Solafuneと名古屋市がAI衛星データを活用した都市部の不法盛土監視システムの実証実験の結果と展望【宇宙ビジネスニュース】
Solafuneが名古屋市と共同で行った「衛星データ×AIを活用した都市部の不法盛土監視システム」の実証実験の背景と結果について紹介します。
Solafuneは名古屋市と共同で「衛星データ×AIを活用した都市部の不法盛土監視システム」の実証実験を実施し、従来手作業で行われる盛土調査業務の大幅な省力化を実現したと発表しました。
本プロジェクトは「Hatch Technology Nagoya」の一環として2024年8月から2025年2月にかけて実施されました。
本プロジェクトが進められた背景には2021年7月の静岡県熱海市の土砂災害を受け、盛土規制法施行や規制強化が進められたことがあります。
名古屋市でも2025年5月から盛土規制対象区域が市全体に拡大されるなか、従来の市民通報やパトロールに頼る監視体制では、人員・時間不足が懸念されています。また、衛星画像を用いた盛土発見も実施されてはいるものの、手作業による確認が必要で、同様の課題がありました。
そこで、上記の課題への対策として、今回「衛星画像×AI」による新しい盛土検出システムの開発が実施されたとのこと。
本プロジェクトの特徴は、従来の衛星データによる盛土監視は山間部の事例が多く、市街地に着目した盛土監視の取り組みという点にあります。
具体的には、山間部と比較して市街地は以下の理由で盛土の検出が困難とされています。
①建物・樹木等により地形の視認が困難
②駐車場・空き地・建設現場など、見た目が似ている場所との区別が困難
③ビルの影や密集した建物により視野が制限される
上記課題に対して、今回開発されたシステムの大きな特徴は以下の通りです。
①光学画像を用いた解析(Planetの0.5m解像度、4バンドの画像を使用)
衛星画像を用いた盛土検出は、光学画像を用いたNDVIなどの植生変化の差分検出やSARによる差分検出などが一般的ですが、レーダーを用いるSARは都市部だとレーダーが散乱するため使用せず、無償の衛星データや1.5m解像度では解析が難しかったそうです。
②光学画像1枚で盛土検出
盛土検出は、物体検出により盛土のおおよその位置を検出し、セグメンテーションモデルにより盛土の面積推定を行うことで、光学画像1枚から盛土の情報を知ることができます。
③都市部の特徴を考慮したフィルタリング
盛土に似た特徴を持つ公園やグラウンドを除外するために、政府のオープンデータPLATEAUが提供する都市データを用いて、フィルタリングを行っています。
以上に加えて、放射補正や大気補正も組み込まれています。


システムの評価指標としては「AIが盛土を検出する数/衛星画像で目視から盛土と確認できる数」、つまり、見逃しの少なさ(機械学習でいうrecall)が0.6以上となることを目標に設定。多少誤検知が発生しても、検知漏れが少ない方がベターと判断しているとのことでした。
実証試験の結果、盛土検出精度は約67%(18/27件)でした。特に市街化調整区域(市街地込み)では14/18件の検出率を記録した一方、農地エリアでは4/9件であり、土地区分により検出の難易度が異なるようです。
また、衛星画像を用いた監視作業に要する時間は従来は平均5分/200m²(疑わしい場所はそれ以上)で、市域全体(約326km²)に約700時間/年1回必要でしたが、本システムの導入により数時間以内に短縮されたと発表がありました。
費用面でも、検証に使用した約40万円(50km²あたり6〜7万円程度)の衛星データ購入費用に対し、人間が全域を見回るよりも人件費削減効果が大きいとしています。
課題としては、特に市街地と隣接する農地エリアでの精度向上・AIが建物や樹木などを盛土と誤認するケースの改善が挙げられ、誤検出低減のための確認作業や特定の地形条件の検出の補完を行う必要があると話します。特に、休耕地やゴルフ場が盛土に近く誤検出しやすく、フィルタリングの改善余地がある一方、見逃しを減らすことが重要であるため、程よいフィルタリングのバランスを取る必要があるとしていました。
本システムで規制対象となる300m²以上の盛土を効率的に検出することで、安全な都市環境の維持に貢献することが期待されます。名古屋市の担当者は「本技術は行政業務の効率化が主目的だが、最終的には適切な指導につなげ、市民の安全確保に寄与したい」と展望を語りました。