また、2023年にStarshipに搭乗予定の、株式会社スタートトゥデイ 代表取締役社長の前澤友作が3月2日に、民間人初となる月周回を計画している宇宙プロジェクト「dearMoon」として、自身と一緒に月に行く同乗者を、世界中から8名募集することを発表しました。
エントリーはこちらのリンクから可能で、3月14日の日本時間23:59まで受け付けているようです。選考は以下の4つのステップによって実施されます。
- ・書類選考(3/21まで)
・課題選考
・オンライン面談
・最終面談+メディカルチェック(~5月下旬)
公式HPには、2つの応募条件が記載されています。
- ①宇宙に行くという経験を活かし、社会や人の役に立つための自身の活動を、圧倒的に伸ばし加速させることができる方。
②同じ船に乗る仲間の活動を、自身の活動と併せて全力で応援し協力できる方。
どのような方が前澤氏に同行する8名の民間宇宙飛行士として選抜されるのか楽しみです。
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参考記事
Rocket Lab to go public through SPAC merger and develop medium-lift rocket
T+183: Peter Beck on Neutron, Going Public, and Eating Hats
Spire Global joins rush to public markets with $1.6 billion SPAC deal
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