地球観測衛星データの世界のトップランナー!Planetの躍進の裏側にあるPublic Benefit Corporationの思想【後編】
Planet Labs社のインタビュー後編では、同社の経営理念であるPublic Benefit Corporationについて、詳しくお伺いしていきます。
前編ではPlanetの会社の財務状況や次世代衛星データ構想、日本のポテンシャルについて知ることができました。
地球観測衛星データの世界のトップランナー!Planetに聞く、次世代衛星データ構想と日本のポテンシャル【前編】
本記事は後編として、躍進の裏側にあるPlanet社の理念や、データピラミッドの先にある今後の構想についてお話をお伺いしていきます。
1. Planetは社会的価値を追及する企業
Steve 私から一番お伝えしたいのは、弊社のミッションとパーパスについてです。
Steve 私達のミッションは「To image the whole world every day and make global change visible, accessible, and actionable.」(訳:毎日、全世界を撮影することで、地球規模の変化を可視化し、アクセスし、行動できるようにすること。)です。そして、弊社は2021年にPublic Benefit Corporation(PBC)を掲げて上場を果たしました。
宙畑メモ:PBC(Public Benefit Corporation)とは
企業形態の一つで株主の利益だけでなく、社会貢献を目的に置いた法人格のこと。
Steve パーパスとしては「To accelerate humanity toward a more sustainable, secure, and prosperous world by illuminating environmental and social change.」(訳:環境と社会の変化を明らかにすることで、人類をより持続可能で安全で繁栄した世界に向けて加速させる。)ですので、私達は利益だけを追及した会社ではありません。これが私達の最も大事なことで、このPBCがあることが私達の特徴であると考えています。
宙畑 過去の投資家向けの資料を拝見する中で、例えばウクライナの問題にも積極的に貢献されている印象がありましたが、まさにこのPBCの理念に基づいているのですね。
Steve そうです。衛星を利用すれば宇宙から全ての地表面の様子が可視化されるので、私達がこういう画像を公開していくことで、透明性が高くなり、戦争も起こりにくい世界になっていくのではと考えています。
あとはNGOに低価格でデータを提供したり、様々なところと柔軟に提携し、常にパーパスを意識した活動を行っています。
私達は「save world, change world(世界を守ること、世界を変えること)」を目指しています。そのために、どうやって我々のデータを幅広く提供して、使っていただいて、より良い世界につなげるかを考えています。会社ですので、もちろん利益は必要ですが、加えてどうやったらもっと世界が良くなるのかを本気で考えている会社です。そういったミッションの会社で働いていることが従業員のやりがいや喜びにもつながっているのではと思います。
前編でお伝えした、今年1月に買収手続きを完了したサンフランシスコのベンチャー企業Salo Sciences社も利益を生み出すだけでなく、NGO向けの安価なデータ提供やカーボンオフセット関連の活動など、世界が良くなるための活動をいろいろと行っています。
2.目指すのは誰もが衛星データ利用を行える社会
宙畑 前編でも説明していただいたデータピラミッドの図で、PLANETARY VARIABLESの種類を増やしている話がありましたが、今までとはお客様へのアプローチを変えていかれるのでしょうか?
