日本がDXブーム下のSAR衛星利用先進国に? 海外の注目ベンチャーが日本上陸を発表! SAR衛星が解決する日本の2つの課題
2021年6月23日、フィンランドに本拠を置く注目の宇宙ベンチャーICEYEが、日本支社を置くことを発表しました。今、国内でSAR衛星利用の機運がとても高まっています。その背景を考えてみました。
2021年6月23日夜、フィンランドに本拠を置く小型SARベンチャーICEYE社が、日本に支社を構えることを発表しました。
ICEYE社は2021年4月15日に米国・カリフォルニア州アーバインに製造拠点を開設し、その他にもスペイン、ポルトガル、イギリスに拠点がありますが、アジアでは日本が初めての拠点になります。
プレスリリースによれば、日本の政府や民間企業を顧客とした事業展開を推進していくことが伺えます。宙畑でも取材を行った東京海上日動火災保険株式会社の水害の損害査定における衛星データ利活用についても言及されていました。今回の支社開設により、日本におけるSARデータによるソリューション提供をさらに拡大していく意図が読み取れます。
ICEYE社が製造するSAR衛星とは
そもそもSAR衛星とは何かを簡単に紹介すると、SAR衛星は自らが地上に電波を発し、その跳ね返った電波を受信・解析することで地上の状態を把握します。コウモリが自ら超音波を発し、その跳ね返りから障害物を把握できるようなものだと思ってください。
Google Mapで私たちが見る航空写真のような画像を撮影する光学衛星と比較した時の大きな特徴は、SAR衛星が発する電波は、雲を突き抜けるということです。そのため、光学衛星では地上の様子が撮影できない曇りの日や雨の日であっても、SAR衛星では地上の状態を撮影できます。
日本のSARベンチャーもSAR衛星利活用プロジェクトを続々発表!
一般的に衛星データ利用というと、広域のデータを取得することにメリットがあり、国土が狭い日本のみでのマネタイズは難易度が高い印象もあります。それでも、ICEYE社が5ヵ所目の支社として日本を選んだのは何故でしょうか。
実は、ICEYE社のリリース日と時を同じくして、日本のSARベンチャーQPS研究所やSynspective社もプレスリリースを出していました。
・<スカパーJSAT・ゼンリン・日本工営・QPS研究所の4社連携>福岡市実証実験フルサポート事業「宇宙」採択プロジェクト決定のお知らせ 〜衛星データを活用したため池モニタリング実証〜
・Synspective(シンスペクティブ)福岡市の実証実験フルサポート事業 採択決定。SAR衛星による新たなインフラモニタリング高度化
・QPS研究所、九州電力、JAXAで小型SAR衛星群による新たなサービス創出等に向けたJ-SPARC事業共同実証を開始
これらの話題とICEYE社のプレスリリースと照らし合わせてみると、日本におけるSAR衛星利活用の方向性が見えてきます。
日本におけるSAR衛星利用の2つの軸
今、特に注目が集まっていると思われる日本でのSAR衛星利用用途は主に2つです。
①防災・災害対応の高度化
ひとつは、近年の大規模な自然災害のような、災害が起きたときの被害状況把握や、そもそもそのリスクを予測する防災文脈です。
ICEYE社と海上日動火災保険株式会社の事例では、大規模な水害があった際に、浸水した地域をマッピングする他、保険金支払い対象か否かを判断する際に指標となる浸水高を予測するモデルを作成していました。
また、水害だけではなく、地震の際に発生する土砂崩れの状況もSAR衛星から把握することができるなど、被害状況を正しく把握することで、災害対応の判断の精度をあげることに役立てられることが期待されています。
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②インフラモニタリング
もうひとつは、インフラモニタリングです。
以前、宙畑で、内閣府IT総合戦略室からオープンデータ伝道師に任命されている福野泰介さんにお話を伺った際に
「福井県鯖江市では、市内の橋の名前や製造年、製造工法をオープンデータ化しています。そのデータをマッピングしてわかったのは、80以上の橋が耐用年数を過ぎているということでした。コンクリートの寿命は40〜50年とか言われるのに、90年前って大丈夫なのかなと。いずれは橋を解体しなければならないタイミングが来るわけですが、そのときになって「いや、そこ困るよ」と言われても遅く、日頃から考えておかなければなりません。でも、実はみんな関心がないのだとわかったということで、オープンデータの活用事例として興味深い出来事でした。」(記事の会話内容を宙畑で要約)
といった会話がありました。
これは鯖江市に限った話ではなく、日本全国で起きている問題だと思われます。数十年も前に作ったものが老朽化が進む中で、そして、少子化、高齢化が進む中でそれをすべて見回り切れるほど人がいない……。
そこで活躍が期待されるのがSAR衛星です。衛星があれば、問題がありそうな場所を検知し、見回る必要がある場所のみを教えてくれるようになるでしょう。そうすれば、問題のない場所を見回る必要はなく、効率的にインフラの点検ができるようになります。
また、インフラモニタリングは建物の老朽化に限りません。埋立地に作った空港や精密な機械が置いてある施設の監視、工事による地盤への影響調査など、広域から地盤の状況を把握したい様々なものに応用が期待できます。
2020年10月に発生した東京(調布)の道路陥没事故では、SARデータを用いた後追い解析の結果が日本経済新聞社から発表されています。解析結果から、「東京外郭環状道路(外環道)のトンネル工事の掘削機が通った直後に周辺で2~3センチメートルの沈下と隆起が発生していたことがわかった。地表の変動はトンネルの真上以外にも広がっていた。」ということが記載されています。
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2020年10月にはインフラモニタリングと災害対応の2つの観点で「衛星防災情報サービス」提供 に向けてスカパーJSAT・ゼンリン・日本工営の2社の3社が業務提携をするといった発表もあり、6/22のQPS研究所との4社連携発表に至っていると思われます。
災害の被害状況把握・防災リスクの可視化、インフラモニタリングは、日本において、大きな課題としてすでに存在しますが、今後この課題が衛星データによって解決する道筋が立てられれば、世界にも必要とされるサービスとなることは間違いありません。
北欧の宇宙ベンチャーでICEYE社が日本に拠点を構えることを発表したのも上記のような狙いがあるのではないかと推測されます。
そして、タイミングを見計らったかのように、日本の小型SAR衛星を製造する宇宙ベンチャーであるQPS研究所、SAR衛星を製造しながら解析サービスも提供するSynspective、SAR衛星から取得するデータを含む様々なデータを活用して解析サービスを提供するスカパーJSAT社が6/22、6/23と連日のSAR衛星利用実証を発表しました。
SAR衛星が日本の課題をどんどん解決し、そこで培われた知見が世界の課題も解決するだろう未来に注目です!