Steve 弊社のデータをそのままでも使っていただけるお客様はもちろん大切ですが、私達はもっと広くみんなが弊社のデータを簡単に使えるようにしていきたいと考えています。
今までの衛星データは、専用のGISツールがないとどんなに良いデータがあっても使うことができませんでした。
しかし私達は、誰でも簡単に使える状態にしていかないと、私達のミッションである「To image the whole world every day and make global change visible, accessible, and actionable.」(訳:毎日、全世界を撮影することで、地球規模の変化を可視化し、アクセスし、行動できるようにすること。)には当たらないと考えています。
「visible、accessible、actionable」のaccesibleをデータピラミッドやPLANETARY VARIABLESで実現して、衛星データを利用できる人を増やし、ユースケースを増やしていくことが良い世界につながると思っていますし、結果、会社の利益にもつながることだと考えています。
PLANETARY VARIABLESを利用いただいた事例の一つとして、アフリカの保険会社であるZEP-RE社の事例があります。
Steve アフリカでは人口の70%が農業で生計をたてていますが、洪水や干ばつなどの災害が多いエリアでもあります。
そこで、弊社は東アフリカの600,000 km2を超える地域の植生の健康状態が分かるベースマップを提供しています。ZEP-RE社はこのマップをもとに、干ばつリスクを把握し250,000人の農家への迅速な保険金の支払いにつなげています。
農家の方々にとって、畑がダメになってしまうことは死活問題で、こうした人たちに迅速に保険料の支払いが行われることは大切なことです。
我々が、衛星データそのものではなく、PLANETARY VARIABLESを提供することで、ユーザーは早く簡単に情報を取得することができる。こういった利用事例をもっと増やしていきたいです。
宙畑 まさにactionableに繋がることを意識したデータの提供ですね。
Steve 我々のミッションである「visible、accessible、actionable」のうち、accessible(アクセス性)は、今はAPIもあって、衛星データに簡単にアクセスはできるようにはなってきています。
しかし、ユーザーが本当に欲しい質問の答えがすぐ出せるかと言われたら、出せないことも多いんですよね。衛星データに関する専門知識が必要だったり、複雑な解析をしないといけないので、actionable(行動可能)にはなっていないと感じています。
これは私達だけではなく、衛星データを扱う全員で変えていかないと、衛星データが本当にactionable(行動可能)になる、次のステージまで行けないと思っています。
3. 地球全体規模で見た時の価格設定
宙畑 先ほどのZEP-REの事例をお伺いして追加でお伺いしたいのですが、アフリカの農家の方々向けのサービスとなると、ユーザーはそんなにお金を持っていないのではないか、と思ってしまうのですが、衛星データやサービスの価格はどのように決めているのですか?
Steve 価格設定はグローバルで決めていくのですが、農家の方向けやアフリカなどの発展途上国は、通常より安く設定しています。発展途上国と先進国は経済状況が全然違いますので。
特に農家に関しては、衛星データを使っていただくことで、収量を上げることができれば、食料安全保障やSDGsの観点からも、地球全体にとって良いことに繋がるという理念のもと、そういう対応をしています。
4. 研究・教育からまた新しい衛星データ事例が生まれてくる
宙畑 今後、日本でPlanetさんに興味持ってほしい方はどんな方ですか?
Steve 理想は、衛星データを広く誰でも使ってほしいので、全員に興味をもってほしいです。
あえて、一つ上げるのであれば教育分野に力をいれています。Education and Research Programを通じて学校全体や研究室を対象にして、安価にデータを提供していて、大学の研究に使ってもらったり、論文を作ったりしてほしいと考えています。研究で使って論文で発表してもらうことで、衛星データが何に使えるのか事例が出てくると思いますし、取り入れようという企業も増えていくのではと思うんです。
宙畑 確かに著名な先生が論文を出したりするのも注目されるきっかけになりますよね。
Steve 日本以外でも同様で、グローバルな研究コミュニティから実際に2022年だけで2000件以上の論文がでていて、累計では2万本以上執筆されています。衛星データとしては、”Planet Scope”を使っていただくことが多く、農業、林業、漁業、地震、気候変動、金融、保険など様々な分野で論文が発表されています。
SDGsは17の目標がありますが、そのうち14くらいは弊社の衛星データでできると思いますので、論文の中でSDGsにつながる取組ももっと増やしていきたいと考えています。
宙畑
Planetの社員の方も日常的に論文を読んでいるのですか?
Steve そうですね。当社はサイエンスが好きなメンバーが多くて、それぞれが見つけてきた論文を共有したり、論文に対しての議論をよく行っています。
宙畑
それは楽しそうですね。そういった社員の方達がミッションやパーパスを本気で実現させたいと思われているのが御社の強みですね。今回のインタビューを通して、ますます御社への興味が強くなりました。
Steve 嬉しいですね。一緒に衛星データ産業を盛り上げましょう。
まとめ
前編、後編を通じて、Planetは盤石な経営基盤がありながらも、会社の利益追及だけでなく、本気で持続可能な世界をどう作っていくのかに取り組まれている会社であることがよく分かりました。
新たなパートナーシップや次世代衛星の構想など、取り組みのすべてが会社のパーパスに沿っていることを感じ取ることができ、Steveさんからのメッセージは、これからの衛星データ市場を盛り上げていきたい方にとって勇気の出る言葉だったのではと思います。
衛星データ産業の裾野を広げていくために、誰でも早く、簡単に、使いやすいデータ基盤を整えていく今後のPlanetに注目していきたいと思います。
なお、本記事について質問等がありましたら、PlanetのAPJ(アジア太平洋)チームにお問い合わせください。